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第12.5話 再会

悪魔たちの魅惑の声 — www.pixiv.net · All chapters

第12.5話 再会

こちらは二次創作でありフィクションです。実在する方々と一切の関係がありません。

作者はgnknにわかです。沼りたてです。勢いです。解釈違いが出てきたときは、即座にブラウザバックしてください。

キャプション注意書きに偽りのないにわかです。『なんでも許せる』猛者の方のみ、先へ進まれることをお勧めいたします。

「そんなところで突っ立って。久しぶりの再会で緊張しているの?」

隣に立つ女子向けの服を着たかわいい男の友達であり、目の前の店のオーナーでもある犬山が聞いてきても、彼女は返事もできずにその場からも動けないでいた。

これから会おうとしている相手とは、ただの気の合うかつての職場仲間であり、仲のいい男友達であり、久しぶりに、そう、彼が職場を強引に去って以来の再会を果たそうとしているだけの関係だ。

なのになぜ、心拍数が上がったりするのだろう。自分でもよく分からない。

にまにま笑う、まるで推しカプを見守るオタクのように笑う犬山がしゃくで、精一杯の強がりで言葉を絞り出す。

「別に、緊張なんてしてないわよ。神田があたしを見て驚く顔を想像して、どう言ってやろうかと考えていただけよ」

「一々考えたりするの?ていうか、わざわざ準備するなんて、やっぱ緊張してんじゃん」

ほら早く、と手を引かれて、勢いに任せて『OPEN』と掲げられて扉の前に立つ。迎え入れる言葉を飾った看板さえも、自分をにまにまと笑って「早く入りな」と言っているような気がする。

うるさいわね、入ってやるわよ。心の中で軽く言い返しながら、暗部のオペレーターであり、かつての神田と夢追の同僚でもある郡道はドアノブに手を掛けた。

扉を開けると、こじんまりとした店内はきれいに片付き、静かになっていた。奥からぼんやりと光が漏れているから、人はいるのだろ。

店内を見て、周りに人がいなくて、思っていた光景とは違って郡道はなおさら心拍数を上げた。ここから起こる事態の予想が全くできないと、緊張してもしかたない、はずだ。

「犬山?遅いよもう。みんな上で待っているんだからさっさと始めるよ?」

ばたんと開けた音を聞きつけたのか、奥から足音と共に声が聞こえてくる。男にしてはハスキーな声に、聞き覚えがある。しかも、予想していたのとは違う。

「え?え?今のって、ちょ、たまき?」

「なにぃ郡道?」

いたずらな顔をしている斜め後ろにいる友達に抗議している間に、声の主は一階に降りてきたらしい。奥からドアを開ける音がして、すぐに店内に明かりが灯った。

そして、スタッフオンリーみたいな扉から、やはり見知った、黒髪で赤い瞳で、相変わらず袖の無い服を着たかつての同僚が姿を現した。

「……」

「……」

互いに無言で顔を見合わせる。何を言うのが正解か分からない。とりあえず挨拶してやろうかと郡道が口を開きかけた時、脱兎のごとく夢追は引き返していった。本気で動くと結構早い。まったくどうでもいいことに感心してしまった。

天井、おおよそ頭の上の方でごそごそと音がする。隣に立っている犬山はいたずら成功した子供のように押し殺した笑い声をあげているため、郡道は感情そのままに彼の方を睨んだ。

「たまき、あんた神田がいるとしか言ってなかったじゃないの。どうしてゆめおまでいんのよ」

「ボクは暗部のオペレーターである郡道さんに、仕事のためにボクの仲間と一緒に作戦を練ってほしいって言ったの。その中に神田さん『も』いるよって言ったし。別に他に誰がいるって聞かなかったのはそっちじゃん」

なおも面白そうに、いや実際面白いんだろうが、こっちを見てくる友達を軽く叩こうと手を挙げたとき、またドタバタと足音が響いてきた。

そして今度こそ、最初に予想していた声が、名前を呼んできた。

「郡道さん!?」

変わらない良い声してんな。あ、ほっそい目を一杯に開いちゃって。やっぱり顔もいいんだよなこいつ、絶対に本人には言ってやらんけど。

自覚もなく緊張して浮かれた彼女は、脳内で初めて会った時のことを思い出し描き出した。

*** ***

神田と郡道は、暗部で知り合った。

暗部とは、簡潔に説明すれば『政府の裏組織』だ。国にある裏社会を見張り、裏社会で得た力を持って表社会へ過度な干渉を行う組織を潰したり、裏社会の秩序を国にとって都合の悪い方向へ持っていこうとする奴らを抹殺したりする組織だ。

他にも、表の会社がこっそりと反社会的な研究だとか活動だとかをしていないか調査するし、政界の要人を暗殺しようとする不届き者を摘み取ることもある。

ここもまた組織でありトップに政府がある以上、本部があり部署があり、様々な業務もあれば、当然働く者たちへ報酬を払う必要がある。

以上の理由から、暗部にも事務所や様々な物資を収める建物、いわゆる本部があった。三階建ての建物が二つと、地上二階地下一階のある洋館を渡り廊下でつなげた建物だ。

三階建ての建物は、事務所と所長室と資料室で主にフロアを占領されている『ビル』と、捕まえた敵を放り込む留置所や尋問をする部屋が一階にあり、二階三階に仮眠室や喫茶室、備品置き場のある『ブタ箱』だ。洋館はより詳しい尋問のための部屋と尋問官のなにかしらを置くスペースとして使われているらしいが、らしいとしか郡道含めほとんどの職員は知らない。ただ、洋館から悲鳴が聞こえてきたときに近づいてはいけないとは、暗部に所属する全員の暗黙の了解だ。

郡道は、事務所で様々な仕事をこなす事務職だ。備品の申請受理と発注、管理、様々なトコロから入って来る情報を整理して、諜報部門の各担当者たちへと回す。仕事の報告書を受理したり、作戦のための情報をさらに集めたり、オペレーターとして作戦決行時にサポートをしたりもする。

つまり、事務は暗部の中でもっとも発言力の強い部署である。

ただ、事務は目立たない部門でもある。事務の重要性を知らしめる方法を暗部の幹部は考えた結果、新人には研修として三日間事務職の仕事をさせると決めた。そのせいで郡道は時々新人に自分の仕事を教えることがあった。

その日、久しぶりに新人が来て、また郡道が教えることになったのだった。

「はーい。今回の新人はどんな人ですか?」

「なんでも、尋問官の夢追さんが見つけてきたらしいです。彼が連れてくるって言っていました」

暗部にいる構成員が、他の組織から引き抜きをするのはたまにあることだ。

なんやかやと交友のある彼の顔を思い出す。同時に、諜報部や暗殺部隊の手伝いをした時の、彼の仕事ぶりも。袖も人の心も無い男が、暗部に新人入れるとか。どういう風の吹き回しって表現はこのためにあるな。郡道は一人心の中で呟いた。

「じゃ、よろしく頼みましたよ」

言い残して上司はさっさとパソコンに向きなおる。隣に座っていた郡道は軽く返事をして、自分の席に戻った。新人か、かわいい子だったらいいけど。でも期待しないほうがいいか。なんて頭の片隅で考えながら、仕事を再開した。

各々が好きな時間に取る昼休みが終わって、眠気とノルマの戦いが始まる午後の業務を郡道が始めて、だいたい一時間くらいだろうか。事務室の扉が開いた音と同時に、同僚の女子共が黄色い声を上げた。

何事かと視線を入口へ動かして、郡道は納得した。夢追が知らない顔を連れて来たからだ。しかも、金髪糸目のかっこいい男だ。なるほど、並みのイケメン好きなカノジョ達なら、まあ、仕方ないだろう。謎の上から目線で郡道は納得する。

郡道が観察している間にも、夢追は新人を連れて目的地である彼女の席へ歩いてきていた。

「郡道?こちら、新人の神田君。連れてきたから、よろしく。あんま困らせることすんなよ。で、神田君、こいつが事務の仕事を教える教育係の郡道。本配属になる諜報部へ行く前、三日だけこいつに付き合ってやって。大変だろうけど、すぐ慣れると思うから」

「ちょっと夢追、変なこと言ってんじゃないわよ」

随分と失礼な物言いをされて抗議の声を郡道は上げたが、相手には聞こえていないようだった。颯爽と踵を返して事務室を去る。そういえば、あいつ声いいし、見た目も良いから、業務連絡しかしない事務所の女子たちにきゃいきゃい言われたっけ。しかも、本人は女子に注目されるの警戒してたっけ。

「えっと、郡道、さん、ですか。初めまして。神田笑一といいます。よろしくお願いします」

神田は、暗部に来る人材にしては珍しい社会的な挨拶のできる新人だった。少なくとも、郡道の神田に対する第一印象はそうだった。

神田が来てから三日目の昼過ぎ、事務所は賑やかだった。

「ちょっと郡道さん、この資料のまとめ今日の昼までにって言われていたのに、まだリストの三分の二までしかできてないじゃないですか。ほら、ホテルの見取り図なら私が調べましたから、郡道さんは資料のまとめを終わらせてください」

「うう、神田君、今ばかりはありがとう」

新人に色々と教えてやるか、そんなふうに初日の二時間くらいは思っていた。だが、飲み込みが早くて要領も良くて、神田はあっさりと痕跡探しのための監視カメラのハッキング作業から見取り図の入手、備品の発注、各部門への伝達などのやり方を覚えてしまった。しかも、元の職場か組織かでもやっていたのかスケジュール管理もできるこの新人は、気づけば郡道を先輩と認識せず、周りの同僚からは「神田君、このまま郡道の助っ人しながら事務で働かない?」なんて言うくらいに信頼されている。

確かに居てくれて助かる。仕事がはかどる。認めよう。だけど、絶対に本人には言わない。

あと、可愛くない。仕事を頼む時、「これやってよ」と気だるく言ってみたら、神田は新人のくせに「そのくらい簡単にできるでしょ」なんて小憎たらしく逆らってきた。実際に簡単で、ただ面倒だから押し付け、いや、新人の試練を与えようかと思ったのに。中々目ざとい奴だ。

気軽に話せるし軽口を叩きあうのは楽しいと感じ、遠慮というものをこいつに対して一切しなくなってきた自分がいる。

神田もまた、仕事を押し付けたら「やれやれ」と言う感じは出しつつも結局は引き受けてくれるし、差し入れもしてくれたし、なんだかんだ、悪くないな、くらいには思ってくれている。本気で面倒に思っているかどうか見抜けない甘ちゃんは、暗部なんかで働けない。

郡道は横に座る金髪の青年をちらと見て、すぐにパソコンの画面へ意識を切り替えた。今はとにかく、このリストをこなさないといけない。

三日の研修は終わり、神田は当初の予定通りに諜報部に配属になった。諜報部の、潜入捜査官になった。要するにスパイ兼殺し屋だ。しかも、気づいたら現場で指揮を執るくらいに出世していた。昇進に必要なのは実力だけじゃない。癖が強すぎて灰汁ばかりでるような奴らしかいない、そんなところで良好な人間関係を構築した猛者だけができる、現場指揮。それを神田がするなんて、聞いたときは驚いた。

昼飯とか休憩時間とかで雑談したときの神田は、相変わらずだったけど。

時々、作戦会議やオペレーションで、仕事をする神田の顔を見る機会があった。事務所で隣に座って、わいわいとしゃべっていた彼からは想像できないくらい、精悍な顔をしていたのをよく覚えている。切れ味の良すぎる刃物みたいに、ちょっと怖い雰囲気もあった。

数年経って、暗部のトップが変わった。十二人いる幹部の三分の二も入れ替わって、新体制でより効率的に、より安全に仕事を進めると、国の偉い人がわざわざ演説していった。

そして、トップは『やってはならないタブー』に触れ、冒した。

郡道のいる事務はほとんど影響を受けなかったが、他の部門は違った。

結果、トップが半年も経たず交代した。

同時に、尋問官が二人、失踪した。

詳しくは知らない。知られないように隠ぺい工作を上層部は行った。郡道も、深く知ろうとはしなかった。胸くそ悪い事件だとだけは分かったから、身を守るために探らなかった。

事の詳細を知っているか、と神田が聞いてきた。郡道は「知りたくない。胸くそ悪い理由があるってのだけは分かる」と答えた。

「だって、夢追と加賀美さんがいなくなったから。理由、原因、動機はもう分かっちゃうよ」

答えた声は、震えを隠しきれていなかったと思う。

「そうですか。……郡道さんは、何か変革のあおりを食らったり、していませんか?」

質問する神田は、初めてみる険しい顔をしていた。

「大丈夫、だけど。あまり事務は変わらないよ」

しばらく考え込んで、神田は「それなら、少しだけ様子見するか」と、小さな声で呟いた。

トップが交代してから、数か月が経った頃、また神田が相談したいと言ってきた。

「今回は誰にも聞かれたくないので、裏路地に来てください」

メモ書きに追加されたメッセージから、穏便と正反対の感情を神田はにじませてきて。

郡道はひどく心がざわついた。

指定された裏路地で、神田は怖いくらいに険しい顔をしていた。

「どうしたの?あんたにしては怖い顔してんじゃん」

強いて明るく話しかけても、いつものようにすぐに返事を返してくれない。いい話じゃないのは分かっているけど、想定以上にヤバい内容かもしれない。少しだけ、郡道は身構えた。

「実は、暗部を抜けようと思うんです」

やっぱり、ヤバい内容だった。

神田の話を聞いて、抜けた後のことは何も決めてないって聞いて、「なら、働き先を決めなきゃでしょ」と、頭が考えるより先に口がしゃべっていた。

そこから、仲のいい犬山へ連絡を取って、二人を引き合わせた。初回以降はどうだったか知らないけれど、犬山からは熱烈なお礼の長文メールが来たから、うまくいきそうだとは思った。

神田から相談を受けて数か月、トップが交代してから数えると、だいたい半年くらいの頃。

また、事件が起こった。

前のトップに一番思想が近くて、今のトップよりもタブーすれすれの改革をしていた幹部が、消えた。

同時に、神田が暗部からいなくなった。事前にそんなことを言われていたし、「絶対に自分は大丈夫」と言われていたけれど、心配は心配だった。

神田から久しぶりの連絡を受け取ったのは、さらに半年くらい過ぎてからだった。暗部が神田の捜索を、……正確に言えば、トップや幹部を殺して、暗部のやり方に抗議して去っていった三人の敵視を止めてから、だった。

彼ら三人の他にも、『タブー』に触れる改革が始まってから行方を消した人員はいて、全員の行方を暗部として追っていた。指名手配していたのだが、それを解いたのだ。

暗部は、神田がいなくなってから随分と変わった。使えるものは何でも使う、とうい方針になった。今まで敵視していた暗部からの逃亡者さえも、「体制を変えたからお前らが敵視する理由はもうなくなった。報酬は払うから協力しないか」と交渉するくらい、暗部は変わったのだ。

暗部の士気の低迷、諸外国の怪しい動き、国内の裏社会で起こった大問題。

諸々のかなり重要な事情が重なったことも要因だ。

出て行った彼らが、とくに敵視していた三人が、暗部に在籍していた人材の中で屈指の有能さを誇っていたのも、大きな理由の一つであった。

郡道にとっては、全てどうでもよかった。ただ、神田がまた連絡をくれた。そこだけが重要だった。

手紙の内容は覚えているけれど、割愛割愛。

ただ、元気でたまきのところで働いているって書いてあった。

――あの時、たまきに電話いれて会いに行けばよかった。

*** ***

走馬灯のごとく脳内を駆け巡った記憶から、現実へと戻る。

大きく息を吸い込んで、棒立ちしている大事な友へ、郡道は不敵に笑ってみせた。

結構心配したけれど、元気そうだから、良しとしてやるか。

飛ばしても平気な あとがき

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。また、いいねやブックマークやスタンプコメント等のリアクションもありがとうございます。本当に励みになっております。

今回、「ぐんかんが読みたいですいかがでしょうか」という趣旨のリクエストをいただきました。ありがたいことです。少しでも満足していただけたでしょうか。不安です。しかし作者は書けてとても満ち足りた気持ちです。

作者はリクエストをいただいて、当然ながら切り抜きとアーカイブ巡りの旅へ出ました。

結果、鉄は熱いうちに打て、ってなりました。勢いのままに一気に書き上げてしまった。にわかです。解像度は御覧の通りです。

この解像度で『その』タグをつけていいのか。作者は分かりません。自問自答しました。もっと解像度上げてから出せ、という結論に達しました。

少しでも皆様にも楽しんでいただければ幸いです。