LNCrawler

アルノルトとリーシェが、同じ学院に通う世界線のお話

【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する — ncode.syosetu.com · All chapters

アルノルトとリーシェが、同じ学院に通う世界線のお話

※ルプなな学パロです。

※本編とは関係のない、まったく別の世界線です。キャラクターの年齢など、一部の設定が本編と変わっています。

リーシェが転入した王立学院には、たくさんの変わり者たちが居る。

たとえば、学院で酒盛りをする経済学の教師。

病弱だし生真面目そうに見えるのに、真顔で女子生徒に甘い言葉を向ける風紀委員長。天才肌だが常識外れで、いつもふわふわした笑顔を浮かべている科学教師。

素行の悪い生徒で構成された生徒会に、『学院の運営をするのは兄のため』と豪語する生徒会長。リーシェが知っているだけでも、多くの顔触れが浮かぶものだ。

その中でも、リーシェにとって一番不思議なのは、最上級学年にいる男子生徒の存在だった。

「――リーシェ」

「アルノルト先輩!」

授業の合間の休憩時間、教室の扉から声を掛けられ、リーシェは驚いて立ち上がった。

伝統あるこの学院では、各教室の扉だって重厚だ。扉に刻まれた彫刻は、なにやら文化的な価値があるという。

けれど、そこに立っている男子生徒の美しさは、細やかな彫刻細工すら霞ませた。

教室にいた生徒たちは、アルノルトを見て動揺を露わにしている。

「嘘でしょ、アルノルト先輩がどうしてリーシェさんに……!?」

「あ、あの転入生、前にテオドール会長にも呼び出されてなかったか? タリー先生とか、ミシェル先生にも……」

「一体なにがどうなって、アルノルトさまにまで!! 先輩、下級生どころか、同学年の人ともあんまり一緒にいないって話なのに……」

クラスメイトたちの話し声を掻き分けながら、リーシェは急いで廊下に向かう。

伝統あるこの学院では、通っている大多数が上流家庭の出身だ。一部の不良たちを除き、品行方正な生徒が多く、みんなきっちりと制服を着込んでいる。

けれどもここにいるアルノルトは、分かりやすく制服を着崩していた。

黒を基調にしたブレザーの上着は、ボタンをすべて外している。

その下のシャツだって、上から三番目までのボタンを開けているお陰で、形良い喉仏が覗いていた。今日は珍しくネクタイをしているが、当然のように緩められていた。

だというのに、アルノルトの姿には気品が漂っている。

美しい顔立ちも相まって、教室中どころか、廊下にいる生徒の視線すら集めているようだった。

(ただ立っているだけなのに、この華とカリスマ性はなんなのかしら……)

そんなことを思いながらも、アルノルトの元に辿り着く。

「先輩、どうして私の教室に……って、その本!!」

アルノルトの持っていた数冊の本に、リーシェはきらきらと目を輝かせた。

「まさか、本当に見付けて下さったんですか!? あの蔵書の中から?」

「別に大した手間じゃない。それより、目を通すつもりなら上から順に読んで行け」

それなりの重みがあるはずなのに、アルノルトは片手でまとめて本を持っている。受け取ったそれを抱き締めると、図書室にある本の香りがした。

「ありがとうございます……! 早速今日、寮に帰ったら読みますね!」

「ああ」

「……ところで私、この時間に先輩が校舎にいるのを初めて見ました。今日は真面目に授業を受けるんですか?」

「いいや。もう寝る」

「ど、堂々とサボるつもりでいらっしゃる……」

これで全教科が学年首位なのだから、なんのため学院に通っているのか分からない。恐らくアルノルト本人としても、理事長の息子だから入学しただけなのだろう。

そんな会話をしていると、アルノルトが不意に面倒臭そうな顔をした。

「……」

無理はない。何しろ周囲の生徒たちは、みんなアルノルトの噂をしている。

憧れの目、羨望の視線、恋慕う眼差し。怖がるような表情を向けている人もいれば、神さまみたいな存在を眺めるようにしている生徒もいた。

「まさか、アルノルトさんと普通に話せる生徒がいるなんて」

「あの本、わざわざあいつのために届けたのか? 転入生のやつ、一体どんな手を使って理事長の息子と仲良く……」

「……」

その瞬間、アルノルトが小さく舌打ちをする。

それだけで、みんなびくりと肩を跳ねさせた。

周囲がしんと静まる中、アルノルトはリーシェの腰を抱くと、ぐっと傍まで引き寄せる。

「ひゃ」

「――放課後、またいつもの場所に来い」

耳元で囁くように告げられるも、近くの生徒には聞こえただろう。

わざとそんな話し方をしたアルノルトに、リーシェは頬が熱くなった。

「あの、ですが、今日はお掃除当番なので……」

「待っている。……他の本についても、そのあいだに探しておいてやろう」

「!」

とても嬉しい提案に、恥ずかしさも忘れて嬉しくなった。

「では、急いで行きますね」

「ああ」

するりと腰から手が離れ、解放される。

アルノルトはリーシェの頭を撫でたあと、こちらを見ていた生徒に対し、静かな視線を真っ直ぐに向けた。

「――……」

「ひ……っ」

リーシェの後ろから、短い悲鳴が聞こえてくる。

アルノルトが、口さがない生徒たちに直接睨みを効かせることは珍しい。逆鱗を刺激したらしい生徒は、一体なんの噂を口にしたのだろう。

けれどもちょうど予鈴が鳴り、アルノルトが「寝てくる」と口にした。「おやすみなさい」と見送って、リーシェも自分の席に戻る。

すると、仲の良いクラスメイトの女の子が、焦った表情で話しかけてきた。

「ねえリーシェ、今のなに、なんでアルノルト先輩と!?」

「え、ええと、ちょっと約束をしていることがあって……」

リーシェがそう答えると、友人は何故か血相を変える。

「まさか、放課後にいつも『人と約束をしてるから』って言うのは……」

「…………」

観念してそっと頷けば、友人は小さな悲鳴を上げ、聞き耳を立てていた教室中がざわついたのだった。

***

(よ、ようやく振り切ることが出来た……)

放課後の掃除当番を終え、アルノルトとの待ち合わせに向かおうとしたリーシェは、ちょっとした騒動に巻き込まれていた。

アルノルトに会いたがる女子たちから、「私も連れて行って」とせがまれたのだ。

しかし、今から向かうのは秘密の場所のため、彼女たちを連れていく訳にはいかない。

リーシェは仕方なく廊下を走ると、階段を駆け上がったふりをして、窓から中庭へと飛び降りたのである。

そのあとも慎重に周囲を見回し、警戒を怠らないように気をつけて、待ち合わせ場所の目前までやってきた。

(ここから先は、いままで以上に静かにしなきゃ)

辿り着いたのは、古い校舎をまるまる使った図書室だ。

ここには、学院に存在する蔵書たちが集められている。図書室と呼ばれているものの、その広さは下手な図書館以上で、夥しい数の本で埋め尽くされていた。

学院の教師たちが持ち寄る本もあり、専門書の数も実に豊富だ。転入当初、この図書室の存在を知ったリーシェは、歓喜しながらここに通った。

そして、『彼』に出会ったのだ。

(まさか、最奥にある本棚のひとつだけが、隠し扉になってるなんて思わないものね……)

そんなことを考えながら、目的の本棚に辿り着く。

少しのコツを使って解錠し、ゆっくりと本棚を押し開くと、物音ひとつ立てずに扉が開いた。

そこは、柔らかな木漏れ日の差し込む小部屋になっているのだ。

古ぼけた二脚のソファと、床に積まれた沢山の本。捨てられるはずのもので構成された隠し部屋は、とても居心地が良いことを知っている。

「おじゃまします……」

扉を閉めたあと、リーシェはそっと挨拶をして中に入った。

いつもなら返事が返ってくるか、ページを捲る紙の音がするはずだ。けれども今日はそれが無く、留守にしているのかと思ったが、待ち合わせの相手はそこにいた。

(……眠ってる……?)

窓辺のソファには、肘掛けに足を乗せて寝そべったアルノルトが、本を手にしたまま眠りについていた。

先ほどは辛うじて羽織っていた上着を、いまは背もたれに掛けている。白いシャツ姿のアルノルトは、ネクタイすら取り去ってしまっていた。

「……」

「あ」

そうっと近付いたはずなのに、その瞼がすぐに開かれる。

海色をした青い瞳が、眠そうなままでリーシェを見た。数秒ほど茫洋と眺められ、少しだけ戸惑う。

「お、おはようございます。起こしてしまいましたか?」

「……いや」

アルノルトは身を起こし、ソファの右側に座り直した。寝起きの気怠そうな雰囲気が、なんだか直視できないような色気を放っている。

「夢を見た。お前の」

「……」

思わぬ言葉に、リーシェはぱちりと瞬きをした。

そのあとで、あることを思い出してはっとする。

「――奇遇ですね!? 実は私も、最近しょっちゅう先輩の夢を見ます」

「……へえ」

「ここではない世界の夢で、ドレスを着て剣を持ってて! アルノルト先輩に見付けていただく本が、どれもそういう世界のお話だからだと思うんですけど」

アルノルトと初めて出会って以来、彼にはたくさんの本を選んでもらっている。

授業にほとんど出ず、図書室の隠し部屋を寝床にしているアルノルトは、驚くほどここの蔵書に詳しいのだ。リーシェの教室に来てくれたのも、相談していた内容の本を届けるためなのだった。

一緒に過ごす時間が長い所為か、最近はとみにアルノルトの夢を見る。

けれども結局は夢なので、アルノルトに話したことはなかった。それを、いまの流れで思い出したのだ。

「リーシェ」

「!」

アルノルトがソファをぽんぽんと叩く。

「隣に座れ」と言われているのだろう。素直に従い、ぽすんとアルノルトの隣に座ると、午後の陽射しでぽかぽかとした。

アルノルトは、背もたれに頬杖をつくようにして、リーシェを見る。

「俺との、どんな夢を見るんだ」

「どんな、って……」

何気ない問いかもしれないが、リーシェはぴたりと口をつぐんだ。

その様子に違和感を覚えたのか、アルノルトは間近に覗き込んでくる。

「なんだその顔は。……言ってみろ」

「うぐう……」

湧き出てきた気まずさに、夢の話なんかしなければよかったかもしれないと後悔する。

(あの内容を素直に話すのは、相当恥ずかしいことのような……)

けれど、発言を撤回することは出来ない。『覆水盆に返らず』という東国の諺は、アルノルトが教えてくれた本に載っていた。

「――――――する夢を」

「ん?」

「……けっこん、するゆめ」

アルノルトが僅かに目を見張る。

けれどもリーシェは開き直り、顔が赤くなるのを自覚しながら言い切った。

「……っ、アルノルト先輩と結婚する夢です! ここではない世界の、仮の、もしもの夢の話ですけれど!!」

「――……」

今度こそ、アルノルトは驚いた顔をした。

(やっぱりこんなの、言わなきゃよかった……!!)

おかしな夢を見ていると、笑われてしまうかもしれない。あるいは気味悪いと思われて、距離を置かれてしまうだろうか。

そんな風に覚悟してくちびるを結ぶと、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。

「……は」

「っ」

嘲笑は予想していたのに、そうではなかったのでびっくりする。

アルノルトが浮かべたのは、とても穏やかで柔らかい、そんなやさしい笑みなのだ。

そのあとで、彼は少しだけ悪戯っぽい表情をしたあとに、リーシェを見据えてこう告げる。

「……俺もいま、お前と同じ夢を見た」

「――!?」

こうなれば、今度はリーシェが驚く番だ。

不思議なことがあるものだが、アルノルトは詳細を教えてくれない。もっと聞きたいと粘るものの、「だったらお前が先に話してみろ」と言われたので、仕方なくいまは諦める。

何しろ明日も明後日も、リーシェはきっとここに来るのだ。

アルノルトの見た夢の話は、たくさんの本を読む傍らに、どうにか聞き出してみせようと思う。