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全世界防衛戦㉕ 彼女は変態のエキスパート!

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全世界防衛戦㉕ 彼女は変態のエキスパート!

ティオ・クラルスの切り札――〝龍神化〟。

それは〝竜化〟という他に類を見ない能力を持つ竜人族の中でも、更に類を見ない最高位にして最強の形態。

半径数十キロメートルに亘って天空を支配し、雷と炎と風を大規模かつ自在に操れる。

一キロメートルを超える巨体は、必然、装甲の厚さに繋がり並大抵の攻撃ではダメージにならず、仮に一部が損壊しても〝些事〟として処理してしまえる圧倒的なタフネスを誇る。

止めることのできない耐久力と、天下の全てを粉砕する圧倒的攻撃力……

これ以上はない。竜人族の歴史において永久に褪せることのない名を刻み、そこに名を重ねることができる者は今後、もう現れないだろう究極の〝竜化〟。

……本当だろうか?

ハジメを想いユエ達が各々の鍛錬に励む中、ティオは自分でも極みだと思っていた〝黒龍神ティオ・クラルス〟に改めて疑問を投げかけた。

否、己の役割を見つめ直したというべきか。

『妾は一人ではない。共に戦う家族がおり、仲間がおる』

あらゆる敵を粉砕する圧倒的攻撃力? それは本当に必要か?

魔法ならユエが、物理ならシアがいるのに?

『そもそも、今思えば龍神化の力は少々雑がすぎる』

超広範囲の天空を支配する力は大群を相手にするには有効だろう。

だが、一対一の戦いでは必要のない規模の力であり、何より共に戦う味方からすれば少々やりにくいとさえ言えるかもしれない。

そのうえ大群相手の防衛なら愛子の樹海と惑乱も大変有効なわけだが、しかし、ティオの雷炎と相性が良いとは言えないという点もある。

加えて、最も大きな問題もある。

燃費が頗る付きで悪いのだ。龍神モードで戦える時間は、それこそハジメによる〝ティオ用に変換された無限魔力〟でもない限り、どれほど節約しても十分も保たない。

『妾は守護者。いつ如何なる時も〝守る者〟じゃ。力を出し切ったので、もう戦えませんでは話にならん』

継戦能力に乏しい守護者。守りよりも攻撃に特化した守る者……

違うだろう。

そうじゃない。

ティオ・クラルスの本質と願望を真に叶える力は、そこではない。

直接だ。その身を盾に、直接、守るべき者を守る者。

それこそがティオ・クラルスなれば。

『故に、龍神としての力の大半を〝守り〟に特化させたのじゃ。それが……』

「そのお姿であり」

『あの竜鱗の防壁なんだね、母上』

竜王国を守る結界の境界線付近、王宮と王都を背後に庇う上空でローゼとクワイベルは前を見ていた。

上半分を消し飛ばされた太陽の如き巨大な火球が何事もなかったかのように再生し、それどころか存在感を増して滞空している光景と。

その〝炎熱の無神〟から飛び出したおびただしい数の小さな火球が、それぞれ明らかな意思を感じさせる不規則な動きで迫ってくる光景と。

その小さな火球の全てが半透明の竜鱗で作られた球体結界で次々と封じられ、そのまま爆発四散していく光景が、そこにはあった。

『龍神化奥ノ儀・ 鎧鱗竜装 ( がいりんりゅうそう ) と名付けておる。仮称じゃがな?』

それは〝黒龍神〟の圧縮形態とでも呼ぶべき新方式の形態だ。

文字通り、竜を纏う形態。

従来、〝竜化〟とは肉体変化だった。魔力により一種の魔力体として体積は増やしつつも、あくまで肉体を〝竜〟の形に変成させていた。

だが、この新方式は違う。魔力体だというのなら、某深淵の分身体のように竜体だけを作ることもできるのではないか。

己を直接変成させずとも、その龍神形態の核であり心臓として接続することで従来と変わらない能力を維持できるのではないか?

超広範囲に及ぶ天候支配を捨てる代わりに、そのエネルギーの全てを人の姿のまま内包し、そのエネルギーを使って任意の竜体を自在に形成かつ纏う。

それこそが、この新形態〝鎧鱗竜装〟の正体。

そう、形態が自在なら全長一キロメートルの〝龍神〟になることも、全長五十メートルの巨竜になることも、竜鱗だけを大量に生成することも可能というわけだ。

最初、上空でマグマの塊が虚空に浮かんでいるように見えたのは、〝炎熱の無神〟に近づくために溶かされる端から竜体を生成し、そのまま極太の腕でぶん殴ったからだったのだ。

『でも、母上。どうして透明なの? それに、その髪色や肌の色は……』

『趣味と実益故じゃ!』

『趣味と実益!?』

透明の方が周囲の状況が良く分かる。自分だけでなく仲間にとっても。形態が自在なら色も自在ということらしい。

なお、純白の髪は言わずもがな使徒モードが原因であり、褐色の肌は極薄だが強度は従来以上の竜鱗積層装甲を纏っているからである。こちらは本来の肉体変成による装甲なので本来の黒鱗の色が浮き出ているのだ(もちろん透明化できるが、ご主人様が「良き」と言うから)。

アーティファクト防具である軍服の下には、自前の竜鱗鎧もある。都合、三重の鎧を纏っているようなもの。

仮に火炎の砲撃が巨竜を貫いていても、ティオには傷一つ付けられなかったに違いない。

「ティオ様。我々に何かできることは――」

ローゼの言葉を遮ったのは〝炎熱の無神〟の前に発生したスパークだった。

放電現象が集束していく。見るからに凶悪な光球が出来上がった。

「ふむ、プラズマかの?」

ローゼとクワイベルが見上げてくる。ティオに慌てた様子はない。先の火炎の砲撃よりも強力そうな力を前に肩を竦めるのみ。

「お主等にはちと荷が重かろう。今は妾に任せよ。心配もいらぬ。言うたじゃろう? もう効かぬと」

直径二十メートルはあろうかというプラズマが放たれた。彼我の距離は三十キロメートル近くあるというのに一瞬で半分の距離を消し飛ばす死の光。

それが、その半分の距離で、

『あと、クワイベルよ。一応、言うておくとな? 妾は気持ち良くなくても龍神に至れるからの?』

『エッ!? 本当ですか、母上!? よ、良かったぁっ』

『涙目!? 安堵しすぎじゃろ!?』

だって、敬愛する母上がド変態の神だなんてミトメタクナイのだもの。

というのは置いておいて、こほんっと咳払いするティオ。

それだけの余裕があった。プラズマはティオの言葉通り、半透明の竜鱗の防壁――〝竜宮城壁〟によって見事に受け止められていたから。

ビクともしていない。ひび割れることも、もはや赤熱化することも。

これぞ〝鎧鱗竜装〟の最大の強み。

『説明せんかったかのぅ? 妾は痛みに耐えることで強くなれるのだと』

快楽以外でもティオは龍神に至れる。快楽に比べて変換効率が悪すぎるが故に、龍神モードに至るほどスペックを向上させるには瀕死レベルの重傷を負う必要があるほど非効率ではあるが、単純なダメージでも〝痛覚変換〟は発動する。

ならば、だ。

ダメージと痛みを切り離せたら?

肉体の直接変成ではないのだ。あくまで鎧として作り上げた竜体なら、それが可能だ。

そう、〝鎧鱗竜装〟の真骨頂とは、実質ノーダメージで痛みだけをフィードバックさせることで、ノーリスクで〝痛覚変換〟を発動できるという点なのだ。

『たとえ離れていても、あれは妾の魔力で作り上げ、妾の魔力で繋がっている妾の竜鱗。痛みを感じることも当然できる。ならば』

『攻撃を受ければ受けるほど……母上は強くなる……』

「だから、最初は少し苦しそうな表情をされていたのですね」

元より龍神モードの耐久力は破格だ。龍神の巨体ではなく、その鱗をバラバラにして壁に再形成したような状態でも、それは変わらない。

ただでさえ容易に崩せぬ龍神の鱗なのに、耐えれば耐えるほど無制限に耐久力を上げていく。

それどころか、ティオの属性である炎と風、その上位たる雷に属する攻撃ならば、より一層、効かなくなっていく。

まさに難攻不落の絶対要塞。

直接的な攻撃に対する最高の守り。

〝炎熱の無神〟は既に攻撃をし過ぎた。一点突破、全力全開の一撃ならまだ直接のダメージを与えられたかもしれないが、もう遅い。

ティオ自身、既に龍神化していたというのに最初から全力攻撃せず防御していたのは、今後の戦いに備えて能力を高めるため。

〝炎熱の無神〟は強化のために利用されたのである。

『母上……すごい……まだ強くなれるなんて……』

クワイベルの瞳に言葉では表現できないほどの敬意が滲む。ローゼも畏敬の念で絶句していた。

観光時のおちゃらけた様子、変態性を恥ずかしげもなく晒していた様子が嘘のよう。

あれさえなければ! なんて、ついつい思ってしまう。

だが、驚愕も畏敬も未だ足りなかったということを、そしてティオの強さ、強さを求める想いが自分達の想像を絶する域にあることを、ローゼとクワイベルは直ぐに知ることとなった。

『ふむ、しかし今のブレスで殺りきれんか……』

顎に指先を添えるようにして腕を組み、少しばかり思案するティオ。

守り特化故に、〝痛覚変換〟で威力は上がっているとはいえ攻撃力の向上には限度がある。実は先程のブレス以上の破壊力を持った攻撃はないのだ。

そもそも空間干渉のエネルギー自体を焼失させる特異な炎熱だ。ブレスのような瞬間的かつ貫通特化の攻撃でもない限り大抵は焼かれて消える。

おまけに、先の〝再生〟。

再生魔法の権能も保有していることは分かるが、それ以上に 中 ( ・ ) 身 ( ・ ) が ( ・ ) な ( ・ ) い ( ・ ) ことが気になった。

単なる肉体の復元ではない。一種の神霊のような存在だ。炎熱そのものに意思が宿っているような、そんな怪物である。

つまり、急所がない。存在を維持する〝核〟がないのなら……

あるいは、炎の一欠片、高熱を発する何かさえあれば、そこから幾らでも再生できてしまうのではないか。

自然の化身である神霊達が真の意味では死を迎えないのと同じように。

『おまけに持久戦狙いできおったな』

プラズマが威力を失って霧散し、火球の流星は尽く阻まれ、無数の火炎砲撃も完全に止められている〝炎熱の無神〟は、どうやら環境破壊に乗り出したらしい。

自身の熱量を凄まじい勢いで上昇させ、外気温で生命を殺しにかかってきた。

メーレスの結界に〝鎧鱗竜装〟を重ねた今なら熱で人々が死ぬことはないだろうが、周囲の自然エネルギーを焼き尽くされれば流石にいつまでも耐えることはできない。

何より、〝炎熱の無神〟の限界がどこにあるか分からない以上、星の環境自体が耐えられるか否か。

『厄介な奴じゃ。クラス0の中でも上澄みかのぅ?』

「それでも、どうにかできてしまうのですよね? ティオ様なら」

『僕はもう驚かない。母上が、どんな力を見せても』

ローゼ達に不安を感じる余地はなくなったらしい。信頼の滲む眼差しを嬉しく思いつつ、ティオはニッと笑ってみせた。

『しかり。どうにでもしてみせようぞ』

次の瞬間、クワイベルは直ぐに前言を撤回することになってしまった。

なんとティオが己を覆う巨竜を消し去ってしまったのだ。

言わずもがな外は炎熱地獄。既に自然物は一切が燃え上がり、水気は消え去り、岩さえも溶解し始めるほど。

そんな中で防具たる巨竜を失えば、当然、ティオとて例外とはならず。

燃え上がった。ティオの全身が一気に炎上する。

『は、母上!?』

「ティオ様、どうして!?」

応えはない。もはや衣服どころか表情も見えぬほど火だるまとなり、灼熱の炎に包まれてしまった。

そして、『「え……?」』と困惑する。

気配が変わった。ティオが発する魔力の圧が消え、代わりにメーレスに似た神々しい気配が伝わってくる。まるで別人にでもなったかのように。

直後、鎌首が持ち上がった。炎に包まれたまま人型が変形し、ヘビがとぐろを巻いたような形を取っていく。と同時に無数のスパークが迸った。

雷を纏う火炎の蛇――否、龍。

全長七メートル程度の炎の龍は、刹那、パシッと乾いた音を立てて消えた。

と思った次の瞬間には雷鳴が轟き、そして、

――※※##※***##ッッ!!!?

今度こそ憤怒でも憎悪でもない純粋な苦悶の絶叫が響き渡った。

ハッと視線を転じれば、そこには変わらぬ姿の〝炎熱の無神〟が存在している。

その全身から火線が全方位に放たれた。レーザー兵器を無差別に放ったような光景だ。

「あ、あれは……雷が飛び回ってる?」

『違う……母上だ! あれは母上だよッ、ローゼ!』

稲妻が迸る。剣山の如きレーザーを掻い潜るようにして雷速で空を駆け、文字通り、目にも止まらぬ速さを以て〝炎熱の無神〟に幾度も幾度も突貫している。

その度に〝炎熱の無神〟は絶叫を上げ、苦痛を感じているかのように身を捩り、狂ったように炎を撒き散らしているが稲妻は止まらない。

『そうだ、あれを弾き飛ばした時の雷光! あれは攻撃じゃない! 母上そのものだったんだ!!』

「ちょっと何を言ってるのか分からないわっ、クワイベルぅ!!」

超常決戦の極みみたいな戦いを前に、とうとうローゼのキャパシティが限界を迎えた。

無理もない。誰が思うだろう。

相手が肉体を持たない炎熱そのもの?

よろしい。ならばこちらは炎雷そのものだ! というジョークみたいな状況が視線の先で繰り広げられているなんて。

――龍神化奥ノ儀・霊界変化 神霊龍

読んで文字の如く。今のティオは雷炎の化身そのもの。炎熱に破格の耐性を保つ炎龍であり、雷速で空を駆ける雷龍でもある。日輪の神霊ソアレや雷雲の神霊ウダルと同じ炎と雷の神霊と化しているのだ。

故に、今のティオに物理的障害は意味をなさず、炎と雷は逆に力を与える糧となる。

ここに魂魄魔法を併用すれば、肉体なき霊体と化したティオは、その身そのものが凶悪な攻撃となる。

言わば、〝神罰之焔〟だ。大規模無差別攻撃でありながら捕捉した魂の持ち主だけを焼き滅ぼすユエの十八番。

あたかも「妾の最凶の攻撃? それは……妾自身が神罰之焔になることじゃ!」と言わんばかりの新技法。

もちろん、〝炎熱の無神〟のエネルギー自体を焼失させる力を完全に防ぐことはできない。

だが、炎の化身となった今、そして、凝縮された龍神化の莫大なエネルギーと〝痛覚変換〟で得た破格の耐性があれば削り合いで敗北することなどあるわけもなく。

――***##ッッ!!

再び響く余裕なき絶叫。それは魂を直接破壊されている証拠だ。

全ての障害、肉体さえも素通りして魂魄を炎雷の爪牙で斬り裂き、噛み砕き、抉り、焼き滅ぼす炎雷の神霊龍。

今のティオを防ぐ方法は魂魄魔法によるカウンターと空間遮断くらいだ。

しかし、それとて並大抵の技量では無意味。ティオ自身の両神代魔法を以て相殺・無効化してくるからだ。

そう、ティオ自身の魂魄魔法と 空 ( ・ ) 間 ( ・ ) 魔 ( ・ ) 法 ( ・ ) を以て。

『全ての神代魔法を会得した妾の新たな力、全力で振るう相手として不足なし!!』

あらゆる守りを成すに必要な最低条件――全神代魔法の会得。

どんな神代魔法を使われても対応できるようになるには、同じ魔法が使えなければ話にならない。

単純に、空間遮断はもはや力ある者にとって必須と言っても過言ではない防御術というのもある。〝竜宮城壁〟を瞬時かつ広範囲に展開するにも転移の力は有用だろう。

何より形態自在変化を行うには、変成魔法と生成魔法の両方を以て万物に干渉できる力も必須である。

必然、目的を達するなら全神代魔法の会得が必要になるわけだ。

今のところ、ハジメ式の継承法で三つもの神代魔法を、この短期間で会得できたのはティオだけ。全魔法適性を持つ勇者ですら一つで廃人になりかけた事実からすれば、タフネスという点では実に化け物じみている。

そんなタフネスの化け物から、

『魂魄そのものを破壊されては、流石に存在を維持できまいよ!!』

勝利宣言に等しい声が響いた。

全長七メートルくらいだった炎雷龍が、気が付けば全長数百メートルに膨れ上がっている。

目の錯覚ではないだろう。逆に随分と萎んだように見える〝炎熱の無神〟を拘束するように巻き付き、その背後から鎌首をもたげている。

――※※##ッッ

あれほどの猛威、絶望的な恐怖と破壊をもたらした〝炎熱の無神〟が、そうであったとは思えないほど苦しげで恐怖に彩られた声を上げていた。

気のせいだろうか。まるで命乞いのように聞こえるのは。

『……願わくば、次こそ〝無〟になど堕ちず、良き来世のあらんことを』

慈悲の祈りと、容赦なき宣告。

炎雷の神霊龍は直後、喰らうようにして顎門を開き、直上より〝炎熱の無神〟の内に入り込んだ。

一拍。

「きゃぁっ」

『ローゼ!!』

凄まじい閃光が迸った。音が消え、ただ馬鹿げた規模と威力の爆発が、あたかも超新星爆発の如く起きたのが分かった。

結界がなければ浮島自体が大きく後退させられたかもしれないほどの威力。

クワイベルが滞空体勢を垂直気味にしてローゼを強烈な光から庇う。

強大な生命の最後の輝きと言わんばかりのそれは、大輪の花火の如く瞬く間に終わりを告げた。

音が戻ってくる。クワイベルが体勢を戻し、ローゼの視界にも外界の様子が見えてくる。

何もなかった。

ただ、巨大なクレーターを筆頭に〝炎熱の無神〟が残した大災害じみた爪痕が僅かに残っているだけ。

第二の太陽は、その炎は、ほんの一欠片足りとて残ってはいなかった。

あまりの熱量に揺らいでいた空気も元に戻り、直後、ゆらりとあちこちから昇っていた白煙が一斉に同じ方向――〝炎熱の無神〟がいた場所を中心に吹き飛ばされる光景が映った。

周辺から莫大な量の空気が戻ってきているのだろう。

完全焼失するほどではない熱量により塵芥くらいは残った遠方の様々なものが嵐の如き突風に乗って、〝炎熱の無神〟がいた場所を中心に吹き荒れているのがなんとなく分かる。

「か、勝った……?」

「うむ、勝ったのじゃ」

「ほわぁっ!?」

直ぐ横からかけられた言葉に、思わず飛び上がるローゼ。そのまま落ちそうになって、ティオに片腕を掴まれながら支えられる。

ティオの気配はいつも通りだった。

「ティ、ティオ様!」

『母上!』

「二人共。ぼうっとしている暇はないぞ? 炎熱の領域は消えた。それすなわち、泥獣共も近づけるようになったということじゃ」

勝利を祝う暇も、今の姿と力はなんだったのか問う暇もないらしい。

ティオが視線を巡らせる。遠くの空に暗雲が見えた。それも〝炎熱の無神〟がいた方角以外の全方位に。

「飛翔タイプの泥獣! もう来たのですね」

暗雲に見えるほどの大群だ。世界中から集まってくる無尽蔵にも等しい泥獣の先陣が早くも辿り着いたらしい。

「熱波はなくなった。お主等も、もう外で戦えよう」

「! もちろんです!」

『はいっ、母上!』

あれほどの強敵の後にこそ、数の暴力という本命の戦いが待っている。

そのことに心折れた様子はなく、クワイベルは咆哮を上げた。ローゼもまた通信機で矢継ぎ早に指示を飛ばしている。

信じてはいたが、ティオに全てを委ね縋る様子はない。

ローゼとクワイベルだけでなく、やっと出番かと言わんばかりに無数の咆哮が上がった。竜種達が相棒たる騎士を背に空へ上がってくる。

ティオと〝炎熱の無神〟が戦っている間も準備を進めていたのだろう。十隻の飛空艦が迷いなく流れるように動いて、四艦が浮島の下方へ、残り六艦が王都を中心に円陣を組んでいく。もちろん、空戦機も次々と空に上がってきた。

加えて声援も。戦う者を見送り鼓舞する王都の民の声援が空気を振るわせるほど盛大に響き渡る。

「良きかな」

ティオは満足そうに頷いた。

そして、

「さて、大群相手とあらば黒龍に戻っても良いが……」

やはり問題は継戦能力。ユエから自然魔力は無限に届くが、しかし、やはり〝黒龍神〟は燃費が悪い。大群相手でも世界中から随時到着する形では、最後まで保たないかもしれない。

だから、発動する。ティオが本当に得たかった、そして確かに得た本命の力を。

「ローゼ、クワイベル。気をしかと持つのじゃ。今から行う秘儀は、少々精神的によろしくないじゃろうからな」

「え……?」

『母上……まだ何かあるのですか……』

目を点にするローゼ。対してクワイベルは天を仰いだ。とうとうクワイベルのキャパシティも限界を迎えつつあるらしい。

「あるとも。これのために、妾、ちょいとばかし頑張ったんじゃ。何せ最愛のご主人様に期待されてしもうたからのぅ!」

嬉しそうに、それでいて誇らしそうに、かつ勇壮に。

軍帽をピッと指先で整え、深呼吸を一回。瞑目し、意識を極限まで集中させる。

直後、ゾワッと怖気が走った。ローゼとクワイベルの中に、あり得ないはずの感情――ティオへの恐怖が湧き上がる。

またもティオの気配が変わったのだ。

だが、今度は思わず頭を垂れそうになる神々しさとは正反対。どこか禍々しく、畏れを抱かずにはいられない妖しい気配。

護衛のためだろう。オルガとジャンの姉弟が相棒の黒竜と共に駆けつけてきていたのだが、ティオに向けていた尊敬と感謝の表情が一気に引き攣る。

ティオを偉大なる神として崇めている黒竜達が本能的にブレーキを駆けて滞空してしまうほどと言えば、今のティオがどれだけ異様な気配を放っているか分かるだろうか。

「龍神化奥ノ儀・ 妖界 ( ようかい ) 変化 ( へんげ ) 」

厳かでありながら、やはり畏れを抱かせる声音。本当にティオの声かと思うが、問うことはできいない。冷たく妖しい気配に口はパクパクするだけで言葉を紡いではくれない。

スッと目を開くティオ。その瞳は変わらず美しい黄金であった。だが、縦に割れた竜の瞳は普段の黒ではなく、赤。

「伝承再演」

ゴウッと風を唸らせ噴き上がる魔力、否、夜空を思わせる黒色のそれに星々の如き輝きはなく、代わりに混じるのは赤に染まった月のような輝きで。

もはや魔力とは呼べない。知る人は知る、その輝きは〝妖力〟であると。

ティオの両手が真っ直ぐに左右へ伸ばされた。

その手の先から〝妖力〟が迸る。

そして、

「来たれ―― 八岐大蛇 ( やまたのおろち ) 」

王都の西方郊外に、世にもおぞましい咆哮が轟いた。

赤き輝きを孕んだ黒色の妖力に包まれて無数の黒鱗が折り重なり、やがて形作っていくのは八本の首を持つ伝承の怪物。

「来たれ―― 夜刀神 ( やとのかみ ) 」

王都の東方郊外に、世にも恐ろしき気配が静かに出現した。

同じく妖力の輝きに包まれて生まれたのは、角のある黒い蛇の群体。おびただしい数の有角の蛇が東方の郊外を瞬く間に埋め尽くし、一部はそのまま外縁部へ雪崩を打つように向かっていく。

それはまさに、あの日、〝龍〟が目覚めかけた日、富士の樹海に顕現した伝承の龍の影を彷彿とさせる光景であった。

ティオは成し遂げたのだ。

重力魔法を得たばかりの頃、〝箱庭〟でハジメとデートした日にも話したこと。

ティオならば〝龍〟に対抗できるはずだという、無茶にも程がある最愛の人の期待と信頼。

応えてみせようとティオは答えた。

そして、実際に応えたみせたのだ。

「まだまだ荒削りじゃが、少なくとも〝龍の影〟への対抗札にはなろう?」

少し息を荒げながらも思いっきり、ここにはいないハジメを心に思い浮かべドヤ顔をしてみせるティオ。

不可能と思われた〝龍〟の権能の再現。

なぜ、そんなことができるのか。そもそもの話、なぜティオが妖力を使えるのか。

神霊化もそうだ。肉体を変成できると言っても限度がある。比喩ではなく実際に神霊化していたのなら、紛れもなく力の元は霊力だっただろう。

(まさか、守護者たらんと全ての神代魔法を会得したことが、無理難題への突破口になろうとは……じゃが、やり遂げたぞ、ご主人様よ)

そう、全神代魔法の会得。それこそがティオに破格にして特異な力を与えた原因だ。

端的に言えば、なんか発現しちゃったのだ。

「〝我が竜鱗、其処に在りて〟」

概念魔法を。

全神代魔法を会得し、改めて考えていた時のこと。

どうすれば〝龍〟に対抗できる? どうすれば、妾は守る者であれる?

〝龍の事件〟がティオの心に残した傷は、実のところ凄まじく深かった。

大切な者達が必死に戦っている中、安全な場所に匿われ、守られるだけ。守れないどころか守らせてももらえない有様。

まさか、これだけ強くなって、竜人族の最高峰に至って、またあの日の感情を味わうとは思わなかった。

迫害と破滅。幼き日の地獄の光景。ティオの心の原点。

同じだったのだ。〝龍の事件〟で感じた悔しさと忸怩たる思いは、父と母、そして多くの民と家臣を失った祖国滅亡の日に感じたそれと。

(三度目はないぞ、ティオ・クラルス。これ以上、己に失望させてくれるな)

己に牙を剥くようにして内心で呟き、何やら戦々恐々としているローゼ達を尻目に強く強く念じていた状態からフッと力を抜くティオ。

途端に畏れに満ちた気配が霧散し、ティオの気配が元に戻った。纏う輝きも元の黒色だ。

「ティ、ティオ様……今のは?」

「概念魔法と言う。この世に新たな理を創出する魔法じゃ」

クワイベルが再び天を仰いだ。先程の戦意が嘘のような、なんかもう理解を放棄したような呆けた表情である。

確かに理解などできようはずもない。

――我が竜鱗、其処に在りて

どの世界でも、どんな力でも、どんな相手であっても。

自分の力や種族の相性が悪いから、状況が不利だから。

だから守れなかったなんて言い訳は絶対に許さない。

ありとあらゆる脅威を受け止め、相殺し、無力化しよう。守ると決めた者達のためなら、我が身、我が心をどこまでも変えてみせよう。

それは極自然であり常態でありながら極限に至っている想いであり意志。

あるいは、〝龍の事件〟を経たからこそ辿り着いたのかもしれない境地。

すなわち、ただ意志一つを以て異世界の固有エネルギーに適した肉体と魂魄へ 変態 ( コンバート ) する力。

それこそがティオが目覚め、新たな力の根幹を成す概念魔法だった。

『……五百年以上も途切れず醸成され続けた気持ち。なるほど、あり得ないとは言えない。トータスを旅していた時、ハジメの〝帰りたい〟という想いと意志も、条件さえ揃えばいつでも概念魔法に至れたのだし』

『まぁ、確かに俺達も元は氣力体質なのがエヒトの技法もあって魔力体質になったわけだから……いやだからって、実質的な相互変換システムじゃねぇか。どうなってんの? お前もバグキャラになったの? あ、父さん! ちょっと教えてくれ。妻が俺のためと言って次々と世界の法則を踏み越えて行くんだが、こんな時、どんな顔をしたらいいんだ?、あ、うん、そだね。もう笑うしかないね。ハハッ』

とは、ティオから「ご主人様! ユエよ! なんか妾、強く念じるだけで概念が出ちゃうのじゃが!?」と報告を受けた後のユエとハジメの言葉だ。

もちろん、聞いた当初は二人してティオの正気を疑い、ハジメは「無理させすぎてごめんなぁっ」と涙目になりながら本気の土下座謝罪し、ユエは「大丈夫。今、愛子と香織を呼んで全力治療するから。大丈夫だから、ね?」と女神の如き慈愛を以て抱き締めている。

何はともあれ、だ。

「龍神に至らぬと使えぬのじゃがな、今の妾は必要とあらば、どの世界の固有エネルギーにも適応し、扱うことができる。無論、クワイベルと同じ力もの?」

「そんなことが……」

『いや、ある意味納得だよ、ローゼ。だって、母上は〝守る者〟なんだ。どんな世界でも、その世界の力に対抗できる力……あるいは、その世界に対して有利な力を選べるって、うん、母上らしい。まさに――』

クワイベルの言う通り、天職〝守護者〟たるティオ・クラルスだからこそ、一種の固有魔法として発現した力なのだろう。

一応、呼べる妖魔はあくまで想念を奪取して作り上げたコピーであり、魂魄魔法の併用で自律性は持たせられるが自身が直接操作するよりは劣化する点、そもそも幾つかの事前準備が必要なので自由自在に召喚とはいかず、無限魔力も必須という欠点はある。

だが、それでもだ。

龍神形態の自在変化に始まり、あらゆる世界に適した存在へと転変できるその力は、まさに、そう、まさに!!

変態を極めし者。変態させたら並ぶ者なし。歴史上、類を見ない希代の変態竜!!

ハジメ達は皆揃って口にした。称賛と畏敬と半笑いを込めて!!

ティオ・クラルスは、紛う事なき――

変態のエキスパートであると!!

『母上は変態のエキスパートなんだよ!!』

「「クワイベル!?」」

まるでハジメ達と時空を越えて心が通じたように深く納得した様子で叫んだクワイベルくん。

ローゼ達がギョッとした。というか、ティオもギョッとした。なぜ、ご主人様達と表現が被る!? と。

いや、間違ってはないのだ。形態の変化を変態と呼称するのは。

うん、間違ってはないない。

しかしだ。ティオとしては、もう少し、ほら、なんというか、ね? こう、良い感じの表現があるのではないかと。

「くっ、だが、これも妾。受け入れてくれたと思えば悪くない、かの?」

いくらド変態ドラゴンでも、己を母と慕う子に変態呼ばわりされてハァハァはしない。しないが……

妾、不可能レベルの偉業を成し遂げたんじゃが。

もっと普通に称賛してくれても良くない? と思っちゃう。

自業自得の極みなので口にはしないが。

「あ、あの! 敵が迫っておりますがっ」

オルガが視線を泳がせながらも声を張り上げた。

なんかティオはいきなり異常な気配を醸し出すし、異常な気配を漂わせる怪物が東西に出現しているし、敬愛する王竜様は龍神様を変態呼ばわりするし……

もうわけが分からないよ! と顔に色濃く書いてあるが、軍人として一生懸命、己を律してやるべきことをやっているようだ。大変優秀。

「む、そうじゃったな。良いか、ローゼ、クワイベル。可能な限り妾と分体の妖魔で敵を叩く。しかし、数が数じゃ」

「潜り抜けた泥獣を叩くのですね?」

「うむ。必要とあらば、もう何体か妖魔を招来できるが、持久戦となろう。ひとまず、敵の先陣はこの態勢で迎え撃つ。なぁに、結界は維持するのでな。王都内は安全じゃろう。とはいえ、努々油断はするでないぞ?」

『母上、言われるまでもありません!!』

「良き覇気じゃ。では――行くとしようか」

ティオが腕を薙ぎ払った。そうすれば、陽光に反射してうっすらと煌めく小さな竜鱗がクワイベルや黒竜達の周囲に漂った。

空間魔法を併用したのだろう。遠く離れた護衛艦や空戦機の周囲にまでキラリッと光るものが。

〝竜宮城壁〟が全ての戦力に付与され、鉄壁の守りが施されたのは明らかだ。

そして、

「そぉれ、開幕の狼煙じゃ!!」

片手を掲げるティオ。半透明の巨竜が浮き上がり、あの時と同じく顎門に尋常ならざる魔力を集束し出した。

同時に、八岐大蛇の八首と夜刀神も同じく。

一拍。

急速に迫っていた暗雲と見紛う泥獣の大群――大半が竜の形を取った先陣へ特大のブレスが薙ぎ払われた。

暗雲が消し飛ぶ。

だが、全てではない。そして、その背後にも既に新たな暗雲と、地平線に黒々とした汚泥の津波が見えて。

「全軍に告ぐ!! 我等には龍神の加護がある!! 恐れるな!! かつての如く、未来のために死力を尽くせ!!」

『全ての竜に告ぐ! 王はここにいる!! 共に死力を尽くせ! 友を、国を、未来を守れ!!』

一人と一体の王の開戦の宣言に、再び王都中から勇壮な雄叫びが上がったのだった。

それから、どれくらい戦っただろうか。

押し寄せる泥獣の波濤は未だ途切れず、しかし、〝守護者〟の名と決意は伊達ではなかった。

ティオ・クラルスの戦域にいる者は、どんな攻撃からも必ず彼女の竜鱗によって守られる。

攻撃を受け、避けられず、防げず、死を覚悟した瞬間、不可視にして一切自在の竜鱗が攻撃を受け止め、その際に、ほんの少し半透明となって正体を見せる。

そのうえ、孤立しかけた部隊がいれば纏めて転移させたり、従来の権能――竜を祝福し癒やす力も当然のように黒竜達を加護し。

加えて、ティオの読みが正しかったのも大きい。直接的な攻撃力だけでなく、呪詛による魂魄への攻撃力が高い八岐大蛇と夜刀神を召喚したのが効果的だったというのもある。

自明のことだが泥獣自体に魂魄はないが、正体がなんであれ、泥獣を操る〝無神〟ならば魂魄を持っている。

大海原に等しき汚泥に潜み、かつ〝無神〟の特性で探知が困難という点が最も厄介ではあったが、逆に言えば姿を見せて直接戦う能力に乏しい、なんなら弱いのではないか?

そんな予想は正しかった。八岐大蛇と夜刀神の魂魄を侵し、あるいは破壊する呪詛は敵の所在など関係なしに全てを呪い殺したのだ。

昆虫にも似た〝無神〟は、案の定、数こそ膨大なれど普通に弱かった。堪らず汚泥の海から飛び出せば弾丸一発でケリが付くほど。

そして、〝昆虫の無神〟による支配がなければ、汚泥は汚泥に過ぎず。泥獣の姿は取れても、そこに戦術性は皆無であり、もはや戦いではなく害獣駆除の領域だ。

結果、未だに死者はゼロ。

竜樹を襲っていた〝無神〟を打倒したメーレスが途中から参戦し、 神威 ( しんい ) による援護と撃滅が加わったことで随分と余裕もできたくらいだ。

そのうえ香織の救済魔法が届いたことで疲弊すらも解消。

戦況は、もはや負ける要素のない〝作業〟の段階に入っていた。

「ふむ。だいぶ落ち着いてきたようじゃな」

そう独り言ちて遥か上空より戦場を俯瞰するティオ。

これほど長時間、〝龍神化〟していても限界を迎える様子はない。流石に消費が供給を上回っていて魔力は相当目減りしているが、戦況が落ち着いた今、少し自重すれば回復が上回るだろう。

「未だ〝龍〟自体には遠く及ばんじゃろうが……〝影〟くらいは踏めそうじゃな?」

やれ、目標は遠い。旦那の無茶振りを叶えるのは骨が折れるのぅと愚痴を零しつつも、その表情は嬉しそうで、やはり誇りに満ちていた。

「精進あるのみじゃ」

と、己の成長に確かな手応えを感じた様子で拳を握り締める。

その直後だった。落ち着いた戦況とは裏腹の酷く緊迫した声が届いた。

まったくの予想外。まさかの相手。

『ティオ!』

「おぅ!?」

常にない大きなユエの声だ。胸の谷間からポンッと飛び出す黄金の三角形に、思わず変な声が出てしまう。が直ぐに気を取り直す。

チビユエの姿を取る様子もない。それが、より一層、ユエの焦りを示しているようで。

事実、焦燥も緊迫も当然の事態が端末越しに伝えられた。

『ミュウが強制転移を受けた』

「なんじゃと!?」

『直ぐ向かう。ティオには私の代わりをしてほしい』

「妾には全知撃滅なんぞできんぞ?」

『トータスはほぼ問題ない。術式の維持だけでいい。ティオ以外にはできない』

世界を繋ぎ、星の魔力を世界中の味方に送り、香織や女神達と同調して救済魔法の橋渡しをし、必要な場所に異世界の戦力を適時転送する。

それだけ。と言わんばかりの口調。

まったくもって〝それだけ〟ではないが、

「承知した。その程度ならどうにでもしてみせようぞ」

応えないわけがない。ハジメの信頼と同等以上に、ティオにとってユエの信頼は無上の喜びであるが故に。

何より、本当はミュウが消えた瞬間に、全てを放り出してでも駆けつけたかっただろうに。

それを堪えて、こうして戦況を維持する要をティオに託そうとしている。全てを救うという前言を守ろうとしている。

実に正妻として相応しい責任の果たし方だ。応えねば家族としても廃る。

それに、確かにユエの代わりはティオにしか無理な話だ。何せ、

『……んっ。任せた! 変態のエキスパート!! 上手く変態して!』

「くっ、いとも容易く行われる甘美な罵倒!! 生まれたこのエネルギー、しかと受け取った!」

今のティオは変態のエキスパート。ついでに言えば魔法に関してもエキスパートであり、天才肌なユエの術式を誰よりも身近で見てきて技術的に理解できている者だ。

星の魔力やユエの固有魔力に干渉し、その複雑怪奇な術式を引き継いで維持するなんて離れ業が可能な者は他にいない。

「ミュウを頼んだのじゃ! ユエよ!」

『……ん!』

直ぐに光を失う黄金の三角形端末。それを胸の谷間に押し込んで戻し、ティオはメーレスを筆頭にローゼ達へ念話を繋いだ。

後事を託しつつ、一時戦線離脱する旨を伝えるために。

そうして、

「ミュウよ、無事であっておくれ……」

祈るように言葉を零しつつ、ティオはトータスへ転移したのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

次回、前半でユエside(ミュウとリリィも少し含む)を書きますがメインはハジメsideを書くつもりです。つまり全世界防衛戦編(厄災界は除く)は今回で終わり。遂にハジメsideに、メインストーリーに戻ったぞぉ。長らく白米の自己満足にお付き合い頂いた方々、ほんとぉーにっありがとうございました。楽しんで頂けていれば幸いですが流石に長すぎましたね(汗)

長すぎて白米もプロットを忘れかけていますので、もしかしたら見直しと修正に一週頂くかもしれませんが、次回もどうぞよろしくお願い致します!

※ネタ紹介

・妾自身が神罰之焔になることじゃ!

『BLEACH』の一護「俺自身が月牙になることだ」より。

・わけが分からないよ!

『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえより。

・無神のイメージ

小さな火球:『クトゥルフ神話』の炎の精より。昆虫の無神:『クトゥルフ神話』のシャッガイからの昆虫より。