インドラ神による緊急英霊取調室2
インドラ神による緊急英霊取調室2
「えっと…今度は何を聞きたいのでしょう?」
「ほう…随分と話が早いな」
「それはそうですよ。だって…」
「この拘束の仕方…前回とまるっきり同じじゃないですか」
「話が早くて何よりです」
「もう取り調べ始めてもよさそうだよー!」
「やっぱり取り調べっていう体でいくんだ…」
まあ一応…状況だけ。
以前、英霊たちと私の関わり方についてインドラ様からいろいろ質問されたんだけど…。
その際私が逃げないように、と…ヴァジュラ二体がかりで腕と足を拘束されていた。
別に逃げる理由はないんだけど。
そして今回もまったく同じように、椅子に座ったまま拘束されている…というわけです。
「では本題に入るか」
「どうぞどうぞ」
インドラ様はベッドに腰掛け、英霊たちの情報をまとめたタブレットを操作していく。
そしてとある英霊の画面を私に見せてきた。
「ディルムッド?」
ランサークラスのディルムッド・オディナだった。
「この男…此度のお前の旅において、最初に召喚された英霊だと聞く」
「はい、そうです」
始まりの特異点…燃え盛る冬木の地で、最初に召喚に応じてくれた英霊が彼…ディルムッドだった。
最初に来てくれた英霊だから…インドラ様から見て何か思うところでもあったのだろうか?
「お前は…この男には、他の英霊とは違う態度で接しているようだな」
「!」
「神もここへ来て、あまり日が経たん頃から気づいたほどだ。率直に聞く。この男は…お前にとって何か特別な英霊なのか?」
「…最初に来てくれた英霊ですから、特別性は確かにありますが、私がディルムッドに対してとっている『態度』自体はあまり特別なものではないと思っています」
「…」
始まりのあの地で…。
ディルムッドは私の召喚に応じてくれた…のだが。
『貴女に仕えるサーヴァント』と言ったわりにはどこか私と距離を置こうとしている様子だった。
なんとなくそれが、私が『女だから』というのを感じ取ったので、勇気を出して本人に聞いてみた。
すると、どこかぎこちなくもディルムッドから答えが返ってきた。
彼は生前…主君の婚約者に惚れられ、自分を連れて逃げてほしいというゲッシュを課された。そしてその結果、追いかけてくる主君も仲間の騎士たちもすべてを振り払い、彼女を連れて逃げる運命を背負うことになった。最終的に主君から許しをもらい、彼女と結婚することとなった…。
しかし彼自身は、騎士道よりも求められた愛を選んだことを悔やんでいる…と。
手にした妻子や幸せは、紛れもない本物。だがその最中で騎士として主君に忠実に仕える喜びを、どこか失ってしまったようだ…と。
聖杯戦争において自分が望むのは、今度こそ選ばれた主君に最期まで仕え続けたい。ただそれだけなのだ…と。
なので、召喚した私が女だったがために、僅かに身構えてしまっていたそうだ。
それについては丁寧に謝罪された。
それを聞いて、私はひとつ決断をした。
彼の前では、なるべく…騎士を持つ主として振る舞おうと。
『なら貴方…いや、お前は今から私の騎士だ。庶民の私には雑用使いは心得がないから、お前を上手く使うことは恐らくできない。でも…お前が望むなら、私はお前の主君になる。戦いに不得手な主君でいいのなら…の話だけどな』
あのとき、そんなことを言ったっけ…。
ディルムッドなら覚えてると思うんだけど、聞き出さないほうがいいかもなぁ…。
あれを聞いたディルムッド、泣き出したから。
わんわん泣きながら『このディルムッド…一生貴女に着いていきます!心優しき我が主よ!!』って言いながら土下座しだすわ、そばにいたキャスニキからは『男泣かせのマスター』呼ばわりされるわで散々だった…。
ディルムッドは付き合いが長いけど、キャスニキやロビンのような砕けた態度とはちょっと違う…でもお互いのことはよくわかっている…。
そんな関係だと思っている。
私はインドラ様に、そう説明した。
どこかしら特別ではあるかもしれない。でも、私はただディルムッドの望みを汲んだだけにすぎない。
「…なるほど」
「ディルムッドからすれば、私と何か特別な関係なんじゃないかって疑われることそのものが、彼を苦しめることになりますので…あまり勘繰らないであげてほしいのが、私の本音です」
「…よい。お前に忠義を尽くしたい…ただそれだけならば神から言うことはない」
「ありがとうございます」
インドラ様に頭を下げる。
拘束されてるから、あんまり動けないけど…。
インドラ様も王としての立場があるから、ディルムッドのような、忠義に生きることを望む騎士については理解があったのかもしれない。
「この男についてはよい。だが、まだお前の疑いは晴れておらんぞ?『男泣かせのマスター』よ」
「インドラ様までそれ言いますか!?」
この際私の疑いよりも『男泣かせのマスター』の汚名のほうを返上したいんですが…。
「次はこいつだ」
画面に映っていたのは…
「蘭陵王…ですか?」
セイバーの蘭陵王だった。
「先程の槍使いとよく似たものを感じる者ではあるな。所謂忠臣というやつだ」
「そうですね」
「この男も…お前に泣かされた経験があるようだぞ」
「えっ…私に!?」
蘭陵王が私に…泣かされた?
いやいや、泣かせた覚えはないですけど!?
そもそも蘭陵王にそんなことしようものならパイセンに呪い殺されるんですけど…。
あ…。
「もしかして…」
「何か覚えがあったようだな」
「多分ですけどそれって…バレンタインのあのことを言ってるんじゃ…」
「?」
説明すると…。
バレンタインで蘭陵王にチョコをあげたとき、蘭陵王からはお返しとして、普段つけているあの仮面をつけさせてもらえたんだけど…。
私が似合うかどうか聞いたところ、蘭陵王から返ってきた言葉は「とても美しい」というものだった。
ただ…蘭陵王のような顔の綺麗な相手から「美しい」と言われても、あまり褒められた気がしなかった。
なんとなく…心に湧いた劣等感に苛まれていたのを自分の言葉のせいだと思ったのか、何とか蘭陵王が元気づけようとしていた。
『うわーん!マスター!!』
あぁ、うん…確かあのとき、泣いてたな…。
とりあえず一部始終をインドラ様に話す。
そして質問する。
「これ私が悪いんですかね」
「………知るか」
えっ、バッサリ…。
ひどい…。
「…まあ、そのような戯れであれば大した問題ではなさそうだな」
「戯れ…まあ、そうなるか…」
この件に関しては、インドラ様には納得してもらえたみたいだけど…。
蘭陵王…。
私はあのときどうするべきだった?
おかげで私は『男泣かせのマスター』という汚名に箔をつけることになってしまったよ…。
「最後はこいつだ」
3人目で最後、か。
画面に映っていたのは…
「ダンテ…ですか?」
プリテンダーのダンテ・アリギエーリだった。
「お前はこの男と随分仲が良いようだな」
「まあ仲は…いいですね」
「率直に聞く。お前はこの男を好いているのか?」
「好きは好きでも、人としての好きですよ?」
「お前たちはよく2人で一緒にいるところを見るが」
「気は合いますし…あと単に、ダンテが大人数相手に喋るのが苦手なだけなので、自然と少人数になるだけです。インドラ様が見ていないところでは、もう2人くらい加わることもありますよ?」
「なるほど…。だが神が一番納得がいかんのは、この男がお前に言った、とある言葉だ」
「とある…言葉?」
ダンテから言われた言葉…。
それってもしかして…。
「それって『私と一緒に天国に行かないかい?』ですか?」
「その通りだ。堂々とお前との心中を宣言するとはけしからん。やはり制裁を下すべきか」
「待ってください!!それを額面通りに受け取らないでください!!」
「何か間違いがあるのか?」
あります!!
私と心中するためじゃないです!!
「インドラ様は、英霊としてのダンテのルーツはご存じでしょうか?」
「知らん」
「では説明しますね」
英霊としてのダンテ…。
それはダンテ・アリギエーリが、自身を主人公として書いた叙事詩『神曲』の主人公『ダンテ』を羽織っている状態。
現実に打ちひしがれたダンテが、賢者ウェルギリウスに出会い、地獄、煉獄、天国の3つの世界を旅していく物語…それが『神曲』だ。
ダンテが私に対して『天国へ行かないかい?』と言ったのは、前提としてダンテから見た自身と契約したマスターは『神曲』の中でいうダンテ自身、そして英霊であるダンテは自分を導いてくれた賢者ウェルギリウスにあたる存在なのだ。
かつて自分を導いたウェルギリウスのように、さまよえるマスターを導く…それがきっと、ダンテのアイデンティティのひとつなんだろう。
だからこそダンテは、私にあの言葉を言ったんだと思ってる。
実情はよく知らんけど…私の想像だけど…。
とりあえず、インドラ様にそう説明した私。
「なので制裁下すのはやめてあげてください」
「…」
インドラ様は何かを考えている様子。
「何ならダンテ…インドラ様からお話を聞きたがってましたし」
「…神に?」
「はい。以前インドラ様が天界の主だと聞いて、スヴァルガがどんなところなのか、お話を聞いてみたいと言ってましたよ」
「ほう…スヴァルガについてか…よかろう」
ダンテ?あっさり許可もらえたよ?
ひとりで話すの怖いなら私も着いてようか?
心の中でダンテに呼びかける。
《フフ…一緒にいてください。お願いします》
ん?今何か聞こえた?
いや、気のせいか…。
《フフ…気のせいじゃないよ…》
「まあ…お前を心中に巻き込むつもりがないのであれば良しとしよう。仲が良いのも、人間としての最低限の付き合いの延長のようだし、特別神が目を光らせる必要はなさそうだな」
「ありがとうございます」
「ならば…外してよいぞ」
「「了解」」
「あ…」
インドラ様の合図で、拘束から解放された。
そしてヴァジュラたちは消える。
椅子からゆっくりと立ち上がる私。
「…」
「!」
インドラ様の視線が、合図を出した。
私はその意図を汲み取り、ベッドに腰掛けるインドラ様のもとへ近づき、自分も同様に腰掛ける。
すると長い腕が伸びてきて、私の体に巻き付く。
そのまま隣にいるインドラ様に、寄りかかるような姿勢で抱きしめられる。
「前にも言いましたけど、拘束なんかしなくてもちゃんと質問には答えますよ?」
「わかっている」
「インドラ様…さてはこの取り調べ…ちょっと気に入ってきてませんか?」
「…さてな」
絶対気に入ってるじゃんこの神…。
ただ、本物の取り調べはあんながっちり拘束しないから考え直してくれないかなぁ…。
拘束するのはもはや尋問とか拷問の類なんだよ…。
「あ、それとインドラ様」
「何だ」
そうそう…ひとつ忘れていたことがあった。
「私のこと…『男泣かせのマスター』って呼ぶのはもうやめてくださいね?あれはただのキャスニキの冷やかしですから」
「フッ…まあ神は構わんが…神の見立てでは先程のダンテとやら…扱いを間違えればお前に泣かされる未来もあるかもしれんぞ?」
「…」
ダンテ?
…泣くなよ?
………絶対に泣くなよ!?
〜おまけ〜
「む?ラーマか」
「カルナ!ちょうどいいところに」
廊下を歩いていたラーマは、カルナと遭遇した。
今の状況をわかっている相手に会えたら、と思っていたところだったため、内心ほっとした。
「何かあったのか?」
「特別何かが…というわけではないのだが、汝の意見を聞きたいところではあったのだ」
「オレの意見を?」
「ああ。余が何を聞きたいか…もしかしたら何となく察しているかもしれんが…」
「…二択といったところか」
「二択?」
「インドラの話か、マスターの話か、だな」
「それはもう実質一択だろう…」
この男は鋭いのか天然なのか…。
しかし、全くもってその通りではあるので否定のしようがない。
「そうだ。余はインドラ神に、今後マスターをどうしたいのか聞き出そうとしたのだ」
「インドラは何と?」
「そのときたまたまマスターが来てしまってな…返答はもらえなかった。だが、マスターと接するインドラ神を見て思ったことはある」
「それは?」
一呼吸置き、ラーマは答える。
「インドラ神は…本気の可能性が高い」
「…あのインドラが、か」
察してはいたのだろうが、ラーマからの見識を聞き改めて意外性を噛み締めるカルナ。
「ああ。神によって気まぐれに傷つけられ、捨てられるのもよくない話だが、本気だとしても…それはそれで厄介な話であろう?」
「違いない。神の考える愛し方は、等身大の人間が受け止めきれるものではない。類稀なる度量を持つ人間も、いるかもしれんがな」
「やはりそう思うか…。すべてが終わり、マスターが日常に戻るときがきたとしても、インドラ神は神だからな。理を無視してマスターに会いに行くこともできるはず。なあ、カルナは…インドラ神がマスターの日常を壊してまで、自分のものにしようと迫ると思うか?」
カルナは小さく首を振った。
「オレにはわからん。だが仮にマスターが只人の幸福を捨て、インドラに嫁ぐと決めたとして…天界の神々がマスターを受け入れるとは限らないという問題もある」
「そうだな…そうなればマスターは、最悪帰り道を失うことになってしまう」
その末路を想像したのか…カルナもラーマも僅かに口調が重くなる。
天界の神々…それは実質ごく一部の神なのだが、受け入れてもらえなかった場合、それならば元の生活に戻れる…とは限らないのだ。
神に愛されるとは…そういうことだ。
「それに、まだマスターがどんな選択を取るかもわからん。神のもとへ嫁ぐことは、代償がつきものであるということが理解できぬマスターではないはずだ」
「そのマスターの選択次第で、インドラ神がどう動くのかが変わるからな…」
ラーマはため息をつく。
遥か昔からどこか人間味のあるインドラならば、人間本来の幸せというものには理解があるとは思っている。
いや…そうであると信じたい。
「インドラ神が、ただ神としてマスターの幸せを願うのならよい。だが本気で自分の妃にしようと動き出したとしたら…正直あまり考えたくはないが」
「だが、インドラを説得しても無駄であろうな。あの神はどこかでよほど痛い目を見なければ諦めはしないだろう」
「その痛い目を見るのが、マスターでないことを祈るばかりだ。いざそうなったらすっぱり諦めてくれればよいのだが、目をかけた人間が己のもとから去っていくのを我慢できる神とも思えんのが…また難儀なものだ」
カルナもラーマも、思いはひとつ。
どんな選択をしたとしても、マスターには幸せを掴んでほしいのだ。
だから…インドラ/神よ。
せめてマスターの意思を最優先にしてやれ…。
それがオレ/余たちが願うことだ…。
END