第14話 日曜日3
第14話 日曜日3
セージの保存方法は知らないけど、とりあえず水を入れたコップに挿して、テーブルの上に置いた。 でも牛丼は諦めろと言われたけど、そうはいかない。 フライパンに油を熱し、牛丼をしっかりと炒めて米の水分を飛ばす。醤油と甜麺醤で味を整え、キムチとごま油を加える。シュレッドチーズをふりかけて、溶けてきたところで皿に盛る。最後に、揉んだ味付き海苔をパラパラとかける。 やっぱり香月が後ろから覗き込んでくるので、ちょっと作りにくかった。「おいしそうだな」「口つけてない牛丼だったら、半分こできたんだけどね」 テーブルに皿とスプーンを置く。 金曜の夜以来のご飯だ。意識した途端、空腹で倒れそうになった。「気にしないから、一口」 口を開けて待たれて、なにを求められているのかに気づいて、たじろいでしまった。 チーズも海苔もあるあたりをすくって、口に入れる。「おお、おいしい」 幸せそうに食べている。 一口あげたしと自分も食を進めていたら、もう一口とねだられる。 渋々あげると、おいしいおいしいと頷く。大きな小鳥に給餌してるみたいだな…。 もう一口食べるのかなと待っていたけれど、香月は、荷物を取りに帰ると立ち上がった。「荷物?」「明日、月曜だろ。制服とか持ってくる」「え」「一人にするのは心配だから、今日はここに泊まらせろ。困るなら、また朝迎えに来るけど」 困らないというか、一人でいるよりよっぽどいいし、ありがたいけれど。「そんなに甘えらんないよ」「なら成立だな」 言うなり、風のように玄関を出て行った。 金曜の朝を思い出した。 香月も、睦月と一緒なのかもしれない。一人で食事をするのが苦手なところとか、他にも、知らないところで似ているところがあるのかもしれない。 ただのクラスメイトが引き起こした謎の現象に、そこまで首を突っ込む人だとは思わなかったな。 香月にとっては暇潰しのひとつだったかもしれないけれど、睦月の知らないところで色々調べて、対策を探そうとしてくれた人がいた。その存在に、救われた。 何事にも邪魔されないあっけらかんとした物言いも、清々しくていい。 食べ終わったらリビングを片付けよう、と思った。 不思議なクラスメイトを迎え入れるために。「今日は行けなくなった」 晶にメッセージを送ると、即座に返事が届く。「ウッソ」「悪い」「ワオ」 特段問題なさそうなので、アプリを閉じる。もう14時過ぎか。 制服やら諸々を用意して、庭でハーブを摘んでから、車に乗る。「じゃあ、明日の朝に」 運転手に迎車を依頼して、エントランスで睦月の家の部屋番号を呼び出した。 動画配信サービスの画面から、二人とも気になっていた映画を選ぶ。 立て続けに2本観たら、さすがに外が暗くなっていた。「腹減ったな、大通りのファミレスにでも行くか」 体を伸ばしながら誘うと、えっファミレスとか行くんだ…と、木之内の目が丸くなる。「そりゃ行くだろ。俺は木之内が想像しているような生活は、多分してないから」「多分…」「いいから、行くぞ」 木之内はちょっと待ってと慌てて自室に入り、黒いTシャツにジーンズの、こざっぱりした格好で出てきた。「スマホは?」「持った」「財布は?」「…持ちました」「よし」「…明日ヒロにお礼とお金…」 昼間、ジュースを買ってもらったと言う。「なら後で俺が連絡しておこうか。木之内の体調も報告するから」「ああ…ありがとう。本当に迷惑かけ通しでゴメン…」「いいから、行くぞ」 木之内の頭をポフポフと叩く。 玄関の鍵を閉めながら、ところで、大通りってどっち側に行くのと聞かれる。川の方? 駅を越えた方?「ああ、引っ越したばっかだから分からないか。この辺りを散歩してから行く?」「そうする」 二人並んで、春の生暖かい夜に繰り出した。