拗ねて雷雨、晴れて虹
拗ねて雷雨、晴れて虹
「お疲れ様、みんなありがとう」
ルルハワの特異点を模した、フリークエストにて。
周回を終え、同行した英霊たちに声をかける私。
「役に立てたのなら、何よりだ」
「ふぅ…水着に着替えたはいいけど、やっぱりここは暑いわね」
夏の霊衣に身を包んだジークフリートと、水着に着替えてライダーにクラスチェンジしたクリームヒルトさん。
「暑い〜!溶ける〜!ねえ、そこのジェラート買ってよマスターさ〜ん!」
「おや、なら私ももらおうかな?」
「おいそこの二人、勝手に話を進めるな?」
水着霊基の徐福ちゃんと、夏霊衣のマーリンからジェラートをねだられる私。
じりじりと照りつける日射しのせいで、夏用の礼装を着てきた私も、汗がぽたぽたと滴り落ちていく。
正直に言う。
確かに、暑い…。
私もジェラート食べたい…。
ジェラートと言わず、涼しい場所に行きたい。
普通に考えれば即帰還するべきだけど、この暑い場所まで付き合ってくれたのならお礼くらいしたい…。
「みんな、頑張ってくれたしね」
「やったー!マスターさんてば太っ腹ー!」
「ありがたいが、いいのか?」
「周回してこのまま帰るだけなのも、もったいないしね。お店もたくさんあるし、少しの間ならどこか涼しい場所でのんびりしちゃおう」
「そう?なら…お気持ちに甘えようかしら?」
「うんうん、流石はマイロードだ」
こうして、私と徐福ちゃんとマーリンとジククリ夫妻は、この南国の島国で、少しのんびりすることになった…。
「マスターさんマスターさーん!このトロピカルジェラート買ってー!」
「じゃあ、徐福ちゃんは外でジェラート食べるみたいだから、私たちはそこのカフェで涼もうか」
「な〜ん〜だ〜よ〜そ〜れ〜!?私だって涼しいカフェに入りたいんですけど!?」
「何だ、徐福ちゃんも来るんだ…」
「来るに決まってんだろ〜!?こんな炎天下の中をジェラート食べるだけで凌げると思ってんのかこのやろ〜!鬼!悪魔!マスターさん!」
「鬼と悪魔と同列かー。いやぁ参ったなー」
「何にも参ってないだろ〜!このやろ〜!」
「いたたたた…ッ!背中を叩くな!」
バシバシと背中を叩きながら私に抗議する徐福ちゃんと、それに悪態をつく私。
そしてそんな私たちを笑いながら見守る、マーリンとジククリ夫妻。
ギャーギャーと騒がしく移動した私たちは、近くに見えたカフェに入って行った…。
〜店内〜
「あ“〜涼し〜…生き返る〜…」
「さて、ジェラートって言ってたけど本当にそれでいいの?私かき氷にするけど」
「ん〜…やっぱかき氷に変更!アイスとチョコとフルーツのトッピング全乗せで!」
「さては私に奢ってもらう気満々だな?」
「え?そだよ?だってマスターさんのお金なら、いくら高いの頼んでも痛くないじゃん?」
「…」
「ちょっ…いひゃいいひゃいいひゃい!」
(訳:痛い痛い痛い!)
まったく悪びれる様子がない徐福ちゃんのほっぺたを、無言でつねる私。
「何でだよぅ…マスターさんが奢ってくれる流れじゃなかったのかよぅ…」
「あ、すいません。注文お願いします」
「聞〜け〜よ〜!」
私に掴みかかって何か騒いでる徐福ちゃんは一旦無視をして、店員さんを呼ぶ。
「ベリーのかき氷と、ブルーハワイのかき氷をひとつずつ。ブルーハワイはアイスとチョコとフルーツのトッピング付きでお願いします」
「えっ…」
「私はジェラートの三種盛りでお願いしようかな」
「俺はアイスコーヒーにしよう。クリームヒルトはどうする?」
「そうねぇ…まあ冷え過ぎても嫌だし、温かいフルーツティーでお願い」
「かしこまりましたー!お待ち下さいねー!」
各々の注文を受けて、店員さんは下がっていった。
「あの、マスターさん?いいの?」
「ん?食べたいんでしょ?」
「………なあんだぁ!それならそうと早く言ってくれればいいのに素直じゃないなぁマスターさんは〜!このこの〜!」
「ふーん。やっぱ奢るのやめy…」
「やだー!絶対奢ってもらうからなー!」
「何で強気になるの…」
騒がしい私たちを、向かい側に座るジククリ夫妻がどこか微笑ましそうに見ている。
「仲が良くて何よりだ」
「「別に仲良くないですー」」
「息ぴったりじゃない、貴女達」
「悪態がつけるのは、仲が良い証拠だからね」
「マーリンは悪態つかれても、円卓たちからの信頼は回復しないよね…」
「失礼な!これでも彼らとは、何かしら関係値を築けてはいるとも!」
「別の意味で信頼は厚いわよね、貴方…」
ピピーッ
『マスター君?素材集めに行った英霊たちと、一体何をしているのかな?』
「あっ…」
私の持つ通信機から、ダヴィンチちゃんの声が聞こえてきた。
『なかなか帰って来ないと思ったら、随分楽しそうなことをしてるじゃないか』
「いや、これは…流石に暑すぎる中頑張ってもらったから、ちょっとのんびりする時間を作ろうかなと…」
「すまないダヴィンチ…だが、どうかマスターを責めないでやって欲しい」
「ご厚意に甘えたのは、私たちよ」
「頑張った私たちに、マスターさんがご褒美をくれただけじゃーん」
「たまにはこういうのも、いいんじゃないかな?」
私をフォローしてくれる四人。
でも私の独断だから、怒られても仕方ない。
『いや、私はそういうのもアリだと思ってるよ?所長が何て言うか気になるところではあるk…ってちょっと!?』
「ん?どうしたの?」
通信越しのダヴィンチちゃんが、何やら焦ったような声を上げる。
何事かと思い、私以外のメンバーも顔色を変える。
…ただひとりを除いて。
「おやおや、羨ましかったのかな?」
「え?何?」
『あー…マスター君、聞こえる?』
「ダヴィンチちゃん?どうかしたの?」
『いやぁ…実はね、今のやりとりを聞いてたせいなのか、そっちに勝手にレイシフトしちゃった英霊がいてね』
「えー?誰がー?」
『それは…』
「おや、お出ましのようだ」
マーリンが何かに気づき、呟いた瞬間…。
ゴロゴロ…
「ん?何だ、空が急に暗く…」
「それにこの音…雷かしら?」
勝手にレイシフトした英霊…。
そしてその直後、空は暗くなり遠くから雷の音…。
ザァァァ…
「あ、雨だ…」
ズシャァッ!!
「む…落ちたか。随分近いな」
「ーーーーー」
いやいや…
嘘…でしょ?
私は思わず席を立ち、窓の外を見る。
空を見上げると…
「歓喜せよ、人間ども。この神々の王が南国の島国とやらに来てやったぞ」
「インドラさまのご降臨です」
「刮目しろー!」
雷光が彩る暗い空に浮かぶ、アイラーヴァタ。
そこに座る雷霆神と、傍らには二体の従神。
「…」
「何だ?随分反応が薄いな、人間」
私のどこか白けた反応を不満に思ったのか、少しこちらに近づいて話しかけてくるインドラ様。
全員がその光景を見守る中、私は口を開いてひとつのお願いをした。
「まずですけど、雨を止ませてもらえますか?」
「それ言っちゃうのマスターさん…ッ!?」
「で?止ませたはいいが…」
(止ませてくれるんだ…)
(言ってみるものね…)
ご丁寧に私たちと同じ席に着き、長い足を組むインドラ様。
ヴァジュラたちに至っては、早々にジェラートを注文して頬張っている。
ただ、先程私から雨を止ませるように言われたからなのか、若干不機嫌そうだ。
止ませてはくれたのだが。
「この神の恵みが、いらんと申すか?」
「違います。ただ、ここは海水浴を楽しみにくる人が多いので、雷雨の中だと純粋に他の観光客が危険なんです」
「……まあ、神の雷で人間の命を奪うことになっては本末転倒だ。今回は特別に見逃してやる」
「ありがとうございます」
(そして許してくれるんだ…)
(意外とダダ甘よね、この雷神様)
私とインドラ様のやりとりを見て、アイコンタクトで何かを伝え合っている徐福ちゃんとクリームヒルトさん。
流石にインドラ様に直接言いはしないが、何か思うところがあるのだろう。
「というよりインドラ様…どうして独断でレイシフトしてまで、わざわざここに?」
(マスターがいるからだな)
(マスターがいるからでしょ)
(マスターさんがいるからでしょ…)
「マイロードがいるからだね」
「「「マーリン…ッ!!」」」
バシッベシッ
「のわっ!?何をするんだい!?」
「えっと…」
敢えて空気を読まず、ただひとり声に出したマーリンに、他三人からの鋭いツッコミが入る。
徐福ちゃんとクリームヒルトさんからは、強烈なはたきを喰らったマーリン。
「…そこの無神経な夢魔を連れて行きながら、神には声をかけんとはな」
「…サポーターとしては有能なので」
「そうとも。なんてったって、冠位候補の花のお兄さんだからね♪」
「はぁ…貴方」
「了解した…俺たちは移動するとしよう」
「ちょっ…君力強いなぁ!?」
「私もあっちで食べよーっと…」
マーリンを羽交い締めにして離れた席へと移動するジークフリート。
テーブルに残された、自分たちの品を持って離れるクリームヒルトさんと徐福ちゃん。
そして元の席には、私とインドラ様が残された…。
「…まだ神の訪れたことのない場所で、随分と楽しんでいた様子だったな」
「…来たかったんですね」
「来たかった、だと?勘違いするな。お前の行くところは、すべてこの神に案内するのが責務というものであろう。大体何だこの島国は…太陽の日射しが強すぎる。この神が、そのあまりの暑さに思いがけず雨を降らすこととなったではないか」
「暑すぎて咄嗟に降らせた雨だったんですか…」
インドラ様って、暑さに弱いの?
インドってかなり気温が高い国だと思うけど、ここは神様のインドラ様ですら耐えられない暑さってこと?
いや、対策法くらいありそうだけどな…。
しゃくしゃくと自分のかき氷を食べながら、そんなことを考える私。
「まったく…つくづく気が回らん人間だ」
「…」
リゾート地でのんびりする時間が出来たんなら、自分も呼んで欲しかったんだな…。
つくづく可愛いわがままを言う神様だ…。
この神様のために、もう少し時間を作るくらいはしないとな…。
「…ビーチはダメかもしれませんけど」
「ん?」
「このあたりは、いろんなお店がたくさんありますから…少し見て回りませんか?」
「…!」
「ただし、夜のビアガーデンだけは参加出来ませんよ?そんな時間までいたら、強制回収されちゃいますから」
むしろ一番インドラ様に案内してあげたい場所ではあるけど、流石に夜まで滞在することは出来ない。
名物のグルメを食べてみたり、ショッピングしたりするのが精一杯だ。
昼から酒を提供出来るお店があればいいが…。
「…神に禁酒をしろ、ときたか」
「まあ、それは…お昼からお酒が飲める場所もあるかもしれませんけど…」
「計画性のない接待だな。だが…」
ゆっくりと席から立ち上がったインドラ様。
そして、私のもとへ近づき…
「うわっ…!?」
私の体を軽々と抱き上げた。
「案内しろ」
「あ、す、すみませんその前に…あの四人の分も含めてお会計しなきゃ…」
「ああ、店に入った時にすべて払ったぞ」
「えっ!?」
「金くらい神が出す。故に…手持ちがないという理由で案内出来ん…などとは言わせんぞ?」
「え、いや…むしろ、ありがとうございました…」
マジでいつの間に払ってたんだ…。
あ、もしかして…ヴァジュラたちがジェラート注文した時に、インドラ様から託されてたのかな?
どこかご機嫌なインドラ様に抱えられながら、南国の街並みを案内することになる私であった…。
一方その頃、カフェの店内では…。
「行っちゃったねー」
「まあ、邪魔しない方がいいんじゃない?」
「そうだな」
「いやぁ…いいものが見れたものだ」
「お前はもっと自重しろー」
「よりによって、神の地雷原でタップダンスするのはやめなさいよ。私たちまで巻き添え喰らうじゃない」
「そうかい?インドラ神は、神の中でも割と単純明快な考えをしているから、読み取るのはそう難しくないんだが」
「だから神罰喰らうんじゃないの」
「そーだそーだ。触らぬ神に祟りなしって言葉が昔からあるんだから、わざわざつんつんしに行く必要ないでしょ」
「…ん?あれは」
「貴方、どうしたのよ?」
「外を見てくれ…虹がかかっている」
ジークフリートの言葉に、全員が窓の外を見る。
緩やかな弧を描いた大きな虹が…空に架かっていた。
「あら、大きな虹だこと」
「そういえば虹は『インドラの弓』と言う呼び名がついていたことがあるらしいな」
「あの神様の所有物だったもの多すぎでしょ…」
「古代から存在する神だからね。もしかしたらこの虹も、インドラ神が架けたのかもしれない」
「…それって、マスターさんと一緒に過ごす時間が出来たから?」
「拗ねたら雷雨を降らせて、ご機嫌になれば空に虹を架ける…気まぐれな神様ね」
「だからこそ、天空神なのだろうな」
空の虹を眺めながら、今頃マスターと街の散策をしているであろう、気まぐれな神を想像する四人なのであった…。
END