第910話 暗黒騎士副長たち
第910話 暗黒騎士副長たち
やべえのがでてきた……
雷神ソヴィは、風神ヴェスがシアに託した風を宿した玉を、アレンから受け取った。
(延々と飛ばす雷は弟の風神が暗黒界にやってきたときの目印になっていたのか)
もしかしたら、同じ場所に永遠と雷を放ちって岩肌を吹き飛ばしたり、雷石に変えて冒険者に回収させたため、100万年近い時の中で巨大な大穴になったかもしれない。
アレンは遥かなる時の流れを感じていると雷神がさら言葉を続ける。
『そうか。暗黒神様の言うとおり、獣神ガルムは和解を選択していたか。そして長い時を我が愚弟を匿ってきた。それもこれも、100万年の時が動き出そうとしている。この者たちに託せといっているのか。そんなことで時の流れが修正可能とは思えぬが……。だが、短期間で神化した魔獣を狩ったのは事実だ』
会話せずに自らの言葉で雷神は納得していく。
雷神は右手の人差し指を立てるとバチバチと雷の力が弾けたところで、ようやくアレンに話しかけた。
『何を望む、エルメアの子よ。我が弟の顛末を報告した礼をしよう』
「ありがとうございます! そうですね。防具が欲しいです。外套か鎧。軽くて耐久力があって耐性のあるやつがいいです!!」
すごい勢いで欲しいものを口にする。
『……それならば外套が求めたものに合致する』
(なんだ。鎧もくれてよかったのに)
「ありがとうございます!!」
貰うまで不満や嫌な表情を決して出してはいけない。
ブワンッ
雷を模して雷神ソヴィの神力によって編まれるとふわふわと神の名のついた外套が降りてくる。
『それは「雷神の外套」だ』
「大事に使わせていただきます!!」
(おい、メルス。鑑定してくれ)
『……分かった。後ではまずいのか? まったくだ』
メルスはやれやれといいながら天使B「虫眼鏡」の特技「鑑定」を発動する。
【雷神の外套の効果】
・耐久力50000
・素早さ30000
・雷攻撃吸収
・マヒ無効
「うおおおおお! めっちゃすげえ! 神器並だ。これで魔王のマヒ攻撃を無効化できたぞ!!」
「いいな。アレンばっかりずるいぞ!!」
「お、おい。いい加減にしろ!!」
イルゼは絶叫するアレンと便乗して騒ぎ出したタジンを諫めようとした。
「いえいえ、皆様のおかげでこの大陸は救われました。これで雷神船による航行が順調になります。感謝こそすれ、迷惑だとは思っていません」
好きに騒いでくれて大丈夫だと暗黒大神官はまるで雷神の言葉を代弁するように言う。
『……もう1人。この直接風神に会った獣人の子にこの玉を渡してくれ』
「シアへの報酬ですね。これは何でしょうか?」
風神が風の玉に込めた情報の中にシアに対するものもあったようだ。
「何だこれは?」と言われそうなので詳細を聞くことにする。
『神技を込めたスキル玉だ。胸に押し当てると魂に取り込まれて神技を獲得する』
「おお! シアも喜ぶと思います」
「なんだよ。俺には何もないのかよ」
「いや、これはシアが俺に託した風の玉の礼だし」
そんな泣きそうになっても困ると言う。
この状況に空中に浮く雷神が反応する。
『……暗黒神様の与えし課題の途中か。その半魔半獣の子が課題達成まで使っておけばよい。それで破壊神を止められるとは思えぬが風神が期待するなら、答えはきっとあるのだろう』
(なんだと? 今なんて言った)
フワフワ
スウゥッ
「お! 俺の体に吸収されたぞ!!」
自分にも報酬が欲しいと言うタジンの体にスキル玉が向かい、腹に溶け込むように吸収された。
ブン
『タジンは神技「雷王駿牙」を手に入れた』
「やった。なんか使えるスキルが増えた気がするぞ」
飛び跳ねて喜ぶタジンは心でスキルの獲得が理解できたようだ。
「……」
アレンだけではなくタジンにも雷神から報酬を貰えたことにイルゼは何か言いたそうだ。
(おい、イルゼ。お前の報酬は暗黒神から貰えるって話だろ。それよりもキュベルと同じ言葉を言っていたぞ……。こっちを確認しておかねば)
「雷神ソヴィ様、先ほど言っていた『破壊神』とはどういう話でしょうか? 何かご存じのことがあれば、教えてください」
『破壊神についてか? なぜ我にそれを問う』
「人間界で法の神アクシリオンの第一天使であるキュプラス……。魔王軍ではキュベルと名乗っていましたが、奴も『破壊神』を口にしていました。魔王軍と戦うつもりの私ですが、何かあるのかと思いまして。先ほど言っていた時の流れがどうとかと関係があるのでしょうか」
『……キュプラスが破壊神をか。奴にできることは何もなかろうに。我と同じで諦められぬのだな』
「それで破壊神とは……」
『我に言うべきことは何もない。この大陸での課題は終わった。先に進むがよい』
きっぱり断った後、雷神は祭壇上空に戻り雷を天井に飛ばし出した。
これ以上なにも言うことがないと言わんばかりの態度に、これ以上聞くことを諦める。
「もう用はないのだろう。アレンよ」
「……そうだな。それでは、雷神ソヴィ様、暗黒大神官シャロト様、これで失礼します」
「はい。雷王を倒していただきありがとうございました。皆様に暗黒神様の祝福があらんことを」
両手を胸の前で組んで目を瞑り、祈りポーズをとる暗黒大神官に見送られ、アレンたちはその場を後にした。
夕暮れになってしまったが、できれば時間が惜しいので、今日中に暗黒神に挨拶しておきたい。
コルブラン大陸の大神殿からガディアック島の大神殿へ、鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」ではしごする。
暗黒神兵に通され、今日中に報告できると意気揚々とらせん状で最上層へと上がった。
「これは暗黒騎士イルゼ様、ようこそお戻りなられました」
「うむ。暗黒神様はおられるか?」
(いない時ってあるのかな)
「は! おられるのですが、今、暗黒騎士副長レヴィナ様たちが暗黒神様に出発の挨拶をされております」
(お? なんだ。待たされる感じか。順番待ちなのか。これは待った方が良いのか。せっかく今日中に報告できると思ったのに)
「副長『たち』だと? 他に誰が来ているのだ?」
「暗黒騎士イルゼ様、暗黒神様の広間にいらっしゃるのはラクスベル様、ウイク様、ガライ様であります。出発の挨拶にみえられております!」
(ラクスベルだと? あれ? コルブラン大陸担当の熟練の暗黒騎士じゃなかったっけ)
アレンがイルゼと神兵との会話にいちいちピクピクと耳を立てて反応する。
「なんだと!? 副長と一緒ということは討伐に失敗したということだな!!」
「い、いえ。詳しくは聞いておりませんでして……」
『外で騒いでいるのはイルゼだな。ちょうどよい。中に入っておいで』
思いのほか声を荒げてしまったから聞こえてしまったのか、元々気付いていたのか、巨大な扉が勝手に開き始める。
「暗黒神様、よろしいのですか?」
『もちろんだ。私のかわいいイルゼ。なんでも雷王を倒して、皆を救ってあげたそうじゃないの。素晴らしい働きだったよ』
(俺らも頑張ったんだけど。っていうか、獣人の暗黒騎士もいるんだな。騎士って言っても獣人がデッカイ斧を持っているし、騎士だからって武器は剣で統一しているわけではないのか。槍使いとか鞭使いとかもいるのか?)
イルゼを先頭にアレンとタジンが続き、暗黒神のいる大広魔へと入っていく。
広間の端の大きな窓の側には巨大な頭だけの法の神が静かに見つめている。
また、暗黒神の前には「出発の挨拶」をしていると言う暗黒騎士副長1人と暗黒騎士3人が跪くのを止め、立ち上がろうとしているところであった。
何やらイルゼを強く睨みつけている者が何人かいる。
全身を前にいる暗黒神に向けた暗黒騎士副長は、何でも切り裂く厳しい視線をイルゼに向けたアシンメトリーな髪形の女性であった。
また、背後にいる3人のうち1人は全長3メートルを超える大男の熊の獣人でドゴラが持っていた大斧の数倍の大きさを背中から斜めにかけている。
細身のレイピアを持つ優しい顔の魔族の女性と、通常サイズの剣を持つ魔族の男の4人構成のようだ。
(なんで俺はこんなに細かく4人を見ているんだ。まあ、そんなに好戦的に睨みつけるから仕方ないか)
アレンの長年の戦いの本能からか、人数、表情、種族、性別、武器の形状や大きさなどつぶさに確認する。
アレンの考えを他所にイルゼが報告を始める。
「は! 暗黒神様の命に従い、2人の助力もあり、暗黒騎士の使命を果たしてまいりました!!」
暗黒神の広間に入ったイルゼは暗黒騎士副長たちとは少し距離をとったところで立ち止まり、自らの成果を口にする。
「そうか。イルゼよ。俺の代わりに雷王を倒してくれたか。すまないがありがとう」
4人のうち唯一、イルゼを睨んでいない暗黒騎士の男がこちらにやってきた。
「暗黒神様の命に従ったまでです。そのような礼の言葉は受け取れません」
(お? イルゼは新人だから他の暗黒騎士には丁寧な口調だな)
「だが、コルブランを離れてしばらく経つがあの姑息な雷王を倒してくれて本当に助かっている。俺はプリニッタには待てと言ったのだ。まだ研鑽が足りていないから……」
「おい、てめえ。なに、ぺちゃくちゃほざいてんだ! ラクスベル!!」
「も、申し訳ありません。レヴィナ副長」
(こいつが13人のうち2人しかいない副長か。態度のデカイお姉さんだな。なんでも1万年近く生きているんだっけか)
暗黒騎士は最初、ガディアック島を任せられる。
ある程度経験をとったら各大陸へ新人の暗黒騎士として担当する。
新人の中でも各大陸を異動しながら経験を積むと、熟練の暗黒騎士となる。
さらに、各大陸を熟練騎士として担当した後、十分な成果を残した者の中で、席が空いた時に暗黒騎士副長になれると言う。
2人しかいない暗黒騎士副長は、暗黒騎士長が死んだ場合にどちらが新たに騎士長に就任するらしい。
暗黒騎士は成果が認められると暗黒神の力で年齢を伸ばされるらしい。
今いる暗黒騎士副長は2人とも1万年以上生きているのだとか聞いた。
なお、アレンが推察しているのはイルゼの時同様に、4人ともデバフを強力に無効にする兜を被っており、クワトロの特技「鑑定」の効果を効かない。
「まったく誰が失敗したから俺たちが呼ばれたと思ってんだ。あんなのにてこずりやがって、ボケが! お前も自分の大陸が心配だよな。なあ、ウイクよ」
「いえ、私の大陸は、ずっと安定しておりますので……」
「あ? てめえも熟練騎士なんだからぬるいこと言ってんじゃねえぞ。俺たちが大陸からいなくなるのを魔獣たちは虎視眈々と待っているに決まってんだろ! あいつらは姑息で卑怯なんだからな!!」
「申し訳ありません、レヴィナ副長……」
副長に話しかけられたウイクが恐縮そうに副長の言葉に反応する。
答えが気に入らなかったのかウイクをボロカスに叱責する。
『……ふむ』
暗黒神が小さく頷くが他の誰もが沈黙する中、怒りの収まらない副長の視線がアレンたちに向けられる。
2人は別に騒ぎが起きそうな街中に入るわけでもないのでフードで顔を隠しているわけではない。
「おいおいおい、イルゼ。また、おかしなのを引き連れているな。ヒヒの混血人とこっちのへんてこなのはなんだ、ああ?」
「暗黒神様の課題を達成するために行動を共にする仲間です」
「へえ? ヒヒの混血人か。親子そろって好きものじゃねえか。ヴェンデル副長もこんな混血人に入れこまなければ死ぬこともなかっただろうに」
「申し訳ありません。父のことを……」
「てめえが俺の副長を語んじゃねえ! 薄汚え混血人の分際で暗黒神様からちやほやされて勘違いしてんじゃねえ! ぶち殺すぞ! イルゼ!!」
暗黒騎士副長レヴィナの言葉に暗黒神のいる広間は騒然となるのであった。