インドラ神による緊急英霊取調室3
インドラ神による緊急英霊取調室3
「こうして今までの進言もむなしく、私は三度に渡って拘束をされるのであった…まる」
「何をひとりで語っている」
「一切の抵抗がないので拘束しやすくて有り難くはありますが」
「とうとう頭がおかしくなったかー?キシシッ」
「そりゃあ…」
「あれだけ拘束なんかしなくても質問にはちゃんと答えますよって言ったのに、それでもまだ拘束されて取り調べ受けることになりそうなんですから、こっちだって現実逃避して一人語りのひとつもしだしますよ…」
「現実からの逃避ならば許すが、この場からの逃走は見逃せんからな。悪いようにはせん、諦めろ」
「はい…今度は誰についてでしょうか?」
「まずはこいつだ」
インドラ様がタブレットを操作し、とある英霊の画面を私に見せてきた。
「えっと…インドラ様?」
「何だ」
「この英霊のことは、私よりもインドラ様のほうが詳しい気がするのですが…」
画面に映っていたのは、バーサーカーのドゥリーヨダナだった。
マハーバーラタにおける、アルジュナたち五王子の宿敵にあたる。
インドラ様もクル・クシェートラの戦いは観ていたはずなので、私よりずっと詳しいはず。
「まあそれは違いないが、このカリの化身がこの場に召喚されてからの話では、お前のほうがより詳しいはずだ」
「それはまあ…そうですが」
「ならば問うぞ。お前…このカリの化身から何度か言い寄られているな?」
「!…まあ…はい」
「つい先日もだ。違いはないな?」
「…はい、合ってます」
〜回想 昨日〜
「あ、わし様…」
「おぉ!マスターではないか!」
廊下にて、わし様ことドゥリーヨダナとばったり出会った。
この御仁、人としてはなかなか憎めない王子ではあるんだけど、ここ最近ちょっと悩みが…。
「…」
「…あの、どうかした?」
「なぁに、気にするな。ここ最近お前の女としての魅力が少しずつ磨かれていると思ってな」
「はあ…」
最近…わし様に纏わりつかれる回数が増えたことだ。
「ところでマスターよ。お前さんはわし様の体の秘密について知っているか?」
「秘密?」
すると、わし様はニヤリと笑みを浮かべる。
「その様子では知らんようだな。ならば、教えてやろう。わし様の上半身…それすなわちヴァジュラの集積によって形作られたものなのだぞ?」
「ヴァジュラの?」
「あぁそうとも!かのインドラが扱う、あのヴァジュラだ!つまり!わし様はインドラとは、血縁とまではいかんが縁が深い間柄というわけだ」
「へえ…それは初めて知った」
「ふっふ〜ん!であればマスターよ…お前…わし様を前にして何か、感じぬか?」
「何かって?」
「お前は今インドラの寵愛を受けているであろう?ならばインドラのヴァジュラでできたこのわし様の体に、神々しさや雄々しさを感じはせんか?」
「…、」
「どうしたマスター?何を黙りこくっておる?ああいや答えずともよいぞ?むふふふ…さてはわし様から溢れ出るインドラの雄々しさに…」
「神がどうかしたか?」
「いやだから!わし様からインドラの魅力…を…」
突如背後から聞こえてきた声に、言葉がだんだん尻すぼみになるわし様。
そしてゆっくりと振り向く…。
「先程から神の名が聞こえているが何事だ?」
「イ、イ、インドラ神…!?」
「わし様の体の上半身はヴァジュラでできているって話をしていました」
「マ、マママ…マスターよ!!」
「わっ…」
インドラ様本人の登場に相当焦ったのだろう。
わし様が私の腕を掴み、インドラ様と距離をとる。
「マスターよ…インドラが来ていると気づいたのなら何故早く言わぬのだ!?」
「インドラ様のほうが早かったから…」
「ええい…仕方ない!適当に言い訳を考えて…」
「おい、カリの化身」
「だから何…って……え?」
至近距離で聞こえたインドラ様の声。
冷や汗をだらだら流しながら、わし様はゆっくりと振り返る。
「神はそこの人間に用がある…どくがよい」
「!?」
「ひっ…!!ど、どきます…どきますとも!!」
バチバチと雷を散らしながら、鋭い目つきでわし様を威圧するインドラ様。
その姿に焦ったわし様は私の腕から手を離し、逃げ去って行った。
〜回想終わり〜
「何ならインドラ様自身がその場に居合わせましたからね」
「お前…昨日のアレが初めてではなかろう?何故神に相談しなかった?」
「インドラ様に相談したら…この前の賢王様やキャスニキみたいに制裁が下ると思いまして…」
「当然であろう。神の女に言い寄る者には裁きの雷を落とすまで…常習ならば尚更だ」
「ッ……ちなみに…わし様への制裁って…」
「昨日のうちに下した」
「わし様…どうかご無事で」
「あぁ…消滅したから再召喚されておったぞ」
「わし様ーーー!!」
バーサーカーで召喚されたばっかりに…。
御愁傷様です…わし様…。
「次はこいつだ」
画面に映っていたのは…
ああ…とうとうか…。
「とうとうメスが入りましたか…先生」
「メス?何の話だ?」
キャスタークラス…アンデルセンだった。
「えっと…先生…インドラ様が何か気分を悪くされる言葉を言いましたか?」
いつかはやるとは思ってた…。
だって先生だし。
「ん?神は特にこの男と言の葉を交わした覚えはないぞ?」
「えっ?違うんですか?」
じゃあ何が気に障ったんだ…?
「むしろこいつから被害を受けているのはお前であろう。さてはまた、日常になりつつあるが故に感覚が麻痺しているのか?」
「あ〜…もしやあの小川のようにさらさらと流れる嫌味のことでしょうか?」
「そんな川があってたまるか」
先生の嫌味?
何なら先生がまだカルデアに来たばっかりのときですら痛くも痒くもなかったので、今の私にはむしろ心地よさというか実家のような安心感があるくらいですよ?
実害は一切ないことをインドラ様に伝える。
「………何でも慣れにするな」
物凄く渋い顔で、インドラ様にしてはどこか言葉を選んだような返答が返ってきた。
インドラ様ったら大げさだなぁ…。
賢王様にどつかれるのと大して変わらないのに。
慣れって怖い?
まあそれはそうとも言えるけど。
あ、ちょっと待った…。
「インドラ様…あの…先生に制裁は…」
「…下すつもりでいたが、あの姿はどう見ても童のそれだからな。それにあの男…聞けば常に満身創痍と言うではないか。流石の神もこれ以上の苦行を課すのは本意ではない。よって、何もしておらん」
「よ…よかった」
子どもの姿でよかったね、先生。
締め切りからは逃げられないけど、神罰からは逃げられたよ。
やったね先生…命拾いしたよ。
《何だ?普段のお返しのつもりか?そんなものを練る暇があれば、差し入れに焼きたてのパンでも持ってきたらどうだ?まあ俺に献上する自信がないのなら仕方ないがな》
何か死ぬほど腹が立つ言葉が聞こえた気がするけど無視しよ。
「最後はこいつだ」
またしても3人目が最後か。
さて…一体誰なのか…。
画面に映っていたのは…
「え?カルナ…さん?」
インドラ様もよく知っているはずの、カルナさん。
ただ、ランサーのカルナさんではない。
「サンタカルナさん…ですか」
セイバークラスの、サンタカルナさんだった。
「クリスマスという行事については、異教の行事ではあるが神も知っている。そしてこのカルデアで毎年英霊どもの中からひとり、サンタクロースが選ばれることもな」
「まだクリスマスイベントを経験してないはずのインドラ様がそこまで知ってるとは…」
「それは言うな」
「あ、すみません…」
「その上で聞く。こいつは…ヴァイカルタナは何をしているのだ?」
「え、何って…サンタサーヴァントとしての務めを果たしてくれているんですが…」
「それはわかっている。だが…これは一体どこから突っ込めばよいのだ…。剣を持たずしてセイバークラスになっている上に、何と言ったか…サンタクロースロード?といい、それからサンタクロースはすなわちスーリヤ?などと言っておるし…」
「落ち着いてください…いつぞやのアルジュナみたくなってます。いや、親子なので似てて当然ですが…」
あぁ…カルデアでのクリスマスをまだ経験していないからこその疑問だ。
あとアルジュナと同じで真面目だから余計に消化不良起こしてるよ…。
いや、消化不良以前に呑み込めてないのか。
そりゃそうだよな…。
『サンタクロースとはすなわちスーリヤ』
って言われてもスーリヤ神をよく知るインドラ様からしたら『?』でしかないって…。
アルジュナとアシュヴァッターマンですらそうだったんだから。
何なら私ですら『なるほど…なるほど?』ってなったんだから…。
カルデアのクリスマスはな、基本考えたら負けなんだよ…。
「ただ…ヴァイカルタナがサンタクロースに選ばれた年に、かの邪竜の介入があったことは聞いている。神の名代として邪竜を撃退したこともな」
「そうですね。カルナさん頑張ってました」
「まあそこは奴を称賛するに値する。これからも神の名代として邪竜の相手に励むがいい」
「いやぁ…もう無理では?インドラ様、あの空の特異点以降ヴリトラに完全に目をつけられてますし」
「…チッ」
「…いつもお疲れ様です、ヴリトラハン」
「…ま、人間どもが神を讃える限りは神も力を奮うとしよう。気が進まんことこの上ないがな」
そんなこと言って…。
遥か昔からずっと人間たちを守ってくださってるじゃないですか…。
人間たちが、自分たちだけでヴリトラに立ち向かおうものなら、見て見ぬふりできなくて助けてくださるんでしょう?
「ちなみに、サンタカルナさんの格言(?)についてはもはや本人に聞く以外方法がないですね。聞いても理解できるとは言い切れませんが…」
「…それはいつものヴァイカルタナに聞いて答えが返ってくるものなのか?」
「いえ、多分クリスマスの時季にサンタカルナさんに聞くほうがいいかと」
「ややこしい…まあ、神の記憶に残っていれば聞いてやらんこともない」
律儀だなこの神様。
でも何も考えないほうがいいって、そのうち気づきそうだけどな…。
「まあよい。質問は終わりだ」
「「拘束解除!」」
「あっ…」
インドラ様の言葉を合図に、ヴァジュラたちが拘束を解いた。
そして姿を消すヴァジュラたち。
私もゆっくりと椅子から立ち上がった。
「サンタサーヴァントの疑問は、私に尋ねるよりクリスマスに本人たちに聞くことをおすすめします」
「というと?」
「だって私その度に拘束されて取り調べってことですよね!?嫌ですよそんなの!!」
「そう喚くな。もう奴らの事情は聞きはせん」
「…さてはクリスマスが魔境だって勘づきましたね」
「…何の話だ?それより…」
「…あ、今そちらに」
話逸らしたなこの神様…。
話は逸らされたけど、いつもの視線の動きで合図を察知したので、私はベッドに近づいてインドラ様の隣に座る。
そしていつものように体に腕が巻き付く。
「そろそろ拘束されるのも疲れてきたんですが…もう満足していただけましたか?」
「ああ。…今のところはな」
「いや、いい加減満足してくださいよ」
「神に命ずるな」
「えぇ…」
やっぱこの神様めんどくさい…。
〜おまけ〜
「おぉ、ここにおったか」
「え…何です?」
食堂にて。
カーマの前に現れたのはドゥリーヨダナ。
どかっとカーマの真向かいの椅子に腰を下ろす。
「同席を許した覚えはないんですけど」
「まあそう言うな。ほれ、わし様の奢りだ」
「奢り?」
カーマが首を傾げると…
「待たせたな、本日のスペシャルパフェだ」
特大パフェを持った赤い弓兵がすぐそばに現れた。
カーマの目の前に、パフェが置かれる。
「!(美味しそう…)」
「では私はこれで失礼する」
「うむ、御苦労」
ドゥリーヨダナの前に紅茶のカップを置き、赤い弓兵は去っていく。
これ…奢りって言いましたよね?
「それはお前さんにやる。だからわし様の悩みを聞いてほしいのだ、カーマ神よ」
「…まあパフェのお礼くらいなら?聞いてあげてもいいですけど」
さも面倒そうに言うカーマだが、スプーンとフォークを手に取るのが早いこと早いこと。
ドゥリーヨダナはニヤリと笑い、早速話を始める。
「ついこの前になるが…インドラに雷を落とされたせいで霊基が消滅した。そしてこの通り…再召喚を余儀なくされたのだ」
「ふーん。インドラにねぇ…(もぐもぐ)」
心底興味のないカーマ。
適当に相槌を打ちパフェを頬張る。
あぁ…美味しい…。
どうせならマスターさんと食べたかった。
「お前さんもインドラに痛い目に遭わされておるだろう?ここは被害に合った者同士、結託してインドラに一泡吹かせてやろうではないか」
「…一泡吹かせてどうしたいんです?」
「そんなもの決まっておろう!わし様とお前さんに恥をかかせた憂さ晴らしだ!そもそも生前に至ってはカルナの鎧を奪い、カルナがアルジュナに討たれるきっかけを作った神だ!英雄神ではあるが、卑怯な手でわし様のカルナを殺したことに変わりはぬぁい!英霊の器で現界している今ならば、インドラに一矢報いることもできるはずだ!」
興奮しながらまくし立てたドゥリーヨダナは、ひと息ついてから紅茶を啜る。
が、当のカーマは…
「どうでもいいです(もぐもぐ)」
まったく興味がない。
「どうでもいい!?お前さんは痛い目見たままで悔しくはないのか!?」
「別に?確かに気に入らないですけど、どうこうしたいわけでもありませんし…うっ、アイス冷た…」
パフェのアイスで頭が痛い…。
そもそも…。
私が気に入らないのは、マスターさんに手を出してその上自分のものだってしつこいくらいにマーキングしてることですから。
インドラに対しては、ちょっとした嫌がらせをするくらいでちょうどいいです。
だってリソースもったいないですから。
そんなことするくらいなら、マスターさんを私に堕落させるように力使ったほうがよっぽど有意義ですし♡
「そもそも貴方…インドラから雷落とされたって言いましたけど、何したんです?」
「ん?何って、大したことではないぞ?最近インドラからの寵愛で女らしさに目覚めたマスターを、このわし様が愛でてやろうと声をかけていただけだ」
「………は?」
「随分強情な女でなぁ…わし様が誘ってもまったく靡こうとせんのだ。それにこの前は、その場にインドラまで現れたものでな…その後雷を落とされたというわけだ」
「……へぇ」
ふーん。
そう…マスターさんを…ねぇ?
「理不尽なことこの上ないであろう?だからお前さんに相談を持ちかけたまでだ」
ええ…確かに理不尽ですね、貴方の運命は。
相談する相手すら間違えてしまうなんて…。
「そうですねぇ…貴方には同情します」
「本当か!?いやあ流石は愛の神カーマ!神の理不尽さをよく理解しておる!」
「ええ…本当に」
「ですので…愛の神としての慈悲です。無明の愛の中に落としてあげましょう」
「え?おいカーマ神…」
「はい、さようなら。手間でしょうけど、また再召喚されてくださいね」
まったく…。
私の前でマスターさんにちょっかいかけた話なんかするからですよ。
纏わりつく虫はその都度排除しないと…ね。
え?
何をしたのかって?
宇宙規模の愛の中にポイしてあげただけですよ?
「美味しかったぁ…ごちそうさまでした♡」
美味しいパフェは食べれたし、マスターさんに寄りつく虫は一匹排除できたし…今日はいいことあるかもしれませんね…。
この後無事再召喚されるも、事情を知り駆けつけたマスターに苦情をまくし立て、それをそばにいたインドラに見られて再度雷を落とされそうになるドゥリーヨダナなのであった。
END