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番外編 家族なんだから 前編

悪魔たちの魅惑の声 — www.pixiv.net · All chapters

番外編 家族なんだから 前編

こちらは二次創作です。お名前をお借りしただけの、現実と一切、まったく、関係のない二次創作、フィクションです。

誰にも迷惑をかけず、こっそりとお楽しみください。解釈違いや地雷に触れた等が起きた場合は、即座に読んだ内容を忘れ、ご自分のお好きなコンテンツへお行きください。

解釈違いが起こる可能性、大。

マフィアパロ要素がスパイス程度にある。

人外要素が今後でてくる。(シリーズでは時々がっつり出てくる)

なんでも許せると豪語できる方向けです。よろしければ、先へお進みください。

楽しんでいただければ、幸いです。

大通りから一本二本入り込んだ裏路地の小さな店から、今夜は珍しく賑やかな声が聞こえてくる。上機嫌な笑い方をして玄関先に立つのは、華やかな服を装う女性客が二人。すぐ後ろにはきれいな顔に魅惑の笑みを描いたキャストが一人控えている。

「楽しかったわ、本当に来てよかった」

「だから言ったじゃない、ここは当たりだって。ねえ?」

小柄な女性が満足そうに感想を言えば、連れてきたらしいもう一人は得意げな顔をして、贔屓にしているキャストへ同意を求めて振り返った。

「もちろんですよ。来てくださる皆様を楽しませるのが、我々ですから」

細い瞳で柔らかく微笑むキャストは、甘くて聞き取りやすい声で惑わすように答えた。

「はあ」

扉が閉まるやいなや、キャストの仮面を取った神田は息を吐きだして扉にもたれかかった。たった今見送った二人組の客は、珍しくキャストの指名を一人だけにした。来店時に他のキャストも呼ばないか提案したのだが、「友人に神田さんを紹介したいの」と断ってきたのだ。

今から思えば、「サービスですから」とでも言ってヘルプにもう一人ついてもらえばよかった。目を閉じたまま天を仰ぐ神田は、アルコールのだいぶん回った頭で軽く後悔していた。客がいなくなったから緊張が解けて、抑え込んでいた酔いが一気に表面化してくる。さすがに扉にもたれかかったまま座り込みはしない、したくないが、体は重たくてかなり眠い。

「お疲れ様、神田君」

目の前で聞こえてくる優しい声が、鉛のようなまぶたを押し上げる。

「はい、水を飲んで。上でゆっくり休んできてください。肩貸したほうがいいですか?」

顔の真ん前に差し出されたペットボトル越しに、心配そうな若葉色の瞳がこちらを見つめている。

「ありがとうオリバー。大丈夫、まだ歩ける。ここまで飲まされたのも久しぶりで、酔いが回って来たけど」

お礼を言いながら、神田はゆっくりとした動作で水を受け取った。水を口にした途端、体が求めていたと自覚する。少しにするつもりが、一気に半分ほど飲み込んでいた。

「君が思っているよりも、呂律回っていませんよ」

「うそぉ。言うほどひどいの?」

少しふざけながら返して、まだ余裕はあるフリをする。すると、オリバーは下がり気味な眉尻をさらに下げて、静かに神田の手を引いて来た。

「酔っ払いほど『酔っていない』って主張するからね。ほら、行きますよ」

エバンス サイド

二人組の客を対応しきった先輩を連れて二階休憩室のドアを開ければ、テーブルに上体を預けてぐったりしている店長が顔だけこちらに向けて迎えてくれた。

「あ、オリバーだ。……後ろの神田君はどうしたの?」

普段とは打って変わって緩慢なしゃべり方をする夢追に、オリバーは労わりも込めてゆっくり話す。

「二人組をたった一人で対応してたんです」

「あー、そりゃお疲れさま。水飲む?」

「もうもらってます、コレ」

神田が片手で先ほど渡したペットボトルを振ると、夢追は少し目を細めて「そっかそっか。ちゃんと飲みなね」と言う。滑舌の緩さも相まって、今にも寝てしまいそうな雰囲気をオリバーは感じた。

「オリバー、もう大丈夫。ありがと」

部屋に入って、神田は掴み支えられていた手をポンポン叩いて合図してきた。一番の難所である階段は登ったから、と思ってオリバーは手を離してみる。

神田はゆったりした足取りで、奥にあるソファへ向かう。

「ねえオリバー、下は大丈夫なの?」

重たそうに上体を起こしながら、夢追は気だるげに聞いてきた。何をするつもりかだいたい予想できるため、オリバーは一歩引いてドアへ足を向けつつ答える。

「片付けはまだ残ってますけど……。とりあえず、今夜はもう閉店の看板かけてきますね」

自分だけでも手が回るとアピールしつつ、何か言わせる前にドアを開ける。店長もほんの十分前まで店で一二を争う厄介客を相手にしていたのだ。休んでいてもらいたい。

部屋を出る瞬間、閉じていくドアの隙間から酔いの回った先輩を見る。柔らかなクッションに深々と身を沈める彼は、今にも眠ってしまいそうだった。

夕刻 サイド

地下室から地上階へ出るドアを開けたロベルを出迎えたのは、片付けを待つテーブルと静かな店内の空気だった。珍しい。そう思いながら後続のために一歩二歩と前に出る。

「あれ、みんないないの?上かな?」

背後からひょっこりと出てきた小柄なオーナーが、機嫌のよい軽やかな足取りで店内へ進んでいく。グラスが三つに空になったボトルが一本置かれたままのテーブルを一瞥して、次にキッチンを確認しに行く。

お団子をつけた頭がカウンターの向こうへ消えるのを見送って、ロベルはとりあえずテーブルに残されたボトルを手に取る。店ではあまり出ない種類で、トップクラスに度数の高い酒のボトルだ。これを空にするなんて、どんな酒豪が来たのだろう。オリバーは今日黒服役だったが、ヘルプで席についていたのだろうか。

キッチンの床材を歩く音に続いて、木の板を踏みしめる小さな足音をロベルの耳は拾った。気配を殺してはいるが、本気で隠れるつもりでもない。そんな程度の音。やっぱ二階におったか。そりゃそうやんな。一人で納得しながらロベルは店の奥へ視線をやった。

キッチンから戻って来た犬山が尻尾を下げて不思議そうな顔をする背後に、緑のジャケットを着て、胸元にバラのブローチを刺した大きな美丈夫が降りてきたところだった。

「オリバー君もいないや」

「呼びました?」

ほぼ頭上から響く優しい低音に、オーナーは軽く飛び上がった。毛を少々逆立てながら振り返るまでの一連の動作は、さながら小動物のようだった。見ているだけなら面白い。

「うわびっくりした。どこから出て来たのさ」

「え、普通に階段からですけど」

飛び跳ねた心臓を押さえつけるように、犬山は自分の両手で胸のあたりを押さえている。対するオリバーはなぜ驚かれているのか分かっていない様子だ。これ以上放置していたらどんどん話が脱線していきそうで、ロベルはそうなる前に質問を飛ばした。

「夢ちゃんも神田くんも上で休んどるん?」

「そうですよ。あの厄介なお客が来まして、店長もうぐったりですよ。で、ついさっきまで神田君は二人組の客の相手をしていたんです。ロベル君が持っているボトルを飲み干していました。神田君もずいぶん飲まされたみたいで、顔赤くなってきてましてね。一人で階段上れるか心配だったから、送ってた……、あっ」

一瞬だけ、ロベルの背後から影が差す。重たい足音も聞こえたから、窓の外を誰か通ったのだろう。正面からの視線が通るオリバーは影で正体が分かったのか、話は途切れ、表情が晴れやかになる。それと同時に、店のドアが開いた。

「お疲れ。仕事が終わったから報告に来たんだが、もう店仕舞いするのかい?」

黒とネイビーを折り合わせたスーツに身を包んだ仲間が帰って来た。そう、言葉にしてみればそれだけで済むのだが、それだけでは済まされない。

重厚な声、いかつく整った顔には優しい笑み。なのに、たくましい肩に羽織っているのは。

戦闘を終えたばかりの、まだ荒々しい殺気だった。

「待ってたよベルさん。うん、早いけどもうお仕舞いにしようか。オリバーとロベちゃんは店をお願いね。上は二人が休んでいるらしいから、控室でいい?ベルさん」

「もちろんですよ、ボス」

瞬間、犬山は一仕事を任せた仲間を出迎えるボスの顔になって、やや低く真剣な声音に変える。小柄な体のどこにあったか、他を圧倒するオーラを一瞬でまとうボスに、ロベルとオリバーはただ静かに頭を下げて、各々の仕事にとりかかった。