第906話 雷王グリロタン戦②
第906話 雷王グリロタン戦②
雷王が上空に手を上げ、漆黒の雲から自らに向かって巨大な雷が落ちてきた。
カッ
ズオオオオン
「くっ」
命乞いをする中、止めを刺そうとイルゼが最も雷王に近付いていた。
「くっ!?」
衝撃でイルゼが吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫か。イルゼ」
「ああ、問題ない。だが、最後は雷に落ちて死ぬとは姑息なこいつらしい最後だな」
「いや、落ちる直前に何か叫んでいたぞ。あいつはどうやら雷を使って自らの体を回復させようとしていたみたいだ」
「なんだと?」
イルゼがアレンの言葉に視線を向けると、雷王は落雷した雷によって全身が放電に包まれている。
(こいつ、雷属性吸収の耐性を持っていたな)
ドクン
ドクンッ
メキメキ
『タイミングはばっちりだぜ。最近食った暗黒騎士の血肉が完全に俺のものになってきた気がするぞ!!』
勝利を確信する雷王の外骨格を突き破らんと内側で何かが蠢いているようだ。
「貴様、何をしている!!」
『へっへっへ。俺たち魔獣は雷神の野郎の力を吸収してきたんだよ。俺はその攻略法を知っていたってわけだ。てめえらはおしまいだぜ!!』
(大穴に落ちる雷には雷鳴石や雷石を作る力があるからな。それさえも吸収したってことか)
「そうはそうさせぬと言っただろう!!」
『てめえに俺の邪魔はできねえよ! ライオネット!!』
バチバチッ
「ぐぬ!?」
剣を握り締めたイルゼが雷王に向かって跳躍した。
一気に距離を詰めようとしたのだが、雷王の周囲に放電した網が無数に囲み、イルゼの行く手を阻む。
『……暗黒騎士どもは殺ると大勢で押し寄せてくるからな。チビチビ時間を掛けて3体喰らってようやく神になれる時が来たのだ。大穴の底の土の中でコソコソと1万年以上、暮らしたが、これからは大陸を支配するために飛び立つとしよう』
巨大なオケラの姿をした雷王の背中の外骨格が縦に真っすぐ裂け、巨大な蝶々を思わせる羽が生えた。
ずるりと頭の部分も後頭部から巨大な複眼を両目に携え、口元に長く丸まった口吻がある。
変態する雷王を守るように生じた放電するカーテンは距離を縮めていく。
そのまま放電する力を翅に宿っていく。
(繭にもなって完全なる変態だな。クワトロ、蝶々の化け物になったこいつを、もう一度鑑定をしてくれ)
『はい、承りましたわ』
【名 前】?????
【年 齢】?????
【種 族】?????
【体 力】??????
【魔 力】??????
【攻撃力】??????
【耐久力】??????
【素早さ】??????
【知 力】??????
【幸 運】??????
【攻撃属性】??????
【耐久属性】??????
「……どうやらイルゼの言う『神化』が完了したようだ」
亜神級程度までは可能だが、クワトロの特技「鑑定眼」は神の力に達した者は鑑定できない。
『さてと、俺を痛めつけたこいつらにはきっちりと神の力を得た俺が正義の裁きをくださないとな!! この鋭い口で頭に穴を空けて脳みそほじくり出してやるぜ!! そして、俺こそが雷神を名乗るのだ!!』
アレンたちを皆殺しにして食らい、自らを雷神と名乗ると宣言した。
雷王は神級の力に達しても口の汚さは変わらないようだ。
「おい、姿が変わった程度で何を余裕かましている! うおおおおおおおおおお!!」
放電した翅をもつ雷王に向かって飛び掛かった。
だが、巨大な両目の複眼の全てがイルゼを捉えた雷王は、一瞬でその場から姿を消した。
何十メートルも空中をぐるりと旋回し、空中を切ってしまったイルゼの横に辿り着いた。
ガシッ
「なんて速さだ……。く!? 放せ!!」
腹部の外骨格で覆われた6本の脚に捕まったイルゼは剣で切りつけるが、あまりの固さに甲高い音が響くのみで傷を負わすこともできない。
『はぁ? 放せだと! まだ、てめえの立場が分かってねえようだな!!』
先ほどまで命乞いをしていた雷王とは思えない態度だ。
そのまま抱き着いたまま一度上空に舞ったかと思ったら翅を畳み、一気に地面に向かってイルゼを放った。
地面にぶつかる寸前で、イルゼを6本の脚からイルゼを放ち、自らは上空に再度舞う。
「ぐ!?」
地面に叩きつけられながらも、なんとか剣を構え直すイルゼに対して、雷王はさらに追撃する。
(これはイルゼが耐えられないやつだ)
『ライトニング・ニードル!!』
まるで雷のような速度でイルゼに向かって雷をまとった口吻をまっすぐ伸ばし、跳ねを閉じ合わせて空気抵抗を減らし最速で突っ込んでくる。
思わず目を瞑りたくなるような勢いだったのだが、イルゼに雷王の間にアレンが割り込んだ。
アレンの剣の刀身を盾にして、身を挺して雷王の攻撃を受ける。
ガッ
ドオオオオオオン
イルゼはアレンが自らをかばったことがぎりぎり分かった。
だが、あまりの速度に声を掛けることは出来なかった。
アレンは雷王の強力に一撃に後方に吹き飛ばされる。
神化して得た力によって、1キロメートル以上離れた大穴の底から斜面に叩きつけられてしまった。
「な、なんて威力だ……」
『ありゃ? なんか生意気な黒髪のガキは後で嬲り殺そうと思ったが順番が違ってしまったぜ』
「その汚い言葉を我に聞かせるな! 真・居合切!!」
イルゼは罵声を浴びせながら自然に剣を腰の鞘に納めた。
そこからイルゼが発動する最速の居合抜きによる飛ぶ斬撃を蝶々の化け物の姿になった雷王に食らわせる。
狙うは蝶々の翅の付け根の部分だ。
だが、寸前まで飛んだ斬撃は雷王の翅を通過する。
切り落ちることはなく、いつの間にかイルゼの視界の端に移動していた。
『まだ分かっていねえようだな! そんな遅い攻撃が当たるかよ!! いや~空を飛べるって気持ちがいいぜ~。最高だ~。げひゃひゃ』
簡単にイルゼのスキル「真居合切」を躱した。
完全に見切った上で狙いを予見までされていたようだ。
この状況にイルゼは1つの決断をした。
「おい、お前たち! 私が最後まで残る。だからタジンを連れて、暗黒神様に副騎士長を派遣してくれるようお願いするのだ! 副長たちはきっと動いてくれる」
この言葉に回復役を務めるメルスが反応する。
その近くには噛み癖のついたチワワのように暴れるタジンを押さえつけるリオンがいる。
『ん? 我らのことか? まだまだ戦えるぞ』
ペクタンと一緒に回復はばっちりだからまだ戦えるとメルスは言う。
「分からないのか! 我らには敵わぬ敵なのだ。時間を稼ぐから……」
『馬鹿が! てめえら全員俺の餌になるんだよ!! 誰も逃がさねえ! さて、次は誰を殺そうかな』
雷王は勝利を確信したのか口吻を使ってイルゼたちを順番に選んでいく。
「くそ、最悪だ。ここまでか」
(イルゼは死ぬ覚悟があってこの作戦に臨んでいたのか。随分な忠義だな。暗黒騎士とはそれほどの存在なのか。さて、鎧も外套も今の一撃に耐えられなかったな。暗黒神がイルゼみたいに俺にも特注の鎧作ってくれないかな。これが終わったら頼んでみるか。替えがとうとう無くなってしまったぞ)
召喚獣たち経由でイルゼたちの状況を確認するアレンは吹き飛ばされた斜面で体を起こした。
普段使っていた鎧と外套が魔導軍と戦いでも予備を消耗していたため、このタイミングで失ってしまった。
結果、ウネウネとしたゲヘナバンドが腹部で目立ってしょうがない。
「さて、あんまりあの程度の威力だとあまり体力削れないし、生命循環で体力を調整してと。グラハン、戦士の咆哮だ」
(敵は素早さ特化みたいだな。狙いを俺に移して……。確実に倒すと)
アレンはイルゼとは考えが根本的に違う。
イルゼのような忠義はアレンにはない。
今ここで雷王と戦う目的は、暗黒界で報酬を得て人間界に戻ることだ。
だから絶対に負けるわけにはいかない。
訳の分からない敵が出てくればしっかり分析するし、倒せるかどうかも判断する。
アレンはその分析が今終わったとグラハンに声を掛けた。
『うむ、勝負を決しようぞ! 戦士の咆哮! 剣士の忠誠!!』
憑依させているグラハンに覚醒スキル「戦士の咆哮」と「剣士の忠誠」を発動させた。
アレンの体から真っ赤な魔力で覆われ始める。
・アレンのステータス(バフおよび戦士の咆哮込み)
【体 力】35000/359755
【魔 力】427390
【霊 力】427390
【攻撃力】307651+50000(武具)
【耐久力】372736
【素早さ】298823
【知 力】478468+80000(武具+憑依)
【幸 運】283703
※ロイヤルガード、ロイヤルオーラ、戦士の咆哮、剣士の忠誠、守破の陣、金の卵、防御茸
※聖珠ポイント節約のためSランク以外のホルダーは鳥A、霊A、霊B、霊Cのみ
アレンはゆっくりと屈みながら自らの力が漲っていることを感じた。
(剣士の忠誠も掛けたら、ホルダーは節約できそうだな。魔王軍との戦いに備えて聖珠ポイントも貯めておかないといけないからな)
アレンは足に力をためて斜面を全力で蹴り上げ、イルゼたちに向かって跳躍した。
ドオオオオオオン
その瞬間、斜面はアレンの踏みしめに耐えられず、蜘蛛の糸状の亀裂が数百メートルに達するほど広がり、衝撃は斜面を波紋のように広がっていく。
「うわ、なんだ!?」
「大地が揺れた! 大穴の底から衝撃が広がったぞ!!」
「大穴で何が起きているんだ!?」
今日も数百人の冒険者たちが大穴の斜面にいるのだが、数十キロメートル離れていても、全員に衝撃が伝わり、中には転びそうになる者もいる。
ダンッ
防具を破壊され上半身半裸のアレンは勢いそのままにイルゼの側に着地したら、落雷でガラス状になったカチカチの大穴底の地面を広範囲に粉砕した。
この衝撃で数十キロメートル先の大穴の淵を超え、さらに数キロメートル離れた宿場町の露店に並べた商品が一気に倒れ、何が起きたのだと驚いて騒然となった。
「あ、アレンよ。生きていたのか」
震源の中心近くにいるイルゼは何とか踏ん張りアレンに声を掛けた。
「ああ、大丈夫だ。雷王を倒すぞ」
『けっ。死にぞこないが! 元気よく死にに戻ってきたなぁ! 頑丈そうだが俺の動きは捉えられまい! 今度こそてめえの心臓えぐり出してやるぜ!!』
アレンが倒されなかったことに神の存在に至った自らの誇りを傷つけられ怒りを覚えたようだ。
空中を旋回した雷王が翼によって大気が電気を宿し、辺り一面に放電する。
『ライトニング・ニイイイイイドオオオオオル!! 死にやがれ! ん? 感触がねえぞ! やつめ! お? どこに行きやがった!!』
「……」
『ば、馬鹿な!? いつの間に!!』
音速を超えた速度で一気に降下し、アレンの心臓を狙ったが、何かを串刺しした感触はなく雷王は背中に僅かに違和感を覚えた。
巨大になった両目の複眼が自らの背に立つアレンを捉えた。
「さて、確実に倒さないとな」
振り上げた剣に魔力を込め始めたアレンの動作に、これまで1万年間必死に生きていた本能からか、自らの生存を脅かされていることにようやく気付く。
『おい、まて。何をしようっていうだ? 待て! 待ってくれ!?』
だが、雷王の話を聞く気のないアレンはグラハンが憑依した際に発動した際に使える最強の一撃を発動した。
「ソウルセイバアアアアアアアアアアアアアア!!」
『ゲビャッパ!?』
アレンは雷王の首を横からグラハンの特技「ソウルセイバー」で叩き切る。
雷王は命乞いをする間もなく首が胴から離れていく。
ドゴッ
飛ぶ力を失った雷王の胴体も頭もそれぞれ別々に地面に落ちたのであった。