第十話 それぞれの動き
第十話 それぞれの動き
キャプション注意書きは読まれましたか。二次創作のフィクションです。
今回、拷問にかける描写があります。
解釈違いも気にしない、何でも許せる方向けの物語です。
とあるリゾート地にある、豪華なホテル。その最上階のスイートルームにいるのは、遊び心のあるおしゃれなスーツを着こなした四人の男たち。
「社長が呼び出すなんて、なにがありました?」
「剣持さんが先ほど読んでいた記事と関係あったらいいなって思うことが。いえ、なんでもないです……ただの私情だな。まあ最初は現場に行っていた甲斐田さんから、事の詳しい説明をお願いします」
「僕が立案したとはいえ、まさかアニキと一緒に現場に行かされるとは思ってもみませんでしたけどね」
「なんや甲斐田、文句あるのか?」
いいえ別に、と男は首を振る。目を閉じて一つ息を吐きだして、話す内容を脳裏に描きなおす。
客観視しても破綻なく分かりやすく整理できているとおさらいしてから、彼は仲間たちに話し出す。
「僕らのホテルで二か月後に会場を使わせてくれと予約が入りましたね。お客が何に使うか裏取りしたら、どうやら闇オークションを開きたがっていると分かりました。ま、それだけならいいんですけど。問題は、裏社会で禁止している品まで扱っていないか。
で、どうやら怪しい。本気で怪しい。マジでどう調べても品の詳細が出てこないし、顧客リストも異様。なんか無視しきれないくらいマズい物を扱っていたら他も動くだろうし、いっそ他が掴んでいる情報を探りに行こうとして、国の裏組織『暗部』と、裏社会の取締役『ギャングスター』に動きがないか、二人で偵察してきました」
ここで一区切りつけて、仲間たちの反応を伺う。おさらいも兼ねて最初から話していることもあり、まだ彼らは平静だった。
「アニキから受け取った暗部の調査リストの写し、ギャングスター事務所の盗聴記録、それと、僕が張り込んで得た情報。全部を総合して推測して、結論から言います。
多分、客は人身売買をしようとしている」
推論が立った時に報告していた社長はともかく、初耳だった二人は驚いて「は?!」と声を上げた。
「このご時世になっても、まだそんな犯罪をする奴らがいるのか」
嫌悪感を出して吐き捨てるように言ったのは、紫の髪にペリドット色の瞳の男。
「そればっかりは、やり過ぎだな。なんとしてでも止めてやろう」
明るい色彩の瞳に剣呑な光を宿すのは、銀髪にピンクと紫のメッシュを入れた男。
「ええ、だから集まっていただきました。どんな手を使ってでも、この組織のオークションを派手に壊して、ついでに壊滅させてやりましょう。いくら裏社会のお客向けのサービスを提供する我々でも、そんなことは絶対に許さないと示しましょう」
柔らかい声に殺気を込めて、亜麻色の髪と瞳の男は宣言をする。
「まだ推論ですけどね。でも、禁止するような品を扱っているのは間違いないから、ぶっ潰しましょう」
仲間たちの反応を見て、空色の瞳に弧を描き、白い肌の男は、いつになく殺意のこもった声でそう言った。
「ところで社長、もちさんが読んでた記事とどう関係ありそうと思ったんスか?」
淡い色の髪と真っ白な肌をした男は、まっすぐに相手を見て尋ねた。
「暗部は、危険が大きすぎると判断したときに我々のような組織へ、要は外へ依頼を出すでしょう。この件もそうやって、他の組織に調査を依頼していそうだなと思っただけです。
……我々に依頼を出すのは、かつて暗部に所属していたわたくしがいるから。なら、あの方の元へも依頼を出しているんじゃないかなと。そして、記事にあった写真が、あの方の爪痕にそっくりだったものですから」
ま、ただの希望を混ぜた脈絡も根拠もない憶測です。と、最初は苦笑交じりに言っていたのに、最後にはどこか遠くを眺めるような顔をしながら彼は締めくくった。
その瞳はどこにいるか分からない友を映しているようだった。男はそっと空色の瞳を伏せて、「そうでしたか」とだけ言って部屋を出た。
神田 サイド
森の中の廃墟郡の一つ、最奥の崩れかけた倉庫の中で、神田は氷よりも冷たい視線をターゲットに向けていた。
室内と言えるかも怪しいここは、ドラム缶に焚かれた火と、崩れた天井から差し込む朝日が光源になっている。瓦礫の他にある物といえば、彼らが持ち込んだナイフと、ターゲットを縛り付けている椅子くらいだった。
「もう一度質問しましょう。あなたに結託する策を持ちかけたのは誰ですか」
金髪の尋問官はターゲットの前に立ち、言葉だけは優しく聞く。聞き取りやすい声で穏やかに質問しているが、ターゲットに向ける視線は仲間の手にある血まみれのナイフよりも鋭い。
ターゲットは歯を鳴らしながら、首を横に振る。
もうこのやり取りを何度繰り返しただろう。質問の内容はどんどんと核心に近づいていき、ターゲットの精神はその分だけ削られていった。
「ショーイチ君、どうする?もっとやる?」
真っ赤に染まったナイフを朝日にかざして、反射する色を楽しみながら夢追は神田に訊ねる。
「ええ、お願いします。もう少し、ジョニーさんの『説得』が必要なようです」
じゃあ、と言いながらゆっくりと拷問官はターゲットに歩み寄る。ターゲットは頬を引きつらせ、なんとも情けない悲鳴を出した。
「ねえ、いい表情だと思わない?僕はさ、この顔を見るのが好きなんだ。ちゃんと僕を僕と認識してくれているから、こうして反応を返してくれているんだなって実感できるの」
夢追はそっと、恐怖に震えるターゲットのあごを細い指でなぞる。店でお客にすれば非常に魅惑的な仕草なのだが、今はただ相手を怯えさせるばかりだ。もっとも、やっている本人は満足気に口元の笑みを深めているから、行動の目的はそれなのだろう。
「そうですね、あなたのことを恐怖の対象として認識しているから、怯えた反応を示すのは理解できますけど」
神田は歯切れ悪く言うと、うーむと唸る。素直な仲間の反応に、拷問官は愉快に喉を鳴らした。
「やっぱり、ショーイチ君は引かないね。だからこそ僕も本気を君の前なら見せられるんだ」
太陽が天井の無い室内を真上から照らす頃、神田は手帳の上にペンを走らせていた。
「なるほど。贈賄騒動の裏は随分と深かったですね」
「もうこれで全部だ。もう終わりにしてくれ。もう、もうやめてくれ」
か細い声で全身から赤い液体を流すターゲットは訴える。全身くまなく傷ついていて、無事な箇所を探す方が難しい。
だが、そんな有様のターゲットの必死の言葉など、彼らに意味はないのだ。
「もう全部ですか?もう隠している情報はないですか」
手帳から顔を上げてプロ中のプロに確認を取ると、適当な瓦礫に腰をかけ肘をついていたプロは即答した。
「うん、ないよ。こいつ本当にペラペラしゃべっちゃった。つまんない」
先ほどからずっと、退屈した夢追は近くの瓦礫に座っていた。拷問にかけられて折れたターゲットは、途中から神田の質問に素直に答えだした。情報を吐くならば痛めつける時間は不要になり、抵抗の意志を、抗い足掻き生きようとする姿を見ていたい夢追は興が削がれたのだ。
「途中から仕事がなくなったからって、唇を尖らせることないでしょう。散々楽しんでいたじゃないですか」
「そうだけどさ、やっぱり物足りなくって。火傷とナイフしか使わなかったし」
物足りなさげにターゲットを見る夢追は、まだまだ遊びたい子供のような顔をしている。
「ここから先も出番あるかなって思っちゃうよね」
「どうでしょうね。とりあえず始めますか」
尋問官と拷問官のやり取りに不安を覚えたターゲットは、椅子に拘束されてなお体を震わせる。
「さて、ここからは贈賄の件とは違うことを聞きます。昔のことです。あなたが経済界にのし上がる手助けをした組織があったでしょう――という組織が」
もう今は潰れた、神田が潰した組織の名前。かつて神田が所属していた一大組織の名前を出した途端、元から青ざめていたターゲットの顔からさらに血の気が引いた。
「あの組織はもう潰した、でも、取り逃がした幹部がいる。……あなたなら、逃亡先の候補くらいは分かるんじゃないですか。組織と蜜月を過ごし、幹部とは杯を交わした仲のあなたなら」
ターゲットの息が荒くなる。見開いた目で神田を凝視する。
「お前は……まさか、組織にいた下っ端か。あの悪魔か。炎の中にいたってのは。お前が、お前が組織を潰しにかかった主犯格か」
「察しが良くて助かりますよ。で、私のことを覚えている程度には、組織のことも覚えているんですね。襲撃の様子も知っているんですか。誰に聞きました?」
神田はあくまでも穏やかに聞く。きっと獲物を前に舌なめずりするような顔でもしているのだろうと自覚はある。
ターゲットは一層体を震わせると、あごを少しだけ突き出した。
途端に瓦礫に座っていた夢追が駆けつけて、ターゲットの頬を掴んで口をこじ開ける。
「まったく、今更になって自分で舌を噛み切ろうとするなんてねえ。こっちの組織のことは死んでも話したくないんだ」
まだ楽しませてくれそうだな、と呟いた彼の瞳は、暗くて魅力的な紅色だった。
「犬山?今ね、神田君が森を出たよ。一時間もすれば着くと思う。でさ、頼みがあるんだけど。
……ああ、大したことじゃないよ。誰でもいいからこっちに寄越してほしいの。シャベルを人数分持って来てほしい。残留品を土に埋めて、微生物に分解してもらうんだ」
夕刻 サイド
窓を蹴破ってから丸二日経った真夜中、唐突にロベルの携帯端末に連絡が入った。画面を見れば、ボスからの招集命令。
「こんな真夜中なのに今すぐ来いとか、たまきさんもなかなかにブラックやな」
言葉は文句を言いながらも足取りは軽やかに、車に荷物――土のついたシャベル三本を置いて先輩達の元へ行く。彼らがいるのは森の中でもさらに暗い、廃墟の影の中だ。
「みなさーん。たまきさんから招集命令ですよ。今すぐに店へ来いって」
作業を終え獣の食事を眺める先輩達へかけるロベルの声は、これから起こることの期待が混ざって明るい。
「ああ、分かったよ。じゃ、あとは『こいつら』に任せて行こっか」
振り返った先輩は赤くて冷たい瞳に弧を描きながら、隣に立つ長身の仲間へ声をかける。
「ええ、たまきくんの招集じゃ行くしかないですね」
名残惜しそうに『現場』をあとにして、オリバーも歩き出した夢追の後を追う。車に乗り込んできたとき、ロベルは軽く話題を振った。
「オリバーくんて、狼好きなんや。初めて知ったわ」
「動物の中で一番好きです。まさか目の前で彼らの『食事』を観察できるとは思ってもみませんでした」
店に着くと、先に神田とベルモンドが定位置に座っていた。軽く手を挙げながら、「お疲れ、ちゃんと後片付けしてきたか」なんて言ってくる。
「うん。服はちゃんと引き裂いて埋めたし、残りは狼に任せてきた。ベルモンドはさ、本職の方は平気なの?」
「あっちでも、お前らに知らせたい面白い情報が入ったからな」
こちらも定位置に腰かけながら、夢追が聞き返している。会話を横で聞きながら、ロベルは彼らを呼び出したボスの姿を探す。カウンターの内側に姿はなく、厨房も静かで人の気配はない。
「たまきさんなら上ですよ。資料を依頼主に送って来るって言っていましたから、もう来るでしょう。ほら」
周りを見渡していたロベルへ、神田はボスの動向を説明してくれる。言っているそばから階段を降りる軽快な音が聞こえてきて、裏からボスがやって来た。
「おっ、いいタイミングで来てくれたね。神田さんから詳細は聞いて、めあに情報を全部送ったよ。ターゲットの抹消、お疲れ様」
上機嫌で部下を労ってくるボスに、現在の時刻を忘れてついロベルは礼を言いそうになる。喉元まで出かかった彼の言葉を押しとどめたのは、夢追の冷ややかな態度だった。
「犬山、わざわざこの真夜中に呼び出しといて、そんなことを言って終わりなワケないよな」
腕を組み物理的にも自分を見下してくる相手に対して、犬山はむしろうれしそうに一度頬を緩めて、それから咳払いをして仕切り直す。
「もちろん。お店の襲撃でちょっと横に置いてあったけど、星川からの……いや、暗部からの依頼でね。追加情報が来たから新たに動いてほしくてさ。
まず、ベルさんから話してもらっていいですか」
『暗部』という名前が出た瞬間、場の空気が一気に引き締まるのをロベルは感じた。重々しくうなずいたベルモンドは、陰のある顔に変わっていた。
「王冠を奪った実行犯を捕まえて、ゆめおに拷問してもらった。奴はただの捨て駒だったが、それでも十分に有用な情報を持っていたよ。
王冠があるのは、とある貴族の屋敷だ。『画家侯爵』なんて呼ばれるくらいに絵を描くことが趣味で、動機はただの好奇心、いわくつきの宝物を描きたいからっていうから、オークションとは関係なさそうだ。屋敷の見取り図や住人のリストとかは犬山に渡した。
……さ、依頼通り、ここまでが『ギャングスター』が調べた情報だ」
「うん。確かに受け取ったよ。ボクが星川から受けたのは、オークションの顧客を特定したから、情報をそれとなく盗んでくれって依頼と、顧客の情報。君たちにしてほしいのは二つ」
ボスは試すように一人ずつ仲間の顔を見て、それから指を一本立てた。
「一つ、王冠をこっそりと奪って、元の持ち主に返してくる」
静かに見せつけながら、もう一本指を伸ばす。
「二つ、顧客をこの店に連れてくるから、接客してオークション会場に関する情報を聞き出す」
犬山の言い方は、決して命令する立場の者の厳しさも傲慢も含んでいない。あるのは、仲間を試す挑発だ。
「いいでしょう。ただし、店に連れてくるのはたまきさんの役割、ですよね」
不敵な笑みを浮かべた神田が聞けば、犬山はちゃんと場を弁えて、ボスの顔をして答えた。
「もちろん。連れてくるのがボクの仕事、盗み出すのが君らの仕事だよ」
「まったく、いい反応してくれるよね」
部下達が帰った後のカウンターで、挑発をしたときのそれぞれの動きを思い出して、犬山は一人満足そうに呟いた。
飛ばしても平気な あとがき
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
いいね、ブックマーク、コメントまで、ありがとうございます。本当に励みになっております。コメントで感想いただけると、「狙い通り!」ってなったり、「パスお……?あ、たしかにパスい」となったり、作者はありがたい限りです。
悩みましたが、投稿したいので短めですが投稿いたしました。全体的にまとまりが薄くて、シーンごとにページを分けました。
そしてお伝えしたいことがあります。登場シーンの数と解像度は大体、おおよそ、比例しておりまして、新たに姿だけはちらちらと出ていらっしゃる方々の解像度は、まったくもって粗いです。まず作者はこの道に沼ってまだ日の浅い新米でして、個人のアーカイブは追い切れておりません。
ただ、絶対に、書くからにはカッコよく演出します。最大限の努力をします。それだけは断言します。
ゆっくりとした頻度になるかもしれませんが、続けていきますので、これからもよければ読んでください。
楽しんでいただければ、幸いです。