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第888話 行き場のない者たち

【アニメ2026年7月放送!】ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第888話 行き場のない者たち

変貌して蝙蝠のような被膜の生えた、前世で満月の夜に出てきそうな化け物になったタジンという名の 混血人 ( ハーフ ) の少年を倒そうとしたところ、獣人の女性が止めに入った。

「申し訳ありません。タジンのことをお助けください。私たちのためにしたことなのです。タジン、人を傷付けたらいけないって知っているでしょう!!」

(さて、どうするかな)

『グオオ……』

タジンは自らの体がどんどん小さくなり、元の姿に戻っていく。

アレンは剣を収めたものの、 混血人 ( ハーフ ) の少年の首元を左手で掴んだままだ。

「アレンよ。戦いは終わったようだ。離してやれ。皆集まってきたぞ」

アレンは視線をイルゼに移すと、その背後に数十人の魔族、獣人、 混血人 ( ハーフ ) の子供たちがいることに気付く。

(混血村の人々が出てきた。魔王軍の暗黒界前線基地ではなかったってことか。だが、この 混血人 ( ハーフ ) が魔神っぽい見た目の説明にはなっていないんだが……。まあ、いいか。話が進まないと困るしな)

肉体変化を解除したようだし、改めて襲ってきても倒されることもないので、イルゼの言うとおりに左手を離した。

「くそっ」

「タジン、怪我はない?」

アレンの左手をパッと離され尻もちをついたタジンが母親と思われるヒツジの獣人に体を起こされている。

「大丈夫だよ。母さん。それよりも、今日行った村ですげえ果物があったんだ! みんなで食べてくれよ!!」

「ちょっと、タジン。落ち着いて。あの……大変申し訳ありません。私の子、タジンは少し元気な子供で……。どうかお許しください」

「そうなのか。いきなり見た目が変わって襲い掛かってきて大変だったぞ。お前がその者の母親で良いのか」

(お? イルゼが暗黒騎士モードに入ったな。この世界最高権力者の1人に任せるか)

アレンがカラッタ村で村長と適当に交渉したところ、痺れ薬を盛られ縛り上げられたことを思い出す。

身を引いて様子を窺うとイルゼと 混血人 ( ハーフ ) の少年の母親とみられる女性との会話が続く。

「それは申し訳ありません。大変高貴な立場の方とお見受けします。あ、貴方様は……」

身にまとう漆黒の鎧と威厳溢れる態度からイルゼが只者ではないと分かったようだ。

恐る恐るイルゼに問うと、はっきりと答える。

「私は暗黒騎士のイルゼだ。本来はガディアック島を任されているのだが、暗黒神アマンテ様と獣神ブラキノ様の命により、混血人の集落が悪さをしているのでどうにかして欲しいと頼まれてやってきたのだ」

イルゼが暗黒騎士と名乗ると皆がタジンという名の混血人の少年以外、頭を深々と下げて跪いた。

だが、タジンはイルゼの言葉に思うところがあったようだ。

「悪さなんかしてねえよ! あいつらが村を追い出すからこうなったんだろうが!!」

「こら、タジン。そんなことを言って!」

「……だがな。タジン。お前が盗んだ村がどうなるか考えたのか。食料がなくなれば、村は生きていけないんだぞ。これから厳しい冬になるって話じゃないか」

農奴として8年生きてきたアレンが、思わず口をはさんでしまった。

既に11月を過ぎたこの大陸は雪こそ降っていないものの結構な寒さだとパチャオ村の村長に聞いた。

せっかく育てて収穫した作物は、収穫が取れない時期の貴重な食料になる。

厳しい冬に乗り越えるだけの食料が十分ではないと判断したロダンたちは、ボア狩りをしていたことを思い出す。

「村で俺たちが働いた分もあいつらくれなかったんだぞ! 盗んで当然だろ! 誰も助けてくれないし盗まなきゃ俺たちが餓死するだろうが!!」

(まあ、それはそうなんだろうがって、さらにゾロゾロ出てきたな)

大岩の穴からさらに何人か遅れて出てきた。

「ちょっと、タジンって……、あ、あなた大丈夫なの!?」

「ああ、すごい騒ぎだったからな。寝ているわけにはいかない」

右手の付け根から、右足は膝から下がない壮年の男が松葉杖のようなものをついてやってくる。

「父さん! 大丈夫なのかよ!!」

「ああ、大丈夫だ。タジン、どうやらこのまま我らのことを放置してもらえる状況ではないようだ」

大人たちで話をつけるというとタジンはしょぼくれて静かになった。

(重症の父親が出てきたな。クワトロ、鑑定してくれ。それが終わったら適当に村人全員の鑑定してくれ)

『承りましたわ』

4つの眼のうち1つの眼で特技「万里眼」で周囲を警戒するクワトロは、2つの眼を光らせて特技「鑑定眼」を発動する。

タジンの父の名はラバンで、魔族で星3つの剣聖のようだ。

タジンの母の名はカイアで、ヒツジの獣人は星1つの僧獣侶のようだ。

【混血人の村の種族、才能など】

・大人:68人のうち40人が獣人、28人が魔族

才能星1つが50人、才能星2つが17人、才能星3つはタジンの父親のみ

・子供:28人混血人とタジン

(ふむふむ、ヘルビーストのタジンだけ種族と職業がほかの混血人と違うぞ)

・タジンの種族と職業

【種 族】半魔半獣

【職 業】ヘルビースト

・それ以外の子供たちの種族と職業

【種 族】混血人

【職 業】なし

アレンはパチャオ村のダルトン村長から混血人が生まれたら、混血人の子供を追い出すか、両親のどちらか、それか、両親両方も出て行かないといけない。

混血人の才能や、この村の種族の構成などを考えているとイルゼが会話に戻る。

「それで、この村の指導者や責任者はいるのか?」

(指導者や責任者で「村長」とは呼ばないと。村作ってはいけない決まりのようだし)

タジンの父のラバンが松葉杖を付きながら数歩前にでる。

「一応、私がこの者たちの代表をしている」

「暗黒騎士イルゼ様よ、あなた」

「それは大変失礼しました。なぜ暗黒騎士様がこのような場所に……」

後からやってきたラバンの耳元で、タジンの母のカイアが「暗黒騎士様よ」と耳打ちしている。

「……その怪我はどうしたのか? 魔獣にやられたか」

「はい。ダークブレードドラゴンがこの辺りに住み着きまして。どうしても離れてくれなかったので追い出そうとするとこのようになりました」

「よく倒せたな」

「いえ、Sランクの魔獣で10人の大人が殺されました……」

「危なかったから俺が倒したんだぞ!」

「こら! タジン!!」

ダークブレードドラゴンの戦いで怪我を負ったのか、手や足がない者もちらほらいるようだ。

(冒険者ギルドに討伐依頼も出せない。タジンがいないとこの集団が今もあったのか分からないな)

混血人の集落がどうなるのか、ダークブレードドラゴンの存在で分かったような気がする。

タジンがいなければ、他の混血人の集落は本来ひとたまりもなかったのだろう。

「ふむ、厳しい状況ではあったのだな。皆の暮らしぶりが見たい。大岩の中に我らが入っても良いか?」

「も、もちろんでございます。綺麗な場所ではございませんが……」

「構わぬ。案内してくれ」

(混血人相手にもイルゼは真面目に働いてくれるな)

カイアとタジンに支えられ、ラバンが大穴の中を案内してくれる。

イルゼの後を追うアレンの背後で他の皆もゾロゾロと付いてくる。

大岩をどけて開いた大穴の中に入ると、地面の下へと通じる階段があった。

隅にどけられた岩が地下への通路を隠していたようだ。

不揃でいびつな階段を数十メートル以上降りていくと、広い空間があった。

(大岩に潰されないよう細い階段が長く設けられているな。掘り返した土が地上になかったな。地面にいることがばれるから遠くにでも捨てたのか。それにしても暗いな、ホロウたち空間がどうなっているのか見てくれ)

『ホー!!』

『ホー!!』

『ホー!!』

クワトロと一緒にいた3体の鳥Dの召喚獣たちを再召喚して地面の空間の状況を確認する。

下に降りてすぐに分かったことは、人の体臭や生活臭は、地上の村とは比較にならないほどひどかった。

換気する為の穴が天井にいくつかあるのだが、生活臭を全て消すことは出来ないようだ。

換気する為の穴は近くの森の中で、枯れて中心がなくなった幹の中にいくつも繋がっているようだ。

さらに川の流れも地面の中に引き込んでおり、上下水として活用しているようだ

(柵もなく魔獣の跋扈する場所でこんな生活をしているのか)

空間内にさらに30ほどの小さな掘っ立て小屋を建て、世帯ごとに暮らしているようだ。

「あの大きな建物は?」

「私たちの家です。両親のいない 混血人 ( ハーフ ) の子供たちも一緒に暮らしております」

「俺も面倒見ているぞ。みんないっぱい食うからな」

「……案内してくれ」

「もちろんでございます」

いっそう引き締まった顔でイルゼが言うと、ラバンが案内する。

イルゼがラバンの案内で一番大きな建物の中に入る。

「誰か来た」

「知らないやつだ」

「かっこいい鎧だ」

「しっ! 黙っていなさい!!」

「は~い」

「は~い」

「は~い」

5歳から8歳くらいの子供たちが10人ほどいてアレンたちに反応すると、カイアが静かにさせる。

(10人も混血人の子供たちがいたのか)

一番の広間に案内されたイルゼは沙汰を出すので皆に座れと指示を出す。

アレンが側に控え、ラバン、カイア、ダジンを先頭に村人たちがぞろぞろと整列して正座で座ると、イルゼが口を開く。

「ふむ、よく聞くのだ。暗黒神アマンテ様と獣神ブラキノ様より今回の混血人の集落の問題を解決するように言われておる」

「あ、あの。この集落を存続させていただけるのでしょうか」

ラバンが何か悟ったのか厳しい表情のイルゼに対して思わず声を出してしまった。

「それはできぬ。混血人に村を作らせぬ。大神殿も守護番も看過せぬ決まりだ。だが、二度と他の村を荒らさぬというのなら今回は見逃してやる。それができぬなら、私が貴様らこの場で屠らねばならぬ」

イルゼの判断はかなり厳しいものだった。

ほぼ死刑宣告と言っても良い内容に広間にいる全員が絶句する。

「だから、それだと俺たちが死んじまうだろ!!」

「それでもだ。だから盗みを働いて良いことにはならぬ」

「あ、あの。なんとか我らもお救いください」

切れ気味に反論するのはタジンだけで、他の皆は頭を下げイルゼに必死に許しを請う。

「勝手に救われろ。お前たちは暗黒神様の教えを守らぬ不届き者だ。教えを守る他の村を荒らすの者を暗黒騎士として看過できぬ」

「そんな……」

「あ、あなた……」

全身の力が抜けてラバンが床に崩れてしまう。

(あの、ワイのクエストなんだけど。それにしても暗黒騎士は厳しいな。まあ、暗黒神が才能を与えず、はっきりと混血人は作らないでくれという教えを、暗黒神官を通じて広めている世界だと、完全な反逆行為ってことか)

暗黒神も獣神もイルゼにも頼まれたことなので、暗黒騎士として裁かねばならないことは分かるが、それでもアレンは口を開く。

「イルゼ、念のために確認だが、今の話だと混血人の集落『公認』はできないけど『黙認』はするんだろ。盗みさえしなきゃ勝手にこいつらは生きてていいんだよな?」

「なんだと?」

アレンの言葉にイルゼが眉間に皺を寄せるのであった。