第九話 襲撃
第九話 襲撃
キャプション注意書きは読まれましたか。
フィクションの二次創作です。
今回、2ページ目に殺人シーンがあります。飛ばしても読めるようには、たぶん、なっています。
なので、2ページ目はとくに自己責任でご覧下さい。
犬山 サイド
秋も深まり、日中ですら肌寒い日があるというのに、日付の変わるくらいの真夜中のビルの屋上は、もう風邪でもひきそうなくらいに寒い。肩を出したお気に入りの戦闘服でもあるチャイナドレスを着た犬山は、ぶるりを身を震わせた。
「寒いなあもう。もっと早い時間に来てくれたらいいのに、なんで真夜中にならないと動かないかな。もう一時間も待ってるじゃん」
口から漏れ出た苦情に、「そんな恰好してたら、いつだって寒いでしょ」と冷たく的確に返すのは、数歩離れて隣に立つ金髪の青年――神田笑一だった。彼は暖かそうなパーカーを着こんでいて、何とも言えない顔をして犬山はその服を見る。
おおよそボスの言いたいことを察しているだろうが、いや、察しているからこそ神田は無視を決め込む。
「ほら、たまきさん。エンジン音が聞こえてきましたよ。……あの黒塗りの車、ですね。助手席にロベルさんもいるし、間違いない」
横から見ていれば分かる。ポケットにいれっぱなしだった手を出して、口元をほころばせながら観察する神田は、いつにも増してやる気に満ちている。
「神田さん、めあから依頼者の資料もらったときから思ってたけどさ、今回のターゲットを狩るの、楽しみにしてるよね」
冷静な観察の結果から得た疑問を本人に開示すると、彼は少し驚いた顔をして振り向いた。
どうやら、無意識だったらしい。もしくは、隠しているつもりだったのか。
「珍しく自分が尋問したいなんて言い出してたしさ。あのときは皆がいたから聞かなかったけど、もしかして、昔言っていた神田さんの追っている獲物なの?あいつ」
組織のボスとして畳みかけてみれば、部下はいつになく含みのある笑みを浮かべてきた。人差し指を唇の前で立てて、「シー」とジェスチャーする。
おおよそ予想していた無言の返答に、犬山は肩をすくめた。
「なら、存分にやっちゃいなよ。ボクはいつも通りサポートに回るから、戦闘はよろしくね」
「はい。……ありがとうございます、たまきさん」
あなたがボスで、よかった。
小さく呟かれた言葉。
彼らの足元では、今夜のターゲットが車から降り、罠と化したビルへ自ら足を踏み入れていた。
バンデラス サイド
真夜中の人気のなくなってきたオフィス街の裏通りに、ガタイのいい男二人の影があった。
影は目的のビルの前に着くと、建物の縁に取り付けてある非常階段を確認する。
「ここですね、夢追さんの連絡によれば、最上階、階段の横から二つ目の窓が開いているとのことです」
「それじゃあ、念のために隣のビルから飛び移るぞ。相手が格下でも手を抜くなよ」
「もちろんですよ」
しっかりと頷く後輩の顔には油断も慢心も一切ない。頼もしい限り、と、ベルモンドは口角を上げた。
「ああ、そうだ。注意していなかったかな。きっと戦闘が始まったら、ゆめおはジョニー、神田はショーイチって呼ばなきゃ反応しないぞ」
隣のビルの階段を上りながらそう言えば、先を歩くオリバーは軽く振り向いてきた。
「気を付けます。たしか、お二人が昔から使っているコードネームですよね」
ちらと見せた瞳は、いつもの柔らかいグリーンから華やかな赤に色を変えていた。
目的の高さまで登ると、影は隣のビルへひらりと飛ぶ。ベルモンドは音もなく屋上に着地すると、流れるように縁にぶら下がった。ちょうど足先が階下の窓に届く。
そっと爪先で窓枠を横にずらせば、抵抗なく入口は開く。かちり、とだけ鍵が鳴いた。
それはまるで、罠が整っていく音のようだった。
夕刻 サイド
運転していた腹心の部下を連れて、ターゲットはビルの中へ入って行った。『獲物』の背中を静かにロベルは見送る。潜入先の組織内では一番の新入りであるロベルがここにいるのは、荷物持ちであり車の番をさせるためだ。ターゲットが一番の新入りを荷物持ちに使う、という噂は本当だった。
扉が閉まってから、ロベルはまず大きく伸びをした。もう後は仲間たちと合流して、準備が整い次第襲撃をかけるだけ。それまでの時間は、中にいる夢追が稼いでくれる。きっと彼は、時間を稼ぐというよりも、ただ仲間が来るまで罠の中で獲物が躍るのを楽しむのだろうが。
ロベルはビルの外側に取り付けられた非常階段を上りながら、事の経緯を思い返す。
まず、神楽めあが持ってきた依頼の内容は、簡潔に言えば『ターゲットから情報を絞り出して、消息不明にする』ことだ。ビルに誘い込んだのは、ただただこちらの都合である。
なにせ、先日起きた店への襲撃の実行犯が、このビルに居を構える二流の組織なのだ。
実行犯のリーダー格を捕らえて情報を吐きださせたところ、親組織からの指示で店を潰しにきたと分かった。名前までは割れたのだが、親組織について、そいつはまともな情報を持っていなかった。
そんな折に神楽めあからの依頼が来た。正確に言えば、犬山ボスが依頼を持ってきた。報酬として提示されたのが、彼らの追っている親組織の詳しい情報だったからだ。
ターゲットに情報を吐かせて消すのは簡単だ。その道のプロがいるのだから。問題となったのは、ターゲットをいかにして捉えるか、であった。
なにせ、奴は経済界の重鎮。簡単に人目につかない場所へ一人で来てくれたりはしない。かといって派手な動きをするわけにもいかない。犯人の特定をされなければ多少の痕跡を残してもいい、とは依頼者から言われている。裏を返せば、表社会はもとより裏社会であっても、誰の仕業か分からないようにしろと注文をつけられているのだ。
「来てくれないなら、誘えばいいんだよ」
作戦会議の場で言い放った犬山は、滅多にしない悪い顔をしていた。
「たまきさんもあんな顔するんやな」
「なにロベルさん、どんな顔してた?」
気づけば、もう数段で階段は終わり、屋上に着く。待ち構えていた我らのボスは半目になっていぶかしむような顔を向けていた。
「あっ、いえいえ、ナンデモないですよハイ」
ぼうっとしてこぼした独り言を聞かれて、ロベルは慌てて打ち消す。
「そんな大きな声で話して、もし聞かれたらどうするんですか。ほら、窓を蹴破る準備をしますよ。体に巻き付けて、ちゃんとナイフもすぐ出せるように構えてください。室内で着地したら、即座にロープを切って戦闘ですからね」
だいぶん後ろで、黙々と準備を進めている神田が注意をする。彼は腰のあたりにロープを巻いていて、ロベルもそばに置かれているもう一本のロープを手に取った。
「ロベルさん、初陣みたいなものですけど、緊張してます?」
「全然。窓を蹴破るのやってみたかったし、お店をぐちゃぐちゃにしてきたやつらに仕返しするん楽しみや。あの片付け大変やったでホンマに。ゆめちゃんに『半分以上はロベちゃんのせいだから』って怒られたしやぁ」
ロープの一端を鉄格子に括り付け、もう一端を自身の腰へ巻き付けながら、ロベルは素直な心情を述べる。
「それに、おれは大して戦闘するチャンスないと思う。事務所の外に逃げようとする奴らをせき止めるのが役目やって言われたけど、カンやけど、みんなが暴れたらこっちにまで敵が回ってこないんじゃないかなって」
「あはは。それはあり得る。まあでも、何人かはそちらに流れると思うので、適当に遊んでください」
ロープを切るための折り畳みナイフを握ってから、神田の顔を見る。
いつも通りににこやかな先輩がそこにいる。
とてもとても、これから敵を血の海に沈める顔ではない。
「うん、ま、軽く運動させてもらうわ」
軽く返すロベルもまた、血の海へ赴こうというノリでないのだった。
モブ サイド
窓ガラスが派手な音をたてて散り、出入口であるドアは轟音を立てて弾き飛ばされてきた。音に驚いているのはほんの数秒、すぐに臨戦態勢を取りながら周りを確認する。窓から侵入してきたのは、金髪とオレンジ頭の男二人。ドアからは、ガタイのいいこげ茶色の男と、同じくらい大きな、上品な緑のスーツの男が殴りこんでいた。
「なんだお前ら、どこの刺客だ」
ドスの効いた声をボスは張り上げながら立ち上がる。敵へ、山のように盛り上がった筋肉に、敵へ容赦なく振り下ろす鉄のような拳を見せつける。
俺も、ボスの横に立って構える。せめても露払いくらいの活躍をしたい。
「あれ、大して驚かないんですね。思っていたよりはいい抵抗してくれそうだな」
「偉そうにしやがってこの」
金髪が舐めた口を叩いてくると、部下が殴りかかっていく。それが、混戦の合図になった。手下たちは侵入者へ襲い掛かる。多勢に無勢だ、すぐに侵入者たちを床に這いつくばらせることだろう。
俺は、ボスとともに三日前に入ったばかりの新人、ゆめおを睨みつける。
「刺客?とんでもない。ただ、あなた方を潰そうと思いましてね、こうしてみんなで来たんですよ。あんたらの親組織まで平らげる、前菜、といったところかな。本命はそっちで、あんたらはただのついで」
嘲笑としか思えない表情で、新入りと思っていた敵は語る。
横からじりじりと間合いを詰める俺に、一切の興味を示さない。油断か、気づいていて放置しているのか。
「本命だと。こっちまで襲うつもりか?癪に障るガキだな」
お客も不機嫌そうに吐き捨てるが、奴は表情を崩さない。
「ええもちろん。せいぜい今のうちに強がってな。肉を切られてもその顔ができるかな」
――捉えた。
楽しそうに拷問の方法をしゃべっている間に、俺は距離を詰める。完全に間合いに捉えた瞬間に、俺の回し蹴りが相手のわき腹にヒットした。
はず、だった。
蹴りを入れると同時に、奴は俺に向かっていた。屈んで蹴りをよけ、曲げた膝のばねを使って俺の懐に入ってくる。
赤い爪が喉に迫ってくるのを認識したのが、最後だった。
*** ***
喉を掴み潰しながら、横に力を掛ける。
勢いよく床へ傾いた体に、頭部へ的確な蹴りを入れる。夢追の死角から襲おうとした敵は顔面から倒れた。ゆっくりと頭部から広がる血だまりの色だけは、きれいだった。
「だってほら、こうしておしゃべりしている間に、もう静かになっちゃうでしょ」
奴らのボスは周りを見て、喉を潰してもいないのにおかしな息の吐きだす音を立てた。
ちょうど、ナイフを逆手に持った神田が敵の頸動脈を切り裂いていた。首から噴水のごとく血を体外へまき散らし、膝から崩れ落ちる部下だった肉袋を見て、敵の戦力を思い知ったのか。
それとも、床が真っ赤に染まる中で薄ら笑いを浮かべている神田に、恐れをなしたのか。
やっと敵の実力を悟った獲物は脂汗を流しながら他を見るが、似たような光景が広がるばかりだ。
蹴破られたドア前に陣取るロベルも血だまりの中に立って、前に数体の人形が倒れている。
ベルモンドの周りには、乱暴に扱われて壊れた人形が転がっている。
オリバーはまさに雑魚を殴り飛ばしたところだった。伸びた凶器となる鋭い爪は、いや、手全体が敵の血で朱に染まっている。
事務所の中でまともに意識を保っているのは、侵入者たちと、敵組織の憐れなボスと、ターゲットくらいなものだった。
「おいっ!お前いつの間に……!」
静かに事を見守っていたターゲットが、突然声を上げた。
「ああ、今更気づいたんですか?あなたの部下は最初にやらせてもらいましたよ。だって、邪魔ですからね」
悪魔の笑みを浮かべながら、ゆっくりと神田が近寄って来る。一歩足を踏み出すごとに、ぴちゃ、と水の音がした。
「ガラス片って、便利ですよね。人の肌くらい簡単に裂ける」
そういう彼の手には、ターゲットの部下の喉に刺さっているのと同じ、ガラスの欠片があった。
「さて、とりあえずボスには退場願いますか。あなたの大事な部下と同じ場所に行くだけです、怖くないでしょう。なにをそんな震えることがありますか」
夢追は宣告すると、恐怖で動けなくなった獲物へ、獣の爪を振り下ろした。
「あーあ。ボスだけなのにソファまで爪痕残しちゃうなんて。随分と興奮状態だったの?夢追くん」
「むせかえるほどの匂いの中にいたら、つい。ま、これで特定できる奴なんていないよ。できたとしてもハヤトくらいだろうな……。彼になら、いっそ伝わってほしいくらいだし、問題ないよ」
??? サイド
「ね、社長、面白いですよこの記事。『なぜ名を広めようとしないのか。なのに、事務所に死体を残すだけでなく、ここまで厳しい襲撃の様をまざまざと見せつける真似をするだろうか。
彼らはおそらく、無言でメッセージを残したのだ。爪痕、血の海となった惨劇の現場をいう、雄弁なメッセージを。きっと見る者には分かるのだろう、この事務所を朱に染めた者たちの意図が、きっと』ですって。
三流記者にしてはいいオチをつけると思いませんか」
紫の髪の下、ペリドットの瞳を輝かせながら、青年は愉快そうに声をかけた。
相手は柔らかく癖のついた亜麻色の髪を揺らして、「やれやれ」と言わんばかりの態度を取る。
「そんな終わらせ方は、記事というよりも小説ですよ。ま、ゴシップは目立たせるのが仕事ですからね、そんなものでしょう。
……しかし、この爪痕。昔の仲間を思い出しますね」
彼は答えながら、雑誌に大きく掲載されている写真をなぞる。血まみれのソファについた獣の爪痕が映された写真。やけに優しいその仕草が青年は気になって質問する。
「社長、珍しいですね。よっぽど仲の良かった方ですか」
「ええ。滅多にいない共通の趣味を持つ友人です。一緒にあの組織を抜けて以来、会っていませんが。彼の事だから私生活では音楽を作り、仕事では拷問を楽しんでいるでしょうがね」
――夢追さん、今どこにいるんですか。
小さな呟きは、誰にも聞かれず虚空へ消えていった。
飛ばしても平気な あとがき
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
また、いいねやブックマークなどもありがとうございます。大変励みになっております。
今回はなにかと伏線を張り巡らせてみましたがいかがでしょうか。そして、戦闘シーンを描ける方がうらやましいです。代わりに好きに書いていただきたい。作者には、あれで、限界でした。
この小説は、作者が読みたい二次創作の小説を自分で書こう、という欲求から書いています。
みなさまにも楽しんでいただければ、幸いです。
第七話でアンケートを追記してあります。応えてくださった皆様、ありがとうございます。
質問にある場面は、いつかはすべて書こうと思っています。ただ、読まれている皆さまはどこを求めているのか、と気になりまして設置しました。
作者としても、イケボに囲まれてお酒も入れて、にこにこ笑顔のオーナーが見たいですし、オーナーを太客として接待するイケボの皆さんが見たいです。いえ、読みたいです。
ただ、マフィアパロ×人外設定を出したシーンの方が書きやすくて……。このような比率となっております。
過去も現在も余さず文章にしていこうとは思っております、ペースはどうなるかわかりませんが、気長にお待ちください。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。少しでも楽しんでいただければ、幸いです。