第二十話 探し人の仲介
第二十話 探し人の仲介
こちらは二次創作です。妄想の産物です。
キャプション注意書きは読まれましたか。
ご本人様とまったく、一切の関係がない、妄想と捏造でできた二次創作です。
妄想と現実をきっちりと分ける能力のある方向けです。
解像度が荒くとも、解釈違いが起ころうとも、ものともしない猛者向けです。
誰にも迷惑をかけずに、こっそりとお楽しみください。
「流血」「暴力」「殺人」の描写がある。
人外設定がある。(今回はないが、シリーズで出てくる)
以上を読んで平気な方は、先へお進みください。
欲は人の目をくらませる。
なぜこの社会において、人身売買から日頃の言葉使いに至るまで、「人をモノとして扱う」ことを禁忌にしているのか。
法の支配が及ばない裏社会においてすら、なぜ禁止され忌避されているのか。
頭で理解していたはずなのに、自分は大丈夫と思い込んで。他と違う、ヘタを打たないと過剰で張りぼてでしかない自信を持って。
みんな、間違った選択肢を握りしめる。タブーを犯していく。
何年も前になる、火事の夜も。
現在の裏社会でまことしやかにささやかれる『噂』も。
「おい、聞いたか?禁止されているオークションの噂」
「シッ!声が大きいって。誰に聞かれるか分かったもんじゃないぞ」
偶然耳に入った単語に興味を惹かれて、細い目を横に向ける。すれ違っていく若造は、噂に対して興奮と期待の滲む笑みを浮かべていた。
「あれもこれも、欲や慢心から身を滅ぼした例だというのに……。みなさん、自分は大丈夫って思っちゃうんですよね」
夜を知らない繁華街を歩きながら、黒いスーツに紅いネクタイを合わせた金髪の青年は一人静かに呟いていた。
神田 サイド
週末の夜。俗に言う華の金曜日。冬の夜の訪れは早く、まだ終業時間から一時間と経っていないのに空は月の支配下に、街は抑圧から解放された務め人たちの混雑の中にあった。
派手な衣装に身を包んだ接客のプロや浮かれた顔をする通行人の中に紛れれば、金髪の成人男性くらい目立たないだろうと、常々神田は思っていた。闇に紛れたい同業者から身を守るには、いっそ人込みの中を移動するのが一番だろう。職場の付近に通じる脇道に逸れた瞬間に影に入り姿を消せば、尾行なども撒きやすいだろう。
「かんさん!神田さんじゃないですか!」
だから、まさか自分を名指しされるとは夢にも思わなかった彼は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして振り返った。
「やっぱり!ここに来れば神田さんに会えるやろ思った」
懐かしい声の主は、花の顔(かんばせ)に銀の髪に紫やピンクのメッシュを入れた男性。若いがおそらく自分よりは年上で、でも年齢不詳の人物。だいぶん昔から仕事で仲良く話してきた相手。
「ふわっち……?」
予想だにしない再会に、神田はただ立ち止まるしかできなかった。
人混みの中を器用に、しかも肩を組んできそうな勢いで歩み寄る。大きく手を振って久しぶりの再会を喜びはしゃぐ不破へ、神田もまた笑顔で返した。
「ふわっちじゃん!えー久しぶりだね」
「良かったー会えて」
嬉しさの中に安堵のような含みを持たせる不破は、神田の目の前まで来てから視線で左右を示してきた。
彼らの周りを流れていく人々は、往来の真ん中で立ち止まった者たちを器用に避けていく。
「あんまり立ち話する場所でもないし、ちょっとだけ移動しません?テキトーな店にでもどうすか」
「私もあんまりお店詳しくないから、本当に適当になるけどいい?」
「全然全然。そも、俺もあんまり長く話すつもりないですし。神田さんもどっか行く途中でしょ?」
「まあね。なら……あ、あそこでどう?」
傍から見ればきっと、気軽に提案して、ノリ良く話をしている二人組に見えただろう。神田はすぐそばにあるチェーン店の看板を指さし、不破も頷きながら既に足を店へ向けている。
「いいっすね。入ったことある感じです?」
「全然ないよ。そもそも毎日自炊してるし。ふわっちは居酒屋って行くの?」
「んー、まあ打ち上げで店には行きますけど、最近は忙しくてなかったっすかね」
ありきたりながらも打ち解けた会話をしながら、彼らは店の暖簾をくぐっていった。
店員の案内を受けて、入り口近くの二人掛けのテーブルに座る。中くらいの広さを持つ店内は、半分以上の席が埋まっていて、話し声と調理の音でそれなりに騒がしい。
「変わりませんね神田さんも。いや良かった会えて。何飲みます?」
正面に座る彼は、高いテンションのままに口を開く。
「ふわっちこそ全然変わってないじゃん。ノンアルにさせてもらうよ、用事あるから。それで?私のこと、誰から聞いたの」
あくまでも声の調子は明るいままで。
普段より少しだけ大きく目を開いて、演技の上手なホストの読めない瞳を見つめる。
「そういうとこも、変わってないですね」
応える不破は、口元を少しだけ引き締めた。
「偶然なら速攻で話ししたいって誘ってこないでしょ、ふわっちなら」
なんなら、会えると思って繁華街にいたのだろう。確信はなくともアテはあったらしい最初の一言から、神田は裏を探っていた。
「分かってらっしゃる」
茶化しているのか自然な答えなのか、オーバーなリアクションをつけながら不破は笑う。
「俺ね、今、いろいろなとこを行ってるんです。神田さん、ROF-MAOってご存じ?」
「噂程度なら知ってますけど、詳しくは無いですね」
僅かに変わった声音に、角度を変えた紫の瞳に、神田も少しだけ前かがみになって応える。
「詳しくは端折りますけど、俺もその一員なんです。で、仲間の人探しの手伝いで、たまたま神田さんが探し人と一緒にいたっぽいから、探して声かけたって感じっす」
「……ふむ、なるほど」
斜め後ろにいる若いサラリーマンたちの談笑、一列離れた席にいる四人グループの甲高い話し声。奥の厨房からは揚げ物や炒め物の音、水を流す音もする。そして、近寄ってくる足音が一つ。
「いらっしゃいませ。お通しです。ご注文はお決まりですか?」
小鉢を置き注文を取りに来てくれた店員に、二人は簡潔に飲み物を伝える。エプロンの紐を結んだ背中が遠のいてから、神田は改めて正面の相手へ視線を戻した。
相変わらず読めない笑顔で、目の前に座る不破は自分を見つめている。
「その探してる人を見つけたの、本っ当に偶然だった。他の仕事で調査しとったらたまったま見つけたらしいんす。で、それ見せてもらったら神田さんも映り込んでるから、じゃ俺が行きますよって言って」
「なら、街中で待ち構えていたのは、私が通りそうって予想したから?」
「そうっすね。きっとかんさんならお店の場所からして、ああいうとこ通るやろうなって。ま、勘ではあった」
握られている。店の場所も、働いている確証も。
神田の脳裏に浮かぶのは、少し前に同僚が言っていた言葉。「一階だけ、なんなら接客の様子だけを盗み見てくるネズミがいる」
きっと、不破の今の仲間が放ったのだろう。目的は我々自身でなく、客だったらしい。
ため息をもらすだけの時間でここまで思考した元暗部所属の凄腕捜査官は、しかして、にゃははと気軽に笑う不破に、ただ苦笑いを返してみせる。探る思考も鋭さも奥に秘めて、表に見せるのは困った顔だけを。
「もし私が見つからなかったらどうするつもりだったの?」
「三日粘って、大人しく諦めて、お店の方に直にアポ取りに行くつもりっした」
いやーよかった、会えて。そう言いながら笑う彼に、唐突に、かつて殺伐とした戦場で見せてきた笑顔が甦って被って見えた。
「今、良い環境にいるの?ふわっちはさ」
思わず口をついた疑問に、不破はきょとんとした顔をしながら答えてくれる。
「んえ?ええ、カッコイイ大人で、最高の仲間っすよ」
虚無、自暴自棄、もしくはもっと簡単でより暗い感情しかない笑みを浮かべていた男が。
「そっかそっか」
「神田さんこそ、ずいぶん丸くなったんじゃない?」
「なにそれー、太ったとでも言いたいの?」
「そうじゃないって、分かってるくせに」
二人で同時に吹き出し、けらけら笑っていると、横から店員が飲み物を運んでくる。彼らはお礼を言いながら受け取って、口を潤す間のわずかな沈黙。
グラスを置いて目を合わした時には、もう彼らは交渉者の顔つきに戻っていた。
不破 サイド
「私が探し人の仲介をして、どんなメリットがあるか、聞かせてよ」
こちらが口を開くよりも早く切り出してきた神田は、もう先程までの『気のいい兄ちゃん』ではなくなっている。先制を取られた不破は、相手の手ごわさに心を躍らせた。
「いいんスか?仲間を探している理由が、報復とかかもしれないってのに。先に利益聞いちゃっても」
簡単に回答するなんてつまらない。頬杖をついて見せながら不破は質問で返した。
小首を傾げて口角をさらに上げる神田は、ゆとり以外の何も読み取らせてくれない。
「ふわっちがそんな依頼持ってくるわけないじゃん。私が仲間をどう思っているか、あの夜で知ってるでしょ」
「あの夜、……そうっすねえ」
同じ仕事をした最後の夜。国でも屈指の有力な組織だった。あのボスと部下の首級を取りにいった夜。夜空を炎が焦がしていたっけ。
一瞬だけ伏せていた目を、視線を戻せば、交渉相手は細い目をかっぴらいていた。普段は隠れているつぶらな瞳が、あの夜の炎を宿している。
透明な爪が喉元に突きつけられている。肌がひりつく。鼓動が早まり期待が高まる。
細かな駆け引きをすれば、食われる。
神田の実力は知っている。本気をぶつけてくるならば、相応の覚悟で挑まないと勝負にならない。
「依頼を出した彼はね、探し人と別れたとき、なーんか組織を潰して、残党に追われてたらしくて。だから今の今まで、探してはいたけど大っぴらに動けずじまいだったらしいです」
だからといって、不破は笑みを崩さない。自分のスタイルを変えたりしない。
「なるほど」
「で、たまたま見つけたって言ったっしょ?俺ら、最近ご禁制の品を出すって噂が流れている闇オークションを……潰そうと思ってて。その辺の情報色々持ってるんすわ」
相手の反応を見ながら、開示していく。神田の性分なら、闇オークションの情報に食いつかないはずがない。
彼と自分の間にある、よく似た過去、そして衝動。それらを知っているから、不破は加賀美から仲介の依頼を受けたのだ。
「……ふむ」
二回三回まばたきをして、彼は再び胡散臭い笑みに戻る。
だが姿勢は前のめりになってきて、今がチャンスと不破は読んだ。自分もテーブルへ少し身を乗り出して、小声で誘う。
「一緒に潰しません?報酬は今回の分も合わせて出します」
バッチリ合った視線は、相手の意思を正直に伝えてくる。
不破は動かない。神田に合わせた目をそらさない。
「そうだね……」
先に視線を外したのは、神田だった。つぶらな瞳は再び細められて、顔すらそむけて、彼は思案の海に一人で沈んでいく。
――取った。
あとは優しく微笑んで、彼の考えがまとまるのを待つだけだ。
神田 サイド
自分の思考に集中して、気づけば下がっていた視線を上げなおす。
「ふわっち。確認したいんだけど、いい?」
「なんなりとどうぞ」
優しく微笑む不破は、先程とはまた違う。ホストの接客とまで言えそうな態度と甘さすら感じる声音で応じてきた。
「ROF-MAOは、裏社会の様々な取引の『場所』を提供する。って噂は本当?」
「本当だよ。俺らは安全な取引に適した『場所』を準備できる。一対一でも、何十人も招いた取引でも、任せてよ。きっと満足させてみせるから」
声の出し方も口調も変わった彼は、読めない笑顔から仕事の甘いマスクになっている。
全部読まれているのだろう。神田自身は潰したくてたまらないことも。組織としても情報を追っていることも。
「私たちのところに情報取りに来たのはさ、なんで?どこからタレコミもらったの」
だが、神田の私情だけで受けるわけにもいかない。彼が交渉するのは不破だけでなく、後ろにいる組織も含まれるのだから。提示してきた報酬は、自分の所属する組織まで巻き込む内容だから。
「詳しくは企業秘密、てヤツかな。ただ、タレコミじゃなくて自分らで掴んだ情報やね」
絶対に譲れない一線か、はたまた逆鱗にでも触れかけたのか。ホストは仮面を一瞬だけ外して、力強く言い切った。
闇オークションならば、広い場所が必要だろう。彼らの商売。取引の場所を提供するだけで、他に一切干渉しない、なんてことが裏社会であるわけがない。そして、不破達もまた潰したがっている。お店の客だけを見張っていて、自分たちで掴んだ点をここまで強調してきた。
「そっか……自分らで、ね」
再び視線を不破に戻す。
紫電と黒炎がぶつかり、男たちはそろって口角を上げた。どちらともなく手を出し、彼らは固い握手を交わす。
「乗った。細かくはボスへ直に話を持ってってくれますか?紹介しますから」
「OKっす!オレも社長に話してきますよ」
不破 サイド
「……って感じで、交渉に乗ってくれました」
「了解です、ありがとうございました。お疲れでしょう、もう今夜は終わりで大丈夫ですよ」
夜も更けてきて街が静かになってくる頃、ホテルの上階にある事務室で不破は加賀美に交渉の報告をしていた。
仕事の顔をする加賀美は、本職がホストの不破でも何を考えているか見破るのはむつかしい。
だが、今夜だけは違った。
「社長、嬉しそう。そんなに会うのが楽しみ?」
接待用のソファでくつろぐ姿勢を取る仲間が、翡翠の瞳を鋭く光らせながら問いかける。向かいに座る甲斐田も、そうそうお目にかかれない切れそうなほど真剣な眼差しでいる。
「当たり前じゃないですか。やっと……やっと会える希望ができたんですから」
頬杖をついて遠くを見つめながら答える彼は、頬が緩んでいる。いや、舌なめずりしそうな笑顔、という表現のほうが近いだろうか。旧友の再会を待ちわびる態度にしては、どこか楽しげな緊張感を漂わせている。
「なあ社長、聞いてもええか?」
「なんですか?」
「あの伝言、どういう意味?」
口頭で伝え書き写した紙まで渡してくれ、と言われてきた伝言。厳重な割に煩雑な表現もなければ言いにくさもない内容だった。
「珍しい。ふわっちがいちいちそんなとこまで気にするなんて」
「モチさん、俺だって気になる時くらいあるって。とくに社長、今回気合入っとるし」
当人はくつくつ笑って、まっすぐに目を合わせてきた。
「別に、大した意味はこもってないですよ。本当に。ただ、夢追さんと一緒に行って楽しかった場所に、また行きましょうってお誘いしているだけですから」
「それが、『昼休みの紅葉狩り』になるんや」
「ええ。こんなこと言うのも通じるのも、我々だけですから」
合言葉にするには、ちょうどいいでしょう?
そう言って加賀美は上機嫌に笑っていた。
「社長がそう言う時って、とんでもない事考えてる時だよね」
「たしかに」
「そうだね」
甲斐田の一言に、不破も剣持も深く頷いた。
「なんですかとんでもない事って。別にそんなことないでしょ」
唇を尖らせて反論する加賀美に、三人そろって「いやいやいや」と手を振り否定する。
気が緩む平和な瞬間に、つい口元をほころばせた。
――プルルルル
瞬間、不破のポケットの中から着信音が響いてきた。
加賀美 サイド
「すみません電話出てきます」
また本職関係の電話だろうか、と加賀美は思った。だが、なんとなく、不破の顔が引き締まって見えたのは気のせいか。
慣れた手つきで電話に出た不破は、二言三言交わすだけですぐに通話を切る。
「社長。……返事、取り急ぎこれだけ伝えてくれって」
端末を仕舞い、こちらに向き直った不破は、仕事の顔をしている。加賀美は自然と背筋を伸ばした。
「なんですか」
「……何の変哲もないウミガメのスープ」
しかし、端正な唇が紡ぐ言葉は、なんとも意味の分からない言葉の羅列。
「……なにそれ」
「いやホントに言われたんですって」
すぐそばで聞こえる仲間のやり取りが、当たり前の反応だろう。
だが。
自分だけは。
「……ふふふ。アハハハハハハハハ!」
勝手に口からあふれる声を、加賀美は抑えようともしない。
「しゃ、社長?どうしたの?」
「アハハハハ……。ああ、すみません。つい」
困惑した甲斐田の呼びかけに、ゆっくりと顔を上げる。訝しげにこちらを注視してくる彼らに、加賀美はただ簡潔に答える。
「わたくしの言いたい事がきれいに伝わった、ということですよ」
「『何の変哲もないウミガメのスープ』ですか。夢追さん。楽しみにしてますよ」