第6話 次の金曜日1
第6話 次の金曜日1
「ああっつう…」 起き抜けから暑い。頭が暑い。顔が暑い。胴体手足と全て暑い。 ああ暑い暑い暑い。暑いしか言えない。「ちょっと睦月、暑い暑いってうるさいよ。だからリビングのエアコンを付けっぱにしてるんじゃない」 朝からやめてよと母さんが怒る。「おれの部屋、エアコンの風が入ってこないんだもん」 だからここのところはドアを開けて寝ていたのだが、昨晩はうっかり閉めてしまっていた。 この家はそもそもは1LDKで、睦月の部屋は、元々ダイニングとして設計されたところを無理矢理壁を設けて居室に改装している。 窓付けのエアコンを設置するには狭く、配管を通せないので壁付けのエアコンはそもそも付けられない。「そこはほんと迂闊だった」 母が平謝りする。「いいけどさあ…あっつ」 うちわをあおぎながら扇風機も付ける。リビングは涼しくていい。「もうリビングで寝ようかな」「それはやめて」「じゃ母さんの部屋と交換」「それも無理。壁掛けの扇風機でも買う?」「ああ、団地で使ってたやつ?」 まあしばらくの辛抱よと言われて、不貞腐れながらトーストにブルーベリージャムを塗った。 職員室で図書館の扉をピックアップして、開錠する。 照明をつけて回って、カウンターのカレンダーを今日の日付にする。PCの電源を入れる。まだ誰もいない書庫を見回る。雑にしまわれた本を入れ直して、一息ついた。 ドアの開く音と共に「睦月」と呼ばれた。「早いね、おはよう」「おはよう」 夏伊は随分と晴れやかな表情だ。「もう退院してきたの。入院お疲れ様、よくなった?」「え、ああ、元気だよ」「それはよかったね」 本の返却? と聞くと、あ、いやと返される。 また後で来る、何時までいるのと聞くので、じゃあ昼までと返した。 昼を過ぎたので、図書館の鍵を閉めて、職員室に戻す。 今日はバスで帰るけどと、用件を促すと、夏伊もバスに乗ると言う。「珍しいね」「たまにはね」 正門までの道がまた暑い。「ああ、あっつー」 シャツの首元をパタパタさせながら口に出すと、「睦月は暑がりなんだな」と笑われた。 それを横目で見る。 夏伊は本当にここのところ、性格が変わって、まるで別人みたいだ。最近だって、先週はぼうっとしていたかと思ったら、今週は変に触ってきたり、笑顔だったり。 そんなに大変な手術でもなかったろうに…と思ったところで、ふと、大変な病気の可能性が頭をよぎった。だから情緒不安定なのか…? などと思っていたら、「睦月の家に行っていい?」と聞かれた。 火曜のことを思い出して少しドキッとしたのを、いやいや、人のいないところで話をしたいだけかも、と払いのけた。「いいよ。退院祝いで夕飯食べてく? 母さんに連絡するよ」「…今日はいいよ」 手にしたスマホを抑えて、とても優しく笑いかける。「睦月に会えて嬉しい」「あ…、そう…」 太陽よりも眩しく笑っている。これは何なんだ。どういうシチュエーションだ。 自分だけにそんなに笑いかけてくるなんて変なの。でも何だか胸がくすぐったい。気恥ずかしいのに、少し嬉しいような気もする。