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番外編 ロベル日記1

悪魔たちの魅惑の声 — www.pixiv.net · All chapters

番外編 ロベル日記1

キャプション注意書きを読まれてから、本編をお楽しみくだされば、幸いです。

総じて文章の書き始めといふものは、だれしもが苦悩する点だといへるだらう。かく云う自分も、どう書いていいか分からず、自分しか読まないはずの日記であるにも関わらず、近代小説風の書き出しなんてやってみてしまった。

この日記は、ホストクラブに勤めだしてからの日記だ。現時点で、暗黒街の入口であり国の首都が誇る歓楽街でもあるこの街の、あるホストクラブに勤めだして二週間が過ぎた。非常に濃密で、やりごたえがあって、なんだか楽しい二週間だった。これから色々と心境も変化するだろうし、今あった楽しいことや、『あいつ』に関する手がかりをつかんだ時の状況なんかを忘れないためにも、日記をつけていく。

しかし、その前に書いて整理したい。

未だに、俺は事実を受け入れ切れていない。拒絶したくてたまらないでいる。

でも、事実だと冷静に認識してもいる。

あれから、俺の体に変化があった。まず、握力のコントロールが全然違う。力を出し過ぎる。いつも通りにリンゴを握ったら、粘土みたいに指がめりこんだ。ガラスコップを持とうとしたら、飴細工よりも脆く砕けてしまった。

もう一つは、魔力を持ってしまったこと。握力の変化は魔力が暴れているからだと言われた。

魔力か。なんて言ったらええんやろうな。

あのことの副作用、なんかな。

科学では正体が解明できていない謎に満ちたエネルギー。持ち主の意志でいくらでも扱える、いくらでも不思議な現象が起こせる。でも、エネルギーでしかない、奇跡に見えることはできても、死人を生き返らせる、みたいな奇跡は起こせない。そんな不思議なモノ。

暴走したら簡単に他者を傷つける魔力は、よく包丁に例えられる。使い方次第でおいしい料理を作れるし、人も自分もケガをする。そして、技術を身につけないと取り扱い危険だから。

そんなん、世の中にはあるけど身近にあるけど、自分自身にはほぼ関係ないものやったのに。

いや、魔力そのものはまだいい。握力の加減が掴みにくくて難儀しているけれど。

問題なのは、魔力を持った原因だ。

事の原因であり、唯一の解決策を持つ魔術師の特徴は聞いた。この街を根城にしているって聞いた。たったそれだけの手がかりしかないけど、それだけを頼ってこの街に来た。

自分のミスは自分で取り返す。元通りになるために、人を巻き込まない。

そうして当てもなく飛び出して、ようやってこれたと思う。どうにか食いつないで寝床も確保して、その日暮らしやったけど、よくやったよ俺は。

あのバイト先を選んだのは失敗だったけど、でも、あの出来事があったからたまきさんと会えて、今ここで働けていると思えば、腹は立たない。

ただな、ホストクラブのみんなに、まだあの事は言えてない。儀式のせいで魔力を持たされた、解除するために術者を探してこの街に来た。としか説明できてない。これだけで分かったって言ってくれるのは、やっぱり裏社会の組織の人らや。他人の過去や事情に深く首を突っ込まないでくれる。

俺の問題に、知り合った仲良くなった、そんな人を巻き込みたくない。情報を集める仕事をして、自分で探す。

随分とずいぶんと前置きが長くなった。ここからはホストクラブの先輩達のことを書いておこう。でも、もう眠いから簡単に、今日一番驚いた事実を書いて終わりにしよう。

オリバー君は大学教授だし、神田君は大学生だった。

さらに言うと、神田君は、オリバー君が教授として勤めている大学の学生だった。

オリバー君が教授。なんか聞いたら納得できた。落ち着いているし話し方が分かりやすい。『分かりやすい』の種類が、教壇に立って教える感じの分かりやすさや。論理がしっかりしていて、飽きない。

でも、神田君はちょっと意外やったな。年齢的には大学生していて当たり前やけど。スーツ着こなした姿ばっかり見慣れているし、とっても落ち着いてしっかりしてはるから、大人って印象が強い。それに、仕事のかたわらに勉強する人は初めて会ったから、なおさら驚いた。

あれ、神田君、いくつや……?二十歳そこそこ、みたいに聞いた覚えはある。けど「21かもしれないし、22かもしれないし、23かもしれないですよ」みたいなことを誕生日の話になった時に言っていたような……。まあいっか。

今日は平日でお客さんが少なかった。さらに、最近は情報のやり取りだとか交渉だとか商売だとかで忙しくて、ベルさんとたまきさんと夢ちゃんがすごい働いていたから、三人は急遽休みになった。代わりにオリバー君と神田君が出勤になって、二人の話をずっとしていた。

二人は仕事していないときは何をしているのか聞いたら、普通に「大学で教授として働いていますよ。そっちが本職です」とオリバー君言うんやから驚いた。

オリバー君は大学教授になるために、故郷からこの都会へ引っ越してきたらしい。でも、故郷では簡単に手に入った食材が、ここでは裏社会にいないと入手しにくい。裏のルートを使ってたまきさんからもらう代わりに、たまきさんの店で、組織で働いているんやって。

オリバー君は抗争や暗殺に行くことはまずないらしい。本職優先させたら、暗殺や抗争に行く時間と合わないからって。でも、深夜とか休日とか、時間を合わせられたら行くって。優しいな、みんな。

一方の神田君は、普通に社会の仕組みとしてある、社会人が仕事と並走で大学に通える制度を利用して、大学生をしているらしい。だから、一週間で通う授業数は少なくていいし、曜日や時間も都合がつくって言ってた。半年単位で受けなきゃいけない授業数やら単位やらが決まっているんやと。

でも、やっぱり授業を受けれるときにまとめて聞きに行っているって。この間みたいに一気に忙しくなる時があるし、その場合は授業に行っている余裕はない。

夢ちゃんも平日は極力シフト外して、神田君が大学行きやすいように気を使ってくれているらしい。マフィアの仕事も、大学のことも含めて融通利かせてるんやと。

この組織って、ほんとに優しいな。いや、でも、そんな融通利かせられるような簡単な仕事をしているってわけでもないと思うんや。

たまきさんがボスのこの組織、メインの仕事は二つ。一つは情報と盗品、違法武器の売買。もう一つが暗殺や。ここの店は組織の事務所でありたまきさんの趣味であり、情報を仕入れるための場所にしか過ぎない。

俺は暗殺をまだここで回されていないから分からんけど、説明を受けた限り相手が特殊なのばっかりやった。一般人はいない。受けない。腹の中真っ黒の政界の大御所やら裏社会の中堅組織の幹部やボス、過去にはボスの報復するために暗殺者を暗殺してくれ、なんて依頼もあったらしい。

ターゲットの隙を伺うために張り込むこともあれば、近寄るために給仕や清掃員に成りすますこともあるって言っていた。まあまあ過酷や。

売買の方も、需要のある品を取ってくるのがどんなに大変なことか。ただ、盗品は、自分らが表舞台から盗み出すことはしない。あくまで裏社会に迷い込んだ美術品を転がすだけ。

ま、盗品よりも武器よりも、情報が最も仕入れるのに危険が伴う。今日、三人が休みになった理由も、情報を仕入れるために苦労して、ずっと働きづめになったからや。

その苦労だって、一歩間違えたら命を落とす危険が張り付いている。

ほんと、感心する。この職場を副業としてやっていけるオリバー君も、平行して自分のやりたい勉強をする神田君も。仲間が仕事以外のやりたいことをやれるように、打ち込めるためにサポートするゆとりを持っていられる皆さんにも。

全ての仕事内容に命の危険がつきまとって、安全なんて言葉はドブに捨てた労働環境にいるのに、ゆとりを持っていられるって、すごい。俺がバイトしていた組織は全部、厳しくて、引き締めて、他人への優しさは欠片もなかった。

たまきさんと会って、みんなと会えて、ここに居られてよかったな。

飛ばしても平気な あとがき

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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作者は「悪で魅力的な姿」「厄介客を追い返したり帰した後の治安の悪い姿」を読みたくて、ただただ自給自足しようとして、このシリーズを書いています。

わずかでも楽しんでいただければ、幸いです。