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刹那に走る証

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

刹那に走る証

「おかえりなさ…って、どうされたのですか!?」

「あ“ぁ…マシュ…ただいまぁ…」

レイシフトから帰った私を、マシュが出迎えてくれたのだが…。

「簡易的なメディカルチェックをしますね!…おや先輩?これは…」

「う“ぅ…グスッ…あ“ぁ〜目がぁ…」

「ほらほら掻いちゃダメだって。ああえっとマシュちゃん、マスターちゃんはねぇ…」

レイシフトから帰って来たはじめちゃんがマシュに説明してくれる。

「レイシフト先の大量の杉の木のせいで、花粉症の症状が出ちゃったんだよ」

「花粉症…ですか?」

「あ“ぁ〜鼻がグズグズする〜!目も痒い〜!」

「我慢我慢…医務室で対応してもらおうか」

そう。

私がこんなにも真っ赤な目をして鼻をグスグス言わせているのは、花粉症のせい。

レイシフト先は日本。そして杉の木がたくさん生えた森林地帯だった。

そこまでならまだしも、いかにも花粉日和とでも言いたげな程に風が吹いていた。

元々花粉症持ちだった私は見事に花粉の影響が出てしまった…というわけだ。

微小特異点は無事解決できたけど、レイシフトしたダンテに『今すぐ地獄の門を開いてこの杉の木どもを焼き尽くしてほしい』と過激発言までして、はじめちゃんに咎められたほどだった。

最も『私の宝具、確かに炎吹き出すけど燃やすことが本質じゃないから』って困惑したダンテからマジレスされたんだけどね。

くそぅ…恨めしや杉の木…。

「とりあえず医神の先生に診てもらったほうがいいだろうから、マスターちゃんは医務室に行こうか」

「なら、報告は私がしておこう」

「ふえっくしゅ!う“ぅ〜…」

「先輩お大事に…」

マシュに心配されながら、はじめちゃんに連れられ医務室に向かう。

微小特異点の報告は、名乗り出てくれたダンテに任せることにした。

「あ“ぁ〜も“〜!な“ん“でこ“の“礼装、花粉の“対策して“な“い“の〜“!?」

「うんうん、何でだろうねぇ…」

サーヴァントは影響なくて羨ましい…。

〜医務室〜

「失礼しますよっと」

「どうした」

「マスターちゃん、レイシフト先の杉花粉にやられちゃったみたい。とりあえず診察してもらえたら助かるんだけど」

「はぁ…そこに座れマスター」

「はぁい“…ふあ…っくしゅん!」

「じゃああとは大丈夫かな?」

「う“ん“…あ“りがと“ね“はじめ“ちゃん…」

「お大事にね、マスターちゃん」

そう言うと、はじめちゃんは医務室を出ていく。

「さて?鼻汁に目の痒み…あとは?」

「な“い“…」

「顔をこちらに向けろ、目を見るぞ」

そう言うと私の両下瞼を下げる先生。

「!」

「…?」

と、ピオ先生が何かに気づいたように目を一瞬見開いた。

「………チッ」

はいはい、どうせ花粉症なんでしょ?

面白味がないとか思ったんでしょ?

だからって舌打ちやめて?

「はぁ…相変わらず面白味のない症状…典型的な杉花粉による花粉症だな」

ほらやっぱり。

私は婦長さんから差し出されたティッシュをもらって鼻をかむ。

あぁ…頭もぼーっとしてきた…。

目も痒い…。

「目を擦らない!」

「…はい」

目を擦ろうと目元に手をやった瞬間、婦長さんからの注意が入る。

わかってはいるんだけど…。

「とりあえずアレルギーの薬は処方してやる。あとは点眼液もな」

「…目玉を取り出して洗いたい」

「義眼じゃあるまいし、たかが花粉症ごときでそんなことができてたまるか。仮にできたとして、お前に眼球を元通りに嵌められる技術があるとは思えんがな」

「いちいち失礼だなこの医者…」

「事実だ愚患者が」

「う“ぅ…また目が痒くなってきた」

「そら、処方薬だ。5日後に必ず来い」

「はぁい…」

「お大事に」

薬を受け取り、医務室を出る。

そういえば先生…さっき私の目を見たとき何か様子がおかしかったけど、どうしたんだろう?

テンション上がってなかったし、特別珍しい症状ってわけでもなさそう。

まあ先生は何かあればちゃんと言ってくれるだろうから、いいか。

さて、早いところ薬を飲もう。

あ、でも薬は軽く何か食べてからにしたほうがいいからまず部屋に行って目薬だけでも…。

足早にマイルームへと急ぐ。

プシューッ

「「わっ!?」」

「わっ!ヴァジュラ?」

「あ!帰って来た!」

自動ドアから飛び出してきたのはヴァジュラたち。

危ない…ぶつかるところだった。

「今捜しに行こうとしたところです」

「ってことは…」

空いた自動ドアから顔を覗かせると…

「ん?帰って来たか」

私のベッドでくつろぐインドラ様の姿が。

「はい…ただいま戻りました」

ヴァジュラたちと一緒に、部屋に入る。

「おい、その手に持っているのは何だ?」

と、私が持つ処方薬に気づいたインドラ様。

「医務室からもらってきた薬です」

「…薬?」

薬と聞いて少し険しい表情になるインドラ様。

「どこか怪我でもしたのか?」

「いえ怪我では、な……は…っくしゅ!す、すみません失礼しました!」

答えようとしてくしゃみが出てしまった。

何とか袖で口元は覆った。

「何かの病か?」

さらに表情が険しくなるインドラ様。

「いえ、ただの花粉症です」

「…花粉症?」

まあ知らなくてもおかしくはないよな。

私は花粉症という疾病についての説明、レイシフトで大量に花粉が舞う場所に行ったせいで症状が出たこと、医務室で薬を処方してもらったことをインドラ様に話した。

一通り説明を聞くと、ため息をつくインドラ様。

「人間とは不便なものだな。花に囲まれるだけで命の危険があるとは」

確かに花粉症は、重篤化すると呼吸困難にもなるから命の危険ともいえる。

インドラ様の言葉も大げさではない。

「先生に診てもらいましたし、飲み薬や点眼液はもらってきたので大丈夫です」

「…大事ないのなら、よい」

処方薬の袋の中から目薬を取り出す。

ティッシュを片手に、目薬を垂らす。

冷た…。

瞬きをして、垂れた目薬をティッシュで拭う。

目薬の微かな清涼感で痒みが…

治まるわけないか。

ん?

「「じーっ」」

ヴァジュラたちにじーっと見つめられる。

「…どうかした?」

恐る恐る尋ねてみる。

「やっぱり」

「うん、間違いない」

「え?」

「まあ昨夜を考えると当然ですね」

「よかったなマスター?キシシッ」

「いや…だから何が?」

二体だけで会話して勝手に納得してないでこちらにも説明してほしいんですが…。

「何をこそこそと話している」

「インドラさま!見て見てー!」

「えっ…ちょっ…!?」

インドラ様から声がかかると、ヴァジュラたちが二体がかりで私の体を持ち上げインドラ様のもとへと運ぶ。

ドサッとベッドの上に雑に投げられ、インドラ様のそばに落ちる。

「何事だ?」

「ほらほら顔上げろ?」

「インドラさまをまっすぐ見るのです」

「痛い痛い!顔押さえないで!」

体を起こした私の顔をヴァジュラたちが押さえる。

ちょうどインドラ様にまっすぐ顔が向くように固定されるのだが、痛い。

「ほら!この目見てインドラさま!」

「目?」

ヴァジュラに促され私の目を覗き込むインドラ様。

目?

花粉のせいで痒くて、赤くなってるとは思うけど?

「!」

と、インドラ様が何かに気づいた様子。

そういえば医務室でピオ先生も私の目を見て何かに気づいてたな…。

ピオ先生もヴァジュラもインドラ様も神性持ちだから何かに気づいたとか?

「ほう…」

ん?

インドラ様が…にんまりと笑みを浮かべている。

どうしたんだ?

「ねー?インドラさまにも見えたでしょ?」

「ああ」

「時折見える程度ですが、間違いないでしょう」

「あの…さっきから何の話?」

もはや完全に内輪の話になりつつあるので、何とか聞き出す私。

「取ってきてやれ」

「はーい!」

インドラ様が何かを命令し、少女体のヴァジュラが私のデスクへ向かう。

「ほら」

ヴァジュラが持ってきたのは鏡。

え?見ろってこと?

「自分の目を注視してください」

「目?」

今度は少年体のヴァジュラが鏡越しに私に指示をしてきた。

言われた通り、鏡の中の自分の目を見つめる。

花粉のせいで、赤くなってしょぼしょぼした目。

顔を少しだけ鏡に近づけた、そのとき…。

チカッ

「え?」

あれ?今…。

今、私の左目に…何か…。

私はもうしばらく鏡を見つめる。

チカッ

「あっ…」

まただ。

また私の左目…。

「お前にも見えたようだな」

インドラ様から声がかかる。

私の左目、正確には左目の瞳に…

一筋の…小さな雷が走った。

「えっ?これ…どういう…」

意味がわからない。

私の体…何が起きてるの?

若干混乱しつつある私を見かねてか、インドラ様が口を開いた。

「神の雷だ」

「インドラ様の…雷?」

「神の魔力…と言ったほうがよいか?」

「魔力…」

インドラ様の…魔力?

それが…私の目に?

いやちょっと待て。

『まあ昨夜を考えると当然ですね』

さっきのヴァジュラの言葉が頭をよぎる。

昨夜…まさか…

「〜〜〜っ!?」

顔が火を吹いたように熱くなる。

手に持った鏡も布団に落としてしまう。

「やっと気づいたか」

にんまりと笑みを浮かべ、からかうように声をかけてきたインドラ様。

インドラ様の魔力ってことは…つまり…

昨夜…

魔力供給…した…から……。

あ“あ“あ“あ“あ“…!!

思わずそばにあった布団を掴み、頭から被る。

穴があったら入りたい…。

つまり医務室でピオ先生が気づいたのはこれだったってことですよね!?

そりゃ先生も舌打ちするよ…。

あれ、でも魔力とはいえ雷が目の中に走ってるって大丈夫なのかな?

…

…

先生が何も言わなかったってことは大丈夫なんだろうな。

どうせ時間経過でなくなる系だよ、きっと。

知らんけど。

「いつまで潜っている」

ああああ…やめてください…。

布団を引っ張らないでくださいお願いですから。

「何をそこまで照れる必要がある?神が触れた証がお前の目に現れただけであろう」

「それは言わないでください!!こんなわかりやすいとすぐバレますから!!」

「何か問題でもあるのか?」

「みんなに冷やかされるんですよ!!」

「事実であろう。言わせておけ」

「気にしないほど私は強くないです!!」

今気づいたけど…。

レイシフトしたメンバーが気づいた様子がなさそうだったのって、もしかして私に花粉症の症状が出たからじゃない?

ずっと目が痒くてしょぼしょぼしてたから…。

至近距離で目を見たピオ先生や、自分の雷を感じ取ったインドラ様やヴァジュラしか気づかなかったのかも。

今日の私、花粉症に救われてた?

今日だけは礼を言う。

ありがとう花粉症…。

あ…花粉症といえば…。

薬、まだ飲んでなかった。

忘れないうちに飲まないと、先生に怒られる。

『この件』を知られた先生相手にやらかすのは何かすっごい気まずい。

そろそろと布団から出る。

「おい、どこへ行く」

離れようとした私を引き寄せるインドラ様。

「…花粉症の薬、飲み忘れてたので軽く何か食べて来ます」

もはや照れ以外にもいろんな感情がごっちゃになってしまった私は、力が抜けたように言葉を紡ぐ。

「…すぐ戻れ」

薬と聞いたためか、すんなり私を離してくれたインドラ様。

解放された私は薬を手に、ふらふらと食堂へ向かうのであった。

〜おまけ〜

「おや?マスター」

「あ、おはようアルジュナ…」

「おはようございます」

廊下でマスターと出会うアルジュナ。

「こんな時間からどうされました?」

普段マスターを見かける時間より、早い時間帯。

アルジュナにとってはいつも通りだが、こんな時間からマスターと会うのは珍しい。

「…医務室に」

「医務室?どこか体調が優れないのですか?」

「…こないだ、ね。今日はもう大丈夫だけど経過観察のために来いって言われたんだ」

そういえば数日前のレイシフト…。

アルジュナにはそれらしい心当たりがあった。

「花粉症を患った件でしょうか?」

「!!…アルジュナも知ってたんだ…」

どこか気まずそうにするマスター。

「はい、微小特異点の報告を受けた際に小耳に挟んだもので。私も縁がなかったので初耳でしたが、大変な思いをされたようですね」

「まあ…ね…」

バツが悪そうな、歯切れの悪いマスターの声。

「おっと、申し訳ありません。医務室へ行く途中に話しかけてしまいましたね」

「いや、気にしないで。じゃあね」

「はい、どうかお大事に」

ぎこちなく笑みを浮かべ、アルジュナの横をマスターが通り過ぎようとした。

そのとき…。

「!?」

ガシッ

「…アルジュナ?」

思わずマスターの腕を掴むアルジュナ。

今…確かに…。

「…どうしたの?」

「マスター、医務室へ急ぎましょう」

「えっ?どうしたの?」

戸惑いを隠せないマスターに、アルジュナは今自分が感じ取ったものを伝える。

「今…マスターの目に魔力残滓の反応がありました」

「…え…」

通り過ぎようとしたマスターの左目に、魔力と思わしきものが一瞬光って見えたのだ。

「レイシフトの際に何らかの影響を受けたのやもしれません。急いで診てもらいましょう」

「えっ!?ちょっ…ちょっと待って…!!」

「どうしました?」

何故だろうか?

どこか気まずそうに言い淀むマスター。

「先生からは何も言われなかったし…」

「遅効性ということもあり得ます。時間が経ってから表面化するものもありますから」

「そう…だけど…」

抵抗を見せるマスターだが、筋力Aのアルジュナに引き摺られてあっという間に医務室の前。

「失礼しますアスクレピオス」

「お前か。ん?マスターも一緒か」

「あ、先生。花粉症の経過観察」

マスターが若干食い気味で言う。

「ああ、そうだったな。あれから症状は?」

「もうほとんどないよ」

「なら追加の処方はいらんな?」

「うん、大丈夫」

「そうか、ならいい」

「アスクレピオス」

経過観察が終わったタイミングで、アルジュナが割って入る。

「ア、アルジュナ…あの…」

「何だ?お前もどこか悪いのか?」

「いえ、マスターなのですが」

「アルジュナ…あの…本当に私は…」

「何だ?こいつが何か症状を隠しているのか?」

マスターをジト目で睨むアスクレピオス。

ふるふる、と首を振るマスター。

「私がつい先程気づいたので、隠していたわけではないと思われますが」

「ほう?何だ?」

新たな症例か?と目を輝かせるアスクレピオス。

「はい。マスターの左目に、魔力残滓と思われるものが見えました」

「ーーー」

「〜〜〜!!」

アルジュナの言葉に、思わず言葉を失うアスクレピオス。

気まずさから必死に顔を逸らすマスター。

一方のアルジュナは真剣そのものだ。

こいつ…本気で言っているのか?

いや、本気だなこの目は。

はぁ…とため息をつくアスクレピオス。

とりあえずマスターは解放してやろう。

「マスター」

「はい!?」

「お前は戻っていいぞ」

「!」

「なっ!?どうしてです!?」

アスクレピオスの言葉に心底ほっとした表情を浮かべるマスター。

一方で納得がいかないアルジュナ。

「僕はこいつと話をする。だからお前は戻れ」

「私と?」

「あ…ありがとう先生」

「大したことはない。…お大事に」

アスクレピオスに礼を言い、逃げるように医務室を出るマスター。

そして残されたアルジュナ。

「アスクレピオス…何故マスターを帰したのです?本当に問題がないのですか?」

未だに気づいていないアルジュナに、アスクレピオスはまたため息をつく。

まあ医者がこれ以上はぐらかすのは、不信感を抱かせてもおかしくない。

仕方ない…。

「お前はまず、大きな見落としをしている」

「見落とし…ですか?」

「それを知れば、お前は後悔するかもしれない。それでも知りたいか?」

「!…もちろんです」

毅然とした態度のアルジュナ。

そのアルジュナの目を見て、アスクレピオスは『アルジュナが見落としている事実』を突きつける。

「お前は…」

「はい」

「自分の父親の魔力を嗅ぎ分けられないのか?」

「え…」

固まるアルジュナ。

3秒…5秒……10秒…。

ピシッ

ピシピシッ

ん?何かが割れる音?

まあ僕には関係ないか…。

パリィン

「…ッ!?」

ようやく我に返ったアルジュナ。

胃の辺りを押さえている。

さて、目の前には痛みに苦しむ患者。

ならば医者の僕がすることは…。

「薬の処方と愚痴なら受け付けるが?」

「………お願いします」

患者を診る。ただそれだけだ。

END