第908話 新人の暗黒騎士
第908話 新人の暗黒騎士
アレンたちは、コルブラン大陸の発着場の街ライバルトにやってきていた。
目的は、雷王グリオタンの討伐報告と報酬をもらうためだ。
雷王を討伐し、墓に雷王の首を捧げ、そのまま冒険者ギルドにやってきた。
【ムラルガンの大穴2日間で持って帰ったもの】
・雷王の体(頭部を除く)
・Sランクの魔獣15体
・Aランクの魔獣12体
・雷鳴石1個(冒険者ギルドに渡さない)
・雷石50個
※全て魔導袋(特大)に収納して持ってきた
雷王を倒したと伝えたところ、冒険者ギルドが騒然となったが、暗黒騎士イルゼも一緒にいるので受付の職員たちや冒険者たちは納得したようだった。
冒険者ギルド裏手にある広い魔獣の解体場所に全ての魔獣を引き渡した。
かれこれ2時間ほど前に個室に通され、タジンやメルスたち召喚獣と一緒に創生スキル上げをしている。
ただ、会議室にも使える広い部屋だったので創生スキル上げが捗っている。
(創生スキル上げの時間を捻出できなかったからだ。失った時間を取り戻さねば。神Eの召喚獣は今日中にいける気がする)
鼻息を荒くして勤しむアレンの横にイルゼがいた。
「……」
無言で腕を組み、椅子に腰かけて目を瞑っている。
だが、気になるのか尖った耳を作業するアレンたちにいる場所へ向けていた。
「待たせるな~。俺腹が減ったぞ。もう晩飯の時間じゃないのか」
(まだ16時過ぎな上に宿場町の露店で、商人たちから貰ったものをたらふく食っただろ)
「査定に時間が掛かってんだろ。2日間で倒した結構な数の魔獣を渡したしな。たしか、1階に酒場があったが、そこで何か食い物を買ってきたらどうだ」
今思いついたことを口にするとタジンは手を出してきた。
「おお! そうするよ!!」
ここまで創生スキル手伝っただろとタジンは手を差し出した。
「ほれ、手伝い賃だ」
「へへっ」
金貨を渡すと片手で掴み取って勢いよく出ようとするが、入ってくる者たちがいたのでそれは叶わなかった。
ガチャ
「待たせたな。今、査定と冒険者証の発行が終わったぞ」
冒険者ギルド長のゴスカルが10人以上の職員たちを引き連れてやってきた。
大きな盆に載せた山積みの金貨が広い会議室の一角を埋め尽くしていく。
「おお! 金だ!!」
輝く山盛りの金貨にタジンが喜ぶ。
「おう、まずは雷王を含めた金貨160万枚だ。切りが悪かったんで少し色を付けてやったぞ。あとアレンとタジン、お前ら2人は今日からAランク冒険者だ。Sランク冒険者になる資格も十分にある。ギルド長として推薦もさせてもらったぜ」
「160万枚! 3人できっちり山分けだからな!!」
全大陸で使える暗黒界共通の冒険者証もAランクに切り替えて貰ったのだが、タジンが見えているのは金貨だけだった。
「……タジン。私は金貨などいらぬ。2人で分ければよい」
「は? お前も頑張ったのに何だよ! こんなにあるのにいらないのか!」
(少なくともイルゼは頑張った。タジンはリオンに取り押さえられていたけど)
「当然だ。暗黒騎士は活動資金を税として皆から広く集めて貰っておるのだ。それ以外はいらぬ」
暗黒騎士は大神殿に対するお布施、冒険者ギルドの手数料、各町や村からの税金などから普段の活動資金を得ている。
活動に必要な資金は基本的に無制限らしいのだが、それだけに他所から金銭を貰うなどの欲を出さず、規律を重んじているようだ。
「じゃあ、俺とタジンで半分個だな」
「おう」
アレンとタジンでそれぞれの魔導袋に金貨を入れていく。
(ふむふむ、コルブラン大陸でも6週半分の金貨を稼いだぞ。これで当面の間、ブラキウス大陸と一緒に魔石の募集ができるぞ。ここは良い稼ぎ場になるようだ。亜神級の魔獣はまだいるようだし。イルゼとタジンが転職してレベルが下がるようならレベルアップに使うかな)
【1週間で依頼できる魔石の限界と金貨数】
①Cランクの魔石1週間分の金貨枚数
金貨0・1枚(単価)×50万個×1・1(手数料)=55,000
②・Bランクの魔石1週間分の金貨枚数
1×5万×1・1=55,000
③Aランクの魔石1週間分の金貨枚数
10×1000×1・1=11,000
④Sランクの魔石1週間分の金貨枚数
100×10×1・1=1,100
①+②+③+④=122,100
※暗黒界の金貨相場で計算
ただ、ムラルガンの穴の底には亜神級の魔獣が数体いた。
今回の雷王討伐において、石Fの召喚獣の覚醒スキル「マネマネ」で姿を偽ったり、竜Fの覚醒スキル「カモフラジュ」で姿を隠し、戦いを優位に進めるために戦闘を避けた魔獣たちだ。
(底の方にいた時期雷王候補の亜神級の魔獣たちを無視したからな。そいつら倒すと亜神級でも俺、まだまだレベル上がるのかな。久々のレベルアップ嬉しんだが。みんな困ってるみたいだし、今後も狩りつくしてくれるからね)
雷神ソヴィの依頼を優先したが、雷王同様に、他の亜神級の魔獣でレベルアップが期待できそうだ。
涎が垂れそうになったが誰も気付かない。
冒険者ギルド長が何かイルゼに用事があるようだ。
「あと、イルゼ様、少しよろしいですか」
「ん? なんだ。ゴスカル冒険者ギルド長よ」
「先日、この大陸の新しい暗黒騎士が任命されたようです。挨拶に来られたようですが、何か聞いていますか?」
(おお。たしか十数日前に倒されてしまったプリニッタとかいう暗黒騎士に変わって新たな暗黒騎士が任命されたか。たしか、暗黒騎士は暗黒神から与えられた才能なんだよな。だから悠長に暗黒騎士の才能の持った子供が生まれるって感じではないと)
暗黒騎士は各大陸の状況に合わせて配属されるとイルゼから聞いている。
13人の中で最後にして現在最年少で暗黒騎士になったのはイルゼだったため、暗黒神の庇護の下、1人で任せられる大陸と呼ぶのはとても小さいガディアック島を任せられていた。
さらに新人の暗黒騎士が現われた場合、ガディアック島を任せ、玉突きで能力や経験に合わせて各大陸に配属されるらしい。
イルゼ自身、アレンと各大陸を回る暗黒神からの依頼が終わったら、コルブラン大陸の配属になるかもな、くらいに思っていたようだ。
さらに、アレンはイルゼから暗黒騎士になるには、暗黒神から才能が与えられる必要があると聞いた。
暗黒騎士はタジンのように生まれながらの才能ではなく、後天的に与えられる才能のようだ。
たしかに、雷王が大穴で暴れ雷石が取れなくなる状況で悠長に赤子から産み育てる時間はなさそうだ。
だが、ここまでのアレンの理解が進んだが、イルゼの疑問は解消されない。
「ああ、そうなのか。ん? 新しい暗黒騎士なのにこの大陸配属と言ったのか? おかしな話だな」
コルブラン大陸にはベテラン枠と新人枠があり、新人枠で務めていたプリニッタが雷王に殺されてしまった。
新人の暗黒騎士はその代わりのようだが、そんな前例は聞いたことがないようだ。
「そうなのです。まだ暗黒騎士ラクスベル様が戻らない状況ですので何か聞いているかなと思いまして」
現在、熟練騎士の暗黒騎士ラクスベルは別任務のため大陸不在の状況で、今も戻ってきていない。
この状況で新人騎士であった暗黒騎士プリニッタが殺された代わりに、さらに新人の暗黒騎士の配属に大陸の冒険者ギルドを任せられているギルド長は不安のようだ。
「いや、今は暗黒神アマンテ様の命により、大陸を渡っていたからな。だが、分かった。暗黒神様に聞いてみよう。まあ、新人であっても雷王は倒された。喫緊の問題はないはずだが、もし何かあれば、まずは守護番に相談してくれ」
「暗黒騎士イルゼ様、助かります。それを聞いて安心しました」
「うむ」
「ああ、あとギルド長、私からも良いですか?」
「なんだ。暗黒騎士の使いの者よ」
(誰が暗黒騎士の使いだ)
「実は雷王との戦いで防具が破壊されてしまいまして、薄くて軽く、耐性もある防具を新たに探しています。できれば、外套と鎧で別々に何か良い素材や完成品があれば教えていただけませんか」
アレンは暗黒騎士の配下ではないのだが、今はそこを気にしてもしょうがない。
タジンが、アレンがさらに冒険者ギルド長と話し出したので、腹が減ったと絶望している。
「なるほど、だが、すぐに答えられないぞ。職員に必要な素材についてこのまま相談してもらっても良いか?」
「もちろんです。あと頂いた金貨で魔石を募集しておきたいです」
「それは助かる。実は金貨を出し過ぎて、他のギルドから融通しようと思っていたところだ」
コルブラン大陸で最も大きな冒険者ギルドだが、必要な金貨はぎりぎりだったようだ。
「お、おれ。下の酒場で飯貰ってくるな」
話が長くなりそうなのでタジンが会議室から出ていく。
こうしてさらに小一時間ほどアレンは冒険者ギルドに要望を伝えた。
必要な鎧や外套はすぐには手に入らなかったが、アレンの求める防具があれば次回魔石を回収しに来た時に連絡してくれるそうだ。
アレンたちは冒険者ギルドから雷神ソヴィの大神殿に向かう。
大神殿の門の前に転移したアレンたちを暗黒神兵たちが建物内に入れてくれる。
らせん状の階段を上がり、雷神ソヴィのいる祭壇のある広間から出てくる者たちと通路で出くわした。
どうやら大神殿内を守る神兵に連れられて、雷神ソヴィの下への用事が済んだばかりの男のようだ。
漆黒の鎧に身を纏って兜をわきに抱える男は、やってくるアレンの側にいるイルゼにすぐに気付いた。
(お? イルゼと同じ鎧を着ているぞ。暗黒騎士だ。初めてイルゼ以外の暗黒騎士を見たぞ)
「この場にイルゼ様がいるということは、もしかして雷王を倒されたということでしょうか? 雷神様が討伐の依頼を出したのは数日前という話ですが、なんということでしょう」
「ん? 雷神様から我らのことは聞いたようだな。たしかに雷王については我らが倒した。それで、お前が新しく任命された暗黒騎士か?」
「はい! そのとおりでございます。たった今、雷神ソヴィ様と暗黒大神官にこの大陸着人の挨拶が済んだのですが、ハンネスと申します……。こ、この度は本当に……」
見た目は20代の見た目をした魔族のハンネスは、目を見開いて驚いていたのだが、肩を震わせ両目から大きな涙を流し始めた。
「お、おい、どうしたんだよ」
タジンが良い歳の大人が号泣しだしたので、何が起きたのかと困惑する。
「礼は良い。だが、お前も 敵 ( かたき ) を取りたかっただろうが、雷石が取れなくて困っていたのだ。我らの役目故に倒した。分かってくれるな?」
「もちろんです。こ、これで妻のプリニッタも報われるはずです。ありがとうございました。本当にありがとうございました。本当に……」
(なんだと。死んだ暗黒騎士の夫が新たな暗黒騎士だと)
アレンは雷神ソヴィのいる祭壇の前の通路で衝撃の話を耳にしたのであった。