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第57話 サンデン子爵と爆縮のダンテ(後編)

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第57話 サンデン子爵と爆縮のダンテ(後編)

新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。

読んでください!

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同じくロボット物です!

「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」

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「今のところ、なんの問題もないな」

「小さな魔物の領域だから魔物の数も少なく弱い。それに加えて、アームストロング伯爵家の力で多くの戦力を呼んでおるからの」

「バウマイスター辺境伯家一家揃い踏みってね」

翌朝、割り当てられたから魔物の領域に侵入し、目についた魔物を逃さず倒していく。

我が家は魔法使いの数も多く、魔物の駆除は順調だ。

余裕もあって、俺はテレーゼと話をしながら魔法で魔物を倒し続けていた。

念のため、ルイーゼが俺たちの警護をしているが、これは本当に念のためだな。

「この面子で魔物の領域を解放し続けたら、この大陸から魔物の領域がなくなったりして」

「ルイーゼ、さすがにこの面子を毎日魔物の領域に駆り出せぬぞ。今回の作戦じゃが、アームストロング伯爵家とサンデン子爵家が何年も前から綿密に下準備をしておるからの」

「そうなんだ。その割には、ヴェルに話が行くのがギリギリだったけどね」

「妾たちは断られる前提じゃったのか……、いや、ローデリヒ殿にはとっくに話がいっていたのであろう」

「もはや、自分のスケジュールすら自分で決められない件」

「ヴェンデリンが大貴族になった証拠よ」

「あまり嬉しくないなぁ」

「諦めい。辛い時は妾がしっかりとフォローしてやろう。そんなわけで、この魔物の領域の解放はアームストロング伯爵家とサンデン子爵家の一大事業というわけじゃ。失敗は許されぬ」

「これだけの戦力を集めて、失敗したら洒落にならないものね」

「イーナの言うとおりじゃ。参加している魔法使いと冒険者の評判にも響くからの」

「テレーゼさん、この布陣で失敗することなんてあるのですか?」

「カタリーナよ。この世に絶対はないのじゃぞ」

みんなでそんな話をしながら、俺たちは割り当てられた魔物の領域の魔物を狩っていく。

隣のエリアを担当しているブランタークさんと導師も順調そうなので、さすがに失敗はないはず……とみんなが考えていたその時、俺のローブを引っ張る人が……。

「ヴィルマ、なにかあったのか?」

「ヴェル様、一つ教えてほしい」

「俺に答えられることなら」

「この魔物の領域のボスって、どんな魔物?」

「ええと、この魔物の領域のボスは……あれ?」

そういえば聞いてなかったな。

以前、キンブリーさんがやらかして焼け野原になった魔物の領域とさほど規模は変わらないので、ビックバードか、大型の獣タイプの魔物か、陸亀ってところだろう。

「エリーゼは、この魔物の領域のボスについて導師から聞いてる?」

「いいえ、私も知らないです」

「カタリーナ、ブランタークさんからは?」

「私も聞いておりません」

「まさか属性竜だったとか、そんなことはないよな?」

「エル、さすがにそれなら注意があるから」

こういう共同作戦の時に、抜けがけして多くの功績と成果を得ようとする輩が現れる。

冒険者は個人事業主だから悪いことじゃないが、少人数で属性竜に挑んでも死体が増えるだけなので、アームストロング伯爵家なら絶対事前に注意しているはずだ。

「ということは、弱いボスと考えていいのですか?」

「いや、そう決めつけて、実は連絡ミスでしたってなると洒落にならないから、念のため導師に聞いてみよう」

「さすがは先生。どんなに強くなっても、決して油断しないんですね」

「勉強になります」

「よく先走って失敗するお兄さんとは大違いです」

教え子にして妻でもある、アグネスたちの称賛の声が心地いいな。

俺は、魔導携帯通信機で導師に連絡を取る。

『なにか用事であるか? 某とブランターク殿も順調である!』

「導師なら、アームストロング軍務卿から聞いてるはずなので教えてほしいんですけど、この魔物の領域のボスってなんですか?」

『この魔物の領域のボスであるか? それは……』

「それは?」

『……知らぬのである! ブランターク殿は知っているのであるか? なんと! 知らぬのであるか? むむっ……兄上に聞いて折り返すのである!』

導師は、アームストロング軍務卿にこの魔物の領域のボスを教えてもらうため、一旦魔導携帯通信機を切った。

ところが結局、日が暮れて初日の活動が終わるまで、導師から連絡はこなかったのであった。

「えっ? この魔物の領域のボスがわからない?」

「はい、この魔物の領域は人気がなく、冒険者がほとんど立ち入らなかったので、情報がないんですよ」

「いや、魔物の領域はボスを倒さないといけないんだから、そこはサンデン子爵家でちゃんと調べてくれよ」

「申し訳ありません」

「兄上、どうするのである?」

「こんな当たり前のこと、どうして今の今まで誰も気がつかなかったんだ?」

その日の夜。

サンデン子爵の屋敷に主だった者たちが集まった理由は、今解放を目指している魔物の領域のボスがわからないという、笑えない事実が判明したからだ。

呆れたブランタークさんがサンデン子爵に苦言を呈するが、ブランタークさん自身にも油断があったのか、最初にそれを尋ねるのを忘れており、これは責任がない人が一人もいない状態ってやつだな。

サンデン子爵家の寄親であるアームストロング伯爵家の人たちも、それにまったく気がついていないのだから。

「(ビッグプロジェクトあるあるだな)」

大物も含めて色々な人たちが集まって大きなプロジェクトを計画、立案し、いざ実行してみたら、とんでもなくくだらないミスが発覚した。

ちゃんと確認したはずなのに!

よくあることではあるが、問題はこのミスをしっかりとフォローできるかだ。

「まずは、この魔物の領域のボスを探す必要がある。魔法使いは二~三人に分散して、魔物の領域を探し回ってくれ。もしボスを発見しても、戦わずに報告するように」

ベテランであるブランタークさんの指示で、翌朝から魔法使いたちがグループを作って分散し、魔物の領域のボスを探し始めたのであった。

「いない……。ここは、魔物の領域のほぼ中心部なんだけどなぁ」

「普通なら、この辺にドンと構えているはずですわ」

「俺たちが周囲で騒がしく動いているから、怒って移動しちゃったのかな?」

「それでしたら、魔法使いの誰かしらが遭遇しているはずです」

「だよねぇ」

俺はカタリーナと組み、上空から魔物の領域の中心部でボスを探すが、それらしき存在を見つけることができなかった。

他の魔法使いたちもボスを発見できないと連絡が入り、これは困ったことになってしまったかもしれない。

「魔物の領域のボスが見つからないなんて、前代未聞かも」

「これまでに遭遇した魔物の領域のボスは、隠れたりしませんでしたからね」

魔物の領域のボスは、己の強さを誇示したがる。

そうすることで、その魔物の領域のボスであることを他の魔物たちにアピールしているからだ。

という説を述べる学者もいたが、本当かどうかはわからない。

ただ今回のように、魔物の領域のボスが見つからないなんて事案は初めてだ。

『こうなったら、すべての魔物を倒すのである!』

「導師、無茶を言わないでください」

魔導携帯通信機で導師に連絡を取ると、彼が無茶を言い出した。

そりゃあ、一匹残らずこの魔物の領域に生息する魔物を倒してしまえば、その中にボスがいることは確実だ。

だが、限られた時間でそんなことをするのは不可能であり、俺たちがいる間に優先的にボスを倒す必要があった。

解放された魔物の領域に残っている魔物は、その土地を開発する領主が責任を持ってやることなのだから。

『むむむっ、某たちも、ボスに関するヒントすら見つからないのである!』

「困ったなぁ……」

その後、他の魔法使いたちからもボスが見つからないという報告を受け、導師が提案した作戦もやむ無しかと思ったら、ついにボス発見の報告が入ってきた。

『絶対にボスという確証はありませんが、なんというか、大層変わった魔物を発見しました』

とある魔法使いからの報告を受け、俺たちはその変わった魔物がいるという場所に急行するのであった。

「なんなのですか? あの魔物は……」

「目玉親父?」

「とてもしっくりくる命名ですわね」

その魔物を一言で命名するのなら、『目玉人間』であろうか。

身長は二メートルほど。

人間の頭の部分がすべて目玉であり、某妖怪アニメに出てくる目玉の親父を大きくしたような容姿をしている。

俺とカタリーナも、こんな魔物は見たことがなかった。

「……『インテリジェンスマン』じゃないか! 珍しい魔物だな!」

「某、初めて見たのである!」

少し遅れてやって来たブランタークさんと導師が、目玉人間の正式名称を知っていたのは驚きだった。

どうやら過去に目撃例がある魔物らしい。

「ブランタークさんは知ってたんですね」

「俺もそういう魔物がいるって教わっただけで、実物を見るのは初めてさ。アレは、古代魔法文明時代の人間が文明崩壊時に死なず、魔物化してああいう容姿になったとか。本当かどうかは知らないけど」

「それって本当なんですか?」

「一万年以上も生きる魔物なんて竜だけだから、俺は嘘だと思うがな。インテリジェンスマンの体は人間っぽいから、そういう仮説が立てられたんだろうぜ」

「どちらにしても、倒してみればわかるかもしれないのである!」

俺とブランタークさんが目的のものを目にしているのに、一向に手を出さないのでイライラしたのだろう。

導師が、インテリジェンスマンに対し魔法を放った。

「あっ! バカっ!」

ブランタークさんが止めようとするも、導師は得意の『火蛇』を放ってしまう。

放たれた『火蛇』がインテリジェンスマンに命中すると思われた瞬間、インテリジェンスマンの姿が消えた。

「もしや『瞬間移動』を?」

「いや、奴はまだこの場にいるぞ」

ブランタークさんはインテリジェンスマンの気配を『探知』し続けており、奴が消えたのではなく、恐ろしい速度で導師の魔法を回避したことに気がついていた。

「なんて素早さだ……」

インテリジェンスマンはさほど強くないが、その素早さは折り紙つきだ。

だからこそ、魔物の領域のボスだと疑われているのだけど……。

「実際のところ、インテリジェンスマンがボスなんですか?」

「今のところ他に、それっぽい魔物は見つかってないからな。まあ、倒してみればわかるさ」

と、ブランタークさんは言うけど、魔法が当たらないのは問題だな。

「変わった魔物だ! これは金になるぞ!」

駆けつけてきた魔法使いがインテリジェンスマンに向かって『ウィンドカッター』を放つが、これも当たらなかった。

あまりの素早さで、その姿を見失ってしまう目玉人間……。

「夜にいきなり遭遇したら怖いな」

「私は嫌ですわ。『ビッグトルネード』!」

カタリーナが、最近会得した広域竜巻魔法で攻撃するが、インテリジェンスマンはそれすらも回避してしまう。

「こうなると、もっと広範囲に効果がある魔法で攻撃するしかないか」

「その場合、かなりの森林に被害が出ると思いますが、サンデン子爵は許可を出してくれるでしょうか?」

「聞いてみないとわからん」

素早いインテリジェンスマンを、広域魔法で包み込んで倒す。

悪くない策だが、問題はここがサンデン子爵の領地ってことだ。

たとえ魔物の領域でも、ここに生えている木や植物はサンデン子爵家のものだ。

勝手に魔法で吹き飛ばしていいものではない。

最悪、すべて切られ、燃やされても構わないという許可を取らなければいけなかった。

それをしなかった結果、冒険者が貴族に賠償を求められた、なんて話もあるのだから。

「ちょっと待ってくれ」

俺が、魔導携帯通信機でサンデン子爵に連絡して許可を取ろうとしたその時だった。

魔法の玉が、インテリジェンスマンの周囲に展開され、そのまま爆発。

インテリジェンスマンは炎に包まれた。

「やったか?」

「この魔法は、爆縮のダンテの魔法だよな?」

「魔物の領域の木々を極力巻き込まないのも凄い。さすがの魔法コントロールだ」

多くの魔法使いたちがダンテさんの魔法に感心しているが、俺、カタリーナ、ブランタークさん、導師、そしてダンテさん自身も警戒を解いていなかった。

なぜなら……。

「ほとんどダメージを受けていない……」

「あんな見た目なのに!」

さすがは魔物の領域のボスだと疑われているだけのことはあり、見た目に反してインテリジェンスマンは頑丈だった。

「……肉体的な頑健さじゃないのか……」

「バウマイスター辺境伯、さすがだな。インテリジェンスマンは、魔法防御に長けているんだ」

その身の素早さからして、インテリジェンスマンが物理的防御力に長けているとは到底思えなかったが、その分魔法防御力に長けていたとは……。

インテリジェンスマンは素早いので、広域魔法で仕留めようとする者は多そうで、それに対抗するための魔法防御力の高さなのかもしれない。

「俺の『爆縮』でも駄目なのか……」

「困ったものですね。こうなったら、両者の掛け合わせでいきますか?」

「それしかないだろうな」

俺たちの広域魔法と、ダンテさんの『爆縮』の同時展開で、インテリジェンスマンの魔法防御力を打ち破る。

これしかないと思った俺たちは、サンデン子爵から多少この魔物の領域が焼き払われても問題はないという返答を貰い、急ぎ準備を始める。

「タイミングがすべてだ。しくじるなよ」

最古参であるブランタークさんの言葉に全員が頷く。

「いまだ!」

そして彼の合図で、俺たちは範囲を細かく調整した広域魔法の重ねがけを。

ダンテさんは『爆縮』をインテリジェンスマンの周囲に展開。

直後に解放した。

複数の上級魔法使いが放つ魔法の重ねがけだ。

さすがのインテリジェンスマンも耐えられまいと、全員が固唾を飲んで見守っていたが……。

「まだ耐えるのか?」

「さすがは希少な魔物だな。追加で魔法をかけまくれ!」

ブランタークさんの指示で、俺たちはさらに魔法を重ねがけしていく。

魔法は火魔法に限定され、インテリジェンスマンは火炎の中でのたうち回っていたが、まだ倒れる気配はなかった。

「とんでもない魔物である!」

「ヴェンデリンさん、もう一人か二人、上級魔法使いの応援が欲しいところですわね」

「そうだなぁ」

ボス探索で、上級魔法使いたちを魔物の領域のあちこちに分散させてしまったのがよくなかった……いや、でもさすがにここまでやれば、インテリジェンスマンが倒れるのも時間の問題だろう。

焦る必要はないと俺が思ったその時……。

「お待たせしました」

ちょっと遅れて、さらなる魔法使いの援軍がやってきた。

ここで爆炎のキンブリーがやってくるとはありがたい。

彼なら、インテリジェンスマンにトドメを刺す火魔法を放てるだろう。

「……」

キンブリーさんを見たダンテさんが渋い表情を浮かべるが、普段は相性が悪くても、ここは大人の対応をしてくれるとありがたい……と思ったら、ダンテさんは『爆縮』を放つのをやめてしまった。

「ダンテ!  手を止めるな!」

インテリジェンスマンを倒せるかどうかの瀬戸際なので、ブランタークさんが彼に注意をした。

「ブランターク殿、キンブリーが火魔法を放ってる時に、俺が火魔法の『爆縮』を放つとヤバいんだ。他の魔法使いに頼んでくれ!」

「ヤバい?」

ブランタークさんが、ダンテさんに詳細な説明を求める。

「原因はわからないが、俺の『爆縮』した火魔法とキンブリーの火魔法が接触すると、激しく爆発したうえに、広範囲に燃え広がるんだ。危ないから、俺とキンブリーの魔法は合わせない方がいい」

「それはかえって好都合だろう。あの対魔法防御に特化した目玉の化け物に、確実に致命傷を与えられるはずだ」

ダンテさんから事情を聞いたブランタークさんは、二人の魔法を合体させ、なかなか倒れないインテリジェンスマンにトドメを差す案を実行したいようだ。

「ブランターク殿、俺はやめた方がいいって忠告したからな」

「ダンテ、そんなに心配するなよ。ここには、これだけの魔法使いがいるんだ。もしもの時は消火すればいいんだから」

「わかった。キンブリー、合わせるぞ!」

「おや、ダンテさんから私を誘うなんて珍しいですね。私もインテリジェンスマンになんて殺されたくないので協力しますよ。娘たちも大きくなって、妻に似て美しくなってきたんですよ。家に帰れないなんて嫌ですからね」

キンブリーさんの家族愛は相変わらずだな。

「合わせるぞ!」

「お任せください」

ダンテさんの『爆縮』した火魔法と、キンブリーさん火魔法がインテリジェンスマンの至近で接触すると、特に燃える物などないというのに、恐ろしい大きさの炎が立ち上がった。

「ぎゃーーー!」

これまで声一つあげなかったインテリジェンスマンが絹を引き裂いたような悲鳴混じりの断末魔の声をあげ、その場に倒れて炎の中に消えてしまう。

「目玉の中にある、魔法薬の原料はどうします?」

「……これは……それどころじゃねえな。全員、退避!」

ブランタークさんは、判断を誤ったかもしれないと思ったようだ。

インテリジェンスマンは炎の中に倒れたが その死骸を回収しようにも、もうすでに俺たちの近くにまで大火が迫っていたからだ。

「えらく火の回りが早くないですか?」

インテリジェンスマンを焼き殺した炎は恐ろしい勢いで燃え広がり続け、すぐに避難しないと俺たちが焼け死んでしまうだろう。

確かに、普通の火魔法二人分に比べると、あきらかに火力が大きすぎる。

「クソッ! こんな火は水魔法で消せばいい! インテリジェンスマンの体液を諦められるか!」

「無駄だ。やめ……間に合わなかったか……」

ダンテさんの制止を無視して、一人の魔法使いが水魔法で消火を試みるが、二人の火魔法にはまったく効果がないどころか、ますます火の勢いが増してしまった。

魔法で出した水が、燃えているように見える。

「(電気分解したわけでもないのに、どうして水が燃える? もしや……)」

キンブリーさんの大火力魔法と、ダンテさんの『爆縮』。

この二つが組合わさると強烈に燃え広がり、水をかけても消えるどころか、ますます燃え広がってしまう。

「(電気分解でもしているのか? まさかね)ダンテさん、これはどういう?」

「俺がこの現象に気がついたのは、バウマイスター辺境伯も参加した、パルケニア草原解放作戦の時だ。俺とキンブリーも、他の著名な魔法使いたちと一緒に、北側から魔物の駆逐をしていたんだよ」

「その話は聞いたことあります」

パルケニア草原でグレードグランドを討伐した時、王国軍の主力は王都がある東側から侵攻したけど、北、南、西と、まるでパルケニア草原を囲むように、諸侯軍、冒険者、魔法使いたちが主体の別部隊も参加していたと。

「たまたまだ。俺の『爆縮』とキンブリーの火魔法が接触した時、とんでもなく燃え広がってな。パルケニア草原の北側は大規模な火災でも発生したんじゃないかって噂されてな。そのせいで、パルケニア草原の北側から攻め込んだ俺たちは『やりすぎだっ!』て文句を言われたのさ」

「それは大変でしたね」

「だから、俺とキンブリーは一緒に行動しちゃいけなかったんだが……」

このケースでは、キンブリーさんはインテリジェンスマンを倒すための助っ人として駆けつけたわけで、彼が間違ったことをしたわけではない。

そう、間違ってはいないのだが……。

「ふと思ったんですが、二人の火魔法から発した火事って、水で消火できませんよね? どうやって鎮火させればいいんです?」

俺がダンテさんに尋ねると、二人の魔法の合体を許可したブランタークさんがバツの悪そうな顔をした。

確実にインテリジェンスマンを倒すため、大火力が必要だと思って許可したら想像以上に燃え広がり、消火も難しいことが判明したのだから。

俺たちは逃げながら対策を考えるが、これは魔物の領域の全焼が避けられないだろう。

むしろその外にも燃え広がらないか、真剣に心配しなければいけないほどだ。

「ダンテさん、あまりに延焼速度が早すぎます! なにか消火方法はないんですか?」

「パルケニア草原の時は、自然鎮火を待つしかなかったんだ」

「いつかは鎮火はしますよ。消えない火なんてありませんて」

「キンブリー、お前は喋るな!」

ブランタークさんがキンブリーさんの発言にキレているけど、元はといえば自分が二人に火魔法を同時に使わせたのが悪いわけで……。

「そんなことを言っている間に、広範囲に火が燃え広がっていますけど……」

「だぁーーー! どうすればいいんだ?」

ブランタークさんが珍しく頭を抱えていた。

水魔法を使うとかえって燃え広がってしまうなんて、ダンテさんとキンブリーさんの魔法が非常識すぎるからだろう。

「……あの、ブランタークさん」

「辺境伯様、なにかいい策を思いついたのか?」

「もしかしたら……程度の策ですけど……」

「どんな策だ?」

「ダンテさんの水魔法の『爆縮』と、俺の水魔法の『爆縮』を合わせたら、火が消えるかもしれないかなって。ただ……」

だが、『爆縮』した魔法は物理的な法則が通用しないので、余計に燃え広がるリスクもあり、試すには度胸が必要だった。

「ヴェル様、前にこんなことあった」

「確かにあったなぁ」

奇遇にも、前回もキンブリーさんの火魔法が契機となって、魔物の領域がほぼ全焼したのをヴィルマと一緒に思い出した。

「これ、魔物の領域の外に燃え広がらなければいいな」

水魔法で消火しようとしたら、魔法で作った水が電気分解して……いや、違うな。

魔法で作った水が魔力に分解されて、その魔力がさらに火力を増すことに利用されている?

「さすがはヴェンデリンさん、魔法に詳しいですね」

「推論でしかないけど」

これも、俺が水の電気分解を知っていたから考えついたことだけど。

キンブリーさんの火魔法と、ダンテさんの火魔法を『爆縮』したものが接触すると、こんな不思議な反応が起こるなんて……。

キンブリーさんの魔法は『爆縮』していないけど、彼は火魔法の名人なので『爆縮』した魔法と同じような性質を持っているのかもしれない。

「ある意味、ダンテさんとキンブリーさんって相性がいいのでは?」

魔物の素材を回収する気がなければ、この二人で組めば最強に近いのだから。

戦争で役に立ちそう……しばらく起こりそうにないけど。

「よしてくれよ」

「ダンテさんはつれないですねぇ。こんなのは不可抗力だから仕方がないですよ。私は家族の元に無事に帰れれば、すべての仕事は成功なんです」

「……」

この件でキンブリーさんを責めるのは酷だし、それを言うと半分ダンテさんにも責任があるってことになりかねないので誰も責めなかったのに、肝心の本人はとんでもないことを口にしていた。

「(そういえは、キンブリーさんは家族第一主義でしたね。余計なことを言わなければいいのに……)」

リサも、キンブリーさんの発言に呆れていた。

「ところでブランターク殿、バウマイスター辺境伯からの提案を試すのですか?」

とここで、ブランタークさんに意地悪な質問をするキンブリーさん。

特殊な火災は恐ろしい勢いで燃え広がりつつあり、即断が必要なのも確かだったからだ。

「それと、この状況をどうサンデン子爵とアームストロング伯爵に説明しましょうか?」

続けてキンブリーさんが質問するが、どうもこうも。嘘を報告するわけにはいかないので正直に言うしかない。

もし下手に隠蔽してあとでバレたら、そっちの方が大変なのだから。

「魔物の領域の森林地帯は、ほぼ全焼。ボスのインテリジェンスマンも全焼して素材は取れませんでした。と言うしかないですね」

事実だから仕方ないが、サンデン子爵、気絶しないといいな。

自分の領地にある魔物の領域のボスがインテリジェンスマンで大喜びしていたら、焼き払われてしまっのだ。

税金を取って領地の開発資金にする予定だったものが消し炭になった、サンデン子爵の心境を考えると気の毒以外の感想が思い浮かばなかった。

「直接その手に、インテリジェンスマンの体液を売った代金から徴収した税を手に入れるまで、過剰な期待はやめた方がいいと思うんですよ。こんなこともあるんですから」

「お前が言うなよ……」

「ダンテさんの『爆縮』がかかった火魔法と、私の火魔法。触れればこうなるのですから仕方がありません」

「だから俺たちは!混ぜると危険なんだって」

「そこに配慮できなかった兄上にも責任の一端があると、某は思うのである!」

「で、ブランターク殿?」

「ええい! 終わったことはしょうがないし、後回しにしたところで事態が改善するわけでもない。サンデン子爵とアームストロング軍務卿に報告してから、辺境伯様の手で行くぞ!」

ブランタークさんは決断し、魔導携帯通信機でサンデン子爵とアームストロング軍務卿に状況を報告。

魔導通信機越しでもサンデン子爵が動揺しているのはわかったが、さすがは軍系貴族の重鎮、アームストロング軍務卿は動揺した様子を見せなかった。

自分の領地じゃないってのもあるのか。

『延焼を食い止めるためだ。その方法でやってみてくれ』

「わかりました」

アームストロング軍務卿の許可が出たので、水魔法の『爆縮』をぶつけ合って消火する策を実行する。

サンデン子爵の領地のことなのに彼が返事をしなかったのは、非常事態で動揺しているからなのか、悲しいかな、アームストロング軍務卿との力関係のせいなのか。

そこは気にしないことにして、俺とダンテさんは消火作業に入る。

「ダンテさん! 合わせますよ!」

「おうさ!」

早速俺は、『アイスランス』を『爆縮』し始める。

久々だったのと、やはりコントロールが難しい。

最悪、『爆縮』しきれなかった魔法が暴発することもあるので、俺は正確さを最優先する。

「(ダンテさんみたいに、数十発も同時に『爆縮』するのは無理だ。この人、凄いな)」

少し時間はかかったけど、俺の『爆縮』とダンテさんの『爆縮』を燃え盛る大火の近くで接触させると、一瞬だけ氷の槍の穂先が花びらのように構成された花が咲き、周囲の炎が消えた。

「「「「「「「「「「やったぁーーー!」」」」」」」」」」

みんなの歓声があがる。

「よかったぁ……」

消火する方法を発見できたのはいいが、やはり『爆縮』は難しい。

連発は難しいので、ここは同じく『爆縮』が使えるブランタークさんにも協力してもらわないと。

「そうだな。他にも、ダンテから『爆縮』を習った魔法使いが数名いたはずだ。そいつらも呼び出せ」

「わかったのである!」

導師が魔導携帯通信機で、大火のため避難中の魔法使いの中から、ダンテさんに『爆縮』を習い、なんとか覚えられた魔法使いたちを呼び出していた。

「導師は、『爆縮』を使えぬのか?」

「テレーゼ様、『爆縮』は某の性に合わないのである!」

「導師は確かにのぉ……」

『爆縮』には緻密な魔力コントロールが必要なので、導師には難しいだろう。

全力で派手な魔法をぶっ放す方が性に合ってるだろうし。

「妾もすぐには覚えられぬし、そもそも覚えられる保証もないからの。ダンテ殿の『爆縮』と、他の魔法使いたちは順番に『爆縮』を用意して合わせるのが、一番効率的であろう」

「あの……一つ疑問なのですが、ダンテさんの『爆縮』同士を衝突させれば、もっと早く火が消えるのでは?」

「カタリーナ殿、それは過去に俺も試してみたんだが……まあ見てくれ」

ダンテさんは、自分の周囲に浮かばせている『爆縮』同士を合わせた。

爆発するのではないかと全員が身構えたが、『爆縮』は一つになってひと回り大きくなってしまった。

「他人同士の『爆縮』じゃないと、『爆縮』された魔法が解放されずに、合体してしまうんだよ」

「魔力の質が違う他人同士だから、消えない大火や、それを消す氷の花になるんですね」

「そういうことらしい。火を消すぞ!」

ダンテさんが指揮を執り、俺たちはすでに魔物の領域のかなりの広範囲に広がった火事の消火を始める。

ダンテさんの『爆縮』と、俺たちが順番に出した『爆縮』が合わさると、周囲の火が広範囲で消えていく。

だが、楽勝なのはダンテさんだけで、辛うじて『爆縮』が使える程度の俺たちへの負担は大きかった。

俺たちの中で、一番『爆縮』に長けているはずのブランタークさんですら疲労感が顔を滲ませていた。

せめてもう一人、「爆縮」が使える魔法使いがいたら、ローテーションが楽になる。

そう思った魔法使いたちの視線が、これまで戦力にならないので静かにしていたアリスへと向かった。

みんな、彼女が『爆縮』を使えないか期待しているのだ。

魔法使いの子供が魔法を使えるケースは稀で、いつもならそれがわかっている魔法使いたちは彼女に期待なんてしない。

だがアリスが、『爆縮』という希少な魔法の使い手であるダンテさんの娘であるがゆえの悲劇だった。

「アリスは……」

ダンテさんも、さすがに可哀相だと思ったのだろう。

彼女が『爆縮』を使えないことを本人ではなく、父親であり魔法の師匠でもある自分の口から説明しようとしたが、これも酷な話だと思う。

現にアリスは、唇を噛み締めて下を向いていた。

「アリス! 俺の言ったとおりに頭の中で想像しながら、『爆縮』を使ってみろ!」

これはもう賭けだな。

このままなにもしなくても、アリスはダンテさんの娘なのに『爆縮』を使えないという事実が魔法使いたちに知れ渡るだけだ。

それなら、一か八か俺の言うおとりに『爆縮』を試してみるのも手だ。

「私は……」

「時間がない! 『アイスランス』を想像するんだ!」

「はい!」

こういう時、変に考え過ぎるとかえって失敗することが多い。

だから強い口調で命令し、強引にやらせるのも手だと思う。

「『アイスランス』を想像できたな? それが徐々に縮んでいくイメージを頭の中で想像しながら魔力を燃やすんだ! 穂先も柄もすべて縮んでいく映像を脳裏に浮かべながらだぞ!」

「はい!」

「火災が激しい場所に向けて、その『アイスランス』を放て!」

「はい!」

アリスが俺の言うことを聞いてくれるのか不安はあったが、『爆縮』を使える俺の方が魔法使いとして優れていると理解したのだろう。

彼女は俺の指示に従い、極小の『アイスランス』を放つことに成功した。

ダンテさんも俺たちも、魔法を『爆縮』すると扱いやすい球体になるんだが、アリスには合わないやり方だったんだろう。

氷の槍を小さくするイメージを試させてみたら、上手くいってよかった。

「今度は逆だ! 『アイスランス』が大きくなる映像を脳裏に思い浮かべる。タイミングは、標的の近くで」

「はい!」

『爆縮』の解放もタイミングを誤ると効果がないので、アリスに指示を出す。

このイメージ方法。

いつも俺がやってる方法で、俺はこれで『爆縮』が使えるようになったので、アリスに試してみた。

無事に成功し、アリスの『爆縮』は事前にダンテさんが放っていた『爆縮』と接触。

大きな氷の槍の花を咲かせ、広範囲の火災を消火することに成功した。

「あとは、同じことを続けるだけだ」

「わかりました」

アリスが『爆縮』を使えるようになり、戦力が増えた俺たちは半日ほどかけて、魔物の領域全体に広がりつつあった火災の消火に成功した。

「疲れたぁ」

「だよなぁ」

「しかしヴェンデリンよ。サンデン子爵領の魔物の領域はほぼ全焼してしまったぞ。幸いにも、魔物の領域の外への延焼は防げたが、このことを誰が報告……」

「あーーーっ! ローデリヒから頼まれた急ぎの仕事があるのを忘れてた!」

俺たちは、アームストロング軍務卿から頼まれた『サンデン子爵領の魔物の領域の解放』には成功している。

魔物の領域はほぼ全焼してしまったが、これは不可抗力だし、俺はバウマイスター辺境伯なので忙しい。

「後ろ髪引かれる思いだが、サンデン子爵に挨拶をする時間的余裕もない。本当に残念だ。みんな、帰るよ」

俺は、大火事になるまでは魔物の駆逐で活躍していたエル、治療担当のエリーゼ、他の妻たちも呼び寄せ、『瞬間移動』で帰ることにした。

なぜって?

俺が、魔物の領域が全焼した報告をしたくないからだ。

サンデン子爵も見ればわかると思うが、だからこそ余計に報告したくないというか……。

「そういうことなので、ブランタークさんが代表してサンデン子爵に報告してください」

「俺がか? それはあまりにも酷いぞ!」

「俺、本当に忙しいので。なあ、テレーゼ」

「ヴェンデリンはブライヒレーダー辺境伯と同じ爵位で広大な領地を持つ。忙しくて当然であろう」

本当はブライヒレーダー辺境伯ほど忙しくないけど、テレーゼが上手く誤魔化してくれた。

さすが、持つべきは元大貴族の妻だ。

「……じゃあ、導師も……って! いねえよ!」

こんな結果になって、導師がここに残っているわけがない。

ブランタークさんは、導師の責任回避スキルを甘く見すぎである。

「キンブリー、お前にも責任の一端が……って、いねえ!」

「わかってたこと」

ヴィルマの言うとおりだ。

キンブリーさんは仕事が終われば、すぐ家族の元に帰ってしまうのだから。

「……はあ……ブランターク殿、一緒に報告にいこうや」

「すまねえ、ダンテ」

こうしてサンデン子爵領にある魔物の領域は、無事に解放された。

こんな結果になってしまったので、俺たちは報告をブランタークさんとダンテさんに任せて逃げてしまったのだけど、サンデン子爵はほぼ全焼した魔物の領域の前で真っ白になっており、ブランタークさんとダンテさんの報告も全然耳に入ってなかったそうだ。

『見事に全部燃えてしまいましたが、考えようによっては、すぐに町や農地が作れると思うんですよね』

呆然とするサンデン子爵に、ブランタークさんが懸命にフォローを入れるが、彼は全然反応しなかったらしい。

さすがのアームストロング軍務卿も乾いた笑顔を浮かべていたそうだが、魔物の領域は解放して、目標は無事に達成しているから文句も言えない。

付随条件として『森を燃やすな!』という契約書を交わしていれば別だけど、そんな契約書は交わしていない。

「ただ、インテリジェンスマンの体液は惜しかったな」

「そんなに貴重なものなんですか?」

「ああ、希少で効果絶大な魔法薬の材料だからな。もし一体分手に入ったら、十億セントくらいはする」

「高っ!」

もしインテリジェンスマンの体液が十億セントで売れたら、サンデン子爵家に二~三億セントが入った計算か。

そりゃあ、呆然とするよな。

まさか、代々の宿願だった魔物の領域の解放を成し遂げた俺たちに文句を言うわけにもいかないのだから。

「魔物の領域は無事に解放されましたし、色々と燃えたものはいい肥料になると思いますよ。焼き畑農業的な?」

「……辺境伯様、それ、サンデン子爵に直接言ってやれよ。泣いて喜ぶぜ」

「嫌ですよ。お礼とか言われて、娘を押し付けられるかもしれないし」

俺とサンデン子爵。

もう顔を合わせない方が、お互い幸せだと思うんだ。

「まあ、この件はこれで終わりだ。とはいえ、ダンテには迷惑をかけちまったな」

「それは悪かったと思っています」

キンブリーさんと違って、ダンテさんは常識人だったからなぁ。

ブランタークさんの報告につき合うくらいだし。

「辺境伯様、ダンテの頼みを一つ聞いてくれないか? 俺、頼まれたんだよ」

「ダンテさんのお願いですか? まあいいですよ」

今度、効率的な『爆縮』を教えてもらう予定だし、ダンテさんは常識人だから。

「そうか、受け入れてもらえてよかった。おい、アリス!」

「はい! お師匠様、よろしくお願いします」

「えっ? お師匠様?」

どうしてブランタークさんが、ダンテさんの娘であるアリスと一緒にいるんだ?

というか、お師匠様ってどういうことなんだ?

「アリスはなかなか『爆縮』を覚えられなくてな。それが、辺境伯様が指示したら一発で使えるようになっただろう。ダンテが、『親の自分が教えると甘くなるし、他の優れた魔法使いをよく見た方がいいだろうから、アリスを頼む』ってさ。辺境伯様、ダンテの願いを一つ聞くって言ったじゃないか」

「わかりました」

別に嫌ってわけじゃないけど、ちょっと予想外のお願いで驚いただけだ。

弟子ならアグネスたちとケントもいるので、特に問題はない。

「お師匠様のおかげで、私は『爆縮』を使えるようになりました。私が魔法使いとして大成するには、父ではなくお師匠様の指導が必要不可欠だと思ったのです。よろしくお願いします!」

「おっ、おう」

この子、こんなテンションの子だったかな?

まあ師匠も、『弟子に教えることで自分の修行にもなる』って言っていたからこれでいいんだ。

サンデン子爵に娘を押し付けられるのは嫌だけど、ダンテさんの娘を魔法使いの弟子にするのは問題ない。

……アグネスたち……きっと問題ないさ!