第20話 大寒波2
第20話 大寒波2
街が暗い。雪はもう、脛のあたりまで積もっていた。 正直な所、まだ11月だしと、寒波だ大雪だというのを舐めていた。電車はすでに計画運休に入っていて、タクシーに乗りたくても、捕まるはずもない。 長時間かけて晶を説得していた結果、夏伊は帰宅難民となっていた。 もしくは晶は、この雪で夏伊がホテルに出戻ってくると見越して、長期戦にもつれ込んでいたのかもしれないが。 電子音が遠くで聞こえる。 それがどんどん近づいてくるような感覚の後、あ、電話が鳴っている…と気付いた。 母さんかな…。 画面を確かめず、通話ボタンを押す。「……もしもし……」「こんな時間に、悪い」 くぐもった声が聞こえる。「…夏伊…?」「久しぶり」「久しぶり…。元気にしてた…?」 目を擦って体を起こす。「…元気だよ」「そっか…。よかった…」 リビングに移動して、ブラインドを少しめくって外を見る。 ぽすぽすと音を立てながら、雪がしっかりと積もっていた。「下」 え、とベランダの端の方から下を覗き見ると、雪が積もるビニール傘の下に、夏伊が立っていた。「あれっ」「よう」 傘の下にいる男が、見上げる。 慌てて「うちにおいでよ」と言っていた。 時刻は1時半になろうという所。 最初はいいと言っていたけれど、母さんいないから気にしないでと、無理矢理家に上げた。 聞けば、繁華街からこの雪の中、二時間以上かけて歩いて帰ってきたと言う。雪まみれのままでは風邪を引くからと、さっさと風呂に押しやった。「悪いな」 夏伊が風呂場から出てきた。声が聞きたくて、と謝る。「全然、いいよ。元気そうで何より」 手鍋で水を沸かして、紅茶の茶葉を2杯。 蒸らしてから、牛乳を入れて、再加熱する。「ああ、いい香り」 しばらく煮て、マグカップに茶漉しをセットして、注ぎ入れる。「蜂蜜入れちゃっていい?」「ありがとう」 スプーンがカチンと当たる音が、静かな室内に響く。「どうぞ」 夏伊の前にロイヤルミルクティーを置くと、しばらくマグカップを見つめていた。 マグカップを包む手が、しゅわしゅわと暖まってくる。温かな液体を口に含むと、全身の血液が勢いよく巡るような感覚に襲われる。 飲み込むと、体の深部からじわじわと熱が広がっていった。ふう、と一息ついて、夏伊に話しかける。「クラスの皆も気にしてないよ。皆、夏伊が戻ってくるのを待ってる」 夏伊がマグカップに口をつける。「…今日で停学が明ける。来週から学校に戻る」 そして、温まるな、と小さく言った。「あの時」 心臓が大きく鳴る。「あの時…、あの時。立花に、睦月とは付き合ってないと言われた」「……そう」 胸が、ドッドッと音を立てる。「なら馴れ馴れしく扱うなって、腹が立って、手が出た」「………そう」 きっと清風が、その話の中で夏伊を煽ったのだろう。あいつはそういうことをするから。「付き合っているだなんて、勘違いして、悪かった」「…ううん」 清風は富山に戻るって、と伝えると驚いた顔を見せた。「そうなのか。何で知ってるんだ?」「あ…。さっき外に出たら、いて。それだけ伝えにきたみたい」「そうか」 外は大粒の雪が降り続けている。「朝までここにいてもいいか」 使用人ももう寝ているだろうから、家の門が開かないと言う。 もちろん、と返した。 じゃあ布団を持ってこようと立ち上がったら、手首を掴まれた。「睦月」「…なに」 体が固まって、夏伊の方を向けない。「セフレとは縁を切った。これまで不潔だったのは否定しない。でも、今後はそういう事はしない」「……」「お前が好きだ」 途端、体がカッと熱くなる。 それに夏伊が反応した。「この香り…」 夏伊が慌てて鼻を押さえる。「あっ、どうしよう…大丈夫…?」 なのに、顔が真っ赤になるのを止められない。