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アルノルトとリーシェの手相のお話

【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する — ncode.syosetu.com · All chapters

アルノルトとリーシェの手相のお話

※こちらは、ファンレターを下さった方のお返事に同封していた短編です。

※書籍1巻のお返事SSのため、時間軸も1章が終わったあたりの頃合いです。

ガルクハインに来てからのリーシェは、時々アルノルトとお茶を飲む。

彼の従者であるオリヴァーからは、「我々が進言しても、アルノルト殿下はなかなか休憩してくださらなくて。リーシェさまのお申し出であれば手を止めるようなので、よろしければ時々は殿下を連れ出していただけないでしょうか」と頼まれているからだ。

そしてその日のお茶の時間、リーシェはふと思い立ち、アルノルトに尋ねてみた。

「アルノルト殿下。よろしければお戯れに、手相を見せていただけませんか?」

「――手相?」

リーシェは、ティーカップをソーサーに置いて頷く。

「手のひらを見ていただくと、様々な線が浮かんでいるでしょう? 東の方の大陸では、この線を見て行末を占うのです。それを、手相占いと言います」

お茶の支度が終わってからアルノルトが来るまでの時間、リーシェは侍女たちと、この『手相占い』で遊んでいた。

その流れで、こんなことを思い付いたのだ。

アルノルト・ハインの手相が見られるのならば、是非とも観察してみたい。

けれども当のアルノルトは、なんだか微妙な顔をしている。

「……東の占い」

「こ、故国で流行っていたのです。女性の社交会ではこういった話題が注目を集めますので……」

もちろん真っ赤な嘘である。この占いは薬師の人生で、東の大陸にいたころに知ったものだ。

「占いなど、なんの信憑性もないと思うが」

「個人的には、信憑性があるかどうかも含めて楽しむものという見解ですね。それから何か迷った際に、行動の後押しをしてもらうためでしょうか」

「…………」

(まあ、それこそアルノルト殿下には無縁の考えかもしれないけれど……)

リーシェの思った通り、アルノルトはますます眉根を寄せた。

けれどもやがて溜め息をつくと、手袋を外し、右手のひらを上に向けてテーブルに置いてくれる。

「ほら。好きにしろ」

「ありがとうございます!」

リーシェはぱっと笑顔を作り、早速アルノルトの手相を観察した。

「……頭脳線が濃くて長いですね。ものすごく」

「……」

「才能線も同じく。それから金運も良くて、それに……。な、なんですかこれ、こんなにあらゆる線が恵まれた手相は見たことがないのですが!!」

「知らん。俺に聞くな……」

しかもアルノルトの手相には、いわゆる『天下取りの相』が現れている。

ここから五年間の未来を知るリーシェには、注目せざるを得ない相だ。

(やっぱりこの占い、結構当たっているんじゃないかしら)

リーシェは思わず、自分の手のひらを見てみる。

(私の手相もそう。左右どちらも生命線は『二十歳前後で死ぬ』くらいの長さで一度切れているのだけれど、切れた横からまた別の生命線が伸びてるのよね……)

これぞまさに、二十歳で死んでからを繰り返しているリーシェにぴったりの手相ではないだろうか。

最初にこの手相に気が付いたとき、ひとりで大はしゃぎしたのだが、誰にも当たっていることが言えなくて辛かった思い出がある。

そんなことを考えていると、アルノルトが尋ねてきた。

「もういいか」

「あ、待ってください!」

手を引っ込めようとするのを止め、小指の付け根を見せてもらう。

「ここにあるのは結婚線なんです。線の数が多いほど、結婚にふさわしい相手と巡り会う機会が多いのだとか」

「……」

アルノルトの小指の付け根には、くっきりとした線が一本だけ刻まれていた。

「ふむふむ。アルノルト殿下は一本なので、運命のお相手はひとりのようですね」

「……」

「あ! でも、少ないからといって悪い訳ではないですからご安心ください。ほら、私も結婚線は一本なんですよ」

「……」

リーシェは自分の手をアルノルトに見せたあと、再び彼の手相の分析に戻った。

「それに、結婚の時期自体は早いようで」

「…………」

「線の位置から見ると十代後半、あるいは二十歳前後でのご結婚になると出ています。なので殿下のご結婚は、手相が当たるならきっともうすぐですね」

「…………」

「線も長くて濃いので、大恋愛をする人の相です。なのでもろもろを総合すると、『アルノルト殿下は近々、運命のお相手と一大ロマンスの末に結ばれる』ということに! ……って、あら……?」

そこまで話したところで、ふと違和感に気が付いた。

「リーシェ」

「…………」

そして、恐らくは先に気が付いていたアルノルトが、こちらを見ながら真顔で続ける。

「――お前だ。俺の結婚相手は」

(そっ、そうでしたーーーーーーっっ!!)

あらゆる意味の恥ずかしさで、一気に頬へと熱がのぼる。

「いっ、いえあの、占い!! あくまでこれは占いですので!!」

「……」

結婚するのは自分だというのに、なんだか妙なことを言ってしまった。

慌てて弁解するのだが、アルノルトは肘掛に頬杖をつく。

「……そうだな」

そして、にやりと笑うのだ。

「それではひとつ、お前の手相とやらも俺に見せてみろ」

「ひえ……っ!?」

アルノルトの思わぬ提案に、リーシェはぎゅっと両手を握り込んだ。

「み、見せるって一体なぜですか!」

動揺するリーシェの様子を見て、彼はますます面白そうな顔をする。

「手相というものが当たっているのかどうか、ひとまずはそれで分かるんじゃないか。もうすぐ俺と結婚するはずのお前が、手相でもいまの年齢で結婚することになっているのか。それから、『運命の相手と大恋愛の末の結婚』であれば、俺だけではなくその相手にも同じ相があるはずだろう?」

「っ、それは……」

「ほら。手を貸せ」

「だ、駄目です絶対!!」

頬を火照らせたまま、急いで両手を背中へと隠した。いまは絶対に、アルノルトに見せるわけにはいかない。

何故ならばリーシェは、自分の結婚線がアルノルト同様に濃くて長いことを、何度も見てきて知っている。

「手相は変わると言いますし、運命は決まったものではありませんから! とにかく今は駄目です、お願いですからご容赦ください!!」

ほとぼりが冷めた頃ならまだしも、この場では駄目だ。

リーシェもお揃いの結婚線であることを知られるのは、いくらなんでも恥ずかしすぎた。

「っ、ふ」

けれども恐らくは、リーシェの反応が真実を物語ってしまっているのだろう。

アルノルトは喉を鳴らし、おかしそうに笑うではないか。

「……仕方がないな。それほど言うのであれば、今は勘弁してやろう」

「あ、ありがとうございます……」

「今はな」

「!!」

念押しをされて肩が跳ねる。

アルノルトは満足したのか、珍しくティーカップを手にして口を付けた。

リーシェはどきどきしながらも、とりあえずはほっと息をつく。

背中に回していた手をそっと膝上に戻し、それからちらりと小指の付け根を見て、はっきりとした長い線を指先でなぞるのだった。