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#7:『遠ざかる背中と、手の届かない雲の上』

Beyond The Frontier:第4章 〜銀河大航海編〜 — www.pixiv.net · All chapters

#7:『遠ざかる背中と、手の届かない雲の上』

『Beyond the Frontier:第4章 〜銀河大航海編〜』

​act7:『遠ざかる背中と、手の届かない雲の上』

​【登場人物】

​カルステン・ハイネ4世(フォース / 16):主人公。全銀河の偶像(アイドル)へと駆け上がっていくユウナの圧倒的な輝きに圧倒され、「自分はただの重機乗りの見習いではないか」という切ない疎外感と焦燥に駆られる少年。

​ユウナ・ピリカ・ハイネ(16):『ラジオ・ウィンドブラスト』の歌姫。本人はいつものようにフォースを大切に思っているが、銀河規模の熱狂と多忙なスケジュールにより、次第に長屋の縁側から遠い存在へと祭り上げられていく。

​ナディア・ナミ・ハイネ(16):オペレーター。ユウナの輝きに戸惑うフォースの傍らで、変わらぬ理論的サポートと、ほんの少しの独占欲(?)を覗かせるヒロイン。

​ルーク&ツムギ(親世代):遠ざかる背中に寂しさを覚える息子の姿を、温かく見守る両親。

​【本編シナリオ】

​◯ 長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』・中央広場(中継モニター前)

​「——さあ、今夜も全銀河の星々へ届けるよ! 『ラジオ・ウィンドブラスト』、スペシャル・ギャラクシー中継スタート!」

​長屋船の中央広場に設置された特設巨大ホログラムモニター。

そこに映し出されたユウナは、かつての開拓地の素朴な少女の面影を大きく超え、銀河全体の偶像(アイドル)として、星屑のドレスに身を包み眩い光を放っていた。

​モニターの向こうでは、幾千万の観客が歓声を上げ、ペンライトの光が銀河の星屑のように揺らめいている。

​広場の隅で、フォースはその圧倒的な光景をただ呆然と見上げていた。

​フォース(心の中で呟き、自分のオイルまみれの作業着の裾を見下ろし)

「(……すごいよ、ユウナ。……あんなに遠くへ行ってしまったんだな。あの眩しいステージの光は、僕たちの長屋の縁側からは、もう何光年も離れた雲の上だ……)」

​いつもなら「フォース、見ててね☆」と自分だけに向けられたはずの笑顔が、今は銀河のすべての人々に向けて注がれている。

胸の奥にポッカリと穴が空いたような、切なくも冷たい寂しさがフォースの心を締め付けた。

​◯ 変わらない日常と、すれ違う想い

​中継が終わり、夜の静けさが戻った長屋の食堂。

​カエデ特製のスパイス煮込みが湯気を立てているが、今日の食卓にはどこか少しだけ静かな空気が流れていた。

​ルーク(少し離れた席から、フォースの複雑そうな横顔を見つめ)

「……フォース。ユウナの活躍を祝ってやらんのか。あいつは今や、お前たちのラジオを全銀河に広げる最高の看板娘だぞ」

​フォース(視線を皿に落としたまま、力なく首を振って)

「……分かってるよ、父さん。ユウナが頑張っているのは嬉しいんだ。ただ……あまりにも遠くへ行ってしまった気がしてさ。僕が隣でワークレイバーをいじって、ボロを出して笑われているような日常が、あの子にはもう似合わないんじゃないかって……」

​ツムギ(冷徹な紅茶を一口飲み、静かに諭すように)

「弱音を吐くのはおしまいよ、フォース。あの子の背中が遠ざかるのを指をくわえて見ているだけなら、あなたは永遠に『ただの見習い』のままよ」

​その時、ガチャリと食堂の引き戸が開き、スケジュールの合間を縫ってホログラム通信で戻ってきたユウナの姿が小窓のモニターに映し出された。

​ユウナ(少し疲れた顔を見せつつも、パッと花が咲くような笑顔で)

「みんな、ただいま〜☆ ……って、あれ? フォース、どうしたの? そんな難しそうな顔をして」

​フォース(反射的に笑顔を取り繕い)

「あ、ああ、ユウナ! お疲れ様、相変わらず大人気だな。……その、体に障るから無理しすぎないでくれよ」

​ユウナ(少しだけ寂しそうに目を伏せ、しかしすぐに元気いっぱいに)

「うん! 大丈夫だよ! だって、私が歌うのは……みんなに、そしてフォースに届けるためだもん! ……またすぐに連絡するね、バイバイ☆」

​通信がプツリと切れる。

ユウナもまた、銀河の偶像として背負う重圧と戦いながら、必死にフォースたちのいる「長屋」へ繋がろうとしていた——そのすれ違いに、フォースはまだ気づけずにいた。

​◯ ナディアの算術的喝(かつ)

​食堂を出て、夜風に吹かれようと甲板デッキの縁側へ歩いていくフォース。

その背中に、コツコツと足音が追いついてきた。

​ナディア(手に缶コーヒーを2本持ち、そのうちの1本をフォースの頬にペタッと押し当てて)

「はい、これ。……ため息の回数が算術的限界値を超えているわよ、フォース」

​フォース(缶を受け取り、苦笑いして)

「ありがとう、ナディア。……変だな。ユウナがあんなに輝いてるんだから、誇らしく思うべきなのにさ」

​ナディア(少し不満そうに頬を膨らませ、フォースの隣に腰掛け)

「……バカね。ユウナがあんな風に祭り上げられているのは、彼女の歌声が素晴らしいからだけじゃないわ。彼女の背中を、この長屋船が……そして、あの馬鹿みたいに直向きなあなたの一歩一歩が、ずっと支えているからよ」

​フォース

「僕が……支えている?」

​ナディア(真っ直ぐにフォースの目を覗き込み、強い光を宿した瞳で言い放つ)

「そうよ。ユウナがどんなに雲の上のアイドルになろうと、彼女の帰る場所はこの長屋の縁側しかないの。それを『遠い』なんて言って諦めるなら……私、そんな情けないフォースを見るのは嫌いだからね!」

​ナディアの言葉は厳しかったが、その奥にはフォースを誰よりも深く見つめ、奮い立たせようとする熱い想いが込められていた。

​フォース(ナディアの真剣な横顔を見つめ、ハッと息を呑んで)

「……ナディア。そうだよね……僕、ユウナの背中を見送るだけで、自分で勝手に『追いつけない』って決めつけてたんだ」

​雲の上の存在なんかじゃない。同じ長屋の屋根の下で、同じ朝ごはんを食べ、同じ星空を見上げていた大切な家族(仲間)だ。

​フォース(立ち上がり、夜空の彼方——ユウナのいる星の方向を強く見据えて)

「待ってろよ、ユウナ。……いつか僕が、不殺の重機をどこまでも走らせて、君のいるステージの真下まで追いついてみせる!」

​そのフォースの頼もしい横顔を、ナディアは少しだけ胸をときめかせながら、そしてほんの少しだけ頬を赤らめながら見守っていた。

​遠ざかるユウナの背中。

しかしそれは絶望の距離ではなく、次なる試練と、主人公の「真の覚醒」へと繋がる切なくも熱い銀河の序章であった——。

​

つづく。