#8:『オペレーターの算術的嫉妬』
#8:『オペレーターの算術的嫉妬』
『Beyond the Frontier:第4章 〜銀河大航海編〜』
act8:『オペレーターの算術的嫉妬』
【登場人物】
カルステン・ハイネ4世(フォース / 16):主人公。重機整備と操縦演舞に没頭するも、ナディアの突然の理路整然とした(?)猛接近と怒涛の論理展開に翻弄される。
ナディア・ナミ・ハイネ(16):チーフオペレーター&メカニック。ユウナが遠くのアイドルとして祭り上げられる中、「フォースの隣にいるのは私」とばかりに算術的嫉妬を爆発させ、猛攻を仕掛ける理系ツンデレヒロイン。
ユウナ・ピリカ・ハイネ(16):ホログラム通信の向こうで歌姫として大忙しだが、フォースとナディアの距離感の変化に敏感なアンテナを張り巡らせる天然アイドル。
ナオ&レン(親世代):ナディアのあまりにもナオ譲りな「過剰算術論法」とレン譲りの「押し」の強さを見て、苦笑いと懐かしさに包まれる両親。
【本編シナリオ】
◯ 長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』・第2整備ドック(昼)
ガチャン、スパナッ……!
ワークレイバー改・フルカスタムの足回りで、フォースは油圧配管の最終微調整を行っていた。
「よし……第8宙域の重力変動に合わせたサスペンションのトルク調整、完了だ。これで次のデブリ解体作業もスムーズに行けるぞ」
フォースが汗を拭いながらコックピットから降りてくると、ドックの柱の陰から、ホログラムタブレットを両手で抱えたナディアがスッと無音で現れた。
ナディア(眼鏡の奥の瞳を青く光らせ、冷酷なまでに真剣な表情で)
「……フォース。算術的緊急報告があるわ」
フォース(びくっと肩を跳ね上がらせて)
「うおっ!? ナ、ナディア……? 緊急報告って、また企業連合の検閲艦隊でも現れたのか!?」
ナディアは無言のまま距離を詰め、フォースをワークレイバーの巨大な装甲壁へと追い詰めた。いわゆる「重機壁ドン」の体勢である。
ナディア(タブレットの画面をフォースの目の前に突き出し)
「いいえ。企業連合ではなく、我が長屋船内部における『カルステン一族の愛の感情エネルギー配分率』の重篤な偏りについての報告よ」
フォース(至近距離のナディアの整った顔と甘い香りに赤面し)
「え、ええっ……!? か、感情エネルギー……配分率!?」
◯ 算術的理論展開(猛アタック)の開幕
ナディア(指をパチンと鳴らし、ホログラムの複雑な三次元グラフを展開して)
「現在、ユウナは全銀河の偶像として多忙を極め、あんたと直接触れ合える算術的時間率は【日平均1.4%】まで激減しているわ。……対して、オペレーターでありメカニックであるあたしが、あんたと機体調整および作戦行動を共にする時間は【日平均68.5%】!」
フォース(混乱しながら)
「は、はい……いつもナディアには助けてもらってて、感謝してるけど……」
ナディア(ぐっと顔を近づけ、逃げ場を完全に塞いで)
「感謝だけじゃ算術的におかしいでしょう!? いい!? そもそもあたしたちは『いとこ同士』! つまり結婚したとしても、あたしの苗字は【ハイネ】のまま! 戸籍変更手続きの事務的コストも、印鑑の彫り直し費用も、算術的に言って【ゼロ】なのよ!」
フォース(目を目一杯見開いて絶叫)
「け……っ!? けけけけ、結婚の事務的コストぉぉぉっ!?? な、何の話をしてるのナディア!?」
ナディア(顔を耳まで真っ赤にしつつも、絶対に視線を逸らさずに)
「……嫉妬よ! 算術的・論理的・不可逆的な嫉妬!! ユウナが雲の上のアイドルになってもあんたがメソメソ見てるから、あたしが『一番近くにいるパートナー』として、あんたの感情の100%を占有するための論理防衛行動を起こしてるの!!」
あまりにも理路整然と(?)畳みかけられる愛の告白と猛アタック。
フォースの脳内CPUは、かつての伯父ナオと同じく完全に熱暴走を起こし、目はぐるぐると回り始めていた。
◯ 画面越しの歌姫と、親たちの爆笑
その時、ドックの壁掛けモニターにピポン! と通信が入った。
星間ツアーの移動の合間に、休憩に入ったユウナからのホログラム通信だった。
ユウナ(通信画面に飛び込んできて☆)
『ふは〜っ! フォース、ナディアちゃ〜ん! 今日のツアー第1公演終わったよ〜……って、あれええぇぇっ!?』
画面の向こうでユウナが見たのは、フォースを壁際に追い詰め、至近距離で真っ赤な顔をして胸元を掴みかからんばかりのナディアの姿だった。
ユウナ(頬をぷくーっと膨らませて大抗議)
『ちょっとナディアちゃん! 私が歌のお仕事で離れてる隙に、フォースに何のお勉強(?)教えてるの〜〜っ!? ズルい! 私も長屋に帰ってフォースに『あ〜ん』したいのに〜〜っ!』
ナディア(ツンと胸を張り、メガネをくいっと押し上げて)
『ズルくありません! これは限られたリソースにおける、現場オペレーターの正当な『権利行使』です! ユウナがアイドルをやっている間、フォースの油圧と心臓を支えるのはあたしの役割よ!』
フォース(二人の視線と主張の挟み撃ちに頭を抱え)
「あああ……助けてくれぇぇ……! 宇宙空間のデブリ解体より、この長屋の愛の算術方程式の方が何倍も難解だぁぁぁっ!!」
ドックの2階キャットウォーク(作業通路)では、手すりに肘をついたナオとレンが、お茶とスパナを片手にその光景を眺めていた。
レン(肘でナオの脇腹を小突き、大爆笑)
「見た!? ナオ! あの子のあの無茶苦茶な理論攻勢! 完全に昔のあんたの算術バカっぷりと、あたしの押し付け強引さが合体してるわよ!」
ナオ(メガネをクイッと光らせ、しみじみと)
「ふむ……算術的に言って、あの論理の飛躍と情熱の同調率……間違いなく我が娘ナディアだ。フォースの脳内CPUがフリーズする確率、99.9%だな」
◯ 絆の再確認と、新しい一歩
散々ナディアの過剰な算術アタック(とユウナの画面越しの割り込み)に翻弄されたフォースだったが、夕暮れ時、ドックの縁側に座って冷たいスパイスドリンクを二人で飲む頃には、いつもの穏やかな空気が戻っていた。
フォース(ドリンクを一口飲み、隣のナディアを見つめて)
「……ありがとう、ナディア」
ナディア(少し気まずそうに下を向き、ストローを弄びながら)
「……何がよ。さっきのは、その……あたしの計算回路が少しオーバーヒートしただけなんだから……」
フォース(優しく微笑み、真っ直ぐにナディアの目を見て)
「ううん。僕がユウナの背中を見て落ち込んでたの、元気づけようとしてくれたんだろ? ……それに、ナディアがいてくれるから、僕は安心してワークレイバーの操縦に集中できるんだ。本当に……最高のパートナーだよ」
ナディア(不意打ちの『最高のパートナー』のお礼に、顔を爆発させて真っ赤になり)
「っ〜〜〜〜っ! 相変わらず無自覚な天然バカっ!! ほんと、カルステン家の男はタチが悪いわね……っ!」
照れ隠しにフォースの肩をポンポン(若干強めに)叩くナディア。
遠ざかるユウナへの切なさを乗り越え、一番近くで自分を支えてくれるナディアの熱い想いと算術的アピールを受け止めたフォース。
長屋船『グラン・ウィンドブラストMk-III』の三角関係は、より甘酸ましく、より賑やかに、大宇宙の航海を彩っていくのだった——!
つづく。