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第十六話 いつも以上に甘く

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第十六話 いつも以上に甘く

こちらは二次創作です。お名前だけをお借りした二次創作でありフィクションです。実在する方々と一切の関係がない、作者の妄想を形にした駄文です。

キャプション注意書きは読まれましたか。イケホスを筆頭に解釈違いが起こる可能性が非常に高いです。地雷はありませんか。何でも受け入れる猛者と自負される方のみ、先へ進まれることをお勧めいたします。

人に迷惑をかけず、ひっそりとお楽しみください。

裏通りにある一件の店は、数日前から営業を再開していた。キャストが二人か三人しかいないような平日の夜、全員が揃う週末の夜。以前の襲撃犯はほぼすべてを平らげて、彼らは日常に戻りつつあった。

さて、店はすでに営業時間を過ぎた。裏で掃除をしたり、皿洗いをしたりして、ホールから姿を確認できるのは二人だけ。

パソコンに業務日誌の情報更新をするため、キーボードの上で踊る赤い手袋。

店の高級酒「ノリ17世」などの在庫を数えているのだろう、棚の前に立つ黒いスーツ姿。

彼らの間にあるのは、作業に集中する静かな空気だった。紙にペンを走らせる音や、キーボードを叩く音が心地良いBGMになっている空間。

そんな作業がはかどる、日常の時間だった。

がららん

不意に閉店の看板を下げている扉が開いた。客が強引に入って来る。施錠していた扉から堂々と時間外の来店を果たすのは、店のオーナーにして一番の太客だった。なるほど。この人物ならきっと持っているマスターキーを使って鍵を開けたのだろう。

「延長、いいかな」

ゆらりとこちらに向けてきた目元には、軽い隈ができている。きれいに整えられていただろう青みがかった白い髪も、乱れが目立つ。生気のない声に気だるそうな立ち姿で、見る者はすぐさに来客の現状を把握した。

「もちろんですよ、たまきさん。さあ、そんな突っ立っていないで?お席へどうぞ」

ほんの一瞬だけの目配せの後、まず動いたのは金髪の男。彼は柔らかな口ぶりで誘い、優雅な動作で客に近寄る。案内される側は幸せそうに目を細めて、それから無言でうなずき、彼の後ろについていく。二人は奥のボックス席に着いた。

客が座ると、すぐに目の前へ氷入りのグラスが置かれる。差し出した手は黒い手袋に覆われていて、そのまま上へ視線を動かせば、長いまつげで飾った赤い瞳があった。

「ようこそいらっしゃいました。まずはお水を飲んで、リラックスしてください」

どことなくよそ行きだと感じる、作られた声。演技らしさのある声。だが、それがまた良いらしい。言われた客は嬉しそうにお礼を言って、グラスを口に運んだ。

三分の一ほど中身の減ったグラスを置いてから、たまきは隣に座る金髪のキャストを見て、次にテーブルの前で控えている黒いスーツの男を見る。その頬は緩み始めていた。

「ねえ、夢追君は席についてくれないの?他の子たちは?」

「いますよ。ベルモンドもオリバーもロベルも。奥の作業をしていますから、全員呼んできましょうか?」

何を考えているか全く予想できない赤い瞳を細めて、来店時から変わらない微笑みのまま夢追は聞く。

「うーん、どうしよっかな」

「おや、私だけでは足りませんか?」

たまきが迷う素振りを見せた途端、隣に座るキャストは聞いてきた。試すようにもからかうようにも聞こえる声音から、彼の本心をうかがい知れない。

「違いますよ神田さん!ボクはただ色々なイケボを聞きたいな、ってだけ……神田さんの声が良すぎて一対一だと心臓が長く持たないし……」

最初は勢いよく、しかし途中からどんどん照れるように目線を下に向けて口ごもりながらたまきは言う。その様子をにこやかに、少し面白そうに糸目のキャストは見守っている。

「冗談ですよ。たまきさんの言いたい事は分かっていますよ」

「ほんとうですか?」

たまきは上目遣いに神田を見る。仕草にあざとい理由はなく、きっと純粋に、真っすぐに相手を見られないのだろう。わずかに震えた声や緊張から胸の前で握り合わせた手から、そう判断できた。

「もちろん」

そして、神田も同じように判断したのだろう。少し笑みを深くして答えた声は甘かった。正面に座ってもいないし当事者でないというのに、声や雰囲気の甘さに驚かされる。正面にいる客にはなおさら効果抜群のようで、頬どころか顔を真っ赤にしてもだえている。

「もう……神田さん……最高……」

消え入りそうな小さな声で、たしかにオーナーはそう言った。

「じゃあ、皆さん来てもらいましょうか。あ、つまみだけお願いします」

「そうだね。……お酒は後でいいか、うん。呼んでくる」

客がもだえている間に、キャスト達は普段の声音とテンションに戻って会話をし、黒いスーツの背中は『スタッフオンリー』の扉へ消える。

「あれ、夢追くん行っちゃった?」

顔を上げて意外そうな反応をするたまきに、営業ではなく本心から可笑しそうに神田は笑った。

「皆さんを呼びに行かれましたよ?」

「えっ。そんなまだ二人っきりになるのに心の準備がまだ」

「たまきさん」

一瞬だけ動揺するたまきに、神田は急に真剣な声音で呼びかけた。

「ずいぶんと疲れた顔をされていますよ。ご飯食べましたか?」

他の面々が揃うまでの前座のつもりか、ここに来るまでの出来事よりも体調に関することを聞いてくる。だが、聞かれているたまきにそんなところまで考える余裕はないらしい。いや、考える必要もなければ体力もない、が正解だろうか。どれにしろ、客は素直に答えだした。

「付き合いで口に入れはした、って程度かな。もう今日は大変で、全然食欲湧かなかったからまともに食べたの朝くらいですよ。お水がおいしい」

言いながらまたグラスに手を伸ばしている客は、日中にあったことを振り返ってまた表情がしぼむ。そして水を半分ほど飲み干し、「ああもう」と独り呟いた。

「相当お疲れなんですね。そのうちおつまみを持って来てくれると思いますから、少しでいいから口にしてください。何も食べない、なんて体に悪いですよ」

やや前のめりになりながら、神田は心配そうに声をかける。隣に座るたまきは深々とため息を吐き出した。

「本当に……。もうボクは疲れたんですよ神田さん。だからこうして時間外だけども来たんです。ちっともはかどらないし逃げられるし時間稼ぎしてくるしで散々で!いらない情報ばっかり垂れ流されたりどうでもいい世間話に付き合ったりして!もっと早い時間にお店へ来たかったのにいいいぃぃぃいい!!」

最後は本物の絶叫になった客の話。その内容と勢いに臆せず動じず、淡々とキャストは相槌を打つ。

「今日も働いたんですね。さ、今は嫌なことを置いて、楽しんでいってください」

柔和に、優しく、それでいて甘く。

囁く声は、まさに魅惑の声だった。

「お楽しみ中、失礼します」

そんなささやかな雑談の時間を置いて、彼らの間に渋くて低くてよく響く声が降って来た。声を聞いた途端に、勢いよくそちらへ客は顔を向ける。どうやら、たまきは声の主が近寄ってきたことに気付いていなかったらしい。近寄って来た男は180を超えて190に届くかもしれないほどの高身長に、広い肩幅、鳩胸の持ち主だ。もみあげからあごにかけてダンディな髭を生やしたカッコいい顔に、柔らかな笑みをたたえた丈夫だ。威厳がある青と黒のスーツに身を包んだ彼の接近を察知できないほど、客はキャストとの会話に集中していたらしい。

――まあ、あれだけ甘いこと言われて蕩けた顔をしていたら、周りなんか見えないか。

独り納得している間に、たまきも驚きから戻って来たようでやっと返事をした。感極まった、興奮した、そんな表現が似合う弾んだ声だった。

「ベルさん!来てくれたんですね」

「ふふっ。もちろん。今宵もご指名、ありがとうございます。このベルモンドもお相手いたしましょう」

黙っていれば怖いくらいに厳ついだろうが、相手を落ち着かせる温かな笑みをベルモンドは見せてくる。はちみつ色の瞳はとても優しくて、神田の隣に腰かける動作も緩やかだった。

客の空いているもう片方の席になぜ行かないのか、見ている側は不思議に思った。だが、場にいる彼らは自然で、気にしていない。誰かくる予定なのだろうか。

「オリバーきゅんとロベさんは、まだなの?」

小首を傾げながらたまきは聞く。ベルモンドはいたずらな笑みで奥へ視線をやるから、席についていた二人はつられて奥を、料理やお酒を運んでくる厨房の出入口の方へ目をやった。

ちょうど扉が閉まる音がする。

すぐに姿を見せたのは、先程とは違い赤いベストも着てきた夢追だ。琥珀色のグラスと透明な液体が入った二つのグラスを乗せた盆を片手に、もう片方には軽いつまみが盛られた皿を持って歩いてくる。

三人の視線に気づいた夢追は、「しょうがないなあ」とでも言いたげな顔をした。

「なんですか?そんなに見つめてきて」

しょうがないから言っているのか、役に入り込んでいるからなのか。彼はやや気障な言い方をした。

「イケボに接客されるのは最高だなって噛みしめているの。ねえ、あの二人はまだ?」

「ああ、あいつらなら私服に着替えていますよ。眼鏡が好きでしょう?ロベちゃんなんてわざわざ髪もセットしていますからね、少し待ってあげてください」

だんだんと最初に出していたよそ行きの声から、普段のふざけるときの声に戻ってきている。変わらず良い声であるから、たまきは気にしていないようだ。聞いた内容がよほどうれしいのか、また頬を緩ませている。

しゃべっている間に夢追はテーブルに着いて、皿もグラスも綺麗に並べていく。使い終わった盆はすぐ近くのカウンターへ置くと、彼はたまきの空いている隣の席へ落ち着いた。

「お酒飲むのはベルさんだけ?君たちは飲まなくていいの?」

両サイドの手元を見て、たまきは聞く。顔と声音から察するに、ただ気になっただけで特別不満や文句はなさそうだ。この客はキャストに酒を飲ませるタイプではないらしい。

「ええ。酔うのはたまきさんだけで十分です。お酒まで飲んでいたら酩酊してしまいますよ」

「……もう、神田さんたら口が上手いんだから」

「今夜はサービスですよ。営業時間を過ぎているのに来られたってことは、相当お疲れなのでしょう?なら、いつも以上に甘くして差し上げないと、ね」

びっくりするくらい甘い言葉を言われて、たまきは鼻にかかった笑い声が勝手に漏れ出している。独特なやり取りだが、彼らは慣れているようだ。大して気に留めず話を続ける。

「しっかし、今夜はどうしたんだ?なにがあったのか聞いてもいいかい?」

優しく労わるように、そして少しだけ遠慮がちにベルモンドが質問した。他の二人も黙って、たまきがどう答えるか待つ。

注目の的となったたまきは、一つため息を吐き出した。

「詳しい内容は確定してから連絡するけど、色々ボクも探っているの。……追っている取引に関係しそうな奴らを他の情報屋とかから探しているんだけど、全然よもう全然。出入り業者も多いしデマを掴まされたし、散々待たされた上に外れひいちゃったりしてさ。もういい加減疲れて、癒しがほしくて来たの。今夜の収穫らしい収穫なんて一つだけだし、まだあやふやな手がかりでしかないの」

一気にまくし立てると、たまきはまた重たいため息を吐き出す。そしてグラスの中身を一息に呷った。だーん、と勢いよくテーブルに戻す。

「情報が錯そうしているんだよね……。裏社会で禁止した取引が、こんな短い期間で二つも三つも起こるなんて考えにくいんだけど」

真剣で冷えた目と、重く沈んだ声。

主役がこぼした本音を聞いて、周囲にいる男たちは思わずキャストという仮面の下に隠しているはずの、裏社会の住人の顔を見せた。

瞬間、場の空気が張り詰める。ホストクラブではなく、組織の会合のような雰囲気になりかけた。

「おやおや。せっかくオーナーがいらしたのに、どうしてそんな空気になっているんです?」

唐突に朗々と響かせた声が、その空気を元に戻す。甘くて低めの声を聞いて、一気にたまきは顔をほころばせる。

「オリバーきゅん!ロベさんも!」

黄色い声を上げる客へ、しゃべりかけたキャストは華やかに微笑みながらお辞儀をする。彼もまたかなりの長身だ。深い緑のスラックスを履いた足はすらりと長い。薄い色のロングコートに、黒のハイネックのセーターという出で立ちは、シンプルでしなやかなラインを際立たせる。

「おまたせして申し訳ない。そして、今宵も教授ことオリバー・エバンスをご指名ありがとうございます、たまきさん。よろしくお願いいたします」

さらに畳みかける丁寧な挨拶は、聞く側がとろけそうになる甘みを含んでいる。なにもかもを包み込む優しい微笑みと共に送られて、たまきは幸せそうに眼を細めていた。

「なんや、今夜はホンマにそういう感じで挨拶だけはせんとダメなんか?」

オリバーの後ろに、隠れるように控えていたキャストが眉をひそめながら聞いてきた。彼もまた十分に背が高い上に、しっかりとした肩幅がある。左右で色の違う瞳と、口元からのぞく八重歯が特徴的だ。

「当たり前じゃん。ボクが来た時は必ず本気で挨拶をしてって言ってるでしょ?特に今夜はお願いね」

オーナーに唇を尖らせながら要求されては、さすがに抵抗できないらしい。彼は諦めとささやかな抵抗がこもっていそうなため息を小さく吐き出してから、表情を引き締めた。

「ご指名ありがとうございます、たまきさん。今夜は楽しんでってくださいね」

「うん!もちろんだよロベっさん!さあさあ座って座って!」

先ほどよりもやや高くなった声に、ぎこちなさの残る言い方が合わさって、客に刺さったらしい。他の面々とはまた違った興奮をしながら、たまきは酒宴に彼らを誘った。

*** ***

「んーーー。意外と仕事についての愚痴とかはこぼさないのか、この人は。例の魔術師たちも来なかったし、あんまり収穫なかったな」

式神からの映像を確認し終わり、空色の瞳はゆっくりとまばたきを繰り返す。自身の術で映した光景から、現実へピントを合わせるために。

「なーにしとんや甲斐田。もうすぐ開場やぞ」

「ああ、もうそんな時間っすか」

控室の扉を開けて、紫を基調にしたスーツを着た男が声をかけてきた。呼ばれた彼は立ち上がると、一つ伸びをしてから扉へ向かう。

「あんま時間ギリギリまで作業しとんなや。疲れが出たら付け込まれるぞ」

「アニキに心配されるようなへまはしませんよ?」

彼らは軽く話しながら、上等な絨毯の敷かれた廊下を歩いて行った。

飛ばしてもまったく問題ない あとがき

ここまでお読みくださりありがとうございます。

また、毎回いいねやブックマーク、コメントスタンプなどもありがとうございます。本当に励まされております。

今回、公式からの供給を得て、さらにボイスが発売されるとの情報が入りまして、ボイスが世に出される前に書き上げなければと急ぎました作者です。ありがとう世界。絶対にこれだけは買います。公式が出した後にこのシーンは書けないし投稿できない作者です。

(なんのことか分からない方は、イケホスの配信を見ましょう!!!個人でもされていますからね!!!!)

この十六話を書く前に、『悪魔たちの魅惑の声』シリーズ特別編と、読み切りで夏っぽい怪奇な話を書きたいなと構想を練っておりました。特別編はかなり書けました。でも、納得がいかず仕舞い込んでいます。難しいです。ワクワクする物語が私は読みたい。書いてほしい。でもなかなか無い。なら自分で書くしか……ない!となっては、自分で玉砕しております。

納得のいく展開が浮かばないんです。破綻も強引さもなく、なめらかであり意外でもある展開を読みたい。つまりですね、自分で自分にものすごく無茶振りしています。

今回の接客シーンを読んで、解釈違いまではいかないけど、物足りない。きっとこの方はこういうことをイケボで言ってくれる(言って欲しい)と思われた方は、どうかご自分で書いてください。できたら私にも読ませていただきたい。

ゆっくり更新していきますので、楽しみにしてくださっている方は、気長にお待ちくださればうれしいです。

お楽しみいただければ幸いです。