第十五話 情報収集
第十五話 情報収集
キャプション注意書きは読まれましたか。二次創作です。お名前をお借りした方々と一切の関係がありません。
自衛は大事。自衛してください。今回はないですが、シリーズには殺人、暴力、拷問などの描写があります。
作者はにわかです。解像度には差があります。人外設定もあったりします。
よろしければ、先へどうぞ。
たとえ生きる屍(アンデッド)だろうと、人外であろうと、ヒトでありながら人間を辞めた者であろうとも、自我があり意思疎通を図れるならば客として扱われるのが裏社会だ。
彼らの求める商品の正体は、想像に難くないだろう。
表の社会で流通させれば法に触れ、倫理道徳に背く品であろうとも。このアンダーグラウンドならば売り手が存在するのだ。
もっとも、裏社会でも禁止する品はある。自分で自分の首を絞める麻薬が代表例だ。また、『自我があり意思疎通を図れる』生き物は売買を禁止している。分かりやすく表現すると人身売買だ。これは、様々な種族が入り乱れ共存する社会が、社会として成り立つために必要なルールだったからだ。
本題に戻そうか。
裏社会もまた、物でなくサービスや場所の提供であっても、種々の危険がつきまとっても、利益が出るならば準備する者がいる。
――例えば、こんな要望が届いたとしようか。
盗品のオークションを開きたいのだが、大きな会場を自前で手配できない。
敵対組織と会合を開きたいが、中立を確保できる会場がない。
護衛がほしい。
一晩で静かに、手練れの組織を潰してほしい。
すべて物品ではなく『サービス』を商品とした取引。分かりやすいだろう?
そして、こんな依頼を中心に受けている組織がある。
どんな組織に対しても中立を貫くホテルを複数所有。もちろん、宿泊――傷を癒すための駆け込みじゃなく、他の使い方だが。あとは、オークションなんかを開催するのにもってこいの会場もある。この使い方をする客が多いそうだ。
ホテル利用者の守るルールはたった一つ。裏社会で禁止した薬物や呪術の持ち込み・使用をしないこと。代わりに、当事者以外って意味で、他勢力の侵入を許さない。例え裏社会の出来事であっても、国土である以上抗争が起これば警察は動く。しかしホテルの中ならば、ルールさえ守れば、建物内で利用者同士の抗争が起ころうとも、決して警察沙汰にはしない。
護衛や暗殺などを行う実動部隊はたったの四人だが、仕事ぶりは折り紙付き。
ただ不思議な事にこの組織、名前は知られているがボスの顔を知る者はいない。
ホテルで働く者たちに聞いても、ボスの顔も声も知らないと言う。
実動部隊の四人に聞いても、無言で首を振るばかり。
――そんな噂話しているってことは、僕らROF―MAOに依頼でもあるんです?
さびれた路地で話していた二人へ、唐突にかけられる声。彼らが声の聞こえた方向を見れば、暗闇の中から鮮やかなペリドット色の双眸がこちらを見ていた。
*** ***
昼飯を済ませて、いつもならば機嫌よく自分の研究を進めている午後の時間帯だが、本日の甲斐田は机に積まれた書類にため息をついていた。
裏社会で、様々な組織へ場所とサービスを提供する『ROF―MAO』。彼らは四つの組織が、裏社会の安定のために共同出資してできた組織だ。
武器や盗品、血液、果ては臓器や魂まで、様々なモノがどのくらいの規模で流通しているのか、流した情報は何割が嘘で真実はどれだけ含まれているのか。危ないオモチャを手に入れてはしゃぎたいバカはいないか。――そうした社会の流れを観測するために、彼らはホテルを経営し、他の組織へ取引の場所を、集客するための会場を提供している。
いくら観測を目的としていても、全部を見ていてはキリがない。基本的には、会場使用の申請が十あったとして、そのうちで派手な動きに繋がりそうなものを、二、三だけを通している。
だが、それは通常時の話だ。
今は情報収集の必要があり、普段の倍、ホテルの会場を稼働させている。建物内で働く従業員たちの負担はまだ許容範囲内だが、雑務処理をするトップの処理能力が限界に近かった。
「こんな難問来るなんて聞いてないって……」
雑務処理だけなら、まだ捌けた。自分のこなせない量を引き受けたりはしない。予測していなかった事態、つまり、今甲斐田の手にあるような、難癖をつけてくる使用者の調査まで重なってしまったために、処理が滞っているのだ。
難癖。それは「一番大きなオークション会場を三か月後に使わせてほしい。乱闘の恐れもなくはないから、逃げ道の確保の協力、護衛もほしい。だが、ホテル側が言う『安全のための情報提供』なんてものは協力しない」である。
難癖を付けてきた客をなぜ受け入れるのかといえば、『難癖を付ける奴は大抵危なすぎる情報を持っている』からだ。この情報を集めるために彼らはホテルを経営している。ホテルを提供しなければ、どこか補足できない場所へ逃げられる。だから、彼らは会場の使用許可を出した。
ホテル側の要求する『安全のための情報提供』とは、『ROF―MAO』が情報収集するための口実であり、ホテルの経営のためにも必要な事務のことだ。
たとえば、会場を使用する顧客たちには、招きたい組織なり個人なりをホテルへ教えてもらっている。ホテルの建物へ入れるのは関係者のみにするため、招待状を持っている者のみをホテルの入口で判別する。誰でも入れるようでは機密を保てない。
この招待状をホテル側が送付するから、誰を招き入れるのか教えろと暗に言っている訳だ。
大抵の組織は招く客くらいは教えてくれる。招待状を送る手間を省きたいだとか、客はどうせホテルに来るのだから、事前に知られたところでなにも影響しないだろう、と考えてくれているらしい。
少数の注意深い利用者たちは、自分で送付するから招待状をくれ、と言ってくる。警戒しないとならない品を扱っているのか、防衛する知性を持っているだけか。組織を注視する基準になるため、このくらいの要望は受け入れる。利用者の招きたい客は、事前に『ROF―MAO』で勝手に調べさせてもらう、それだけだ。
他には、オークション会場へ荷物搬入する場合、爆薬を含むのか、搬入口を使用するくらい大きな荷物はあるのかを聞いている。
表向きは、スタッフが搬入口を開けたり案内したりする必要があるから。
組織の本音としては、扱う商品を把握したいから。正体まで教えてもらえずとも、その手がかりだけでもほしいからだ。
他にも、食事や飲み物の提供は必要か、照明の演出をしたいか。マイクをはじめ音響設備を使用したいか、なども聞く。相手によっては細かく要望を出してくるのだ。
だが、この問題客は本当になにも教えてくれない。申請を出してきた時点できな臭かった。どう使いたいのか聞いてみたら、ますます怪しかった。
このホテルの会場を使う時点で、後ろ暗い商売をしていると公言しているようなもの。今更秘匿するのは、怪しさを際立たせる行為でしかない。様々な思惑を持って、ある程度の情報開示をホテルへ使用者はする。むしろ、ある程度公開しても平気だと自信を見せつける機会になる。その筋では常識だった。
常識を破って来るからこそ、調査のために使用許可を出したのだが。
「出品予定者と、予想来客数。これだけとか」
調書を手に取って、再び甲斐田はため息をつく。利用者は本当に最低限の情報しか出してくれていない。いくつも舞い込む仕事があって、この一件に費やせる人員は限られる。しらみつぶしに調べている余裕はなく、要点だけを突きたいのだが、如何せん手がかりが少ないのだ。かといって放置していてもいられない。頭が痛くなる。
改めて出品予定者のリストに目を通して、どこから手を付けていくかは決めよう。
やることを決めて書類と向き合った時、静寂を破るドアのノックの音がした。
「どうぞ」
誰だろう。今日はとくに問題がありそうな使用者はいなかったはずだし、来客の予定もないけど。そんな思いが頭をよぎったが、深く警戒せずに部屋の主は入室を促す。
「失礼しますよ」
一言かけてドアから覗いてきたのは、ペリドット色のきれいな瞳だった。
「モチさん……」
「なんだ。一仕事任せたくて来たのに、その様子じゃ自分でやったほうが早いじゃん」
手に持ったファイルをひらひらさせながら、急に訪ねてきた先輩は甲斐田の机に近寄って来る。机の上に積んである書類を見回して、軽く呆れたような顔をされた。
「さすがに助けてください……」
「嫌です」
「即答はひどいって」
いつもなら軽いやりとりも、今ばかりは力が入らない。甲斐田が本当にまいっているのは先輩にも伝わったらしい。断りながらも机を覗き込んでくる剣持の姿勢に、手伝ってくれる気配を甲斐田は感じた。
「ああ、この件、ちょうど任せたかったやつですよ」
「モチさんが任せてくるって、どんな厄介事ですか?」
なんでも器用にこなせる剣持から振られた仕事が脳裏にフラッシュバックする。甲斐田は少し大げさに身構えて見せた。
「呪術師について探ってほしいんですよ」
だが、剣持は後輩の反応にかまわず話を始める。真剣になった声音に、甲斐田も頭を切り替える。ふざけていられるのは、ここまでらしい。
「詳しいことはファイルにあるので、今は要点だけ説明します。
前に集まった時、あなたが調べて人身売買をしようとしているって結論を出したオークション会場、あったでしょう。あれに参加予定の客を一人、社長と一緒に締め上げに行って来たんです。組織のボスだけど、麻薬の売買に手を染めていたから、ボスの元に着いたときには、既に『ギャングスター』によって処刑されていました。
麻薬を取り扱っているって、噂を自ら流布しているバカだったんですよ。だからついでにオークションの出資者に関する手がかりでもないかって探したら、意外な物が出てきまして」
剣持は手にあるファイルをめくり、ある写真を甲斐田の前に差し出した。
「メモ書き、ですか」
紙の上に手で書かれたらしい。書いた本人だけが分かればいいような、雑な文章の写真だ。
『ROF―MAOのホテルを会場にするなんて、あの女は面白いことを考える。さすが魔女だ。大寒が過ぎ立春の頃に開催するつもりらしいが、まだこれから調整すると言っていた。気になるのは、客層について。人身売買をするなら口の堅い相手を選ばねばならん。俺以外の客は他言無用の担保を取れているのだろうか。リストを前に見せてもらったとき、怪しいのが何人かいた。とくに術者たちは倫理というものを知らない研究バカが多い。情報がどこから抜かれるか分からない危険を、知っているのだろうか。
そういえば、あの術者、パーティー会場で犬山オーナーに絡まれていた。あの底の知れない闇ブローカー、何を考えているか知れたもんじゃない。要注意だ。術者には早々に釘を刺しておくこと』
「引用文は原文のままが、基本でしょう?
文章から察するに、今からおおよそ三か月後を目途に、僕らのホテルで人身売買なんてやろうと企んでいる奴らがいる」
ふざけやがって。
小さく呟いた剣持の声には、強い嫌悪がにじみ出ていた。
だがすぐにそれは霧散する。珍しい感情の起伏に、甲斐田がファイルから隣に立つ青年へ視線を向けるが、その時にはすでに剣持は声の調子を戻していた。
何事もなかったかのように、剣持は軽く笑って見せる。話しを続ける。
「出品者は不明ですが、参加しそうな術者はこの文面から割り出しました。パーティーを突き止めて、条件に合いそうな術者を探したところ、二名いました。
……で、その内の一人が、君の今睨んでいるオークションの出品予定者ですよ」
予想していない振りに、甲斐田は「は?」と声を上げた。
「文面から察すると客でしょう?なのにこっちでは出品予定者に名を連ねているとか、どういうことなん?」
「さあね。自分で扱う品を仕入れるためにオークションに『客』として参加するつもりだったけど、出品したいモノを仕入れたとか?メモ書きした当時は不確定だったようだし、予定の変更くらいあるでしょう。知らないけど」
剣持は甲斐田の疑問を一蹴する。反応速度からして、あらかじめ自分でも考えていたのだろう。弁の立つ彼のことだから、今考えて返された可能性もあるが。
「で、術者二名が候補者です。どうやらはちゃめちゃに怪しいホストクラブにこいつらは通っているようなので、ふわっちの管轄するお店にでも誘導して情報を絞り出そうって最初は考えていました。けれど、ふわっちに聞いたところ、術者は基本的にそういう店へ来ないそうです」
「なのになんでそこには通っているん?」
「さてね。でも、だからこそ怪しい、とも思いませんか。借金の踏み倒ししようとしている客が一時通っていたから調べてくれって言って、外部に簡単に調べさせました。お店の客層は裏も表も関係ないそうです。外見は目立たないし、飲食店ではあるけれど看板は出していないそうですよ。調べてもらったところ、オーナーが情報屋をやっているらしい。二階で分厚いファイルをめくっていたから、おそらく客の情報も収集している様子。と、報告を受けました」
おおよそ剣持の言いたいことが分かって来た。椅子を引いて、体ごと相手の方を向く。思った通り、剣持は何かを含んだ笑みを浮かべている。
「つまり、モチさんは僕に、情報を探ってきてほしいんですね」
「こういう調べ方はあなたが得意とするところでしょう?」
得意だけど、ちょっと手間かかりそうだな。
心の中で呟いて、甲斐田は困った笑顔で返事をした。
調べる期間や手順、甲斐田の持っている仕事の三分の一を剣持に負担してもらうことで、彼らの交渉はまとまった。
先輩を見送った甲斐田は、椅子に腰かけて、一口お茶を飲む。仕事の合間の一休憩を楽しんでいると、携帯がメッセージの着信を告げた。確かめれば、送り主はついさっき別れた人物だった。
『念のために言っておきます。僕が調べるのに使った情報屋は、二流くらいのたばこ臭い奴です。無事に帰って来たから、十中八九、店は調べが入っていることに気付いていないんでしょう。けれど、万が一泳がせているだけだったら相当に頭の切れる相手ですから。気を付けてくださいね』
「心配してくれて、ありがとう、モチさん」
仲間を仲間と思い心配してくれるから、一緒に組めるんだよな。
お礼のメールを打ちながら、甲斐田は小さく呟いた。
*** ***
「ねえ犬山。昨日から周りをウロチョロしてくる奴がいるんだけど。たばこ臭いし。放置でいいの?」
「いいの。二流だもん。いちいち相手していたらキリないから」
それより、王冠を返しに行った神田さん、早く帰ってこないかな。
オーナーはそう呟いて、窓の外を眺めていた。
「なんなら、思わせぶりにファイルでもめくって見せたらどうですか?人間は捉えたい方向へ情報を解釈しますからね。怪しいファイル持っているな、から、自分の考えたい方向へ勝手に考えて満足してくれるかもしれませんよ?」
「じゃ、夢追くんやって見せてきてよ。早く撤退してくれるかも」
夢追と同じく一仕事を終えたオリバーがいたずらっぽく提案し、すぐに犬山が悪ノリする。
しょうがないな、と椅子から立って、夢追は背後の棚から分厚いファイルを数冊取り出して見せた。
「でもさ、怪しいファイル持っているってわかったら、情報を求めている奴が店に侵入してこない?」
「その時は君らが返り討ちにするでしょ。すぐに」
「たしかに」
飛ばしても平気だけどちょいとだけ情報つきの あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございます。また、いいねやブックマーク、スタンプコメントなどもありがとうございます。毎回励みになっております。
また、アンケートに答えてくださった方も、ありがとうございます。まとめて資料集を出してみました。楽しんでいただけていたら、幸いです。キャプション注意書きにも、時々新情報を追加していくつもりです。毎回はできるか分かりません。でも、変化させていくつもりです。
作中で剣持さんが話していたこと、『第九話 襲撃』『第十話 それぞれの動き』『第十三話 最低限の、最後のルール』『第13.5話 暗部の二人の尋問官』の場面です。タグつけていないので、一応書いておきます。
あの、このシリーズをプロローグから読まれている方に聞きたいのですが、最初に『十色王冠』が盗まれてうんぬんという話が出ていたこと、覚えていらっしゃいますか?
作者でさえ時々忘れていて、いい加減回収していこうって思っています。これよりも、他の……ストーリー書きたくて……。
Big Thanks 多界隈ヲタク様
ネタ出しにめっちゃ協力していただきました。イケホスの小説書かれています。ぜひ!読みましょう!
最後に、少しでもお楽しみいただければ、幸いです。