第17話 文化祭2
第17話 文化祭2
文化祭当日。 賑わう学校の玄関で、清風が待ち構えているのを見て、うっとなる。「睦月、元気にしてたー?」「普通」「最近会えなかったからさみしかったでしょ」「そんなわけないじゃん」 つっけんどんに返す。「ちぇ、つまんねーの」 清風がぶつぶつと言った。「夏伊くん、さすが似合うねー」 クラスの女性陣が集まってきゃいきゃいとはしゃぐ。「そう?」 教室に入ってきたやたら長身のメイドが、こちらに流し目を寄越して微笑する。「さあさ、男子は次はヘアセット!」 裏方スタッフが接客係を連れていくのを、横目で追った。「むっちゃん、もうむっちゃんにもバリスタして欲しい! 頼む!」 当日になってもコーヒー指南をしていたら、バリスタ係のクラスメイトに懇願される。「当日の運営スタッフからは外すからって約束で、昼に練習時間取ってたはず…」 挽いたコーヒーにお湯を落としながら、苦言を呈する。「だけどむっちゃんが淹れるとおいしいから! 一時間…いや二時間だけでいいから!」「長くなってるじゃん」「頼むよ!!」 今にも土下座しそうな勢いで言われて困惑する。夏伊がクラスに拘束されている間、清風がおかしな事をしに来ないか見張りたいと思っているのに。 厳しい気持ちになりながらコーヒーをカップに注ぐと、ひとつがひょいと持ち上げられた。「二時間くらい受けてやれよ」 別室に行ったはずの夏伊がいた。「うん、確かにいい香りだな」 そしてカップを傾ける。「おいしい」「なー! むっちゃんのコーヒーはおいしい! 皆にもこの味を愉しんでもらいたい!」「なら、俺が働いてる間だけならいい。それ以外の時間は駄目だ」「分かった! 恩に着ます!!」 本人を差し置いて、勝手に話が進んでいく。「……もう…分かったよ。それで手打ちにする」「むっちゃああああん! ありがとな!!」 バリスタ係にハグされそうになるのを、夏伊が制した。「俺の管理下のスタッフだ。お触りは厳禁」 美麗のメイドが高校生を守る姿に、クラスの女子がまた黄色い悲鳴を上げる。 ヒロは別シフトで夕方まで一緒に回れないので、二人で他のクラスの出典を巡る話にはなった。けど実際開店してみると、カフェの設定に食いついた生徒が集まったり、先生方が団体でコーヒーを飲みに来たりして、二時間経っても忙しくて抜けられない。 夏伊がトイレに行ってくると言って、先にクラスを離れた。 喧騒からやや離れたトイレで、メイド姿で用を足す。 服を汚したら大変なので、気をつけながら終わらせた。 ふいに、横に生徒がいた事に気付く。「すっげ、メイド服着こなしてんじゃん。さすがー、よく似合ってんね」 コイツは。「…立花清風」「知っててくれてんだ、うっれし! 香月クンに覚えてもらえるなんて、光栄だなー」 一度サシで話したかったんだよねーと、ニヤニヤ笑う。 いちいち、鼻につく話し方をする。受け答えするのも面倒なので、黙って手を洗う。「香月クンってセフレいっぱいいるんでしょ、羨ましいなー。A組にもいるでしょ、木之内睦月とか」 泡を流していた手が止まる。「…俺と睦月は何の関係もない。余計な詮索するな。それより、睦月を大切に扱えよ」「力づくで押し倒すなって事? じゃあ、図書館で大切に扱おっかな」 今度は、立花清風の顔を正面に捉えた。「何だって?」「図書館って、覚えてない? 夏休み中にあんたらがいちゃついてたアレだよ」 話をダラダラ続けようとするのを止める。「…力づくってどういう事だ?」 睦月の肩の痣が、脳裏に蘇る。 立花清風の目が、キラリと紫に輝いた。「その目…」「お前、睦月とおんなじ勘違いしてんだね」 驚いた、平和だねー。悪魔なんて睦月以外にもそりゃいるよ。まあ俺は、純潔で夢魔より当然上級だけど? 清風が一歩近づく。「睦月の秘密を知りたくない?」 お前の脳裏にブチ込んでやるよ、ほら、握手しようぜ。