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故郷を守る刃 〜衝撃〜

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

故郷を守る刃 〜衝撃〜

「なん…で…?」

インドラ様と私を乗せたアイラーヴァタが、川があったはずの場所に降り立つ。

そんな…。

確かに、ここは大きな川で…

流れが急だから泳いじゃダメって、親や釣りをしていたおじさんたちにも注意されて…

でも…家族や友達たちと河川敷でバーベキューをしたり、浅瀬で水を掛け合ったりして…

確かにここは、川だったのに…。

「…川だな」

「!」

水がなくなり、乾いた地面と化した場所を眺めながら、インドラ様が口を開いた。

「川だった…と言うべきか。確かに、川として存在した残滓が微かに残っている」

「…」

「だが…水が消えたのは、ごく最近だ」

「…最近、とは?」

インドラ様の言う『最近』って…。

神様の尺度だから、この特異点では年単位で川の水が干上がっていったってことなのかな?

「ほんの数日前だ」

「えっ?」

数日前という、あまりにも予想外な言葉。

思わずインドラ様の方を向いてしまう。

「たった数日で…川がこんなことに…?」

「どう考えても聖杯の仕業だ。それに、ここに来て匂いがより一層強まった」

「…ッ!?」

匂い。それは、この特異点でずっと匂っているとインドラ様が言及していた『蛇の匂い』だ。

「だが、気配がない」

「気配が?」

「ああ。この川であった場所を根城にしてはいるようだが…確かここは、川の下流であったな?」

「はい。北の方角へ行けば、上流に近づきます」

「…日の出る内は、木々が生い茂る上流付近に潜んでいるのやもしれんな」

「上流付近を、確認しに行きましょうか?」

「…奴の力が不十分でないのなら、早めに叩いておいて損はないか」

「じゃあ、川の跡を辿って行きましょう」

「神に命ずるなと何度言わせる…」

小言を言いながらも、アイラーヴァタを浮上させて川を遡って行くインドラ様。

でも、その小言からあまり嫌そうなニュアンスが伝わってこないのは、故郷が特異点の舞台になってしまった私への配慮なのかもしれない。

アイラーヴァタは、川に架かっていたいくつもの橋を飛び越えながら、山の方向へと翔けていく。

そして中流の辺りにさしかかったところで、インドラ様が地上の異様な光景に気づいた。

「…湧いているな」

「湧いている…?」

アイラーヴァタから地上を見下ろすと、そこにいたのはドス黒い魔力を纏った蛇だった。

しかも、まるで繁殖期のようにうじゃうじゃと湧いていて何匹いるのかわからない。

「悪しきものに変わりはない。やれ」

「「了解!」」

ヴァジュラたちに指示を出したインドラ様。

二体は、蠢く蛇たちの中心まで飛んで行き…

「「せーの…ッ……落ちろーッ!!」」

掛け声と共に、白と黒の雷が蛇たちを直撃する。

雷が落ちた場所を確認すると、蛇たちの姿は跡形もなく消え去っていた。

「よーし!全部消えたー!」

「インドラさま、終わりました」

やはり蛇であれば、インドラ様の雷には敵わないらしい。

「…ん?」

と、再び地上を見下ろしていたインドラ様が、また何かに気づいた。

「チッ…異常に気づいたか…」

「え………ッ!?」

つられて私も地上を見ると、そこには先程の何十倍もの数の蛇たちが、川の跡を埋め尽くす勢いで湧き出している。

「流石にこの数は…ッ」

「キリがない。先を急ぐぞ」

「「了解!」」

アイラーヴァタがスピードを上げ、ヴァジュラたちもそれに併走して飛行する。

私はアイラーヴァタから落ちないように、インドラ様にしがみつくのに必死だった。

「間違っても落ちてくれるなよ?あの蛇どもの中に落ちようものなら、お前ごと撃ち抜きかねん」

「わ、わかってます…ッ!」

流石にフレンドリーヴァジュラは勘弁して欲しいところではあるけど、かといってあの蛇の渦に呑まれたら命の保証はない。

山の方向を目指しながら飛ぶ私たちだったが…

「うわっ!」

「!?」

「ヴァジュラ?どうしたn……ッ!?」

突然悲鳴を上げる、少年体ヴァジュラ。

何事かと思い、様子を見た私は思わず息を呑む。

「この…ッ…離れなさい…ッ!」

「何してんのさー!」

少年体ヴァジュラの足に、先程の蛇が巻き付いていたのだ。

必死に剥がそうとする少年体ヴァジュラと、なかなか離れない蛇の尻尾を引っ張る少女体ヴァジュラ。

ちょっと待って…ここ上空だよ?

いつ巻き付いたの?

「うぎゃーっ!?」

「!?」

今度は少女体ヴァジュラが悲鳴を上げる。

見ると、今度は腕に蛇が巻き付いていた。

「何が起きて……ッ!?」

もう一度下を見た私は、普通ならあり得ない光景を目にしてしまう。

「この蛇たち…飛んできた!?」

普通なら飛ぶはずのない蛇だが、他の蛇たちと連携をとるかのように体を巻き付かせ合い、一匹ずつ砲弾のようにこちらに飛んで来ていたのだ。

これには流石のインドラ様も…

「お前たち!一度神雷を落とす!」

宝具を使わざるを得ないと判断したらしい。

「「りょ、了解!」」

何とか蛇を振るい落として、神雷解放の体制に入るヴァジュラたち。

パチンッ…とインドラ様の指が鳴る。

「来たれ!神雷!『神の雷』…ッ!!」

辺り一面に白く眩しい閃光が満ち、劈くような轟音が響き渡る…。

「…消えたか」

「…ッ!?」

インドラ様の声に目を開けると、先程まで地面を埋め尽くしていた蛇たちがすべて消えていた。

「ありがとうございます…」

「やむを得ん。一旦戻るぞ」

「…そうですね。あの蛇たち、多分上流に行かせないために私たちを…」

「あの蛇ムカつくー!」

「まさか飛びつかれるとは思いませんでした」

旋回し、元来た道を戻るアイラーヴァタ。

地面にはいつの間にか、先程の蛇たちがわんさかと湧いているが、飛びかかってくる様子はない。

恐らく、上流に近づこうとする者のみを攻撃するセキュリティのような役割らしい。

「…上流にいることは、確定でしょうか」

「ああ。だが、このような愚行を考えた黒幕とやらは別だ」

「…神に匹敵するものが、黒幕ではないと?」

「近づいて多少感じ取ったまでだが、あれは自らの顕現にさほど意欲的ではない。聖杯を使い、無理にでも喚び出そうとしている何者かがいる…ということであろうな」

神に匹敵する『何か』。

それを喚び出そうとしている『何者か』…。

つまり、黒幕は…

「人間の仕業…ですか」

「魔術に秀でた者か、知識を齧った程度の素人かは知らんがな。少なくとも、野良のサーヴァントの仕業ではなさそうだな。気配を消すことに長けているだけやもしれんが、この特異点からは、サーヴァントの気配は一切感じん」

「それって…野良のサーヴァントすら、現界出来ないってことですか?」

「もしくは『すでに消された』か…だな」

「…ッ」

今のところ、何故他のサーヴァントがいないのかは一切わからない。

でも、それ以外にわからないことがある。

街の人たちは、どこに消えたのか?

そして街から人が消えた中…

何故『私』だけは、家の前で倒れていたのか…。

『私』が倒れていたからこそ、私は精神と魂をこの体に移して活動することが出来ている。

それ自体が不思議過ぎるのだが…

まるで『肉体が置き去りにされた私』がここに来ることを、予見していたかのようだ。

それも黒幕の仕業なのだろうか?

あの川が私の見知った川とは別物になっていることに疑問を抱いた私は、まずはあの川の歴史について調べてみることにした。

インドラ様にお願いして図書館に連れて来てもらった私は、街の歴史についての資料を漁っていた。

そして川についての資料を開こうとした私は、ある初歩的なことに気づく。

「川の名前が違う…」

そもそも、川の名前が全然違うのだ。

資料には『朱竜川』と書かれている。

となると、カレンダーに記されていた『朱竜祭』はあの川の河川敷で行われる祭りということか。

資料を読み進めていくにつれて、わかったことがいくつか出てきた。

・かつて大雨や台風を起こして水害を引き起こしていた竜に対し、村の住民の中から若い娘を生贄として差し出して御霊を鎮めた。

・その娘を喰らったことで返り血を浴びた朱色の竜の姿を見た人々が、その竜を『朱竜様』と呼ぶようになったため、竜が住む川にも『朱竜川』という名前がついたという伝承があるらしい。

・現在ではそのような風習はなくなり、朱竜祭では出店を河川敷に設けたり、祭囃子や太鼓の音色や地域の踊り子や歌い手によるパフォーマンスが行われている。

現在は平穏な祭りと化した朱竜祭ではあるが、この特異点の黒幕が喚び出そうとしているのは、この朱竜様と呼ばれた龍神のことだろう。

にわかには信じがたいが『この神を前にして尚、伝承を疑うか?』とインドラ様に言われてしまったため、信じざるを得ない。

ただ、仮に朱竜が喚び出されたとして、黒幕の目的は何なんだろう?

そんなものが喚び出されれば、大災害が起こるに違いないけど…。

聖杯を奪ってしまえれば力は削げるけど、こちらの戦力はインドラ様だけだからな…。

いくらインドラ様が強くても、単騎で何とか出来る相手じゃないのでは…。

「いつまで物思いに耽っている」

「!?」

家に着いてからもずっと考え事をしていたからか…

食卓を囲んだインドラ様に、呆れたような目で見られていた。

「今は食事時だ。解決に焦る気持ちもわからんでもないが、こういった時は適度に気を抜いていけ。でないと今宵の眠りの妨げになるぞ」

「それは…はい…」

「まったく…普段ならともかく、今のお前はまだ年若い小娘だ。眠れぬ夜を過ごそうにも手を出しにくいことこの上ない」

「昨日も言ってましたよね、そんなこと…」

この神様…中身が私でも、子どもの姿だからってきっちり線引きしてるんだな…。

律儀だし、まともではあるんだけど…。

いちいち口にしなくてもいいというか…。

「インドラさま!」

「ん?何だヴァジュラ…」

「家探ししてたら、こんなの見つけたー!」

「いや、何勝手に家探ししてんの!?」

今までいないと思っていたヴァジュラたちが、何かを抱えてインドラさまのもとに飛んできた。

「何これ…本?」

「古書のようだが…」

それは、古びた本だった。

うちにこんなの置いてあったんだ…と思った私だったが、ページを捲ってみると、驚くべきものが書いてあった。

「ん…これは…召喚の魔法陣か?」

「これ…ッ!サーヴァントの召喚方法…ッ!」

「何?」

私が普段から使っているカルデア式召喚術…とは違うのだが、間違いなくサーヴァントの召喚方法が記されたものだった。

「これ、どこで見つけたの!?」

「2階です」

「こっちこっちー」

先行したヴァジュラたちの後を追い、階段を登っていく私とインドラ様。

登り切ると、とある部屋の前で浮かんでいるヴァジュラたち。

「この部屋の中にありました」

「他にも変な本あったよー」

「………うそ…」

「ここは誰の部屋だ?」

嘘だ…違う、信じたくない…。

そんなわけ、ない…。

いくらあいつでも、こんなこと…するわけ…。

そんな…わけ……。

「答えよ」

インドラ様の威圧するような低い声に、私は震える声で答える…。

「…ッ……兄の…部屋です…ッ」

「…お前、兄がいたのか」

「…ッ」

小さく頷く私。

「まあよい…中に入ればわかるであろう」

インドラ様がそう呟き、兄の部屋に足を踏み入れようとした時だった…。

トゥルルルルルッ

「…ッ!?」

「…何だ、この音は?」

突然、家の固定電話が鳴り響いた。

人の消えた街で、鳴り響く電話…。

かけてきているのは…恐らく…。

トゥルルルルルッ

急いで階段を下りた私は、受話器の子機を取る。

震える手で通話ボタンを押して、耳に当てる。

ピッ

「………はい」

か細い声で、返事をする…。

『お前それでも剣道部か?』

「…ッ!?」

聞こえてきたのは、懐かしい声。

でも今の私には、聞きたくなかった声…。

『何だその弱々しい声は。顧問に怒鳴られても知らねえぞ』

今の私をからかうようなセリフだが、声に一切のおちゃらけた雰囲気が含まれていない。

それどころか、氷のような冷たさを感じる。

そうか…この時代だと、お互いツンケンしてて碌に会話すらしなかったもんね…。

「……お兄…ちゃん…」