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322 疑うべきは

【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する — ncode.syosetu.com · All chapters

322 疑うべきは

「…………」

二週間前、歌劇場でディートリヒと再会した一件で、つまびらかになった事実がある。それは、リーシェが婚約を破棄された夜、アルノルトがあの夜会の場にいた理由についてだ。

正式な国交もなかった国に、アルノルトがわざわざ訪問していたのは、ガルクハインを狙う何者かの策略を見抜いたからだと知った。

それを手引きしたのも、運河の街で女性たちの人身売買に携わっていたのも、サディアスと名乗ったひとりの男である。

「ディートリヒ殿下による婚約破棄すら、計略に使おうとした人物です。――私とアルノルト殿下の婚姻を、利用しないはずもありません」

そのやり方は、どこかアルノルトの考えにも似ていた。

そして当然アルノルトも、賊を『国賓を皇太子自らが守る』という外交に利用した上で、自ら調査に出たということなのだろう。

「城下に潜り込んだ中には、あの者の息が掛かった賊が居るのでしょう?」

「……お前が案ずる必要はない」

アルノルトはふっと目を細め、リーシェの頬に触れる。

「城下には、すでに兵を配備し終えている。邪魔をする者は、排除すればいいだけだ」

「いいえ、殿下」

子供へ言い聞かせるようなその声音に、リーシェは決して頷かなかった。

「アルノルト殿下もお分かりのはずです。ああした人物が、敵国に居るどのようなお方を利用して、何を起こすのか」

すると、アルノルトは暗い目をして少し笑った。

「お前は、誰だと考える」

「…………それは」

本当なら、たくさんの人を信じたい。

リーシェの願いを知っているからこそ、アルノルトはこんな問い掛けをするのだ。

(疑うのは、ご自分だけの役割だと思っていらっしゃる)

左胸が痛むのを感じながら、リーシェは目を閉じた。

(夕刻のアルノルト殿下は、グートハイル閣下をお連れだった)

ガーデンパーティの直前、シルヴィアに髪を結ってもらったリーシェのところに、アルノルトとグートハイルがやって来たのだ。

(あの場に閣下の恋人であるシルヴィアが居た結果、その違和感が薄れてしまったけれど――まだ近衛騎士として迎えられたばかりの閣下を、いきなり伴われていたのは、偶然ではないわ)

アルノルトたちは知るよしもないが、リーシェは『知識』を持っている。

(未来で皇帝となるアルノルト殿下が、グートハイル閣下を重用なさった理由のひとつ。……グートハイル閣下が、諜報隊の運用に長けているから)

けれども、それについては口を閉ざす必要があった。

「……『サディアス』との繋がりがある人物を考えた際、最初に思い浮ぶのは」

運河の街において、リーシェがヨエルと共に潜入したのは、サディアスの関わる奴隷船だ。

サディアスが関わる船の中で見付けたものは、北の地シウテナが記された海図だった。その街を統治する人物のことを、リーシェは口にする。

「それは、ローヴァイン閣下です」

リーシェたちの婚姻を直前に控えて、ローヴァインは再びこの城に滞在していた。

その上にローヴァインは、アルノルトに捧げる祝いの品を、多くの馬車を使って運んでいる。

「アルノルト殿下が花火を輸送なさった道と、ローヴァイン閣下が献上品を携えていらした道。これらはきっと共通であり、殿下の思惑とも重なります」

「…………」

「ですが」

リーシェはひとつ呼吸を置いて、更なる考えを告げた。

「アルノルト殿下が注視なさっているのは、ローヴァイン閣下ではありませんよね?」

「――――…」

少なくとも、今はまだ違う。

アルノルトがローヴァインを惨殺するのは、これよりずっと先の時系列だ。そんな思考を伏せながら、リーシェは祈る。

「どうか、私を巻き込まないようにと、遠ざけることはなさらないで」

「……リーシェ」

サファイアの指輪の輝く手で、頬に添えられたアルノルトの手に触れた。

「死の商人サディアスと、共謀している可能性があるのは」

リーシェは、宝石よりも美しい青の瞳を、真っ直ぐに見上げる。

「正妃、フロレンツィア陛下です」

***

主城にある豪奢な賓客室で、リーシェは長椅子に腰を下ろしていた。

「……驚いたな」

肘掛けに悠然と頬杖をつき、リーシェを見て口の端を上げたその男は、心底から面白そうにしている。

「アルノルトが、よもや愛しの細君に、この悪巧みを明かすとは」

「……ザハド陛下……」

ザハドがくつくつと喉を鳴らすと、ターコイズの耳飾りが揺れた。

「ザハド陛下もご存知だということは。アルノルト殿下が、ハリル・ラシャの兵をお使いになる理由は……」

「戦争の借りを返すためだ。我が軍が窮地に陥った暁に、アルノルトが援軍として現れ、戦線を突破したあの日の借りをな」

まなじりに赤の化粧を施したザハドの双眸が、リーシェの隣にいるアルノルトへと向く。

「――そして、正妃フロレンツィア殿の起こすであろう、クーデターを止める」

「…………」

リーシェが両手を握り込んだ一方、アルノルトは静かに息を吐いた。

「口を噤め。主城内で余計なことを言うな」

「はは、何を言う! 俺の部屋を訪問することを口実に、標的の居る主城へと来たのだろう?」

するとアルノルトは、心底くだらないという顔をする。

「離宮には、俺たちの婚儀支度を手伝うという名目で、正妃の侍女が配置されているからな」

(……やはり、そのようにお考えなのだわ)

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