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第899話 暗黒騎士の使命①

【アニメ2026年7月放送!】ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第899話 暗黒騎士の使命①

雷を天に向けて放っている雷神ソヴィが、アレンの問いに意味不明な回答をしたが、これ以上の問答ができそうにない。

アレンは向き直り、激怒するイルゼを見た後、暗黒大神官に対してこれからのことを口にする。

「それでは、生命球を捧げる課題は雷石の回収の邪魔をする『雷王』の討伐でよろしいでしょうか?」

「おい、なんで勝手に話を進める!!」

「お前が激怒しているからだろ。仲間がやられたからといって暗黒大神官様を責めても仕方ないからな。すまないが、課題の解決に向けてどうすべきか考えてくれ」

「何だと!」

「じゃあ、他に暗黒大神官様に聞いておくべきことはあるのか?」

「……ない」

「私も暗黒騎士のイルゼもこれ以上の質問はありません。先ほどの課題で問題ありませんか?」

(イルゼよ。君の感情に寄り添えなくてすまない。だが、俺も時間がないんだ)

睨みつけてくるイルゼを見ながらもアレンは自らの考えを優先する。

「はい、冒険者が恐れて大穴の奥地に行けないと聞いています。雷王の討伐が課題で問題ありません」

「それでは雷神ソヴィ様、暗黒大神官様、討伐に際して被害が極力出ないように努めます」

(暗黒大神官が受け答えするパターンだけど、雷神の名前も念のために出しておいてと)

後からそんな課題は知らないなどと雷神に言われても困るので念を押しておく。

「はい。一刻も早く討伐頂きますようよろしくお願いします」

「それでは失礼します」

アレンはイルゼとタジンと共に大神殿を後にする。

(さて、大穴まで50キロメートルほど北にあるのか。歩いていく距離でもないし、転移するほどでもないな)

建物を出たところで、アレンはクワトロにイルゼとタジンに対して特技「浮遊羽」を発動させる。

周囲は荒れた赤茶色の大地が広がっている。

天候が荒れていて嵐で風が強いものの、大神殿にいる間に雨は止んだようだ。

視界の先で雷光がいくつも視界の先に落ちている。

「なんかいっぱい雷が落ちてるぞ! ピカピカしてめっちゃ明るいぞ!!」

飛びながらタジンは進行方向に向かって指を差した。

「ああ、雷が大穴に向かって落ちているようだな」

「……」

なお、祭壇の間から出た後からずっとむすくれたイルゼは黙っている。

(ん? 掘っ立て小屋がいっぱい集まっているぞ。あれは集落か?)

大穴から2キロメートルほどしか離れていない地点に建物が無数にある。

一緒に飛行するクワトロに特技「万里眼」を発動させると、防風のための塀に囲まれた街とも村ともよべないほどの簡素な作りの無数の小屋と、冒険者や商人の恰好をした群衆がいるようだ。

(情報収集するか。暗黒騎士がやられているらしいし。雷王が初見殺しの敵だと舐めてたらただじゃすまないぞ。感情を殺し、倒すことだけに集中しろ。攻略に必要な情報だけ収集するんだ)

暗黒界にやってきたときの思いを、アレンは自らの心に言い聞かせる。

イルゼは激怒したが、アレンもコルブラン大陸で担当する暗黒騎士がやられたことを気にしていないわけではない。

暗黒騎士になったばかりで「新人騎士」と呼ばれるイルゼを基準にしても、上位魔神以上亜神以下の強さのようだ。

この暗黒騎士を倒した魔獣を決して雑魚と侮って良い強さではない。

さらに、先ほどのイルゼの激怒ぶりを思い出す。

アレンはイルゼが何故暗黒騎士になったかなど聞いていないし、タジンの生い立ちについても詳しくは聞いていない。

アレンは生命球を捧げ、力をつけ、1日でも早く人間界に戻る。

それために必要な情報だけの収集に努める。

私情を優先した結果、課題が攻略できず、目的を達成できなかったなどあってはならない。

「……あの集落に降りるぞ」

「おい、なに寄り道をする。集落などどうでも良いだろう。大穴にいかないのか」

大穴の周囲は荒れ地となっており、そこに木々を組んで作った集落に向かうと言う。

高度を下げ始めたアレンにイルゼが後ろから圧を掛ける。

「雷王がどの程度の強さか分からない。弱点とか容姿もな。あの集落で情報収集しつつ、広い大穴のどの辺に雷王がいるのか、その間にクワトロに調べさせる」

「……」

『承りましたわ』

(戦いは準備が8割だ。冒険者ギルドの情報も少なかったしな。まあ、流石に弱点とか知れ渡っていたら即効倒されているだろうし、そこまでは難しいか)

クワトロはそのまま大穴に向けて飛び立たせ、雷王を探させる。

ぐうの音がでないほどアレンの言葉に圧倒されたイルゼは再度納得し、2人に続いて掘っ立て小屋の並ぶ集落にやってきた。

魔獣が襲えばすぐに破壊できそうな木組みの塀の中に入ると、とんでもなく賑わっている。

縁日か祭りなのか勘違いしそうだ。

「そこの坊主、若いのに冒険者かい! 雷ラットの串焼きだよ!! 食べていくかい! 銀貨1枚だよ!!」

「おお! おっちゃん1本くれよ! ほら銀貨1枚だ!」

フードを被っていたためかタジンの見た目をはっきりと分からなかったようだ。

串焼き屋の店主に銀貨1枚を渡し、串焼きを1本を受け取った。

縁日の屋台に売っているような大きいサイズの焼き鳥みたいな串焼きを、タジンは嬉しそうに頬張る。

「露店だな。……それにしても随分にぎわっているぞ」

出店や露店が集まる場所は人でごった返している。

「暗黒騎士様か?」

「もう新たな暗黒騎士様が到着したのか?」

「あのようなことがあったのに1人で来られたのか。いや、何やら引き連れてこられたぞ」

「……」

(イルゼはだんまりだな。機嫌取り戻したら雷神が言っていた「挑戦者」についても知っていることあるなら聞きたいんだけど)

地べたに風呂敷を引いて、さらに吹き飛ばされないよう箱に入れた薬草を売る商人たち、道中に必要な干し肉やパンなど軽食を売る者たちなどを見て、アレンは違和感を覚える。

「にぎわっていたら不味いのか? 雷ラット美味いぞ!!」

「雷石が取れなかったからな。冒険者たちはいないかと思っていたが、結構な賑わいだ。雷王がいて雷石取れないのになんでこんなに冒険者がいるんだ」

「なるほど! たしかにな!!」

何を納得したか分からないが、雷ラットの肉を串からとってモグモグと咀嚼している。

「適当に誰かに事情を聞き込むか。詳しそうな人いるかな」

露店が並ぶ場所は冒険者たちで賑わっており、少し離れたところに小屋といっても差し支えないほどの小さなプレハブ小屋があった。

小屋の中でカウンターから上半身だけ見えるおばさんがキセルみたいな棒でタバコを吸っている。

「すみません、少しよろしいでしょうか?」

「あん? 宿を借りたいのかい?」

「宿? この小屋は宿なんですか?」

(ホテルに見えないけど)

大人が3人も横になれそうにない小屋だったので、アレンが聞き返してしまう。

「何だい? しょうがない、坊ちゃんたちだね。『大穴の宿場町』に来たのも初めてかい?」

「はい、初めてきました。ここは大穴の宿場町っていうんですね」

大穴についてとても詳しそうだ。

横目でチラリとアレンを見るとまた、興味なさそうに視線を外されてしまった。

「雷王がいなくなったからって、雷石狩りを甘く見ていると大穴から帰れなくなるよ!」

「雷王がいなくなったって本当ですか?」

「え? 本当だよ! 1週間前くらいからね……。あんなに暴れていたのにふざけた話だよ。まあ、冒険者が戻って来てくれて私らは助かるけどね。って、もう、お前たち、あれこれ聞いて宿は借りるかのかい!! ……え? 暗黒騎士様!?」

何度もあれこれアレンが尋ねるから煩わしくなったのか、借宿の店主のおばさんが身を乗り出したところで視界が広がり、イルゼの存在にようやく気付いた。

(ようやく暗黒騎士の威光でばりばり情報収集できるぞ……。えっ?)

初めて声をかけた人が雷王に詳しくて助かったと思う。

アレンは、イルゼの立場を使って更なる情報を引き出そうとしたが、店主は勢いよく扉から出てきた。

そのまま店主は駆け寄るとイルゼの足元で地べたに顔面をつけて懺悔しながら跪く。

「申し訳ありません。暗黒騎士様! わ、私らは止めたのです。冒険者の犠牲など気にせず、暗黒騎士様たちが揃うことを待った方が良いと……。何と言うことを我らはしたのか……」

「おいおい、なんだよ。これ…」

さっきまでガキの新人冒険者を見るような態度であったのに、タジンは店主のあまりの変貌ぶりに引いている。

冒険者たちも騒ぎに気付き、アレンたちの周囲に集まりだした。

「……何も謝る必要はない。事情を聞かせてくれぬか? 何故プリニッタは1人で雷王に戦いを挑んだのだ?」

「畏まりました。この大陸に2名おられる暗黒騎士様のうち、暗黒騎士ラクスベル様が大穴の周囲を担当しておりました。急遽ラクスベル様がこの大陸を離れることになり、5年前に着任され大陸南部を任せられていたプリニッタ様を呼び寄せるとラクスベル様に言われました」

(暗黒騎士の自分がいなくなるが安心して欲しいみたいなことを言ったのかな)

「熟練騎士のラクスベルが離れる理由などは聞いているか? どこかの大陸の魔獣を狩る応援に向かったと思うが」

「いいえ、そこまでは詳しくは……。プリニッタ様をラクスベル様が戻るまで、この宿場町に待機する流れになったのですが、私らの被害を重く受け止められ、1人で大穴に向かわれたのです。もしや皆様は……」

「我らは暗黒神アマンテ様より命を受けた3人だ。安心して欲しい。先ほど、雷神ソヴィ様より雷王討伐の課題を受けてこの場にいるのだ」

「おお! 冒険者を狩る雷王の討伐に暗黒騎士様が配下を引き連れて来られたぞ!!」

「プリニッタ様よりももっと若い方だが大丈夫なのだろうか……。なんかガキまでいるぞ」

「馬鹿! きっと配下の方々も暗黒神様より祝福を受けているんだろ! 滅多なことを言ってんじゃねえぞ!!」

「ありがたや、ありがた……」

周囲の冒険者たちが騒めく中、店主のおばさんは両手のひらを額の辺りで擦り合わせながら、未だに跪いたまま念仏を唱えるように感謝を口にする。

「暗黒騎士プリニッタは自らの成すべきことを成した。行き過ぎた力を持ち、お前たちに牙を向く魔獣たちから守る使命が我ら暗黒騎士にはある。彼女の犠牲を気に病むことはない。雷王は我らで確実に討伐するから安心するがよい」

イルゼが集まった群衆たちにも聞こえるよう、自らの使命について当然のように言い放ったのだった。