第898話 雷神ソヴィ
第898話 雷神ソヴィ
結果、1時間ほど冒険者ギルドに滞在し、冒険者ギルド長にも報酬の確認が取れた。
【コルブラン大陸での冒険者ギルドの討伐および採集報酬(単価)】
・雷 石:200枚
・雷鳴石:20000枚
・Aランクの魔獣:1000枚※1
・Sランクの魔獣:50000枚※1
・亜神級の魔獣:200000枚※1
・雷王:500000枚※2
※1 最低報酬のため冒険者の犠牲が多い魔獣は査定で報酬増額
※2 雷王は亜神級を想定しているが被害が大きいため報酬は別枠
【コルブラン大陸での冒険者ギルドのランクアップ条件】
・Dランク:雷石10個回収
・Cランク:雷石100個回収、Cランクの魔獣10体討伐
・Bランク:雷鳴石10個回収、Bランクの魔獣10体討伐
・Aランク:雷鳴石100個回収、Aランクの魔獣10体討伐
・Sランク:Sランクの魔獣10体討伐で、コルブラン大陸でのSランク冒険者に推薦
※Sランクの冒険者になるには全ての大陸でSランク冒険者の推薦が必要
※冒険者のランクは全ての大陸で有効
(ふむふむ。既にBランクだし、Aランク冒険者くらいならさくさくとなれそうだな。今後、揉めないためにもなってても良いかもな。雷鳴石はとりあえず、奈落の門を開くために必要そうだし1個は必ず手に入れないと)
「よし、概ね、確認することは終わったな。祭壇のある大神殿を目指すか」
アレンは発着場に着いた時から鳥Aの召喚獣を1体、大神殿に向けて飛ばしていた。
雷鳴轟く嵐の中、鳥Aの召喚獣は既に大神殿の入り口前に転移用の「巣」を設置している。
「そうだな」
「大神殿だ!!」
アレンたち3人は冒険者ギルドを後にし、大神殿の前に転移した。
「でっけえ建物だな! 暗黒神様みたいなのがいるのか!!」
「まあ、そういうことだ。タジン、ここは神聖な場所だから静かにしているんだぞ」
「分かった、イルゼ!!」
(イルゼは暗黒騎士だけど混血人や人族に対する忌避感は少ないよな)
自らの生い立ちのためか、パーティーに入った仲間だからか、暗黒神が直々に教育し鍛えよと言われているからなのか、積極的に叱り、教え、指導している。
漆黒の法衣を着て門を守る暗黒神兵たちがイルゼに気付き、槍を担いだまま足早に近付いてくる。
(どの大陸も暗黒神官の服は一緒だね。ブラキウス大陸と違って神官たちは魔族だけど)
アレンの対応はイルゼが進めてくれるとあれこれいらない情報に目が行く。
「暗黒騎士様でいらっしゃいますか?」
「うむ。暗黒神アマンテ様の命を受けてやってきた。暗黒大神官はいるか?」
用事があるのは雷神であり、生命球を捧げるために向かっているのは祭壇だが、まずはこの神殿を管理する暗黒大神官に会う必要がある。
何か失礼なことがあったら満足な報酬が減らされるかもしれない。
「はい。雷神ソヴィ様の祭壇にいらっしゃいます。こちらです」
扉を開けると大神殿の構造的にどこの大陸も一緒なのか、目の前に広い礼拝堂があり、席に着いた参拝者たちが必死に祈りを捧げている。
「うちの旦那が雷石をたくさん持って帰ってくれますように」
「……私の夫を無事に返してください」
「雷神ソヴィ様、雷の祝福ありがとうございます」
礼拝する者たちが冒険者の親族なのかと思いながらも案内する暗黒神官の後を付いて行き、上の階を目指す。
どうやら、祭壇は上の階にあるのかとブラキウス大陸の大神殿との違いを感じる。
ギギギッ
螺旋階段を最上階まで上がり通路を歩いた先の突き当りにある観音開きの扉を押し開けてもらう。
「ようこそ、いらっしゃいました。暗黒大神官を務めるシャロトと申しますわ。雷神ソヴィ様よりお話は聞いております。現在、世界に雷神の力をお与えになるために祈っておりますので、私が対応します」
数段の祭壇と思われる前で、40代過ぎと思われる魔族の女性から声が掛かる。
シャロトと名乗るこの女性が、この大陸の暗黒神への信仰を預かる暗黒大神官のようだ。
アレンは、暗黒大神官が暗黒騎士のイルゼに対して丁寧に挨拶してくれているのだが、祭壇の上に視線が行ってしまう。
バリバリ
(祭壇が吊り橋の中央にある感じだな)
この大神殿は1階の礼拝堂を除く2階以降から最上階まで吹き抜けになっている。
最も高い階層に、前後左右に1本ずつの細い通路で繋がった場所に祭壇があった。
さらに上空に雷神ソヴィが祭壇の数メートルの高さに浮いていた。
見た目は50代の男性が、全長は10メートルほどで、筋肉隆々の上半身は上腕にめり込むほどの輪をそれぞれはめている。
下半身は黄色の麻で出来ているのか裾の裂けたタイパンツを履いて、縄か何かで荒々しく腰を縛っている。
目を閉じて何かブツブツ呟きながら、全身から滞留する電流を定期的に雷に変えて、天井向かって放っている。
祭壇上空の天井の一部分が円状にくり抜かれている。
雷神から放たれた雷が天井の穴から天に向かって放たれ続けている。
(こいつが雷神か。シアが試練中に出会った風神の兄なのか。獣神ブラキノと違って祭壇の上にいるな。浮いているけど。神にも普通に兄弟も親子もいるのか……)
2つ目の大陸の試練をコルブラン大陸に選んだのは、この大陸が雷神ソヴィの支配する大陸だとイルゼから聞いたからだ。
メルスが雷系統の特技や覚醒スキルが多いので、ぜひ封印された覚醒スキルの解除を雷神ソヴィにお願いしようと考えている。
だが、それ以外にも理由があって、シアが神界の原獣の園で風神ヴェスの試練を超えた際、『兄である雷神ソヴィに会えたら渡してほしい』と風が渦を巻く丸い玉のようなものを渡されている。
アレンが「自分がシアより雷神と交渉する機会があるだろう」とシアから風が渦を巻く丸い玉を預かっていたのだが、その雷神が視線の先にいる。
思考は、数時間前に見たおかしな夢へと移行する。
アレンが転生してやってきた3界合わせたこの世界は、神々であっても夫婦や姉妹がいた世界だ。
暗黒神と法の神の子供について考えたところで攻略達成率が50%になった。
夢の中で答えを見つけようとしたところでタジンに起こされたが、今回はイルゼのようだ。
「おい、アレン」
数秒考えていたら、イルゼの声に皆の視線が集まっていることに気付く。
「ああ、すみません。生命球を捧げて課題に見合った報酬をいただくため、この大陸にやってまいりました。困ったことがあるなら課題として伺います」
アレンは思考を切り替えて勢いよく目的を口にする。
「雷神ソヴィ様より、暗黒神アマンテ様が何でも問題を解決してくれる暗黒騎士様たちを呼んで頂くと聞いております。暗黒騎士様『たち』ではなかったようですが……」
複数の暗黒騎士がやってくると考えていた暗黒大神官の言葉に、イルゼが反応する。
「私と行動を共にするこの2人はたしかに暗黒騎士ではないが、相応の力がある。安心して課題を与えてほしい」
(なんだ、「相応の力」って。俺もタジンも暗黒騎士級ってことか)
「分かりました。課題の内容をお伝えします。何卒、達成していただけると助かりますわ。もしかして聞いているかもしれませんが、雷神船の動力に必要な雷石が昨今急激に足りなくなっておりまして……」
「冒険者ギルドで聞いたが『雷王グリオタン』なる魔獣がムラルガンの大穴を荒らしているとか。それを何とかして欲しいと言うことでよろしいか?」
「お話が耳に入っていて助かります。そのとおりでございます。おかげで品不足から雷石の値段も運賃が上がってしまい、全世界に問題が波及しております」
「……改めて言い直すが亜神級か神級かの魔獣が雷石、雷鳴石の回収の邪魔をしているでよろしいか」
(なんか同じ質問したよね。引っかかることがあるのかね)
「そのとおりです。その雷王の脅威を取り除いていただきたいのですが……」
暗黒大神官は歯切れの悪い依頼を暗黒騎士に出した。
この端切れの悪さが何なのかイルゼは見当がついていたようだ。
「1つよろしいか。私はガディアック島にいる唯一の暗黒騎士だ。ガディアック島にも亜神級の魔獣はいるが、他の大陸よりも落ち着いているから1人で務めていられる。だが、雷石の取れるこのコルブラン大陸には2名の暗黒騎士がいるはずだ。既に冒険者の中に被害が出ているのだろう? 守護番経由で討伐依頼を出しているはずだ」
前回の死者の出ていなかったタジンの食料泥棒の件と違い、今回の件は内容からはっきりと暗黒騎士が対応すべき案件だと言う。
(他の暗黒騎士を差し置くことは許されないとかそういう話なのかな)
「……聞いていないのですね。現在、この大陸に暗黒騎士はおりません」
「いないだと? それはどういう話だ。すまないが暗黒神様の依頼解決のため活動していてこの大陸の状況を知らない。暗黒騎士不在の件については耳にしていないのだが、状況を説明してくれ」
「分かりました。暗黒大神官としてご報告します。たしかに2名の暗黒騎士様がいました。ただ、1名の暗黒騎士様が何やら招集が掛かりこの大陸を後にしました。雷王が凶悪に暴れ出し、冒険者たちを次々に襲い出したのはその後です」
「まさか残されたのはプリニッタか!?」
だんだん表情が険しくなったイルゼがとうとう大声で問う。
「は、はい。熟練の暗黒騎士のラクスベル様ではなく、新人のプリニッタ様が残り……。冒険者たちの被害が広がっていたため1人でなんとかしようと雷王の討伐に向かい……」
「それでやられてしまったと! 馬鹿な! 何故、我らに応援を求めない!!」
「お、おい。イルゼ……」
「タジン、お前は黙っていよ!!」
初めてと思えるほどの激怒ぶりにタジンはイルゼを落ち着かせようとしたが、強い怒りをぶつけられ委縮してしまった。
「それでプリニッタの遺体は回収されたのか!!」
「冒険者たちの話では雷王に食べられてしまったと……」
「なんだと! 殺す! 我ら暗黒騎士を狩ればどうなるか見せてくれるわ!!」
両手の拳を握り締め鬼気迫る表情のイルゼの漆黒の鎧から漆黒の闇が溢れ出した。
激怒する者と困惑する者たちの中、静かに落ち着いて状況を理解しようとする男がいた。
「雷神ソヴィ様、現在、多くの冒険者たちが被害を受けておりますが……」
アレンは自らが治める大陸の中でどうするつもりなのかと問いたかったが、目を瞑って雷を放っていた雷神が途中で言葉を遮る。
『我は挑戦者から逃げることはしない』
(皆、会話が通じないんだけど。……だが、緊急事態だということは分かったぞ)
アレンはこの言葉にこの世界のことを何も知らないと思うのであった。