故郷を守る刃 〜帰郷〜
故郷を守る刃 〜帰郷〜
※本作『故郷を守る刃』における設定※
・マスターの出身は地方
・学生時代の部活は剣道部
・家族構成として、年の近い兄がいる
・カルデアの時間軸は現実と同じ2026年
何でも許せる方向けです。
OKな方のみお進みください。
ピピーッ
『マスター!微小特異点発生です!管制室に招集命令が下りました!』
「!?」
マイルームでくつろいでいた私は、すぐさま通信機を手に取り応答する。
「了解!すぐに向かうよ」
『それとですね、先輩』
「ん?どうしたの?」
返事をして通話を切ろうとしたところ、通信機越しのマシュから意外な言葉が飛び出してきた。
「そちらに…インドラ神はいらっしゃいますか?」
「えっ?インドラ様?」
マシュからのまさかの名指しに、私は思わず隣に顔を向ける。
「…神の名を呼んだか?」
今の今まで、私の隣でくつろいでいたインドラ様が気怠そうに返事をする。
どうやら、その声がマシュにも聞こえたらしい。
『あ、いらっしゃったのでしたら何よりです!マスターには、インドラ神と共に管制室にお越しいただきたいのです!』
「インドラ様と?」
「何故神まで…」
インドラ様に適性がある特異点なのだろうか?
なら来ていただく他にないが、今のインドラ様は明らかにやる気がない…というより、私と一緒にくつろいでいたところを邪魔されたとでも思ったのか、若干不機嫌そうだ。
何とか説得を始めようとした時、再び通信機からマシュの声が響く。
『実は今回の微小特異点ですが…危険度の高い場所にも関わらず、インドラ神以外に適性のある英霊が誰一人としていらっしゃらないのです!』
「!?」
「インドラ様以外に…適性がゼロ!?」
マシュのその言葉に、流石のインドラ様も気怠そうな態度が一変…訝しげな表情に切り替わった。
危険度が高い微小特異点というだけでなく、適性のある英霊が本来英霊ではなく神霊であるインドラ様のみ…。
ただ事ではないと感じた私たちは一度顔を見合わせて、通信機を手に持ってマイルームを出た…。
〜管制室〜
プシューッ
「お待たせしました!」
「あ、先輩!インドラ神!」
管制室に着くと、スタッフの皆さんと一緒にマシュとオルガマリー所長、アズライールさんがすでに集まっていた。
「全員集まったわね!?では、早速緊急のブリーフィングを始めます!」
オルガマリー所長の合図と共に、モニターに映し出されたのは微小特異点の観測地と思われる場所。
「先程観測されたのは、2009年の日本の某所。まだ今のところ微小特異点ではあるのだけど、肥大して危険な特異点と化す可能性が演算されたわ」
「…ッ!?」
「神以外に適性のある者が誰一人としておらんと聞いたが、ここはマスターであるこいつの故郷となる国ではないか。同郷の英霊にも適性はないのか?」
インドラ様からの問いに、オルガマリー所長は苦々しい表情を浮かべながら答えた。
「ええ…ありません。適性がないどころか、無理矢理割り込む強硬手段も取れそうにありません。それが出来たなら、せめてマシュだけでも送り込みたかったのですが…」
「私が追っているビーストについては、今回は無関係だと判明した。危険性が高い場所でありつつ、マスターとインドラ神…この両名のレイシフトしか不可能というわけか」
「霊基調整が終わったところだったのですが…お役に立てずにすみません、先輩」
「ーーー」
みんなが話し込んでいる中、私は観測されたモニター画面をただ見つめ続けることしか出来なかった。
何故なら、その場所は…
「ちょっと!聞いているの!?」
「先輩?先程から画面を見つめたままですが、どうなさいましたか?」
「…この地について、何か知っているようだな」
「……はい…ッ」
どうして…。
何故よりによって、こんな場所が…。
「私の地元…実家の、近くです…」
「えっ!?」
「そんな…ッ!?」
「…ッ!?」
「………」
画面に映し出されていたのは、懐かしい場所。
一度人理を取り戻し、日常に戻ってからも何度も目にした光景だった。
そんな場所が、どうして…。
どうして危険な特異点に…。
「と、とにかく!今現地へ向かえるのは、マスターとインドラ神…両名のみ!レイシフトの準備を急いでちょうだい!」
「はい!」
スタッフさんたちがバタバタと準備をする中、不安と恐怖でその場に立ち尽くすしかない私の肩に、大きな手が置かれた。
振り返ると、そこにはインドラ様の姿が。
「…要は、神々の王たるこの神が出向けば解決となる特異点であろう?ならば、そのように沈んだ顔をするでない」
「…ありがとう、ございます」
インドラ様が気遣ってくれる傍ら、いつの間にか近くに来ていたアズライールさんが、私に釘を刺すように忠告してきた。
「気を抜くなよ?神霊にしか適性がない…それは逆に言えば、神霊クラスでないと相手が務まらない敵が向こう側にいるということだ」
「…ッ!!」
「おい、脅しをかけるでない」
「ただの脅しで終わるのならば、それが一番だが」
「き、ひ、ひ!要はわえのような存在があちら側にもいるというわけじゃな?わえにも適性があったのなら、特等席で見物してやったものを…むぅ…」
「貴様は金輪際関わるな!忌々しい…」
ひょこっと顔を出したヴリトラ。
確かにヴリトラは、日本でいう八岐の大蛇に匹敵する怪異ではあるから、要はそれクラスの何かがいてもおかしくないとも言える…。
「レイシフト準備、整いました!」
「了解!さあ、頼んだわよ!」
「…はい!」
返事をした私は、再度インドラ様に向き直って頭を下げる。
「どうか…よろしくお願いします」
「そう気負うな。行くぞ」
そして、コフィンに乗り込む私とインドラ様。
3…2…1…
レイシフト…開始!
「…あれ?」
「どうしたの?マシュ」
「先輩が…送られていません!」
「嘘…やだ、本当だわ!レイシフト失敗かしら!?」
「え?いえ、マスターもインドラ神も無事現地に送れていますが…」
「じゃあ、何で…」
「何でマスターの体がここにあるわけ!?」
「先輩!?先輩!?」
起動したはずの、コフィン。
その中に取り残されたのは、意識のないマスター。
「医療班!医療班を呼べ!」
スタッフの怒号が飛び交う中、コフィンの中のマスターに近づくアズライール。
「!……これは…」
マスターの姿を見たアズライールは、今目の前に起きた出来事を即座に理解した。
「アズライールさん?あの、何か…」
「…分離している」
「分離?」
「ここにあるのは、マスターの肉体のみ。あちらへ飛んだのは、精神と魂だ」
レイシフトに成功した私とインドラ様。
だったはずだが…。
「お前…ッ!その姿は一体…ッ!?」
「えっ?」
着いて早々、インドラ様が私を見て仰天している。
自分の手を見てみると…
「………え?」
私の視界に映ったのは、私の掌…を通り越して見える地面だった。
あまりの出来事に、軽くパニックになる私。
「え……えっ!?わ、私…透けてる…ッ!?」
「それだけではない!今のお前は、精神と魂だけの状態だ!このままでは消滅するぞ!」
「消滅…!?」
正直に言うと、今の私は自分自身の体より、神様であるインドラ様がここまで焦っていることに対して本気の焦りを感じていた。
この神様がガチ焦りするってことは、今の私って本当にヤバいんじゃ…。
「応急処置に過ぎんが…」
パチンッ
「…ッ!?」
インドラ様が指を鳴らすと、私の体が大きなシャボン玉のようなものに包まれた。
ふわふわと宙に浮かんでいる。
「精神と魂は、肉体という殻がなければ非常に脆いものだ。そのままではカルデアに帰還する前に消滅しかねん。泡の中にいる間は保護してやれる」
「た、助かりました…ありがとうございます!」
「とは言うが…恐らくお前の肉体は、カルデアのコフィンの中に置き去りになっているはずだ」
「コフィンに…ですか?」
「ああ。ここに呼ばれたのは、お前の精神と魂のみ…肉体はどういうわけか弾かれてしまったようだ」
「…黒幕の仕業でしょうか?」
「さてな……ん?」
私と会話していたインドラ様が、前方に何かを見つけたらしい。
「ヴァジュラ」
「「了解!」」
インドラ様の命令で、前方の何かを掴んでこちらへ持って来たヴァジュラたち。
持って来たものは…
「…小娘か」
まだ10代前半と思われる少女…いやいやいや、ちょっと待て!
「こ、これ…」
「ん?知った顔か?」
「知ってるも何も…よく見てくださいよ!」
「神に命ずるな。一体………は?」
ヴァジュラたちが抱えた少女…それは…
「どうみても…私なんですが…」
「…ッ」
まだ10代前半と思われる…私だった。
「あー!ホントだ!マスターじゃーん!」
「ここは2009年…つまりこれは、17年前のマスターのようですね」
「…死んで、るの?」
年若い私をじっと見つめるインドラ様。
「いや、生きてはいる。だが、どういうわけか…肉体の中の魂が眠りに就いている」
「眠ってる?睡眠とは違うんですか?」
「睡眠は肉体の休息であろう?魂が眠っているというのは、生きてはいるが、何かしらの衝撃で魂が奥底に引きこもっている状態だ」
「何かしらの衝撃…特異点で、何かあったと?」
「憶測でしかないがな。それより…」
私に顔を向けるインドラ様。
「この年若きお前の肉体を間借りする他ないな」
「間借り…ってそれ、私がこの体の中に入るってことですよね!?そんなことしたらこの年若い私は…大丈夫なんですか!?」
「魂が眠りに就いている今ならば、問題はない。本来の魂が目を覚ませば追い出されはするが、このまま泡の中にいては行動に移せん上に、神への魔力が安定せんからな」
「まあ…確かに…」
一応これ、過去の私ではあるし…。
他人の体を借りるよりは、ずっといいかも…。
「時間がない」
「…ッ!?」
インドラ様の言葉を合図に泡がふわりと移動し、年若い私の体の上に舞い降りた。
「そら」
「わっ!?」
そして私は、自身を包む泡ごと体の中に吸い込まれていった…。
その途端…
「…はっ!?」
ガバッと起き上がった私は、自分の手を見つめる。
先程のような半透明ではなく、右手の甲に令呪を宿したしっかりとした手。
ゆっくり立ち上がってみると、本来の私より年若い体だからなのか、どこか体が軽いような気がする。
「動ける…」
「この特異点では、しばらくその体で動くしかあるまいよ」
「ま、まあ…動けるなら何とか…インドラ様、ありがとうございました」
「本来のお前より幼い故、食指は一切動かんがな」
「そういうのは言わなくていいんですよ…」
あ、そうだ通信…
ダメだ…肉体がカルデアに置き去りだから、今の私は持ってない…。
「一応ぼくたちにも持たされてはいますが」
「応答ないねー」
ヴァジュラたちが通信機を動かそうとするが、反応がまったくないらしい。
管制室は頼れない。つまり現地で情報を探るしかなさそうだ。
「………」
まわりの景色を見た私は、思わず郷愁に浸る。
さっき私のこの体が倒れていた場所までゆっくりと歩いていく。
「ん?どうした?」
インドラ様がアイラーヴァタに乗ったまま、私の後を追いかけてきた。
私は、先程私が倒れていた場所で立ち止まり、そこに見える建物を見つめる。
「…これは、お前の家か?」
「…はい」
空けてしばらく経つ、久々の我が家。
「…こんな形で、帰ってくるとは思いませんでしたけどね」
「………」
敷地内を、一歩一歩…踏みしめる。
そして、独り言のように呟く。
「……ただいま」