第907話 墓場
第907話 墓場
首を切り落とされ、地面に落ちた雷王はピクリとも動かない。
ブンッ
「よし、倒したぞ。って、お? 魔導書にログが流れたぞ」
あれこれ姑息に生き延びようとする雷王を確実に倒したことを確認する。
空中に現われた魔導書のログはさらに続いていく。
『イルゼのレベルが99になりました』
『タジンのレベルが99になりました』
「ん? やはり暗黒界の住人でもエクストラモードなら99が限界か」
アレンは納得しているがここでログは終わらなかった。
『アレンのレベルが280になりました。体力が3250上がりました。魔力が5200上がりました。攻撃力が1820上がりました。耐久力が1820上がりました。素早さが3380上がりました。知力が5200上がりました。幸運が3380上がりました』
「おおお! レベルが10も上がったぞ!!」
アレンは魔導書を抱きかかえてはしゃいでいる。
【雷王グリロタンを倒した際のアレンたちのレベルアップ】
・アレンは10アップ 270⇒280
・イルゼは19アップ 80⇒99
・タジンは6アップ 93⇒99
「何がどうなっているのだ……。神に至った魔獣をたった1人で倒したぞ。しかもかなり余裕そうに見えたがこんなこと副長でも難しいのではないか」
イルゼは状況が理解できないと呆然とする。
(ふむ、普通に神の力を持つ魔獣を倒したな。神化した魔獣であって神ではないのか。神の器とかそういう人間界や神界の理と違うと。単純に神を倒す力を俺は持ったと思って良いのかな。まあ俺も別に神を倒す力があるのに神ではないし)
神器の有無は分からないし、別の理で動いているのかもしれない。
この場で答えの出ないことをこれ以上考えてもしょうがないと、アレンは地面に落ちた雷王の背から降りた。
「イルゼは無事だな。タジンは神技を解除しろ」
イルゼとリオンに押さえつけられているタジンに声を掛けた。
ヘルビーストになったタジンにもアレンの声が届いたようだ。
メキメキと神技「 超獣魔化 ( ヘルビースト ) 」を解除して、少年の魔神の姿に戻った。
「ああ、分かったよ。アレンは強いんだな。こいつをあっという間に倒したぞ!」
「そうだ。タジンも強くなれて良かったな」
「おう!!」
レベル99になったタジンは嬉しそうだ。
(これで少しはパーティーで戦えるくらいには統率が取れると助かるのだが。選択眼でも雷王の真意が分からず、うっかり神にしてしまったが、その分レベルがたくさん上がったとみて良いかな。結果オーライってやつか)
神の力を得た雷王はイルゼやタジンの数倍の力だった。
2人にとって厳しい戦いになったなと考えているとイルゼからも声が掛かる。
「あの速さで迫る相手の背によく乗れたな。私の最速のスキルでも当てるすらできなかったのだが」
「……いや、ギリギリだったぞ。あの攻撃の速度は俺の素早さを超えていた」
「余裕で避けたように見えたぞ」
「あいつは口の針を伸ばして攻撃するとどうやら真っすぐしか進めないらしい。そういうスキルなんだろう。だから発動の瞬間を合わせ飛んだ。それだけだ。まあ、1万年も地下にいた奴がいきなり飛べるようになっても上手く戦えないってことだ。慣れないうちに余裕を見せるとああなるってことだな」
行動が素早さのごり押しで躱したり、突っ込んでくるだけの相手などに負けるわけがないとアレンは言う。
なお、イルゼがあれこれ奮闘してくれたおかげで、倒した方が分かったことは言わないでおこうと思う。
「随分容易く言ってくれるな。相当な戦闘経験なのだな。さて……」
イルゼの視線が雷王の頭に向けられる。
(雷王の頭か。胴体も含めて素材に使えそうにないな。翅はどうだろうか。軽いし、雷耐性があるだろうか。でも鎧には加工できそうにないな。俺、こいつのせいで鎧無くなったんだけど)
先ほどの一撃で着る鎧を失いって予備の防具のないアレンは、町用の服を着る。
見た目は蝶々の化け物の扱いを考えると、イルゼが口を開く。
「この死体も全て持って帰ろう」
「そうだな。冒険者ギルドに討伐の証を持って帰らないといけないしな。よし、まずは宿場町に雷王を無事倒したことを知らせておくか」
アレンは大型の魔獣でも入る魔導袋に雷王の体を全部入れる。
(何か言い方が優しくなったね。少しは改心してくれたかな。今の気持ちをずっと大切にしてほしい。俺たちの生命球を捧げる冒険は続くしね)
アレンは魔導袋に入れて何かあった時に逃げ帰るように設置した「巣」に鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を発動した。
アレンはまずはムラルガンの大穴側にある宿場町に設置した露店に移動した。
「うおおおおおおお! 戻られたぞ!!」
「やはり、先ほどの揺れは暗黒騎士様が戦われた衝撃でございましたか!!」
「よくぞご無事で戻られました!!」
露店近くに転移したためワラワラと商人や冒険者たちが暗黒騎士であるイルゼの周りに集まってくる。
「皆の者、よく聞くのだ! 多くの冒険者を襲った雷王グリロタンを倒した。これで通常通り雷石を狩りに行けるはずだ!!」
「うおおおおおおお! 暗黒騎士様ああああ!!」
借宿からも冒険者たちが宿場町中央の露店に集まってきた騒然となる。
イルゼの張り上げた声に商人や冒険者たちから喝さいの声が聞こえる。
「冒険者ギルドへ討伐の証は首から下だけで十分であろう。雷王の頭部を出してくれ。墓に供えたい」
「ああ、分かった。墓?」
(見せたら安心するものな。それにしても墓か。たしか宿場町の西側に墓地があったな)
イルゼを囮に雷王を討伐したので、アレンは快く応じることにする。
ドンッ
「ぶわ!? おおおおおおおおおおおおおお!!」
「これが雷王の首かあああ! なんてデカさだ!!」
「イルゼ様が雷王を討伐したぞ!!」
「これで安心して雷石狩りができるぞ!!」
突然目の前のスペースが空いたところに、全長7メートルほどの雷王の頭部を出したので、冒険者たちは目を輝かせ、商人たちは腰を抜かした。
「暗黒騎士イルゼ様!!」
「暗黒騎士イルゼ様!!」
「暗黒騎士イルゼ様!!」
冒険者たちが拳を突き上げて、イルゼの名を大声で叫びだす。
「すまないが違うのだ。共に戦ったが、止めを刺したのはアレンで、功績が最も大きく……」
叫び声が大きすぎてイルゼの弁解の言葉が完全にかき消えてしまう。
「別に気にしていないぞ。それで墓だったな」
商人にも冒険者にも雷王が討伐されたことが伝わっただけで十分だとアレンは言う。
「こっちだ」
「よし、タジンは反対側持ってくれ。イルゼは案内してくれ」
「おう!!」
大声で声がほとんど通らないが、アレンたち3人はお互いが何を言っているのか分かった。
暗黒騎士プリニッタが雷王に殺されているし、討伐の証を示して魂の安寧でも願うのだろうか。
アレンとタジンは2人で両端を持って、移動を始めたイルゼの後をついて行く。
すぐに冒険者たちもすぐにアレンたちが何がしたいのか分かったようだ。
「暗黒騎士様たちのお墓に雷王の首を供えられるぞ! 道を開けろ!!」
(ん? 誰か暗黒騎士たちのって言ったか?)
「暗黒騎士イルゼ様が通れないだろうが。商品を片付けろや!!」
率先して冒険者が群衆となった商人や冒険者たちを退かし始めた。
(たしか剣やら槍やらを突き刺した墓地があるんだよな)
中央に露店がある宿場町の東側には借宿があった。
クワトロの特技「万里眼」で捉えてはいたのだが、この先の大穴で亡くなった冒険者たちの墓なのかくらいに思っていた。
墓地は広場の周囲に無数の武器が突き刺さっており、イルゼがゆっくりと誘導し中へと誘導する。
「ここだ。雷王の頭を中央に置いてくれ」
雷王の頭を広場の中央に置くと、イルゼは奥へと進んでいくのでタジンと後を追う。
冒険者たちは空気を読んだかのように雷王の頭の周囲で足を止めると頭を下げ、目を瞑っていく。
「武器を墓標にした墓場か」
「……そうだ。ここで亡くなった暗黒騎士たちの墓だ。たしかプリニッタも入れて34本の武器があるはずだ」
「暗黒騎士だけの墓だったのか。それも34人も。そんなにここで死んだのか」
「そうだ。この大穴は世界でも有数の危険地帯だ。見返りが大きいからな。暗黒騎士が役目を果たすためによく死ぬ場所だ」
全世界の足となる雷神船の動力源である雷石を狩るために冒険者が集まり、それを狩るために魔獣が溢れる。
魔獣が手を付けられなくなると暗黒騎士が対応を迫られるという歴史をずっと繰り返しているようだ。
(手前にプリニッタの名を削った剣があるな。ん? ムラルガン)
武器の中には錆びてボロボロになったものもあれば、最近刺して新しいものもある。
最近、作った大剣の墓標で、刀身の中央に「プリニッタ」の名前が掘られている。
どうやら、武器の刃にはこれまで死んだ34人それぞれの名が掘られていた。
その中の1つ、無数の武器の中でもひと際目立つように中央に刺された大剣の名に目が留まった。
「ムラルガン……」
この大穴の名前が大剣に掘られている。
「1万年くらい前に、こんなものではない厄災が起きたと言う。その時、討伐してくれたのが副長であったムラルガンだ。大陸全土に厄災が溢れることを恐れて魔獣を3人がかりで倒した。その際、倒すことができたのだがムラルガンは配下を庇って致命傷を負ってな」
どうやらムラルガン副長が今回以上に被害をもたらした魔獣を倒し、差し違えた結果、命を落としたようだ。
ボロボロに錆びた大剣を見て、その功績と感謝と祈りを込めて、この大穴の名前になったことをアレンは知る。
そして、アレンはこの大穴に来た時、ムラルガンの名に触れたことを思い出す。
「すまなかったな。なんか軽くイルゼの名になるんじゃないかって言ってしまった」
「いいんだ。感謝されるためにやっているわけじゃない。……私も使命を果たし終えた先人たちに少し祈らせてくれ」
そう言ってイルゼは頭を下げて黙ってしまった。
(暗黒騎士をやるのは感謝じゃないってじゃあ何のためにこんな命懸けみたいなことをしているんだ)
目を瞑り、必死に祈るイルゼを見て疑問に思うがアレンは問うことを止めた。
冒険者たちも商人たちも皆が一様にこれまで死んだ暗黒騎士たちに祈りを捧げていた。
アレンもタジンと一緒にイルゼの横でこれまで無くなった多くの暗黒騎士の魂に祈りを捧げるのであった。