第905話 雷王グリロタン戦①
第905話 雷王グリロタン戦①
自らも距離をとるアレンは、敵味方の判別がつかないタジンの側に寄るなとイルゼに言う。
「イルゼはタジンに近付きすぎるなよ。あいつ見境なくなっているからな」
「分かっている。まったく、地面の中でコソコソしおって。そうやって、地面の中に隠れながら力をつけてきたのか」
地面の中を雷王が高速で移動すると、ボコボコと固いはずの地面が易々と隆起していく。
(よし、挑発助かる。俺が言うよりも暗黒騎士の嫌味が雷王に効くだろ)
『……おいおい、言ってくれるねえ、暗黒騎士さんよ。だが、そのとおりだぜ。俺はこうやって、襲ってくる冒険者や暗黒騎士たちを1万年以上かけてゆっくりと狩ってきたんだ。おかげで随分長生きできたぜ。馬鹿な奴から死んでいくのさ』
地面の割れ目の隙間から自らの勝利を確信しているのかイルゼを見下すような声が響く。
(なんか卑屈な性格だな。雷王って感じが全くしないけど。だけどベラベラしゃべってくれて助かる)
「ふん、だが、そうやってコソコソ隠れるのも今日で最後だ」
『けっ。言ってろよ。お前にもその最後とやらを見せてやりたがったぜ。冒険者たちを逃がすために暗黒騎士の内臓をぶちまけさせたところをな。暗黒騎士の使命だがなんだが知らねえが、死ぬときは皆一緒だな! げひゃひゃ!』
『貴様は絶対に殺す!!』
(おいおい、挑発に乗るなよ)
『配下を2人も連れてきたようだが、お前ら全員俺の糧となりやがれ!!』
雷王は再度、イルゼの背後の地面から巨大でギザギザな爪を出して飛び出してきた。
「イルゼ、背後から来たぞ! 飛べ!!」
「分かっている。私に命令するな!!」
『けっ 逃がすかって、なんだ!?』
地面から爪と顔を出し、さらにイルゼの背後を追って全身が飛び出た雷王は自らの体の異変に気付いた。
全身を漆黒の糸のようなもので覆われていた。
『広げた』
「よし、よくやった。マツヒメ!!」
アレンはイルゼと雷王が会話をしている間に次の作戦を進めていた。
地面一帯になるまで伸ばした市松人形の姿をした霊Dの召喚獣は覚醒スキル「伸びた毛」で張り巡らせた真っ黒な毛が地面から飛びでた雷王の体に絡む。
「ドグウは念動力を! メロンは長い舌を!!」
アレンはさらに召喚獣たちに指示をし出した。
地面の上でアレンの指示を待っていた土偶の姿をした霊Eの召喚獣は、目をカッと光らせ、特技「念動力」で毛の絡む雷王の動きを封じようとする。
姿を消していた竜Fの召喚獣は特技「長い舌」で数十メートル伸ばした舌で雷王の胴体をぐるりと捉えた。
おかげであと数センチメートルまで背後を取られたイルゼだが、上空に向かって退避することができた。
成長レベル9まで上げてマクリスの特技「ロイヤルオーラ」と「ロイヤルガード」を掛けているとはいえ、亜神から神の域に達しつつある雷王を止めることはできない。
髪の毛も長い舌も引き千切り、念動力にも動じない雷王はイルゼに向かっていく。
『こしゃくな! だが、逃がすかよ! 雷王グリロタン様がてめえの臓器引っかきだしてくれるぜ。げひゃひゃ!!』
(あくまでも暗黒騎士を狩ることがお前の最優先目標か。だが、おかげで完全に地面から引きずりだすことができたぞ。さて、後は2度と地面に戻さないためにも)
アレンが次の作戦を考えていると、地面から完全に現れた雷王に対して、タジンが既に反応していた。
『グルオオオ!!』
翼を広げて一気に距離を詰めると、雷王の背面を狙ってメキメキと握り締めた渾身の拳を打ち付けた。
『くそが、何度も背面狙ってきやがって。死にさらせ』
背中を殴打された雷王は全身を回転させながら、全長10メートルにもなるギザギザなトゲのある爪の片方を、遠心力を使って高速で振るう。
『がば!?』
100メートル以上吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドしていく。
だが、召喚獣たちやタジンのおかげでイルゼは雷王1体分よりも遠くまで距離をとることができた。
全長30メートルほどある雷王は全身を地面から出しても、上空に飛び上がったイルゼまで届きそうにない。
「タジン!? 貴様!!」
『けっ。上空だからって逃げ切ったつもりかよ! 誰の心配をしてんだよ。てめえは焼け焦げろ! スパークショット!!』
「ぐは!?」
タジンを弾き飛ばした爪とは反対の爪に魔力を込めると放電がイルゼに向かって解き放たれた。
・イルゼのステータス
【体 力】87000/96340
【魔 力】65648
【攻撃力】107620+30000(武具)
【耐久力】83182+30000(武具)
【素早さ】82620
【知 力】59880
【幸 運】54880
・タジンのステータス
【体 力】55800/84700
【魔 力】58300
【攻撃力】116000+20000(武具)
【耐久力】72600+12000(武具)
【素早さ】91000
【知 力】40000
【幸 運】53000
(やはり、タジンの力だと雷王の体力を削り切るに至らないな。昆虫特有の強固な外骨格。物理耐性もついているしな。だが、イルゼもそうだが、2人は果敢に戦ってくれて助かる)
アレンから魔法具を借りて、召喚獣のバフを貰っているイルゼもタジンよりも、雷王は攻撃面も耐久面もステータスで2倍ほど優れている。
初見の相手に2倍の強さの相手に果敢に攻めるのは才能だとアレンは感じる。
アレンは持ち前の知力で戦況を理解し、さらにメルスとペクタンに指示を出した。
「メルス、ペクタン。回復を絶やすなよ」
『分かっている。ヘブンズヒール』
『プッププ~!!』
回復役を任せたメルスたちが攻撃を受けたイルゼとタジンを瞬く間に全快させる。
『くそが。回復しやがって……。ん!?』
(これで雷王は完全に外出せて、イルゼとタジンのダメージはチャラになった。後はと)
雷王はせっかく止めを刺そうと思った暗黒騎士を回復され、怒りがこみ上げたところで、自らに接近するものに気付いたようだ。
「リオンは左を狙え! 俺は右だ!!」
『うむ!!』
アレンとリオンが、イルゼとタジンのいた位置と代わるように雷王の下へ飛び込んでいく。
(よし、暗黒騎士を回復されたことで意識を持っていかれたお前の負けた。その両爪は邪魔だな)
「霊斬剣!!」
『無限天元突!!』
アレンの剣は巨大でギザギザの爪の付け根を叩き切り、雷王の右腕から切り離した。
リオンは蓋世天錫を使って特技「無限天元突」を発動させて無数に打ち付け、左腕の巨大な爪を爆散させた。
『げは!? ひいい!!』
地中に潜るための両腕の爪を破壊された雷王は、すぐに自らが飛び出していた地面の中深くまで続く穴を見た。
「マクリス!」
『逃がさないのら~! フリーズキャノン!!』
ズオオオオン
マクリスが口を開くと、口元に巨大な円錐状の氷の柱ができて、大穴に向かって飛んでいく。
すっぽり嵌まると氷が膨張するように広がり、穴をきれいに埋めてしまった。
「あ、アレン……」
雷スキルの機転、地面を掘り進める手段になっていた雷王の両腕の巨大な爪を、アレンが破壊するタイミングを狙っていたことをイルゼは理解する。
『グルオオオ……』
「リオン、タジンを抑えておいてくれ。まだまだ神技の効果切れないだろうからな」
『うむ、これこれ、暴れるでないわ』
勝手に追撃しようとするタジンはリオンに任せることにする。
全長10メートルのリオンにとって神技「超獣魔化」を発動したタジンであっても、背中を押さえつけられ噛み癖のついたチワワのような扱いだ。
「……さてと」
アレンは一瞬、背後のリオンたちに向けた視線を雷王に戻した。
『ひ、ひいい。急に悪かったよ。もう、悪さはしないと誓うから許してくれよ。へへっ』
雷王は爪を失った腕で身振り手振りをするように腹部を上面にしたまま、頭を起こして這いずりながら謝罪する。
(腹部の足が全部上向いているし、この姿勢ならすぐに逃げられないな。しかし、全力で謝罪してきたぞ)
体を引きずりながら、背後に移動しながら雷王は命乞いをする。
「貴様、今更、そんな無様なことを言って許されると思うなよ」
『そう言うなよ。そ、そうだ。この前の女の暗黒騎士の遺品を預かっているんだ。それを返すよ』
「口から出まかせを言いおって……。我ら暗黒騎士に遺品などないわ。そのふざけた口を叩き切ってくれる!!」
『嘘じゃねえぜ。実は他の暗黒騎士の言伝も預かっているんだぜ……』
(ん? これは何を狙っているんだ。数秒、数分、長生きしたいとかそういう話か? 許されるとはさすがに思っていないと思うけど。クワトロ、選択眼だ)
雷王の命乞いに違和感を覚えたアレンは上空を旋回するクワトロに覚醒スキル「選択眼」の発動を指示する。
『承りましたわ。何を選択するか設定してください』
「分かった。えっと、逃げる、仲間を呼ぶ、だろ、あとは……。一応、時間を稼ぐも入れておくか」
アレンは4つの選択肢の設定を指示してもらうと選択眼の結果が魔導書に表示される。
この覚醒スキルは敵の次の一手を事前に読むことができる。
【雷王に対するクワトロの選択眼の発動結果】
・身を守る
・逃げる
・仲間を呼ぶ
・時間を稼ぐ
ブンッ
『クワトロは選択眼で「時間を稼ぐ」を選択できました』
魔導書にクワトロの覚醒スキル「選択眼」の選択結果を表示する。
(おいおい、まじか。本当に時間を稼ごうとしているぞ。ん? 移動している)
雷王は腹ばいになって降参しながらもゆっくりと右へと位置を変えようとしている。
「貴様、そのまま逃げられると思っているのか……」
アレンが絶句する中、雷王のあまりにも遅い移動速度のおかげでイルゼは歩きながらでも簡単に距離を詰めることができる。
(そして止まったな。そこに何かあるのか?)
『お、おれは1万年ずっと土の中にいたんだ。その中で法則を見つけたんだ。雷神の野郎、適当にやっているようで法則があったんだ。俺だけがそれに気付いたんだ』
「おい、何かしようとするぞ。イルゼ!!」
時間を稼ぐ意味は分からないが、ここは距離をとるべきだとアレンはイルゼに言う。
「ふん、アレンは黙っていよ。貴様の指示は受けん。少し自らの作戦が上手くいったからといって調子に乗らぬことだな……。何を企んでいるのか知らないが雷王は私が止めを刺す」
『…そろそろか。お前らに罠を貼る時間を念のために調整しておいて良かったぜ。まだ10日前に食らった暗黒騎士を十分に吸収できていなかったからな』
「もう良い。黙れ! 雷王! その首、叩き切ってくれる!!」
イルゼが雷王に向かって剣を振り上げる。
『そろそろ、ここに特大の雷が落ちるって言ったんだボケが! 時間切れだ! 俺の粘り勝ちだぜ!!』
カッ
ズガガガガン
その瞬間、天が輝き、両腕の爪を失った状態で両腕を天に掲げる雷王の頭上に、巨大な雷が落ちたのであった。