第15.5話 悪魔の友ができたんだ
第15.5話 悪魔の友ができたんだ
二次創作でありフィクションです。ご本人様と一切の関係がありません。
他人様に迷惑をかけず、妄想と現実の区切りをがっちりと付けた上で、お楽しみください。
シリーズには、人外設定が出てきます。
あの、パニックホラーの怪物の考えを理解するような、ドット絵ながらグロ注意なゲーム実況配信がありましたよね。あれに多大に影響を受けて書いております。
ここまで読んで、不安が胸をよぎった方は、ブラウザバック推奨です。自衛しましょう。
キャプション注意書きにもう少し詳しく地雷回避のための情報がありますので、確認をどうぞ。
解釈違いも平気な猛者と自負される方々は、どうぞ先へお進みください。
少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。
「悪魔の定義って、なんだと思いますか?」
目の前に座る薄幸の美丈夫、みたいな雰囲気を醸し出している魔の研究者は、唐突に聞いてきた。
加賀美はそっと周りを確認した。現在彼らがいる休憩室には、二人の他に誰もいない。ホテルのスタッフに、「経営者たちがこんな話をしていた」なんて知られたら、どう背びれ尾ひれがつくか分かったものではない。
ひとまず周囲に聞き耳を立てる影がないと安心して、次に加賀美は同僚を心配した。今は仕事の合間、連続した打ち合わせがやっとひと段落して取れた休憩時間だ。この貴重な休息に、雑談するのはいい。気が楽になる。リフレッシュになる。だが、内容が仕事に引きずられてはいないか。さすがにホテルの事務仕事を投げすぎたのだろうか。
「甲斐田さん。どうされましたか。働きすぎて頭がショートでもしましたか」
本気で心配で、加賀美は相手の顔をじっと覗き込んだ。空色の瞳は、疲れてはいても焦点を失ってはいない。起きたまま寝ている、なんて器用なことはしていないらしい。
「社長、あの、大丈夫です。マジの心配をしないでください。ROF―MAOの仕事と研究で忙殺されたから、なんかおかしなことを言い出した、みたいに思わんでください」
「おや、違いますか。悪魔がいるのに何を言い出すかと思うに決まっているでしょう。……なら、正気で聞いているんですね」
こちらが本気だと分かった甲斐田は、ややオーバーはリアクションを付けて否定してくる。年数は長くないが恐ろしいほどの密度で顔を合わせている仲だ、彼が本当に疲れておかしなことを言い出したわけではないらしい。そのくらいの見分けはつく。
しかし正気で聞かれた質問なら、なおさら変な内容であった。
「そんなの、哲学を義務教育でしか触れていない一般人に『なにを以て人は人と言えるのか』みたいな問いをするのと同じじゃないですか。甲斐田さんは『魔』の研究者であって、悪魔をはじめ人外の研究者ではないし、一体どうしてそんなことを気にするんですか?」
椅子の背もたれに深く体重を預け、首をかしげながら加賀美は聞き返す。休憩時間に出す雑談にしては、少々重たい内容の予感がする。
「門外漢だからこそ、当事者の意見を聞きたくなったんですよ」
ため息混じりの返答をすると、甲斐田はテーブルに両肘をついた。背を丸めて軽くうなだれる。
「仲間から、一昨日相談……みたいなものを受けたんです。そいつの友達が、最近遠出して、帰ってきてから雰囲気が変わった。なにかあったのかって聞いたら、『悪魔の友ができたんだよ。僕の体の中で休んでいる』と答えられた」
甲斐田はここで区切ると、相手の反応を伺ってきた。
「なるほど。それで?」
聞いている加賀美は、予想外の展開に確かに驚きはした。だが、わざわざ飲み込む時間を取ってもらうほどではない。まずは話を最後まで聞きたい。
「あいつ、祓魔師だから、そういう気配とかにも敏感なんですよね。で、たしかに、わずかながら友達から他の何かの気配がするらしいんです。でも、悪魔って感じはしない。害意執着その他負の感情の欠片もない。あったら悪魔を名乗る悪霊とか疑えたんですが、可能性はほぼゼロと言われました。なにより、当人が『傷つけない約束を結んでいる』と言っていたそうです。悪魔が持っている魔力とか空気とか気配とか、そういった類のものさえ一切感じられなかった。……だから、あの人の言っていた悪魔ってなんだろうって話になりまして。当事者にもご意見伺いたい次第です」
やけに丁寧な締め方をして、甲斐田は総括をしてきた。こちらを見つける顔は真剣そのもので、友が気にしていたことを解決したいらしい。多少は彼を研究者たらしめている知的好奇心もあるだろう。どれにしろ、きちんとした対応を加賀美に迫って来る。
「甲斐田さんは、悪魔という種族の定義はご存知ですか」
「一般的に、魔力を使うときに動物の角を表す種族って聞いたことはありますけど」
「ええ。おおまかな認識はそれで合っています。もっと細かい点はありますが、今回は関係なさそうなので置いておきます」
先の展開が読めなくて、甲斐田は少し険しい表情になった。それでも黙って聞く姿勢を崩さないでいるのは、流石だ。
加賀美は、指を二本立てて見せた。
「悪魔っていうのはね、二種類あるんです。種族と、概念の、二つが」
「概念?」
「ええ、概念ですよ。人間は神話や想像で悪魔の像を描いているでしょう?でも、悪魔像と、本物の悪魔は乖離がある。想像の産物と実物の差が。まあ伝承なんて変遷していくものです。
悪魔の概念とは、そういう人間が思い浮かべる悪魔像を思い浮かべてもらったらよろしい。自身は悪魔像と酷似している。だから悪魔なんだと自ら定義し名乗りを上げた者たちが、現存する概念の悪魔ですよ。どこで生まれたか分からない上位存在というか未確認究極生命体とかが、自分を定義し形作り社会に溶け込むための名乗りによく使っています」
わたくしも、その一人ですし。
最後の一言だけは言葉にしないで、心の中に留めておく。
加賀美は正面の同僚を静かに眺める。彼は話されたことを慎重にかみ砕いて理解している最中だった。
*** ***
月末。在庫の棚卸と翌月の発注、月初めの給与支払いに向けて、四人がパソコンの前に座り打鍵の音を響かせている。机に置かれているのは各々が準備した飲み物たち。気まぐれに中身が変わるかわいいグラス、冷えたコーン茶、常温の水が二つというラインナップだ。
そのうちの一つの主、この中で一番仕事が早いはずの彼は、先ほどから手の動きが鈍い。長時間の作業で集中力が切れかけてきた神田は、凝った首をほぐすために首を回した。その拍子にはす向かいに座るオーナーの手元が目に入る。リズミカルに、でも音は立てないで指の腹が机を叩いている。
さすがのたまきさんも疲れたのだろう。だいぶやっているし、休憩にしようか。
そんなことを考えていたら、犬山は急に口を開いた。
「悪魔って、なんなんだろう」
唐突に発してきたオーナーの問いかけに困惑して、隣二つの席に座る同僚たちは作業の手を止めた。
目を丸くする三人に構わず、犬山は質問を続ける。
「あのね、オリバーきゅん最近なんか変わったじゃん。だいぶん雰囲気違うでしょ?だからボク聞いたんだよ。『何かあったの?』って。そしたらさなんて答えたと思う?『悪魔の友ができて、今は僕の体の中で休んでますから、その影響が出ているのかもしれませんね』だって。悪魔って、なんかの比喩かな。本当に悪魔がいるのかな」
犬山は作業の手を完全に止めて、なんならノートパソコンすらも閉じて、頬杖をつく。顔は正面を向いているが目の焦点はあっていないので、おそらく当時の状況を脳裏に描いているのだろう。
「うん、たしかに変わったなって思ってた。そこまでは同意できる。けどさ犬山、急すぎる」
「せやね、驚いたわ。まあでも言いたいことは分かるで。オリバー君最近なんかテンションちゃうかったし」
おしゃべりな二人が返している間に、神田は直近の同僚の姿を思い返す。あの長身に、やたらと懐かしい気配を背負っていた。なるほどたしかに、事情を知らない相手へ説明するなら『悪魔』になるだろう。
「悪魔がいるのに何言い出したんだと思ったら、そういうことでしたか」
一人で納得してから言えば、隣とさらにもう一つ隣から熱い視線を送られてきた。
「神田君はなんか知っとるんか?」
少し椅子を引いて、半分くらい体を神田の方へ向けて、ロベルは聞いてきた。大柄な体の向こうでは、深紅のタートルネックがこちらに傾いているのが伺える。どうやら、夢追も作業する手を止めたようだ。
「神田さんて、この頃オリバー君と距離近いよね。オリバー、って呼び捨てにしてたし」
興味津々な声を上げる犬山は、笑っていた。ただの笑顔じゃない。擬音を付けるならにちゃあって感じに笑っている。知り合ったばかりなら流石に指摘していたような笑い方だ。今はもう一々構っていたら進まないと知って、鍛えられて、スルースキルを身に着けたから、何も言わずに質問に答えるだけだが。
「オリバーと私って、けっこう趣味が被ってたんですよ。ここ一か月くらい前かな、お互いに好きな物が同じだって分かって、時間が合うときよくゲームしているんです」
「え!?そうなのいいなどんなゲームしているの?」
「あ、たまきさんの苦手なFPS系のゲームばっかりですよ。それに……人が乗り込んで操縦するロボットのアニメとか好きなんですけど、知らないでしょう?」
猛烈に食いついてくる犬山の対処も、もう手慣れたものだ。お店を開いて、まだ夢追と自分だけで犬山の相手をしていた頃は、笑って誤魔化したり夢追から助け舟をもらったりしていたのに。
頭の片隅で、神田は昔を思い出して非常に懐かしんだ。振り返れば、ずいぶんと長い付き合いで、かなり鍛えられ慣れたものだ。
なんだかんだ言って、居心地いいよな。
自分の苦手分野で口ごもる犬山に対する苦笑の中に、ほっこりした気持ちも混ざっていた。
さて、回顧するのもいいが、そろそろ本題に戻るとしようか。
「えっと、オリバーの言っていた悪魔ですけどね。たぶん、一般的に皆さんが想定する悪魔とは違うと思いますよ」
少し声音を変えて空気を作る。しっかり説明しないと分かりにくいのだ、話を脱線させられてはたまらない。
「というと?」
相槌をくれる夢追も分かったもので、声のトーンを下げて雰囲気作りに一役買ってくれる。
神田は指を二本立てて、軽く振る。
「悪魔っていうのは、二種類いるんですよ。一つは、私みたいに種族が悪魔だから名乗っている。もう一つは、自分が悪魔みたいな生態や生き方をしているから、悪魔を名乗る。
……ところで、みなさんは悪魔の種族の定義をご存知ですか」
「悪魔って、なんか魔力を使うときに角を生やすんちゃうかったか?」
「そうです、全力を出すとき角が隠せないんですよ。細かい点はもっとありますが、今は関係ないですから置いておきます。つまり、悪魔に生まれたって自覚があるんですよね。これが種族です。
で、もう一つ。私たちみたいに本物じゃなくて、一般人が思い浮かべる神話や物語の中に登場する悪魔がいるでしょう。現物とは違う、想像とか口伝によって形を変えていった悪魔の偶像、想像の姿、概念とも言い換えられますね」
神田はここで一旦話を止めた。聞き手たちは三者三様に傾聴していて、理解できているらしい。静かに先を促してくる。
「ここでちょっと話を置いておきます。……そうですね。例えば、生まれた名前のないけど自我を持った存在がいたとしましょう。捕食して、知恵を付けて、人の文化を知ります。そして、自分がまるで人間たちが語る悪魔のような生態だと自覚を持ちました。
あるとき、そいつは他者に聞かれます。お前は何者だ、と。そいつは今までの聞いてきたことを振り返って、知識を総動員して、自己紹介を考えます。
……そして答えます。『悪魔です』と」
途中から臨場感たっぷりに語っていた神田は、パン、と手を鳴らす。
「はい、こんな感じに名乗る悪魔もいます。数は多くはないですけどね。おそらくオリバーの友達っていうのも、名乗っているんでしょうね。オリバーが納得して共生している様子でしたし、そんな我々が心配することもないですよ」
それから、一休憩を挟み彼らは作業を終わらせた。全員で外へ打ち上げを兼ねてファミリーレストランへ行き、程よく食べた後、各々の帰路についたのだった。
部屋に帰った神田は、深々とソファに身を沈める。
昼間、悪魔について話していくうちに思い出したのは、かつて暗部で働いていたときのこと。
「加賀美さんも、そっちの悪魔だったな」
一人だけの静かな空間に、神田の呟きは溶けていった。
*** ***
「オリバー、最近いいことでもあったのか?」
カウンターの向こう側から響く低音に、ほんのり頬を上気させた教授はうれしそうな声で応えた。
「ええ。新しい友達ができたんです」
先日のフィールドワークで、たまたま立ち寄った森の中の廃工場。瓦礫の下に生き物の気配を感じて、何か動物が足でも挟んだかと覗き込んだ。いたのはたしかに生き物であったが、オリバーが想定していたどの動物からもかけ離れていた。
「お前さんのジャケットの内側で、ごそごそしているのが、その『友達』か?」
「そうですよ。ふふふ、珍しいじゃないか。僕以外の誰かがいたら、怖がって顔を出そうとしないのに」
そうっと、オリバーは内ポケットのあたりから顔を覗かせる『友』の頭を撫でてやる。ぎょろりと動く緑がかった一つ目が、安心したように細められる。今はオリバーしか客はおらず、店内は心地よい静けさで満ちている。
ここが夢の世界だからか、はたまた相手がベルモンドだからか。この店には時々人間の正気度を奪う姿をした客が来る。らしい。ベルモンドから聞いただけで、オリバーはもちろん実際に会ったことはない。そんな相手も客としてもてなせる店主であり空間であるから、『友』も動く気になったのかもしれない。
「変わった奴と仲良くなったな」
鋭い視線に、やや硬くなった声音。具体的なことは一切言及していないのに、言葉の中に含まれる意味ははっきりと伝わって来た。
「弱り切った命を捨てておけなかった。最初はね、それだけだったんです。なんとなく彼の考えていること、伝えたいことが分かって、……なんというか、気が合ったんです。世話をするうちに情が湧いて、かわいくなってきて。彼も僕を親のように慕ってくれている。そして、今の状態に至ります」
普段から下がり気味な眉尻をさらに下げて、少しはにかむように笑いを浮かべてオリバーは答える。嘘偽りは一切ないし、心配されるようなこともない。精神を侵略されていないし、自分は自分のままだ。
「部屋にいるときは彼も僕の体から離れて、自由に動くんですよ。外に行く時、一人で残されるのが怖いらしくて、こうしてついてくるんです」
重ねて言えば、ベルモンドは困惑を混ぜたため息を吐きだした。やれやれと首を振って、後ろを向く。グラスに氷が入るきれいな音がして、ベルモンドが振り返った時には、小さなグラスと酒瓶が手に握られていた。
綺麗な紅色がグラスに注がれて、未知の刺激的な香りが鼻孔をくすぐる。
少なくとも、人間なら本能が警戒を示しそうな香りだ。
「古い知り合いが好んでた酒だ。お前さんとよく似た姿の奴でね、これなら飲めるんじゃないかな」
彼が穏やかに語りかけているのは、オリバーではない。鮮やかな緑のジャケットの裏にいる『友』だ。
「どうする?」
『友』はそっと、一本の腕を伸ばした。うねる真っ赤な触手だ。もうオリバーは慣れたものだが、人によっては生理的嫌悪を覚えそうな動き方をする。それはジャケットの内側へとグラスを飲み込んでいく。さすがに人前に出るのは抵抗があるらしい。ベルモンドには見えないように、ジャケットからはみ出さないように注意しながら、『友』は大きな口を開けた。鋭い歯が幾重にも並ぶ口。この光景を見るたびに、オリバーはパニック映画の怪物を連想する。同時に、拾ったばかりの頃は一重だったのに、こんなに立派に生えそろって、なんて親心も湧き上がってくる。
その口に、『友』はグラスを入れた。豪快なガラスと氷を砕く音が響く。
「ちょっとちょっと?!」
オリバーが驚いている間に、『友』はガラス片だけを器用に吐き出した。正確には、口の中から伸ばした触手の先にまとめて持って、カウンターに返品した。
「え……ええっと……」
親目線で共に生活するオリバーは予想できなかった展開の連続で言葉を失ったが、一連のやりとりを見守っていたベルモンドは面白そうに笑っている。
「グラスの味はお気に召さなかったか。今度からは中身だけを飲んでくれよな」
優しく愉快に言い含められて、『友』は触手をうねらせて返事をした。
しばらくの歓談の後、オリバーは帰路につき夢から覚めた。
気持ちよく体を伸ばす。隣には『友』が元気よくうごめいている。
「悪魔、か。たしかに怪物なんて紹介はしたくないし、うん、捕食する対象からしたら悪魔の申し子だろうしねえ、君は。吸血鬼もそんな言われ方をするんだよ。……いいね」
何がいいの?とでも聞くように、『友』はまばたきを繰り返す。オリバーは優しく手を差し出しながら言った。
「今日は景君と会う約束があってね。彼は祓魔師だから、きっと君の気配を感じ取るだろうからさ。隠すよりも紹介したほうが、余計な心配や誤解を招かずに済む。ただ、そのときどんな口上が似合うかなって思っていたんだ。悪魔は種族名とばかり思っていたが、なるほど概念か。なら、使わせてもらおう」
飛ばしても平気な あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか。
また、いいね、ブックマークやコメント、コメントスタンプなどをしてくださって、本当にありがとうございます。毎回毎回、楽しんでもらえたのかな、なんて思えてとても励みになっております。リアクションを返してもらえるって、猛烈にうれしいです。
今回、視点人物となっておられるお三方には共通項目があるのですが、お判りでしょうか?
作者、「プレイされている方が人外ムーブしながらキャラクターを操作する」配信の一場面が大好物です。本当に好きです。で、見ました。何をかは、まあ、お分かりかと思います。
そして、今回の人外設定についての深掘りか伏線か分からないストーリーが出来上がったという訳です。
物語を進めろ、といいう幻聴を勝手に聞いております。あの、書いてはいます。納得いかなくて書き直していたら……あの配信があって……。
書くの、楽しかったです。とくにルビ振るのが。
少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。