17.5話 特別なお客には、特別なモテナシを
17.5話 特別なお客には、特別なモテナシを
こちらは二次創作です。お名前だけをお借りした二次創作でありフィクションです。実在する方々と一切の関係がない、作者の妄想を形にした駄文です。
シリーズには、「流血」「暴力」「殺人」などの描写が出てきます。
人外設定もあります。
他の地雷になりそうな細かな箇所はキャプション注意書きにまとめてあります。
自己防衛し、解釈違いを起こす危険を承知、かつ、解釈違いを恐れない方のみ、先へお進みください。
夕刻 サイド
ただの平日、のはず、だった。
少なくとも、夕刻ロベルにとってはただの平日だったし、ほんの数分前まで店に漂っていた空気も、穏やかで和やかな部類だった。
空調を利かせた店内は心地よい室温を保っていたし、店はもうすぐ閉店で、お客たちはすでに『普通に』見送っていた。あとは閉店の看板を掛け直して、掃除をして、まかないをみんなで食べて帰るだけ。
そう思っていた。だからロベルは最後の客を見送って、いつも通りにテーブルの片づけを始めようとしていた。
がららん
「すまない、犬山はいるか。急ぎの用件なんだ」
唐突になった入口のドアベル。振り返れば、黒い帽子を目深に被ったガタイの良い男がいた。わずかに覗いた琥珀の瞳は、凍てつく冬の雨より冷たかった。
「……あ」
威嚇された訳でも、彼から殺気を向けられている訳でもない。だが、一瞬ロベルは動けなかった。
深く響く声に、聞き覚えがある。190もあるだろう身長と体格、そして暖色の瞳に見覚えはある。
だが、普段接している彼と、目の前の人物が、あまりにも違っていた。
「どうかしたの……、ああ、ベルモンドね」
ロベルの体の硬直が解けるよりも先に、ドアベルの音を聞きつけた店長が奥から出てきた。出入口から数歩進んだ男と、テーブルの前で不自然に動きを止めたロベルを見て、夢追は赤い目を細めた。
「犬山に用?なら、上にいるよ」
「ああ、助かる」
短く応えて、来訪者は足早に奥へ進む。彼が一歩進むたびに、部屋の温度が下がるようにロベルは感じた。
知っている彼なら穏やかに、あるいは余裕を持った笑みを浮かべている唇が、今は固く一文字に結んである。頼りがいのある広い背中も、今は近寄りがたい圧を放っている。
まっすぐ静かに後ろ姿が奥に行き、ドアの向こうへ消えてやっと、ロベルは息を吐きだした。
「驚いたでしょう、ロベちゃん」
同じく後ろ姿を黙って見送っていた夢追は、ロベルにゆっくり近づきながら声をかける。相手を落ち着かせる動きをしてもらっているくらい、動揺していたってロベルにも分かった。
「驚いたどころちゃうでまったく。あんなん前の街で世話なったボスより強いて」
宙に浮いていた手をテーブルについて、もう片方の手で額に浮いた汗を拭う。実際は一分もない短い時間だったろうに、冷たい汗をかいていた。
「うん、あんな全面に出すなんてめったに無いんだけど、あいつも大きな組織で幹部しているからね。圧力は持っているのよ。ほらほら、ロベちゃん深呼吸して。片付けはゆめおがするから、控室で温かいの飲みな、ね」
近寄って来た夢追は、ロベルの顔を覗き込むと背中をさすってくれた。
控室のドアを押した途端、鼻腔へ心地よい香りが流れ込んできた。
「ロベルさん。今、飲み物を淹れていますから、ちょっと待っててくださいね」
まるでロベルが来るのを待ち構えていたかのように、優しく響く声がかけられる。手に紅茶の缶を持った同僚が、いつもの柔らかいヘーゼルの瞳をこちらに向けて微笑んでくれた。
「うん、ありがとうなオリバー君」
お礼を言いながら、ロベルは近くにあった椅子に座る。コップの中身をかき混ぜる音がして、すぐにオリバーはそっとオレンジのマグカップをロベルの正面に置き、自身は隣の席に腰かけた。
ロベルはほぼ無意識に、カップを持ち上げる。中身を覗き込めば、ミルクのたっぷり入った紅茶が渦を巻いていた。暖かい湯気が顔を覆ってきて、一口飲めば、落ち着く香りが温度と一緒に全身を巡っていく。
「あったかい……」
「それはよかった」
横で穏やかに笑うオリバーは、やけにこちらを注視している。自分のマグカップを両手で包んではいるが、口を付ける素振りはない。
「オリバー君は、なんで俺の分まで淹れてくれとったん?俺が来るて分かっとったみたいに」
一息つけたロベルは、あまりにも用意周到な同僚の振舞が気になって来た。たしかオリバーは、犬山に今夜の売り上げ表を渡しに行っていたはずだ。そのまま上にいたから、階下のやり取りなんて知るはずがないのに。
「決まっているでしょう。部屋に急にいらしたベルさんの様子を一目見たら、きっと初めて遭遇したロベル君は気圧されているだろうなって容易に想像できますよ」
実際その通りだったでしょう、なんて付け足す彼は余裕に満ちていた。話しぶりからするとオリバーも圧を間近で受けているだろうに、動揺した様子は全くない。
「そこはありがとうやけど、え、じゃあオリバー君はなんで平気なん?」
「僕はけっこう前からベルさんと付き合い……というか、一時期、色々と仕事を斡旋してもらったり、一緒にお仕事させてもらったりしていたんです。街に来たばかりの頃で、たまきさんにここで働かないかって誘われるより、ずっと前のことですよ。その時、あんな感じのベルさんを何度か近くで見てきましたから」
「へえ!ここで初めましてやなかったんか」
「むしろ、店で先輩としていらっしゃるなんて驚きでしたね。ま、当時は謎の多い仕事人って感じで、ベルさんがどこの組織に所属し普段は何をしているのかちっとも知らなかったです」
苦笑交じりに昔を語ってくれるオリバーは、遠くを見る目をして最後に小さく付け足した。
「まさか『ギャングスター』の幹部だなんてね」
その言葉に含まれるものが何か、ロベルには分からない。ただ、ほのかに笑った口元と柔らかい声音は、ロベルに彼が先輩へ向ける信頼を透けて見せた。
神田 サイド
真っ赤に染まった壁を照らす、背後の業火。
真っ赤に塗られた床に落とす、支配者の心臓。
炎が照らす罪人の顔は、
血で濡れた手に握るのは、
とってもとっても美味しそうで
――ピピピピ、ピピピ、ピピピピ。ピ。
耳障りな目覚まし時計の電子音が、懐かしい光景から神田を現実へ引き戻した。寝ぼけながらも音を止めて、時刻を確認する。予定通りの時間を指す針を見て、神田は深く息を吐きだした。
「……起き……るか」
冬の朝は冷える。心地よい温かさを提供してくれる布団の吸引力に抗って身を起こすのは、毎回多少の切なさがある。
だが、今朝ばかりは、冷たさを彼は歓迎した。空気を胸いっぱいに吸い込んで、意識を明瞭にするために。夢にまで現れる過去の情景を、『過去』にするために。
「久しぶりに見たな。……お腹空いたからかな」
履き心地の良いスリッパに足を通しながら、朝食はどうしようかと思いを馳せる。もっとも、この食欲は普通の食べ物だけで満たせるのもではないのだが。
身支度や朝食を済ませてから、神田は携帯端末を起動する。出かける前にメールやニュースを確認するようになったのは、暗部を抜けてからだった。当時は裏社会の騒ぎが表の社会にまで影響を強く及ぼしてきたから、裏社会の情報収集の一環としてニュースを見た。今は、通う大学での会話や接客で使う世間話のネタのためにも、ニュースを観察している。そんな流れのついでに、仕事関係のメールがないか確認もしているのだ。最も、メールがあることなんて稀ではあるのだが。
「おやおや」
だから、稀なメールの通知が付いていて、神田は小さく声を漏らした。クリックしてみれば、見出しに『重要・要確認』の文字が躍る。
『本日の夕方四時から緊急の打ち合わせ、そのまま夜出勤を求む。
喫緊の依頼。特別なお客には、特別なモテナシを』
具体的な内容は一切なく、集合時間のみ指定する。ボスであり雇い主である彼が急いで送るときの文章だ。万が一、情報漏洩したときの防衛策でもあり、内容が簡素であればあるほど、依頼は危険な傾向にある。
「ちょうどいいじゃん」
危険な依頼ほど、神田が求める『食事』が期待できる。
画面と向き合う彼は、小さく舌なめずりをしていた。
とばしても平気な あとがき
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。また、いいねやブックマーク、コメントなどもありがとうございます。毎回励みになっております。
今回は初心に立ち返り「お客の前では見せない治安の悪い姿」を意識しました。コレもまた治安の悪い一つの姿と思って書きましたが、どうでしょう。え、全然足りない?少ししか出せてないじゃん?……まあまあ、落ち着いてください。多分、次回でもっと出してくれる予定(そう、予定)ですから。
そろそろですね、作者は彼らの過去を匂わせつつ、『人外特有の食事』を書きたくなってきております。
配信やアーカイブを見ていて、「なんであんな治安の悪い姿を想像できる?」と自分に思ったりします。答えは、「自己供給するしかないからやろがい」です。即答でした。たまにゲームのセリフ読みとかで見れる悪役の声音と演技を堪能しています。そうだ、これからしか得られない栄養素があるんだ。って一人でなっています。
ごちゃごちゃかきましたが、ともかく、楽しんでいただければ幸いです。