第901話 ムラルガンの大穴①
第901話 ムラルガンの大穴①
今日は11月26日、アレンたちがムラルガンの大穴に到着した日を合わせて4日目の朝だ。
ムラルガンの大穴の近くに設けられた宿場町でアレンは早朝から目覚め、召喚獣たちと一緒に創生スキル上げに勤しむ。
「ふう……。おい、アレン分かっているだろうな? 今日厳しいなら、お前は1人で残ってもらうぞ」
一息つきながら漆黒の剣を鞘に納めるイルゼが扉の中に入ってくるなり、嫌味な言葉をアレンにぶつける。
一日のルーチンワークのようで、朝早くから剣の鍛錬を済ませたイルゼは、商人たちが日々交換して用意してくれた水桶と手拭いで汗をふき取る。
イルゼがチラリと食堂側の休憩スペースを見ると、アレンがタジンを手伝わせている。
この状況にイルゼは不快に思ったようだ。
「睨んでいるから、そろそろ片付けるぞ。イルゼは今日も朝から機嫌が悪いよな、タジン」
「おい、聞こえているぞ」
「アレン、俺を巻き込むなよ。あと、手伝い賃よこせよ」
イルゼが睨みを利かせる中、さすがのタジンも空気を読んだようで創生スキルセットを片付けるように言う。
タジンの足元には正確に時間を図るためにアレンが用意した時計の魔導具が置かれてある。
アレンはタジンに創生スキルを手伝わせる代わりに駄賃として1時間当たり金貨10枚渡している。
タジンにタダでは手伝わないと言われたため交渉した結果だ。
(新しく創生できるようになった召喚獣を含めてこんなものか。これ以上不測の事態を考えてもしょうがないのか)
確実に雷王を倒すためにどんな方法があるのか、召喚獣たちの特徴の記録やカードホルダーを見ながら考えていた。
・見た目は霊魂の霊Hの召喚獣
【種 類】霊
【ランク】H
【名 前】オバヒコ
【体 力】2
【霊 力】5
【攻撃力】2
【耐久力】5
【素早さ】4
【知 力】5
【幸 運】1
【加 護】耐久力1、知力1
【特 技】おにび
【覚 醒】のっとる
・見た目はトカゲの竜Gの召喚獣
【種 類】竜
【ランク】G
【名 前】カナヘビ
【体 力】6
【霊 力】10
【攻撃力】8
【耐久力】6
【素早さ】10
【知 力】5
【幸 運】5
【加 護】攻撃力2、素早さ2
【特 技】尻尾切り
【覚 醒】尻尾再生
【特技及び覚醒スキルの効果】
・おにび
霊力を消費して周囲を明るくする
知力依存、霊力消費量によって明るさは変わる
水中でも発動可能
体当たりして「火傷」のデバフ効果を付与可能
・のっとる
対象1体の倒した相手の体をのっとることが可能
効果は1日継続する
・尻尾切り
召喚獣や仲間と見た目そっくりな分身を作る
分身は本体と同じステータス
分身は特技を発動不可
効果は1日継続する
・尻尾再生
失った尾を再生する
【天使Fの召喚獣「魔法具(耳飾り)」の効果一覧】
・体力20000 体力秒間2%回復
・魔力20000 魔力秒間2%回復
・攻撃力20000 物理ダメージ20%増
・耐久力20000 ダメージ20%減
・素早さ20000 回避率20%減
・知力20000 魔法ダメージ20%増
・幸運20000 デバフ回避20%増
※成長レベル9まで上げた場合の効果
【天使Fの召喚獣「魔法具(耳飾り)」の特徴】
・メルス専用
・2つまで、どの2種類の組み合わせを選択して装備可能
・魔法具のためバフによる増加の対象
・一度に首飾り7点セットを創生するので作り直す必要なし
・1ヶ月経ったら消滅する
・召喚士への加護は2つ装備しても1つ装備しても同じ
【Sランク召喚獣メルスの特技、覚醒スキルの効果一覧14章版】
・属性付与
敵または仲間の属性を変更できる
敵の場合は相手の知力や耐性によっては成功確率が低下する
・天使の輪
召喚士のスキルを使用できる
召喚士はどのスキルをどの程度使用できるか設定できる
・霊魔結合
天使Bの召喚獣の特技と覚醒スキルを合わせて攻撃できる
・プラズマボール
知力1万当たりドッジボール大の雷の塊の玉を1つ生じる
1つ当たり、遠距離の雷の玉を敵単体にぶつける
当たった敵はダメージを負う、マヒのデバフ効果を付与
威力は知力依存、魔力は1つ辺り1000消費
自らの知力を使って全ての飛翔中のプラズマボールの軌道を変更できる
・祝福の唄
周囲の仲間の回復効果を2倍にする
周囲の仲間の回復魔法および回復スキルの発動速度を2倍にする
・裁きの雷
全魔力を消費して対象に雷を与える
追加でマヒ効果を付与する
・天使の涙
1時間以内に死んだ召喚獣を蘇生する
ホルダーの上限内のため、直近で死んだ召喚獣から順番に蘇生する
蘇生された召喚獣は体力、魔力、霊力全回復でバフ効果を継続する
復活した召喚獣は魔石、聖珠ポイントは消費しない
削除した召喚獣は対象外
クールタイムは1日
【天使Bの召喚獣「セイントスタッフ」の特技、覚醒スキルの効果】
①特技名:ヘブンズヒール
周囲の仲間の体力を自らの知力の数値分回復する
デバフを一定確率で解除する
クールタイムなし、発動時間なしのため、発動がとてつもなく早い
②覚醒スキル名:グレイスオブエデン
周囲の仲間の体力、魔力、霊力を秒間1000回復
クールタイム半減、周囲のダメージ50%減、全耐性50%増
発動中、一定確率で召喚獣を含めて死者が体力50%で蘇生する
時間、クールタイム1日
※召喚獣は召喚枠がいっぱいだと蘇生しない
※他の天使Bの召喚獣の特技、覚醒スキルとの重ね掛け不可
(メルスはあれだな。攻撃も回復もできるオールラウンダータイプだな。リオンにステータスは劣るけど運用次第だし。さて、あんまり考えていたらイルゼの剣が向かってきそうだ)
アレンは、神秘的なスタッフを持ったメルスを見ながらの思考を中断し、イルゼに向き直って口を開く。
「問題ない。早速出発しよう。メルスは回復優先の魔法具を装備してくれ。守りも厚くな。お前が回復役だ」
『ああ、分かった。グレイスオブエデンは持続時間が短いからな。雷王が現われてから掛けることになるぞ』
「ああ、それで良い」
リオンの創生スキルが解放され強くなり、イルゼとタジンが仲間になる中、回復をメインにする者がいない。
武器や魔法具を付け替えて回復優先の装備に変える。
「タジン、まだ、バンドつけてないじゃないか。しっかり腰に巻いとけ」
「分かったよ。こうか?」
「いいんじゃねえのか。戦闘中にずり落ちないようにな」
「おう!」
アレンは自らも含めてイルゼとタジンにお揃いの黄色の腰帯でサンダーバンドを渡してある。
【黄色の 腰巻 ( バンド ) の効果】
・雷防御耐性、素早さ10000
宿場町に戻ってきた冒険者たちにアレンは情報収集している。
この大穴にいる魔獣は雷属性の攻撃が多く、大穴の中は周囲とは比較にならないほど雷神ソヴィの雷が落ちてくるらしい。
ランダムで落ちてくるらしく、当然のように雷が直撃すれば大ダメージを受けるらしい。
3人とも雷属性に強い耐性の腰帯をすることにした。
また香味野菜を使って、マヒ効果を受けないようにすることも忘れない。
荷物をまとめ、アレンたち3人は山小屋の借宿を出ていく。
大小の借宿が乱立する場所から、露店で販売するコーナーに行くと、商人たちが寄ってくる。
「こ、これを道中で食べてください。『雷避けアゲパン』です。何卒、雷王を成敗してください!!」
「うむ、任せよ」
当たり前のように絶対に雷王を倒すとイルゼは断言する。
(雷王は少なくとも通常の亜神よりも強いとみていいだろう。俺たち3人がかりの絶対の自信か。いや、それ以上の暗黒騎士の立場の責任のようなものを感じるな)
「おい、イルゼばっかりずるいぞ」
「全くお前は……。ほれ、食い過ぎて動きが悪くなっても知らんぞ」
「やったぜ。ひひっ! おお? これは美味い!!」
商人たちから貰った食料をタジンにも分けてあげる。
タジンは朝食をたんまり食べていたようだが、足りなかったのか貰った「雷避けアゲパン」を早速ワシャワシャと食べている。
アレンは、クワトロの特技「鑑定」を使わせたが、「雷避けアゲパン」を食べても特別な効果はなかったようだ。
露店を抜け、冒険者たちの休憩スペースの広場を抜けると、最初にやってきたときと反対側の宿場町の出入り口がある。
宿場町の周囲は暴風から守るため、不揃いの板だがしっかりとした塀に囲まれており、門番が出入り口で待機している。
「もう、ご出発されるのですね。雷にご注意ください」
「どうぞ、お気を付けください。夕方になれば、冒険者たちを迎えに行かせましょうか?」
門番の2人からイルゼに対して声を掛けられる。
門番に言われ、冒険者からも聞いたのだが、この宿場町は大穴の近くにあるのだが雷は落ちてこない安全地帯として雷神ソヴィに用意してもらっているらしい。
「気遣いは不要だ。雷石狩りは雷王を狩った後に出かけるよう冒険者に声を掛けてくれぬか」
「はは!!」
「もちろんでございます!!」
(雷王のせいで雷石の値段が上がったけど、これで雷神船の航行費も安くなるかな)
他の大陸よりもさらに暗く感じるのは宿場町のかがり火から随分離れてしまったからだろう。
分厚い雲からはゴロゴロと雷鳴が轟き、視線の先に向かって幾度となく、雷光が落ちていく。
宿場町から2キロメートルほど歩くと、急激に視線が下に広がる。
アレンたちはムラルガンの大穴の淵に到着した。
「大穴に着いたぞ! すっげえええええ。地面がなくなったぞ!!」
「うむ、だが、とてつもない大穴だな。穴の底がはっきりと見えぬぞ」
タジンが全長100キロメートルほどの巨大な大穴の淵から穴の底を覗き込む。
全長100キロメートル、傾斜角30度、深さ50キロメートルの大穴が目の前にある。
大穴をすっぽりと雷雲が覆い、至る所に数秒から十数秒おきに雷が落ちていく。
雷は強いものから弱いものまで様々で1日1回程度、かなり強力な雷が落ちるらしいのだが、当たったらその場で絶命したりマヒで動けなくなってとても危険らしい。
雷が落ちると大穴の輪郭や地形が分かるようになっている仕様のようだ。
大穴の傾斜角度は中央に向かって円状にだいたい30度程度で下っていく。
カッ
ドガガガガッ
天の光を通さぬ漆黒の雷雲から巨大な稲妻が穴の中央に向かって落ちていく。
「うわ!?」
「随分デカいやつ落ちていったな。皆、底が見えたか」
「たしかにアレンの言う通り、穴の深さは50キロメートルくらいらしいが、深すぎて目では見えないな」
どんなに大きな雷が落ちても底は見えないらしい。
(視界が限られていると。万里眼で共有している俺が2人を先導しないとな)
「この中のどっかに雷王がいんのか」
「恐らくこの中に潜んでいる。宿屋の店主が言ったとおりだ。雷王は単純に大穴にいるような魔獣ではないようだ」
アレンはこの数日の調査結果を口にするのであった。