#1:『長屋船、銀河へ飛ぶ!』
#1:『長屋船、銀河へ飛ぶ!』
『Beyond the Frontier:第4章 〜銀河大航海編〜』
act1:『長屋船、銀河へ飛ぶ!』
【プロローグ:銀河の歴史と風穴の系譜】
ナレーション(ナオの声):
「——時は、宇宙大航海時代。
種の保存のため、大小さまざまな恒星間移民船団が母なる地球を後にし、銀河の各地に新たな母星を打ち立てんと旅立った。
『たかまがはら』と『とよあしはら』。
かつて同じ民族でありながら、異なる移民先を目指した二つの拠点は、やがてイデオロギーの違いから対立。
『たかまがはら』は、『とよあしはら』に対して度重なる攻撃を仕掛けた。
しかし、『とよあしはら』も黙って指を咥えていたわけではなかった。
ストリートのバッドボーイ、アンドール・ハンスが仲間を募り、立ち上げた『風穴工房』。
彼らは迫りくる侵略者に対し、泥に塗れた重機と『完全不殺』の心構えをもって、敵を次々と無力化していったのだ。
やがて、『たかまがはら』の観察者であったカルステン・ハイネがナディア・カゼハラと結ばれ、その血と魂はナギ、そしてナオへと受け継がれていった。
そして今——戦乱の嵐を乗り越えた大地から、新たな風が銀河の海へと解き放たれる」
【登場人物】
カルステン・ハイネ4世(フォース / 16):ルークとツムギの息子。父譲りの気品と母譲りの凛とした空気を持つが、実体は従姉妹たちに振り回される苦労性の見習い重機乗り。
ナディア・ナミ・ハイネ(16):ナオとレンの娘。祖母「ナミ」の名を冠する理論派メカニック&オペレーター。算術思考とパイプレンチを武器にフォースを圧倒する。
ユウナ・ピリカ・ハイネ(16
):ナオとカエデの娘。大地の恵み「ピリカ」の名を持つ天然朗らかな少女。全銀河を揺らす『海賊放送ラジオ・ウィンドブラスト』の歌姫。
ナオ・カルステン・ハイネ(40代):長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』の艦長。
ルーク・ハイネ&ツムギ・ナディア・ハイネ:フォースの両親。厳しくも温かく息子の旅立ちを見守る。
【本編シナリオ】
◯ 恒星間長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』・甲板ドック(朝)
「フォース! ボルトの締め付けトルクが算術的に3.2%足りないわ! それでカルステン家の重機乗りを名乗るつもり!?」
ドックの金属床に、キンッと甲高い音が響く。
パイプレンチを片手に、濃紺の作業着を着こなした少女——ナディアが、ホログラムモニターを指差しながら眉をひそめていた。
フォース(ワークレイバーの足元で汗を拭い、照れくさそうにメガネを押し上げて)
「わ、分かってるよナディア! でもこの過剰炉の圧送弁は、手応えの遊びを残しておかないと、急激な重力転換の時に固着しちゃうんだ。父さん(ルーク)からもそう教わったし……」
ナディア(腕を組み、メガネの奥の瞳を光らせて)
「ふん、ルーク伯父様の感覚理論ね。……まあいいわ。でも、完璧な数値の裏付けがあってこその応用よ。忘れないで」
口調は厳しいが、ナディアの瞳にはフォースに対する絶対の信頼と、どこか秘められた甘い熱が宿っている。
そこへ、焼きたての甘いスパイスパンの籠を抱えたユウナが、軽やかな足取りでパタパタと駆け寄ってきた。
ユウナ(とびきりの笑顔でパンを突き出し)
「ふたりとも、はーい朝ごはんの準備ができたよ〜☆ カエデお母直伝の特製スパイスパン! フォース、はい『あ〜ん』して☆」
フォース(顔を真っ赤にして慌てて手を振り)
「ユ、ユウナ!? ナディアの前でそんな……っ! 自分で食べられるよ!」
ナディア(素早く二人の間に割り込み、ナオ譲りの過剰算術顔で)
「ちょっとユウナ! 作業中のパイロットへの『あ〜ん』は、精神的動揺による作業効率低下の確率が87.5%! 算術的に許可できません!」
ユウナ(首をコテンと傾げ、小悪魔的に微笑んで)
「え〜? ナディアちゃんヤキモチ〜? ふふ、フォースが元気にならないと、この船の初めての出航作業が上手くいかないもんね♪」
フォース(左右からの視線と距離感にたじたじになって)
「あ、あああ……出航前から僕のメンタル回路がキャパシティ・オーバーフローを起こしそうだ……!」
◯ 大地との別れ、そして長屋の絆
中央広場(長屋の居間)では、出航の準備を終えた親世代が集まっていた。
昔ながらの長屋の佇まいをそのまま巨大な宙艇へと組み上げた『グラン・ウィンドブラストMk-III』。
その縁側には、艦長となったナオ、ドックを統括するレン、食堂を仕切るカエデ、そして静かに刀を抱くツムギと、今や立派な風穴工房の要となったルークの姿があった。
ルーク(フォースの肩にドッシリと手を置き、厳しくも温かい眼差しで)
「……フォース。僕がかつて過激派の刺客として愚かな戦いに身を投じていた時、この風穴工房の温もりと馬車馬労働が僕を救ってくれた。……お前が乗る重機は、人を奪うためのものではない。大地を、そして人を救うための『工具』だ。忘れるな」
ツムギ(フォースの服の襟元を優しく整えながら)
「私の『月影』の気迫と、風穴の不殺の信念……あなたなら誇り高く貫けるわ。いってらっしゃい、フォース」
フォース(両親の言葉に胸を熱くし、力強く頷いて)
「はい! 父さん、母さん! 僕、風穴工房の重機乗りとして……絶対に誰も傷つけず、全銀河に新しい風を吹かせてみせます!」
ナオ(メガネをクイッと上げ、万感を込めて手を高く掲げ)
「よし……! 全員、持ち場へつけ! 恒星間長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』、過剰粒子エンジン点火!……大航海へ向けて、出航だッ!!」
◯ 銀河へ放たれる風と歌声
ゴオオオオオッッ……!!!!
開拓惑星の大地を揺らし、長屋船の底面から清冽な過剰粒子の光が噴き出す。
古き良き長屋の屋根と、最新鋭の星間ドライブユニットが融合した巨大な船体が、ゆっくりと、しかし圧倒的な力強さで空へと浮き上がっていく。
大気圏を突破し、漆黒の宇宙(そら)へと躍り出た『グラン・ウィンドブラストMk-III』。
窓の外には、見渡す限りの煌めく星海が広がっていた。
フォースは未完成の愛機『ヴェスター・ウィンド・ワークレイバー・フルカスタム』のコックピットに乗り込み、操縦桿を握り締める。
その時、船内の広域放送スピーカーから、ノイズを突き破って可憐で力強い歌声が響き渡った。
ユウナがマイクを握り、全銀河へと向けて解き放つ海賊放送『ラジオ・ウィンドブラスト』の第一声である!
ユウナ(マイクを抱きしめ、全銀河の星々へ届けるように)
『——聞こえますか、全銀河のみなさん! 私たちは風穴工房! 抑圧された星々に温かい風と、美味しい料理と、希望の歌を届ける長屋船です!』
♪〜星の海へ飛び出そう 泥だらけの手を繋いで
風穴をあけるのは 私たちの愛と重機(うた)〜
ユウナの歌声が過剰粒子に乗って宇宙空間へと広がり、オペレーター席のナディアが過剰炉の数値を完璧にコントロールしていく。
ナディア(インカム越しにフォースへ語りかけ)
『フォース! 過剰重力グリッド、同調率100%よ! いつでも動けるわ!』
フォース(コックピットの中で力強く微笑み、操縦桿を力強く押し込んで)
「了解ナディア、サンキュー、ユウナ! ……行くぞ、僕たちの新しい大航海へ!!」
ワークレイバー改の双腕が、星海の光を受けて眩しく輝く。
ハンスの不殺の魂、ナオとレンの算術的技術、カエデのー包容力、そしてツムギとルークの愛を受け継いだ次世代の若者たち。
『グラン・ウィンドブラストMk-III』は、全銀河へ希望の風を届けるため、今、栄光の大航海へと飛び立つのだった——!
つづく。