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故郷を守る刃 〜対峙〜

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

故郷を守る刃 〜対峙〜

そして迎えた『朱竜祭』当日…。

身支度を整え、朝食も済ませた。

荷物を肩に担ぎ、靴紐をギュッときつく結ぶ。

そして、玄関のドアを開ける。

「遅かったな」

外にはすでに、インドラ様が待っていた。

今日の天気は曇り。どんよりとした空模様だが、日射しがない分暑さも控えめだった。

「…お待たせしてすみません」

「…空はお前に味方しているようだな」

「…あまり暑くなくて、助かりました」

「出過ぎた真似をする太陽を覆い尽くし、己の非力を思い知らせる。雲とは即ち、そのような存在だ」

「それは、太陽の関係者の前ではあまり言わないでくださいね?」

「事実であろう」

「戦争が起きるに決まってるじゃないですか!」

するとインドラ様が、ふっと口元を緩めた。

「いつもの調子に戻ったようだな」

「!」

「戦場で気を抜くのは命を捨てにいく愚行だが、お前はもっと堂々としていろ。此度の特異点で、お前自身が成し遂げるべき目的は何だ?」

「…ッ」

私自身が成し遂げるべき目的…。

本当なら聖杯を回収して、特異点を解決する…という使命があるけど、今のインドラ様の問いへの答えはそこじゃない。

「…兄を止めます」

「…よい。目的は見失っておらんようだな」

スキットルの酒を一口煽り、インドラ様が続けた。

「此度の特異点の元凶は、お前の兄を蝕む孤独だ。まずそれを対処するのが、お前のすべきことだ。怪異なぞ神が蹴散らしておく」

「…よろしくお願いします」

「…いくらかマシな顔になったな。乗れ」

その言葉を合図に、ヴァジュラたちに抱えられる。

そしてアイラーヴァタに腰掛ける、インドラ様の膝の上に乗せられた。

「行くとするか。お前の兄のもとへ」

「…はい!」

私が返事をすると、アイラーヴァタが浮上した。

そして東の方角へ向けて進んでいく…。

〜河川敷〜

敷地内を目視で確認した私は、先日とは違った光景を目の当たりにする。

「人が…倒れてる…」

河川敷に所狭しと倒れ込んでいる、たくさんの人。

姿を消した街の人たちだな…。

なら、あの中には私の家族も…。

「…ッ」

今は家族の心配をしている場合じゃない。

兄を探さなければ。

アイラーヴァタから河川敷一帯を見渡して、黒幕である兄の姿を探す。

「あ!あそこー!」

「!」

ヴァジュラの声に反応し、指差す方向を見る。

あぁ…本当だ…。

あれは、間違いなく兄だ…。

「何だ。まだ小僧ではないか」

「…私と年は近いですから」

「そんな小僧が、馬鹿げたことを…」

インドラ様も、まだ年若い人の子がこんな馬鹿げたことをしでかしたという事実に、思うところがあるのだろう。

倒れた人たちから離れた、川のすぐそばに立ち尽くす兄を何とも言えない表情で見つめている。

兄はというと、アイラーヴァタに乗る私たちの存在に気づいてはいるようで、こちらを見上げている。

その表情は…私からは、よく見えない。

しばらく家を空けていたからなのか、兄の近くにはリュックのような、ある程度纏まった荷物らしきものも見える。

兄の近くまで来たところで、アイラーヴァタがゆっくりと地面に降り立つ…。

インドラ様の膝から下りた私は、こちらに向いている兄と対峙した…。

そして、肩から下げていた竹刀袋から竹刀を抜き取り、左手で握りしめる…。

「…約束通り、邪魔しに来たよ」

何も言わない兄に代わり、私から声をかける。

すると、ようやくそれに反応した兄が口を開く…。

「…そこにいるのが、神様ってやつなのか?」

「…うん、そうだよ」

私の後ろにいるインドラ様が何者なのか、気になるらしい。

「英霊召喚では、半神半人の英霊は喚べる。でも神を喚ぶことは不可能なはず。本当に神なのか?神を騙る英霊じゃないのか?」

「、…」

うわぁ…それ神様の前で言っちゃうんだ…。

私の兄貴ってば命知らず過ぎ…。

「……だ、そうです」

私はインドラ様の方を振り向き、そう伝える。

当然のことではあるが、ヴァジュラたちからは…

「はー?こいつ不敬過ぎでしょー?今すぐ処されたいのかー?」

「神々の王たるこのお方の前で、何と不敬な」

非難轟々である。

だが、当のインドラ様はというと…。

「まあ、無理もない。神の尊顔を初めて拝謁した小僧ならば、疑って然るべきというものだ」

「寛大な御心、感謝すべきです」

「命拾いしてよかったなー?キシシッ」

インドラ様とヴァジュラたちの会話に、兄はどうやら苛立ち始めたらしい。

「そこまで神と言い張るなら、一体どちらの神なのか…名乗ってもらおうか?」

「…よかろう。心して聞け」

兄の言葉に、インドラ様は声を張り上げる。

「我はインドラ!神々の王にして天界の主…空の解放者にして雷霆の支配者!即ち偉大なるインドラである!」

「、…?」

「インド神話の雷神…インドラ様だよ」

異名を連ねたせいか、情報が渋滞しているであろう兄に簡潔に説明する私。

「インドラ……って、は?インドの雷神?本物の神じゃねえか!」

やはり知識はあったらしい兄。

インドラ様の名前を聞いて、混乱し出す。

「お前の妹が、そう言っていたはずだが?」

「だからって、はいそうですかと信じるか!つーか何で神を召喚して従えてんだよお前は!」

「インドラさまは誰にも従いません。この方がしたいように行動なさるだけです」

「インドラさまに命令出来るわけないじゃーん!」

「お前たちは少し黙っていろ。この小僧が混乱しているではないか」

「「…承知」」

ヴァジュラたちが黙ると、インドラ様は兄の方を見て再度口を開く。

「物見遊山で人界を見に来た。要は気まぐれに過ぎんかったが、この女…いや、この娘が神に助けを求めてきたのでな。故に契約を交わしたまでだ」

「………」

インドラ様の話を、ただ黙ったまま聞いている兄。

そして、私の方を向いた。

「……で………は………」

「何?」

声が小さくて聞こえない。

私が聞き返すと…。

「何でお前には来て、俺には来ないんだよ」

「…ッ!!」

コォン!!

咄嗟に握った竹刀を構えて、防ぐ。

兄が持っていたのは、金属バットだった。

「…自分を信じてくれない奴のところになんか、誰も行きたがらないだろ…ッ!」

「…ッ!!」

私は右足を踏み込み、バットを防いだ竹刀を兄の胸の真ん中目がけて突く。

カァンッ!!

金属の軽い音が鳴る。

寸前でバットで防がれたらしい。

「チッ…」

私は思わず舌打ちをして、兄と距離をとる。

「聖杯なら、あそこに埋め込んできた。朱竜が出てくるのも時間の問題だ」

「…だったら…ッ」

「倒せばよいのであろう?」

「「…ッ!?」」

インドラ様のその言葉に、思わず振り向く私と兄。

「その朱竜とやらは神が片付ける。ならば小僧…お前が死ぬまでもなく解決するではないか」

「…あれを倒す?何言ってんだ?神話上、負けた回数の多い神にあんなの倒せるはずg…」

ドッ!!

「がふぁ…ッ!」

私が喉元に打ち込んだ突きを喰らって、喉を必死に押さえ込み咳き込む兄。

「ゲホッ!ゴホッゴホ…ッ!」

「…すみませんインドラ様。この不敬の馬鹿は私が責任を持って殴っておきます。ですので…」

私は右手を竹刀から離して、令呪を掲げる。

「令呪を三画…貴方に捧げます。どうか、朱竜様を鎮めてください」

「…!」

三画すべての令呪を、インドラ様に捧げた。

「すべての令呪を神に、か…。よかろう…ならばお前は、兄妹喧嘩の決着をつけるがよい」

「…ッ!……あれ?」

あれ?何だろこれ…。

体に、何かが施されたような感覚…。

私が未知の感覚に戸惑っている間に、インドラ様はアイラーヴァタを浮上させ、川の上流の方角へと進んで行ってしまった…。

「ゲホッ……お前馬鹿か?」

「!」

よろめきながらもゆっくりと立ち上がり、バットを握りしめる兄。

「令呪は英霊を強制的に従えさせる、3つだけの命令権だぞ?あんな自由気ままな神に、首輪もつけずに魔力だけ渡したんだぞ?お前の思惑通りに動くのかも怪しいじゃねえか」

「何言ってんの…首輪なんかつけようものなら即神罰だろ。それにあの神様は結構な人間好きだから、人間からの真摯な『お願い』なら動いてくれるよ」

私は再び竹刀を握りしめ、まっすぐに兄を見る。

「あっちはインドラ様に任せたから大丈夫。私はあんたを…お前の性根を叩き直す」

「…へえ」

コンッ…とバットを地面に打ち付け、兄も私を見る。

「…うっかり死んでも恨んでくれるなよ?」

「…こっちのセリフだよ」

そう呟いた直後、私は地面を蹴って兄との間合いを詰める。

「…ッ!」

バットをはたき落とそうと、兄の右手を狙う。

だが…

「落とすかよ」

「…ッ!?」

すかさず左手にバットを持ち替えた兄。

空振った私に向け、バットを振るう。

「くっ…」

ガキィンッ!!

竹刀とバットがぶつかる音。

間一髪、頭に当たりそうだったバットを防いだ。

間合いに入れば、技量なら私が上。

でもこいつは成長期とはいえ、男で筋力もある。

隙を見て、急所を突くしかない。

金属バットも凶器だけど、こいつは野球部でもあるから、フルスイングのバットを喰らえば私もただじゃ済まない。

でも…剣道を習ってたら、人体の急所を自然と覚える羽目になるんだ…。

だから…痛くても我慢しろよ?

クルッ

ゴンッ!!

「ぐぅっ…ッ!」

鍔迫り合いの距離にまでなれば、柄で胸骨を突く芸当くらいは出来る。

「…チッ!」

「…ッ!?」

下から逆袈裟斬りの要領で振り上げられるバット。

まずい、これは避けきれない…。

ガキィンッ

「…は?」

「…え?」

私の顔の目の前で、ぴたりと止まるバット。

「な…んだこれ…ッ」

兄がバットを引き、もう一度こちらに振り翳す。

はっと我に返り、防ごうとしたのだが…

ガキィンッ

「!」

「…んだよ、これ…ッ」

またしても、バットが寸前で止まる。

まるで、何かで防がれているような…。

「………過保護だなぁ…」

『兄妹喧嘩の決着をつけるがよい』と言っていた神様を思い出す。

ありがとうございます、インドラ様…。

存分に喧嘩させてもらいますね…。

ドッ!!

「かはっ…ッ!」

私は力強く踏み込んで、兄の鳩尾目がけて突きをお見舞いした。

私に攻撃が当たらないなら、怖くはない。

加護が効いてるうちに、一気に抑え込む。

そう決めた私は、兄の肩や腕や顎や鳩尾…上半身の急所という急所に容赦なく技を打ち込んでいく。

下半身を狙わない理由?

僅かに残っている、私の温情だ。

「これで最後…ッ」

「う“っ…ッ!?」

最後の突きを打ち込んだ私は、兄の体を突き飛ばして馬乗りになり、手に持ったバットを奪い取った。

「降りろ、馬鹿…ッ!重いんだよ…ッ!」

「降りない。重くて結構」

体の痛みに耐えながら、私を睨みつける兄。

私はその兄の目を、じっと見つめる。

「……何だよ。見んな」

吐き捨てるように呟いて、そっぽを向く。

私は兄に、問いかける。

「何であんなに話してくれたの?」

「…は?」

「答えてよ」

兄は少し間を空け、冷めた声で答えた。

「…情報がなくて足踏み状態だったんだろ?だったら俺の思惑くらいは教えてやろうって思っただけだ」

「…違うんじゃない?」

「…何が?」

私はひとつ呼吸をおき、兄の目をまっすぐに見据えて答えた。

「止めて欲しかったんじゃないの?」

「……は?」

「あんたは確かにあの時、誰のことも信用出来ないって言ってた。でも信用したくないとは言ってなかったよね?」

「……お前…ッ…安直に考え過ぎだろ…」

「インドラ様が言ってた。完全に心を閉ざしたのなら、あそこまでぺらぺら喋らないって」

「…ッ!?」

「そういう演技が出来る人もいるけどさ、あんたには無理だよ。だってあんた要領はいいけど、どこまでも不器用だからさ」

「……お前の目が節穴なだけだろ」

「小さい頃から人を信じられなくなったってのは本当だろうね。でも小さい頃、親の留守中にお腹が空いていた私に野菜スープを作ってくれたじゃん」

「………ッ」

「『美味しいからまた作って』って言ったら、何回か作ってくれたじゃん。まだ踏み台を使わないとキッチンやコンロに背が届かないくらいの、本当に小さい時に」

「……覚えてない」

「私は覚えてるよ。小さい頃から野菜切って、コンロ使ってスープ煮込んでたんだから。そんなの…自慢の兄貴に決まってんだろ…ッ」

「…ッ」

声が徐々に詰まってくる…。

鼻の奥が、つんと痛くなる…。

「私はあんたのこと信じてたよ!あんたと喧嘩してぶたれても、喋る機会減って…ッ…挨拶しなくなっても…私の兄貴はあんたしかいないんだよ…ッ!!」

「ーーー」

「意地張るなよ…頼むから…ッ!ひとりで苦しんでんじゃないよ…ッ!頼むから…頼むからさぁ…ッ!!」

伝えたいことがたくさんあった…。

あったのに『頼むから』なんて、情けない言葉しか出てこない…。

しょっちゅう喧嘩してたのに、涙なんか見せたらまた何か言われる…。

なのに涙が勝手に溢れてくる…。

ぶん殴ってでも止めるなんて息巻いたくせして、肝心な時にこれだ…。

「……はぁぁぁ…ッ…」

と…今まで静かだった兄が、魂まで出そうな勢いの盛大なため息をついた。

「…あんだけ息巻いて、泣き落としか?」

「…ッ…うるさい…今まで…ッ…あんたが泣けなかった分を、私が泣いて、やってるんだよ…ッ」

「…俺が…ねぇ…」

自分の上に乗っている私を、呆れたような目で見ている兄。

でも、その顔は…

「……馬鹿だよなぁ…お前は相変わらず…」

何かの憑き物がとれたような…どこか安心したような顔をしていた。

「もう…好きにしろ。何なら俺を殺してもいいぞ?」

「……いらないよ、あんたの命なんか」

「ん?そうか?」

「…あとはインドラ様が、何とかしてくれる」

「…あの神が勝てるのか?」

「…邪竜退治の逸話持ってる英雄神だけど?」

「…ピンポイントに適任が来てたのか。じゃあ計画が破綻することは確定だったのか…」

「…やっぱり素直じゃん」

「何が」

「インドラ様が勝つって、もう信じたじゃん」

「……逸話があるなら別だろ。あと…いい加減どけ。重いんだよ」

「殺しはしないから、しばらく我慢しろ?」

「お前…ッ……はぁ…」

すっかり戦意を喪失した兄と、兄妹の軽口を叩き合いながら、心の中でインドラ様に呼びかける。

あとは、よろしくお願いします…インドラ様…。