第十二話 情報屋
第十二話 情報屋
キャプション注意書きは読まれましたか。実在する方々と一切の関係のない二次創作、フィクションです。
人外設定を少しだけにじませています。
ホスト営業(?)を店長がモブへしています。
解釈違いも注意点も、地雷も、自己責任で、注意深く避けつつ、お進みください。
平日の夜、もうすぐ日付が変わるくらいの時間になると、お客はいつも一人いるかいないかだ。このくらいの時間から来店する客はあまりいないが、逆にこの時間を狙ってくる物好きもいる。
「お久しぶりー」
夜更けにも関わらず元気な声を出しながら扉を開けたのは、長く艶やかな白い髪をツインテールに結い上げた女性である。
「いらっしゃいませ、めあ様。ご来店ありがとうございます。今夜はどうされますか?」
即座に本日の黒服役である神田が出迎えれば、彼女はいたずらっ子のように輝くオッドアイを細めた。それから何かを言おうと大きく一度口を開けるが、すぐに音もなく閉じる。さらりと神田の背後にいる先客を、相手をする黒髪の彼を見とがめて、状況を飲み込み適切な判断をする。
「今夜はカウンター席で静かに飲ませてもらえるかしら?最初は甘いお酒をちょうだい」
第一声を比べたら随分と落ち着いたトーンで告げると、「かしこまりました」とお辞儀をする黒服に片手で応えて、静かにカウンターへ向かった。
夢追 サイド
「――で、どこまであなたには話していたかしら」
ちらとカウンター席へ落ち着いた危険人物の様子を伺い、ボックス席にいる夢追はすぐ、向かいに座る客へ意識を戻す。軽く酔いの回った彼女は、あまり深くは考えきれなくなっていることだろう。
「お仕事がうまくいってなかったけれど、やっと突破口を見つけた、とまではお聞きしました」
だから、キャストは客が話してくれていたよりも、少しだけ踏み込んだ答えを返す。案の定、彼女は夢追の言葉を疑わずに飲み込んでくれた。
「そうだったわね、今夜はそれも話したかったの。うれしくってね、とってもうれしくて、あなたにも聞いてほしいのよ」
アルコールが回って赤らんできた顔をほころばせ、テーブルに片手をついて身を乗り出してくる。酒臭くてあまり好ましくない吐息が近づいてくるが、そんな感情は一切出さないで、店長はただ笑顔で先を促した。
この話の先にこそ、彼らの求めている情報があるのだから。
店に初めて来るところから、店に興味を持つところから仕組まれていたと知らない客は、勢いのままに話し出した。
「わたしね、ずっと悩んでいたの。あまり仕事の内容を詳しく言えないからあいまいな表現になるのだけど。ずっと悩んでいたことがあったの。解決する方法は知っていたけれど、手段が……そう、『材料』があまりにも高価すぎて、実行できなかったのよ。
でもね、『材料』をやっと手に入れられそうなの」
入手できると想像するだけで笑みがこぼれてくるらしい。醜い欲望に忠実な笑みで、悪魔にはごちそうにしか映らないだろうな、と夢追は頭のふちで考えた。
「それは素晴らしい。しかし、どうしてその目途が立ったのですか?」
穏やかに、興味を持っていますよと示しつつ、欲しい情報の方向へと話を振る。すると、調子に乗って機嫌よく、客はさらに酒を煽りながら情報を出してくれる。
マフィアは舌なめずりしながら、獲物がどんどんと罠へと踏み込んでくるのを待ち構える。
「ふふふ、あなただから言えるけれど、実は私、裏の繋がりを持っていてね。ある方が紹介してくださったのよ。……大きな声では言えないけれど。『材料』が出るオークションを開くから、その時ならきっと予算内で手に入れられるだろうって」
「オークション、ですか。それなら様々な品が並ぶことでしょうね。私は行ったことがないのでよく知らないのですが、噂だけならよく聞きました。特別な合言葉が必要だったり、裏町の怪しい地下室が会場に選ばれえているとか」
冗談めかしながら誘ってみれば、客は面白いらしく笑いながら答えてくれる。
「そんなの、推理小説や冒険談の読みすぎよ。わたしが今回行く場所は、一流ホテルだわ。ああでも、玩具メーカーが新しい事業に手を伸ばしてオープンしたから、面白い仕掛けがたくさんあるとか。その話もまたしてあげるわ」
思いのほか乗ってきて情報をこぼしてくれる。客が上機嫌に酔っていると観察して、夢追はさらに踏み込むことにした。少しだけ前かがみになって、客に共感していますよ、と示す興奮と期待を表面に浮かべて見せながら、質問をする。
「その時を楽しみにしております。では、オークションはいつ頃に開かれるのですか?」
「あと三か月よ。三か月と五日後。わたし、待ち遠しくて指折り数えているの」
――開催日は、三か月と五日後、か。
欲しい情報はほとんど手に入った。これ以上の詳細を聞きだすのは危ない、もうここが退き時だろう。表面は「楽しみですね」と共感して頷きながらも、腹の中ではどう客を帰そうかと算段を立てる。
「なぜあなたが気にするの?」
急にシラフに戻ったのか、初めて来店した時の警戒心を思い出したのか。客は唐突に眼光鋭くキャストに問いかける。
夢追がわざとらしく頬をかいてみせながら、誤魔化し方を考えているときだった。
「店長はさりげなく聞き出すのが下手なのです。どうか察してくださいませんか?」
革靴の音を軽くきれいに響かせながら、神田が裏から出てきた。夢追へ軽く合図を送り、客へ「横から失礼いたします」と慇懃無礼にお辞儀をする。
「つまり……」
「店長、こういうことはあまりなさらない方ですから、少し急いてしまわれましたね。お客様がそれほど特別なお方ということです。……本人の前ですから、これ以上は言わせないでください」
神田は思わせぶりに店長へちらと視線を向けて、客へ店長を見るように促した。
仲間の意図をくみ取った夢追は、困った顔を浮かべている『演技』をする。そして、神田と夢追の『演技』に飲まれた客は、あっさりと騙された。
「なんだ。うれしいわね。……おいしいお酒を飲ませてくれるだけかと思ったら、歓楽街の名だたるホストも顔負けよ、あなた方」
すっかり踊らされて罠にはまった、熱に浮かされた客は、「もう帰るわ、会計をお願い」と神田に言う。手早く勘定を済ませると、客は立ち上がった。何と言っていいか分からない『ふり』をしながら、店長は見送りに行く。
「また来るわ」
「はい。ご来店、お待ちしております」
浮かれた顔をして、演技でもなく完全に騙されているな、と、夢追は客の後ろ姿を見送り結論を出した。彼の瞳は、尋問官の仕事をする時と同じ冷たさであった。
夕刻 サイド
カウンターに出て、なんやかやと仲の良い先輩みたいな厄介な縁を持った人みたいな、なんとも表現しにくいがおおむね良好な関係を持っている超危険人物神楽めあの相手をロベルは勤めていた。
最初は雑談をしていたのだが、途中から神楽が後ろのボックス席のやりとりに興味を示してきたため、客に付き合って、付き合っているという体で本音では自分も興味津々に、ロベルも店長と客のやり取りを観察していた。ついでに言えば、黒服役という仕事のために、神田もじっと客の観察をしていたから、店にいる全員がボックス席に集中していた。
そして今、店長が見送りに立って、ドアの向こうへ出たところで、ロベルの前に座る神楽はくすくすと笑い出したのだった。
「なんやめあさん。そんな笑い方して」
「だってぇ。夢追くんたら面白いんだもん。あんな困った顔もするんだね」
「あれは絶対にわざとやで。夢ちゃんがお客へそんな気の利いた事するわけない」
上機嫌にきゃっきゃと一人はしゃいでいるお客へ、ロベルは現実を告げる。すると、彼女は面白くなさそうに唇を尖らせてきた。
「えー、ちょっとはサービスしてくれてもいいじゃん」
「いえ、あれは演技ですよ。あの夢追さんが演技以外で客のためにあんな素振りをするわけがないでしょう」
「あれ、神田さん」
通常なら横からしゃべりかけたりしない彼が急に出てきて、ロベルは驚いた。声を上げたのは神楽であったが、反応からして彼女も意外だったらしい。二人して似たような反応をしてしまい、金髪の先輩はやれやれと首を振った。
「めあさん、先客がいて言わなかっただけで、本当は仕事で来てくださったのでしょう?早く話してもらえませんか。もう閉店時間も近いので」
口調は柔らかいけれど、目が怖い。細くてあまり変わらない、なんて彼をよく知らない人は言っていたが、大きな間違いだ。しっかりと威嚇も脅しもしてくる。
さすがに仕事をしないと怒られると、神楽も分かったようだ。すぐに切り替えて、鞄から一枚の写真を出した。質感や見た目から分かる。今時は珍しい、フィルムから現像し、プリントした写真だ。縁取りがあり、一週間前の日付の刻印がある。
写真は複数人のスーツ姿の大人たちを、遠くから写していた。ガタイの良く周りの警戒をしているらしい取り巻きに守られた壮年のサラリーマンを、彼女は指さした。
「こいつが、ここを襲えと依頼を受けたボス。見た目は普通のサラリーマン、一流寄りの二流マフィアのボスで、それなりの実力はあるよ。毎週末、明け方には組織の事務所にいる。出かけていたりなんかの用事で外出していたりは、追加でお酒もらったら思い出すかな」
小首をかしげて、見た目の良さを最大限に生かしたポージングを取る彼女は、たしかに情報屋だ。裏社会の住人だ。
「あまり夜更けにレディへお酒を勧めるものじゃないでしょう。私たちのボスにも、ちゃんとお友達を紹介してもらえたと伝えておきます」
組織の先輩もまた、綺麗な顔に魅力的な笑みと素敵な声で応対する。店で、犬山の元で働いて数か月になるが、ロベルはまだ裏社会らしいやり取りをする同僚や知り合いの雰囲気に慣れず、ただ黙っていた。
新人のことなどお構いなしに、情報屋とマフィアは続けていく。
「そっか。じゃ、たまき君にはお礼言っておいて。早くて助かるって」
「はい、必ず。ところで、ネガはどこにありますか?」
「ウフフ、ちゃあんとここにありますよ。聞かれなかったらどこかでリサイクルできるかなと思ってたのに」
「顧客から聞かれたならば情報源を晒すのが我々のルール、ですからね。こちらもちゃんと情報源を提示したからには、あなたにも明確にしていただかないと」
神楽はまた一枚、鞄から取り出す。こげ茶色の細長い、半透明の袋に入れられたソレは、久しぶりに見るカメラのネガだった。
神田はネガを袋から出すと、天井の照明にさらして検分する。一つ頷いて、再び客の方を向いた彼は、満足そうに言う。
「確かにいただきました」
「撮影者は私、日時は写真にある通り」
「では、この件は完了、ですね」
そう言った途端に、神田の手にあったネガは火を噴いた。煙も音も燃えカスもなく、ただ姿を無くしていく。
相手の魔力により燃えていくネガには興味を示さず、情報を持ってきた彼女は椅子から静かに立ち上がる。
「はい。またのご利用、お待ちしております」
「こちらこそ、またのご来店をお待ちしております」
互いに契約の完了を確認しあったらしい。この界隈の先輩達は互いに別れの社交辞令を交わしあい、神楽めあは店を去った。
完全に扉が閉まってから、やっとロベルは息ができた。
「ロベルさん、緊張することないですよ?」
「そうだよ。ロベちゃんもすぐ慣れて取引するようになるんだから」
さも当然のように裏から、控室から出てきたのは夢追だった。最後の客が帰ってすぐに出てきた店長へ、ロベルは唇を尖らせてささやかな抗議をする。
「夢ちゃん、見送ってそのまま裏から戻るとか、どんだけ人見知りやねん」
「そうですよ。私が対応させられるとは予想外でした」
「ごめんて。めあさんってまだ僕付き合いが浅いからどんな対応していいか分からないんだもん」
少し申し訳なさそうに言ってから、夢追はカウンターへ近寄ってきた。置かれたままの写真を手に取って、ターゲットをじっと見る。
「こいつが、俺らにケンカ売って来たボスね。なるほど。めあさんが一流寄りの二流って言ってたの、的を射た表現だね」
せせら笑う夢追に、先ほどまでの和やかな空気はまったくない。
「皮を被るならちゃんと頭からつま先まで包まないと、一流とは言えませんからね」
乗って楽しそうに言った神田も、いつものにこにこ顔ではなく薄ら笑いになっている。
「獲物を狩る目になっとりますよ、お二方」
やっと仕返しができると嬉しそうな二人へ、店の片づけを始めながらロベルは言う。もうかつてのように、新人はマフィアの顔をする仲間に慄いたりしなかった。
飛ばしても平気な あとがき
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。また、ブックマークやいいね、スタンプコメントや感想など、本当に励みになっております。ありがとうございます。
ホスト営業らしいことをする理由は、情報を得るためでした。神田さんもフォローを出して、いかがでしょう。本当は「二人がかりで情報を引き出す」ところを書きたかったのですが、基本一対一の会話しか書けず、しかもモブとの会話となり、難易度はかなり高かったです。
夢追さんと神田さんの二人で情報を引き出すところを見たい、とリクエストをいただいていました。このような形でどうでしょうか。また挑戦します。
余談ですが、作者はこのモブも血の海に沈めたいなと考えていました。
「あのさ犬山、あの客の裏の取引相手とか実験材料の正体とか、もっと詳しい情報欲しくない?闇に消したら簡単に洗いざらい白状してくれるんだけど」
「ダメだって。依頼主からの注文だから、生かしたままで情報をできるだけ集めるって。そこまでの精度よりも大枠を知りたいの。それに、なんやかや言っても本音は夢追が拷問したいだけでしょ」
という経緯があり、モブはまだ生きております。
パスお成分が足りないと思われる方も、いらっしゃることでしょう。作者も同じ気持ちです。そのうち出してくれると思うので、待ちましょう。
この物語は「治安の悪いみなさんを読みたい」「悪で魅力的な姿を読みたい」という欲求を元に、自分の好きな展開だったり場面だったりを盛りに盛って作成しております。自給自足であり自己満足の物語です。
少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。