LNCrawler

静かな雨の如く

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

静かな雨の如く

あれ?

おかしい…さっきベッドに入ったはずなのに。

また…誰かの夢だろうか?

ここは…空?

今にも嵐がきそうな暗い空。

そしてさらに暗く分厚い雲。

体の自由も利かないことに気づいた矢先、上から何やら喚くような声が聞こえてくる。

『何なの……何なのこの子は!?』

女性の声?

と、その直後…私がいる空間すべてが振動するかのような轟音が響いてきた。

この音は…よく知っている。

ピシャアアァァン

雷鳴。

そして空一面に広がる眩しい雷光。

『あ、…あぁ……何て…何て恐ろしい力……こんな……こんなの他の神々に知られでもしたら、私までっ…私にまで嫉妬が向いてしまう…!!』

神々?嫉妬?

『無理よ…!!こんな恐ろしい子をそばに置くなんて無理!!私は何も知らない!!』

女性の怯えるような声。

恐ろしい子?

(………母よ…)

え?今の声…。

(我が…母よ………何故………)

この声は間違いない…。

インドラ様だ…。

『この邪神が…ッ!!!!』

突然先程の雷鳴のような、天地を裂くような怒鳴り声が響き渡る。

男性の声?

『貴様のような破壊の化身は邪神に違いない!!今ここで殺し消し去ってやる!!貴様はもう…息子ではない!!』

息子では…ない?

しかも殺す…消し去るって…。

(……父よ)

また…インドラ様の声がする。

(我が父よ……何故そこまで…神を……)

母に父…。

にわかには信じられないけど…。

これは…インドラ様の過去の記憶?

「…ッ!?」

気がつくと、薄暗い部屋に見慣れた天井。

やはり夢だったようだ。

インドラ様が…母親に捨てられたときと、父親と大喧嘩したときの記憶。

ゆっくりと上体を起こし、先程見た夢を思い出す。

インドラ様の生い立ちは、以前インド神話に関する資料を読んで知っていた。

母親からその強大な力を恐れられ、生まれてすぐに捨てられたこと…。

ただ、その強大な力で他の神々からの嫉妬が向くのを恐れた母親により、守る意図で隠し手放したとされる説もあるらしい。

でももし守るためだったとしたら、何故インドラ様は父親を手にかけた後孤独な旅に出たのか?

母親として気にかけていたのなら、何らかの手助けをしてもいいのでは?

父親を手にかけたのも、大喧嘩の末に殺してしまったと記されていたけど、生まれたときからすでに父親から敵意を向けられていたらしい。

それは強大な力を持つ息子に、天空神の地位が脅かされるとでも考えたのだろうか?

といっても、これはあくまで私が資料を読んで立てた仮説だし、さっき私が見た夢も私が無意識に作り出したものなのかもしれない。

真相を知るのはきっとインドラ様だけだ。

「…ッ」

目にじわりと熱いものが滲む。

でも…だからってこんなのあんまりでは?

ただ力を持って生まれたというだけで、実の子どもにここまでの仕打ちをするものなのか。

どの説が正しくてもインドラ様は、両親から一切の愛情をもらってないことに変わりない…。

『恐ろしい子』

『邪神』

違う。インドラ様はそんな神様じゃない。

人間たちを魔から守り、恵みの雨を与え続ける。

まさしく善神と言っていい。

アルジュナに対しても、不器用ながらに神としても父親としても向き合おうとしている。

そんな神様が…何でこんな…。

「…起きていたのか」

「!」

隣で身じろぎをする音。

寝起きのせいか、少し掠れた声。

隣にいたインドラ様を起こしてしまったようだ。

インドラ様の方に振り向いた瞬間、目に溜まっていた涙がはらりと頬に流れてしまった。

それを見て僅かに目を見開くインドラ様。

「…悪夢でも見たか?」

そう言いながら体を起こし、私の体をそっと抱き寄せる。

ふわりと温もりに包まれる。

私はというと…

もう限界だった…。

「ッ…!!」

「おい、どうしt……!?」

私は涙を流したまま膝立ちになり、目の前にいるインドラ様の頭を抱き寄せた。

ちょうど私の胸元にある頭を、震える手でそっと撫でる。

「、…」

突然のことに固まってしまったインドラ様。

でも私は先程から流れ続ける涙を止めることができない。

声を殺しながら泣き続ける。

それでも頭を撫でる手は止めなかった。

この神様からしたら余計なお世話だろう。

インドラ様は強いお方だから、きっと過去は過去と割り切っているんだと思ってる。

たったひとりの人間からの同情や憐れみなんて、下手したら侮辱に値してしまうかもしれない。

でも私は、孤独を乗り越えて人々に信仰される神となったこの方に改めて伝えたいと思った。

貴方は愛される神なんだと。

「…どういう風の吹き回しだ?」

「…っ……あ、なたはッ………ッ」

「…落ち着いてからでよい」

そっと背中に手が当てられ、擦られる。

この状況でも泣いている私をどうにかしようとしてくれるインドラ様に、また涙がはらはらと流れてくる。

相変わらず涙は止まらないが、少しだけ息を落ち着かせる。

そして頭を撫でる手を一旦止め、声を絞り出す。

「……貴方は…ッ…邪神なんかじゃ、ありません…」

「…急にどうした」

「…みんな、に……愛される、神様ですから…ッ」

「当然であろう?今更何を………!?」

インドラ様が突然言葉を止めた。

「お前…」

「…ッ………っ…」

「…神の過去の記憶を見たのか?」

「…グスッ……っ…はい…」

「…何を見た?言える範囲で言ってみろ」

私は息を詰まらせながら、夢で見てきた光景をゆっくりと話した。

「…なるほど。英霊の器で現界した弊害か。契約者が夢で過去を見る現象は神とて例外ではなかったというわけか」

「…ッ…」

「だが…」

「?」

ポツリ…と呟いたインドラ様が私の背中を擦る。

「何故それでお前が泣く」

「…!…っ……うっ…ッ……」

「親を知らぬ神なぞ…古き神としてはそう珍しいものではないぞ?」

「グスッ…ぅ…っ……」

「それに…手が止まっているぞ」

「…!」

その言葉を聞いて、私は頭に添えたままだった手を再び動かす。

サラサラとした明るい色の髪をゆっくりと撫でる。

どうやらお気に召したらしい。

「どうせ泣くのならば、童のように声を上げて泣けばよいものを。何故そうも…静かに降り注ぐ雨のように泣くのだ…お前は」

若干呆れたような、それでも宥めるような優しい声が私の胸の中から響く。

「この分では…まだ降り止みそうにないな」

〜おまけ〜

「おや、あれは…」

廊下を歩いていたラーマは、正面から見知った人物…いや、神が歩いてくることに気づいた。

「ラーマか」

「インドラ神。珍しく出歩いているのだな」

「神がどこへ行こうが神の自由であろう」

「まあそう言うな。部屋で杯を傾けていることが多かった神が、ここ最近あちこちで見かけるものだから、余としては心境の変化でもあったのかと思っただけのことだ」

「…妙な含みを感じるな。何が言いたい」

やはりそう誤魔化されてはくれない、か…。

最近アルジュナやカルナから聞いた話がどうも気になってはいるのだが、ここは正直に聞いたほうがいいだろうか。

何故『マスターと恋仲になった』のか。

下手に恋路に口出しをしたくはないのだが、この神は昔から散々『やらかし』をしている。

さすがのラーマもマスターが心配になる。

「…では聞くがインドラ神」

「何だ」

「何故マスターなのだ?」

「…何がだ?」

「確かにマスターは魅力のある人物だ。だがそれ故にマスターに懸想を抱く英霊たちも多い。マスターが誰かのものになったと知れば、報復として刃を向けることもあるだろう。それが分からぬインドラ神ではあるまい」

「ほう…神がそのような賭けに出たことが余程信じられんか?」

「それもそうだが…マスターは今を生きる人間だ。この先彼女の人生はまだ続く。もし火遊びのつもりであれば、悪戯に彼女を傷つけることだけは、いくら余とて容認しがたい。インドラ神は…マスターをどうしたいのだ?」

インドラの機嫌を損ねても仕方ない発言ではあるのだが、これは確かめておく必要はあるだろう。

神に見初められ寵愛を受けた人間に、必ずしも幸せが待っているとは限らないのだから。

何より、ここ最近胃痛が悪化しているアルジュナの負担を、少しでも減らしてやりたいのもある…。

「どうしたい…ときたか」

「うむ」

「そんなもの…」

「あ、インドラ様…に、ラーマ?」

「!」

「!?…マスターか」

噂をすればというやつだが、何故今なのだ…。

たった今話題にしていたマスターが近づいてくる。

今の話…聞かれていなかっただろうか?

「何か用か?」

「!」

おや?

「あ、ビーマが新しくお酒のおつまみを作ったみたいです。インドラ様に声をかけてほしい、と」

「そうか、ならば行くとするか。お前も来い」

「え、私もですか?」

「何を驚く?神の酒宴に同席する許可はすでに出したであろう」

「わ、わかりました」

「お前はどうする」

「い、いや…余はこの後約束があるのでな。せっかくの誘いだが失礼する」

「まあよい…行くぞ」

「あ、はい」

そう言いながら歩き出すインドラ。

その後を追うマスター。

しばし呆然と立ち尽くして眺めるラーマ。

今、確かに…。

マスターの姿を確認したインドラの…

目が。

表情が。

声が。

明らかに柔らかいものに変わった…。

あれは、もともと人間好きな神が人間へ向ける慈しみなのか、それとも…。

『いやどう見ても惚れてるでしょ、あれは』

ラーマの中のイマジナリーヴィシュヌが囁く。

だが惚れているとしたら…それはそれで厄介ではないか?

神からの本気の寵愛など、ひとりの人間に受け止めきれるものではない。

「はぁ…やはり懸念はしておくべきか」

アルジュナよ…残念な知らせだ。

汝の父は殊の外本気らしいぞ…。

END