第903話 ムラルガンの大穴③
第903話 ムラルガンの大穴③
ムラルガンの大穴の淵を歩く冒険者を避けて、アレンたちは大穴の底を目指す。
(雷王は大穴で一度も発見されていない。地上に近い大穴の周囲は冒険者でいっぱいだ。雷石に目が眩んで底の方へ降りてきた冒険たちを雷王が狙っているかもしれないからな)
この3日の間で、大穴の様子をイルゼと話し合ったら、底を目指すことになった。
大穴の上部は雷石目当ての人が多く、雷王を見た冒険者がほとんどいない。
ほぼ壊滅した50人のAランクパーティーが雷王を発見したのは、かなり底付近だと言う話もあった。
腕のある冒険者ほど穴の底の魔獣や雷鳴石を狙う傾向があり、雷王はそういった冒険者を狙っていると思われる。
底で潜んでいる可能性が高いというイルゼの意見にアレンも同意した。
冒険者たちがだんだん少なくなってきたところで、タジンが斜面の足元で光るものを発見する。
パリパリッ
「何だこれ? お? ビリビリするぞ!?」
電気を滞留させたような石をタジンが拾う。
「ちょっと貸してくれ」
「いいぞ、でも俺が見つけたんだからな。ちゃんと返せよ」
アレンは魔法具などの防具を貸しまくっているのだが、タジンが見つけた珍しい石だと主張された。
魔導書を開いて電気が滞留している石を収納した。
『雷石(弱)を収納した』
「……十分に雷の取り込んでいない雷石のようだな。ほれ、多分ゴミだぞ」
(ふむふむ、雷石ができる方法は2つあるんだっけか。石に雷が何度も落ちまくって雷石になるのがその1つだけど、これはまだ十分じゃないと)
「ちぇ、何だよ。うりゃ!!」
アレンに言われてがっかりしたタジンが思いっきり雷石(弱)を思いっきり、突き出た大岩にぶつけた。
ガン
「おいおい、その石ころもそのうち雷石になるんだろ。ん?」
タジンが雷石(弱)をぶつけた、目の前にそびえる高さ10メートルほどのドーム状の大岩が僅かに揺れたかと思った。
『キュルルルル!!』
地面近くで甲高い鳴き声が響いたかと思ったら、足元の斜面が盛り上がり、2メートルはあろう巨大な亀の頭が盛り上がってくる。
「これはたしかサンダータートルってやつだ。Sランクの魔獣だぞ!!」
アレンは目の前で動き出したドーム状の大岩は、サンダータートルの甲羅の部分だった。
のそりと地面に埋まっていた頭が起き上がりこちらに顔を向けた。
デコに大きな雷石のようなものがあるサンダータートルは口を開くと凶悪な牙が現われ、さらにバリバリと口の周りが放電し始めた。
(クワトロ、鑑定だ。魔神よりやや弱いって感じか。って、おい、イルゼ)
見たことのない魔獣が現われたとあって、アレンが上空に舞うクワトロに特技「鑑定眼」を発動させる。
【名 前】ライダライ
【年 齢】165
【種 族】サンダータートル
【体 力】18000
【魔 力】15000
【攻撃力】20000
【耐久力】28000
【素早さ】12000
【知 力】17000
【幸 運】20000
【攻撃属性】雷属性
【耐久属性】雷属性耐性(大)、マヒ耐性(大)、物理耐性(大)
アレンの一瞬の判断の隙にイルゼが頭上を飛び越え、サンダータートルに襲い掛かる。
「むん! 真・斬撃!!」
ザシュッ
『キュルル!?』
「ぬあ!?」
バチバチバチ
耐久力がステータスで最も高く、さらに物理耐性(大)あるのだが、レベル1のイルゼは暗黒神から強力な武器を、アレンから魔法具を貸している。
刀身のほとんどが岩の甲羅の中に切り込んでいく。
甲羅を突き立てられ、咄嗟に大きく体を揺らして振り払おうとするサンダータートルによって、背に乗っているイルゼの体のバランスを崩す。
さらにサンダータートルは首を伸ばし、放電した口元を突き立てた剣でバランスをとり、甲羅の上に立つイルゼに向ける。
今にも口から雷光を放ちそうなところでアレンも動き出していた。
「おい、だからお前はレベル1だと言っているだろ。うらっ!!」
真っ先に飛び掛かったイルゼの数秒遅れて、アレンも飛び掛かった。
十分に伸びた首をアレンは容易く上段から切りかかり、物理耐性(大)のあるサンダータートルの頭部を胴体から容易く両断する。
『サンダータートルを倒した。1億6000万の経験値を取得しました。イルゼはレベル50になった』
「む、力が沸いてきたな。暗黒神様の祝福を得たぞ!!」
突如現れたSランクの魔獣を倒したことによって、イルゼのレベルが一気に上がった。
「ふむ、久々にレベルが上がったな。おい、タジン、何をしている」
2、3度、剣を振るって、転職してレベル1になったイルゼが50まで一気に上がったステータスを確認する。
タジンが、アレンが切り落とした頭部の上に飛び乗ったので、何をしているのかと言う。
「デコがキラキラしてんな。ふぬぬっ。」
タジンはサンダータートルの頭部に飛び乗り、倒した後もバリバリと放電する額の石のようなでっぱりを掴んで引っ張ろうとしている。
ポンッ
軽快な音を立てて放電する石をサンダータートルの額から取り外せた。
「おい、アレン。これは雷鳴石じゃないのか。高く売れたら俺が取り出したんだからな。金寄こせよ!!」
(みんな、とんでもなく勝手なことするな。誰も俺の声が届かなくて新鮮な気がする。元気があってよろしい)
人間界で廃ゲーマーのパーティーの皆は、今回のように初めてやってきた場合は、リーダーのアレンの言うことをよく聞いてくれたと思う。
だが、暗黒界ではタジンもアレン同様に冒険者登録しているが、冒険者パーティーの登録はしていない。
だから3人で動く時、アレンはリーダー感を出しているが、パーティーリーダーでも何でもないと言える。
少なくとも暗黒騎士のイルゼはまったくアレンをリーダーと認めていないだろう。
(昔、会社の上司に人を動かすのに必要なのは「尊敬」だと言っていたな。今ならその言葉の意味が分かる気がする)
前世でサラリーマンだった健一は35歳で転生した。
転生される直前に年齢的に役職が上がり始めたころで部下の社員の指導に苦労した記憶がある。
自らの上司が健一に伝えた言葉の意味がようやく理解できたなとアレンは思う。
(さて「めいれいさせろ」のコマンドのない冒険は初めてかもしれないな。2人とも魔神以上の力があってこの世界でもかなり上位の力がある分、俺の話は聞いてくれないと。何かあった時のために話くらいは聞ける信頼関係が必要だな)
アレンが学園にいたころから、仲間たちは自らの作戦をよく聞いてくれていた。
だが、イルゼにもタジンにも「めいれいさせろ」の作戦指示は存在しない。
何なら「いのちだいじに」と伝えてもガンガンいかれることが分かった。
「……おい、何してんだ。その本に入れてどんなのか早く確認しろよな」
金目のものなんだからいうタジンにアレンは「俺が止めを刺した」という言葉を飲み込んで魔導書に収納してみた。
『雷石を1つ収納した』
「ふむふむ、これは十分に雷神ソヴィの雷の力を吸収したまぎれもない雷石のようだ。だが雷鳴石ではないな」
(たった100年かそこらでこの魔獣はSランクまで成長したのか。だが雷鳴石ではないと。この大岩は、レベルの高い冒険者がたくさんやってくるから、そいつらを狩って魔獣もすぐに成長してしまうのかな)
何でも、魔獣に吸収されると雷石や雷鳴石は早く成長するらしいと、冒険者に昨晩聞いた。
「なんだよ。残念だな!」
「ほれ、渡した魔導袋にとっておくんだな」
アレンはタジンから視線をサンダータートルの甲羅に移して、考え込む。
「おい、アレン、何グズグズしている」
「いや、こうやって擬態している魔獣もいるのか。雷王も擬態して隠れているかもしれないぞ。警戒は必要だな」
「ああ、そうか。お前は私が心配なんだな? 私が油断するわけないだろ」
イルゼからの予想通りの返事を気にすることなくアレンは、魔導袋(特大)にドラゴン並に大きいサンダータートルの死体をすっぽりと収めた。
「それも山分けだからな!」
「ああ、こいつも雷王も皆で山分けだ」
「へへへっ。いっぱい稼ぐぞ!!」
「さて、この辺はまだまだ冒険者が多いな。穴の底を目指すぞ」
「うむ。今回みたいなことがあるかもしれない。アレンは左を任せたぞ。タジンは右だ」
レベルが上がり力をつけたイルゼは、自らは正面の一番危険な最前を歩くと言う。
「おう!!」
イルゼの言う通りの陣形になり、このまま穴の底を目指し始める。
「それもそうだが、そろそろ。昨晩の作戦を実行に移すぞ」
「む? まあ、そうだな。底までまだかなりの距離がある。それまではこのままでいいだろう。魔獣を狩って私は雷王に備えたいぞ」
「まあ、たしかにまだレベルが足りないな。じゃあ、Aランク以上の魔獣のいる場所経由で大穴の底目指すぞ。Sランクを優先して狩るからな。気を付けろよ」
「さっきから私を心配するなど10年早いぞ、アレンよ。どっちに向かえばいいか後ろから案内するのだ」
それから早朝から5時間ほどかけて、昼前までに8体のAランクの魔獣と12体のSランクの魔獣を狩った。
総経験値は20億を超えて、イルゼのレベルは60になった。
(エクストラモードでもそろそろこの辺の魔獣の経験値じゃレベルが上がりにくくなったな。さて、大穴の底だ。作戦どおり動いてくれるか心配だな)
「この辺りから大穴の底だ。作戦通りいくぞ。ふいに雷王が襲ってくるかもしれないからな」
「おう、雷王を狩ってやるぜ!!」
(なるほど。大穴の入り口はほぼ見えないか。この辺で冒険者を襲えば人目につかないな)
最後に見た冒険者は20キロメートル以上、斜面の上だ。
斥候や盗賊など視界を広げたり、遠くを見たりするスキル持ちでも、この距離を見ることはできないだろう。
警戒しながら大穴の底を、陣形を組んだまま雷王を探して散策する。
大穴の底を歩くなり、タジンが斜面との違いに気付く。
「地面がカチカチだな」
ピカッ
ゴロゴロッ
(斜面と違いガラス質な感じがするな。雷って数万度に達するし、石が溶けてこうなったのか)
何度も打ち付けられ、石ころはドロドロに溶けて固まり、穴の底をカチカチにしているようだ。
やってくる冒険者がほとんどいない大穴の底に辿り着いたアレンたちであった。