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蒼の雷霆神の夢 〜前編〜

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

蒼の雷霆神の夢 〜前編〜

「…ん」

真っ暗なマイルーム。

夜もすっかり更けた頃、ふと目を覚ます私。

今日はひとりで布団に入ったはずだが、私のすぐ後ろに誰かがぴったりとくっついているのを感じた。

「…すぅ……ふぅ…」

耳元で聞こえてくる寝息で、誰なのかはすぐにわかった。

いつの間にか、潜り込んで来たらしい。

まあ、いつものことなので特に気にはしない。

「…ふぅ」

一度目は覚めたものの、まだまだ眠い。

私は、真後ろの存在に安心感を覚えながら、再び瞼を閉じた。

…

…

「…ん?」

布団の中ではない、外の空気に触れているのを感じ取った私は、ゆっくりと目を開ける。

「…あれ?」

目の前に広がるのは、星空だった。

月は見えない。その代わりに、数え切れない星たちが暗闇を懸命に照らしている。

ふと、足元を見てみる私。

「…雲かな?」

自分が今立っている場所…それは、足場のように固められた雲だった。

まるで『あの空』の中に入った時のような…。

ということは、インドラ様に呼ばれたのだろうか?

「…インドラ様?」

辺りを見渡してみるが、インドラ様の姿はどこにも見当たらない。

星が瞬く夜空に、私ひとりだけがぽつんと存在している…とても静かな空間だった。

ピキッ

「…!」

突然、静かな空間に聞こえてきた音…。

一瞬だったが、どこか聞き覚えのあるような…。

ピシッ

ピシピシッ…

ピシャァァンッ

また聞こえてきた…。

さっきよりも、近づいて来たような気がする。

と、今の今まで星が輝いていたはずの夜空が、真っ暗な雲に覆われ出した。

これは…雨雲?もしくは、雷雲?

そう思った時だった…。

カッ

「…ッ!?」

突然、目の前の空に青白い光が走った。

あまりの眩しさに、思わず目を瞑ってしまう私。

そして…

ズシャァッ!!

「…ッ」

眩しい光の直後に、耳をつんざくような音…。

雷だ…。

インドラ様が、来たのかな?

そっと目を開けてみる…。

「………え?」

私は、自分の目を疑った。

今、自分の目の前に広がる景色が、あまりにも予想外だったからだ。

辺り一帯に散らばり、眩い光を放ち続けている青白い雷霆。

そしてその中心には、人の形をしたもの…。

その姿は、私がよく知る雷霆神…

なのだが…

「…誰だ?貴様は」

「…ッ!?」

雷雲のような色の肌を持つ、男性の姿。

雷霆の如き眩い眼光が、私の姿を捉える。

よく聞き慣れた…でも、どこか苛立ったような声が私の身を貫くように放たれる。

「……人間の女か?」

「…ッ」

私の姿を見た…雷霆神。

鋭い光を放つ目を訝しげに細めて、私を見つめる。

こころなしか、先程の威嚇するような声が、ほんの少し穏やかになった気がする。

「神の名を呼ぶ声が聞こえたが…」

「…!」

神の名。

この雷霆神は、確かにそう言った。

なら、間違いない。

今、目の前にいるのは…インドラ様だ。

ただ、私の知るインドラ様と…少し違う。

あの第三再臨の姿に近い…いや、何だったらあの姿よりもずっと『若さ』を感じる。

喋り方というか、纏っている雰囲気だろうか?

神々の王として、余裕を持った姿ではない。

どこか棘々しい、野卑な雰囲気と言った方がいいのだろうか?

「女、神を呼んだのはお前か?」

「!」

女…か。

いつも『人間』と呼ばれ慣れている私は、一瞬その呼び方に新鮮味を感じてしまう。

「……先程」

目の前の神をまっすぐ見つめ、進言する。

「『インドラ様』…そう呟いたのは、確かに私です」

「………」

訝しげな表情のままだが、黙って私の言葉に耳を傾けている様子。

あの神様の律儀さは、生まれ持った性格なんだ…。

ふと、そんな考えが頭をよぎる。

私は、さらに続ける。

「貴方は…インドラ様でお間違いないでしょうか?」

「…」

目の前の神から目を逸らさず、返事を待つ。

「…ああ、そうだ」

「!」

「確かに神の名はインドラだ。だが…」

再び、あの鋭い眼差しが私を捉える。

「女…お前は、何者だ?」

「………」

最初に姿を見た時から思っていたことではあったのだが、それが今確信に変わる。

このインドラ様は、私を知らない…。

姿こそ私が知るインドラ様に近いが、恐らく英霊の器で現界したインドラ様ではなく、神様としてのインドラ様だ。

そしてこれも私の想像でしかないのだが…

神々の王を名乗るよりも、ずっと前…

あくまでも想像だが、インドラ様がまだヴィシュヌ神とも出会う前の放浪していた頃の姿だ…。

「…私は、ただの人間です」

「そんなものは見ればわかる」

私の答えを、バッサリと切り捨てるインドラ様。

「ただの人間が、何故このような異質な空間に存在する?それに何故神の名を呼んだ?」

「…」

「答えろ」

どうやらインドラ様も、ここが異質な空間…マスターとサーヴァントが繋がるはずの夢の空間だということを、薄々気づいてはいるらしい。

なら、誤魔化す理由なんてない。

信じてもらえるかは怪しいが、本当のことを答えた方がよさそうだ。

「…私は、貴方を騙すつもりはありません。これだけはお伝えしておきます」

「…」

「私は…」

「遥か未来で、貴方と縁を結んだ人間です」

「…遥か未来での、人類の危機か」

「ご自身で依代を作り、英霊として現界したインドラ様と、契約を結びました。英霊は、契約をした者の夢に引っ張られることがしばしばありますが、神霊であるインドラ様も例外ではないようです。以前も似たようなことがありました」

「…それが、この奇妙な空間というわけか」

私はインドラ様に、これまで歩んできた旅の経緯をすべて説明した。

事情も知らない上に、いつもと雰囲気が違うインドラ様がどう反応するのか気になったのだが、意外にも私の話をすんなり聞き入れて状況を理解してくれた様子。

やっぱり、昔から話がわかる神様なんだな…。

パチンッ

「うわっ!?」

指を鳴らす音が聞こえた瞬間、突然私の足場の雲が動き出した。

私は慌てて膝をつき、雲に掴まる。

「状況は理解したが…」

「!?」

すぐ近くで聞こえる声。

そっと顔を上げてみると…

「何故お前が、お前の言うところの『過去の神』と繋がっているのかが理解出来ん」

目の前には、インドラ様の姿。

どうやら私の足場の雲を、自分のそばまで移動させたらしい。

『あの空』のインドラ様も同じことしてたけど…

さっき会ったばかりの信用が怪しい人間を、こんなに自分のそばに寄せていいのかな?

「以前インドラ様の夢と繋がった時も、私が出会ったインドラ様の過去の夢でした。でも何故過去と繋がったのかは…」

「お前にはわからん…と」

「はい…」

過去のインドラ様…もとい『インドラ様の過去』と繋がったのは、これが二回目だ。

私の夢の中に、インドラ様が潜り込んできたこともあるが、何故過去と繋がるのか…。

「普通に考えれば、お前の出会った神の意図としか考えられんが…」

意図か…。

でも、それって何が目的で…。

「あっ…」

「何だ?」

私はふと、思い出した。

確か、前見た時と今の夢は…。

「話せ」

「…はい、あの…少し言いづらいのですが…」

「つべこべ言うな。話せ」

口ごもる私を睨みつけるインドラ様。

この距離で睨まれるのは…なかなか怖い。

「…以前過去の夢を見た時と今なんですが、ひとつ共通点のようなものが…」

「共通点?何だ?」

少し目を逸らして、問いに答える私。

何故なら、その共通点は…。

「どちらも…私の隣で、インドラ様が眠っています」

「、………」

「私の夢に潜り込んで来た時は、そうではなかったんですけど…」

「…つまり、何だ?お前は未来の神と、寝床を共にする仲だということか?」

「…ッ」

はっきり言葉にされたのが恥ずかしくなり、私は顔を背けながら小さく頷く。

「…神が、何故お前のような矮小な人間を?」

「それは私が一番知りたいです…ッ」

「…なるほど」

そう呟くと、目の前にいる私に手を伸ばす。

「…?」

「来い」

「え…ッ!?」

私の腕を掴み、雲から引き摺り下ろしてきた。

当然、引っ張り込まれた私は…

ガシッ

「…ッ!!」

落ちないように、インドラ様の腕にしっかりと抱き留められている。

そして、私の首元あたりに顔を近づけてきた。

「あの…ッ」

「おとなしくしろ」

首元の匂いをスンスンッ…と嗅ぐインドラ様。

そして顔を離し、私の目をじっと見つめる。

「……確かに神の雷の匂いがするな」

「…ッ」

「にわかには信じられんが、嘘ではないらしい」

「…ッ」

未来の自分が、目の前の人間の女に手を出したなんて知ったインドラ様…

一体どんな気持ちなんだろう?

「…夢なら、問題ないな」

「…え?」

ボソッ…と何かを呟く。

聞き返そうとした私だが、インドラ様から耳を疑う発言が飛び出してきた。

「お前を、神の妻とする」

「…は?」

つま…?

何言ってんだ?この神様…。

え?つま………妻って言った?

「聞こえんかったか?なら、もう一度だけ言ってやる。お前を神の妻とすると言った」

「な、なにを…言ってるんです…?」

「未来の神を受け入れたのなら、この神のことも受け入れられるだろう」

いやいやいやいや!!

その理屈は、何かおかしくないですか!?

「み、未来のインドラ様には…配偶神がいらっしゃいます」

「ま、それはそういうものだろう」

「わ、私は…インドラ様から、気まぐれに情をかけてもらった、ただの人間です!妻と呼ばれる立場ではないんです!」

「未来の話だろうと、今の神はその配偶神となる女神を知らん。それに、お前から漂う雷の匂いで大体わかる…そこまで情をかけているのなら、実質妻と変わらん」

「それは、大分暴論な気が…」

「それに、ここは夢の空間だ。ここでの記憶が泡沫と消えるものか…それはよくわからんが、今『この空間での妻』として存在する分には問題ないはずだ」

「えぇ…」

うわぁ…

強引なとこも昔から変わってないんだなぁ…。

「…そういうことだ。わかったな?『我が妻』よ」

「………はい」

こちらを見下ろす、不敵な笑み。

もうこうなったら、どう突っぱねようが無駄だ。

そんなこんなで…

たった今私は、まだ年若い(と思われる)インドラ様の、夢の中限定の妻となってしまったのだった…。