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『貴方』へ

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

『貴方』へ

※注意事項※

インドラ様のバレンタインストーリーの内容が含まれます。

まだ読んでいない方にはネタバレになってしまいますので、ご注意ください。

〜インドラ様からのお返しのものについて〜

今後の掘り下げはないであろうと勝手に考えているため、作中での設定がかなり自由な妄想が広がっております。

完全に何でも許せる方向けです。

OKな方のみお進みください。

「…ふぅ」

夜、食堂の厨房にて…。

私はチョコ作りに勤しんでいた。

日付はすでにバレンタインを数日過ぎている。

なのに何故今更チョコを作っているのか…。

まだ渡していなかった相手がいたのを思い出したからだ。

基本、チョコを渡す英霊たちはしっかり確認して作るようにしている。

だが今回は…イレギュラーと言うべきか。

バレンタインが過ぎたから渡さないというのも、気づいてしまった以上私の気が済まない。

その相手には渡すものがあるので、チョコはそのついでという体にするつもりだ。

少し小さめの箱にして、バレンタインのときに作ったものとは別のものを作っている。

と言っても、手抜きはしない。

レシピを確認して形も綺麗に整えて…。

「できた…」

完成したのは一口サイズの生チョコ。

小さな楊枝もつけて、蓋を閉じて簡単に包む。

あとは渡しに行くだけだ…。

片付けを手早く終わらせ、厨房を後にする。

プシューッ

部屋に戻ってきた私。

もともと渡す予定だったものをチョコと一緒にしっかりと抱えてサイドテーブルに近づき…

テーブルの上に置いてあるスカイドームに手を伸ばした…。

…

…

「!」

目を開けると、目の前には星空…。

雲の足場のおかげか、私はその空に落ちることなく浮かんでいる。

澄んだ空気が肌寒いが、その分星たちがより一層綺麗に見える。

「珍しいこともあるものだ」

星空に見惚れていると、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。

声のする方向を向くと…。

「夜の帳は下りた…。にも関わらず、まるで人目を避ける逢瀬の如く神々の王の拝謁を望むとは、なんとも粋な女だ。見たところ、神への捧げ物は忘れずに持って来たようだな」

「寛大な応対です。感謝するように」

「そーそー!光栄に思えよー?キシシッ」

「インドラ様…ヴァジュラ…」

そこにはアイラーヴァタに座り、こちらを見下ろすインドラ様とそばに控えるヴァジュラたち。

そう。

チョコを渡していなかった相手というのは、この空に存在するインドラ様のことだ。

インドラ様にはバレンタインチョコは渡した。

何ならヴァジュラたちの分も渡した。

だがそれは『カルデアにいるインドラ様とヴァジュラたち』だ。

『この空に存在するインドラ様とヴァジュラたち』とは、別存在になる。

「それで?お前は何を持って来た?」

インドラ様が私が持っているものに目を向ける。

受け取るためなのか、少女体のヴァジュラが私に近づいてきた。

私はヴァジュラに、持って来たお酒とチョコを差し出す。

「お!これはお酒だねー!くんくん…こっちからは何だか甘い香りがする?」

「…それはインドラ様と、ヴァジュラたちへのチョコだよ」

「チョコ…だと?」

私の説明を聞き、インドラ様が反応する。

「お前からのチョコならば、すでに受け取ったはずだが?」

「はい。ぼくたちもいただきました」

「あれ?でもあの時もらったチョコと違うかも?」

中身を見たヴァジュラが、インドラ様ともう一体のヴァジュラにも中身を見せている。

私はひとつ深呼吸をして、伝える。

「『カルデアにいらっしゃるインドラ様とヴァジュラたち』には、チョコを贈りました。なら『この空にいらっしゃるインドラ様とヴァジュラたち』にもチョコを贈るべきだと思ったからです」

「、…」

「…」

「…」

インドラ様とヴァジュラたちは、呆気にとられた表情で私を見つめている。

「私の拙い妄想と捉えていただきたいのですが…」

私は続ける。

「今私の目の前にいらっしゃるインドラ様は、カルデアにいらっしゃるインドラ様へ贈ったチョコのことはご存じなのだと考えています」

「…」

「なので、違うチョコを作りました。私はできる限りチョコをあげる相手には、違うものを作るようにしています。同じ神様でも別存在にあたる、というのなら違うものをお渡ししたほうがよいと…勝手ながらそう考えました」

「…」

「そのお酒も、以前インドラ様が私のチョコを召し上がった際のものとは違うものを用意しました。そのときのお酒のこともご存じかと思ったからです」

以前インドラ様が私のチョコを食べながら飲んでいたのはコニャック。

もともとは私と晩酌するためにインドラ様が選んできたものだった。

だから今回私が持って来たのは違う酒。

あくまでも私の勝手な考えを膨らませた上で用意してきたので、これが一体どう転ぶのか…。

違っていたら恥ずかしい。

いや、恥ずかしいだけならまだいい。

機嫌を損ねたら…最悪だ。

「………フッ」

と、ずっと黙って私の話を聞いていたインドラ様が含み笑いを溢す。

笑った…からといって安心はできない。

私は目の前のインドラ様から目を離さないまま、インドラ様からの言葉を待った。

「真相はさておき…この神々の王への捧げ物を用意するために、お前なりに随分と奔走したようだな。その努力は認めてやらんでもない」

「インドラさまからのお褒めの言葉です」

「感謝しろよー?キシシッ」

インドラ様とヴァジュラたちの言葉に、思わずどっと安堵の息が漏れた。

「ありがとう…ございます」

足場の雲の上で膝をつき、頭を下げる。

ああ…よかった…。

受け取ってはもらえた…。

正直私の考えが正解なのか間違っているのか…この際どうでもいい。

カルデアにいるインドラ様も、今ここにいるインドラ様も『インドラ様』に変わりないから…。

「今この場で感想を聞かせてやってもよい。だがどうやら…お前はもう元の場所へ戻ったほうが身のためのようだぞ?」

「え?」

「ここへ出向く際、書き置きでも残しておくべきだったな」

「…まさか…」

書き置きと聞いて私の顔から血の気が引く。

やっべえ…何も知らせてないわ…。

やれやれと言いたげな表情でインドラ様は続ける。

「お前も骨身に染みて実感しておろう?神を待たせるのは愚鈍な判断であると」

「は…はい!ではインドラ様!お言葉に甘えて失礼します!」

慌ててインドラ様へ挨拶し、自分の部屋に戻るようにと念じた。

…

…

気づくと、部屋に戻ってきていた。

そしてそこには…。

「どーしよインドラさま!基地中くまなく捜したのにマスターどこにもいないよー!」

「もしや何か事件に巻き込まれたのでは!?」

「落ち着けお前たち。ならば、………!?」

「「…あーっ!?」」

慌てふためくヴァジュラたち。

険しい表情のインドラ様。

そして私に気づくと…

痛いほどに突き刺さるインドラ様とヴァジュラたちからの視線…。

「マスター!?今まで一体どこに!?」

「めちゃくちゃ捜し回ったんだぞー!?」

ヴァジュラたちが物凄い速さで私の元へすっ飛んできて詰め寄る。

そしてヴァジュラたちの背後には…

「…どこへ行っていた」

それはそれは怖い顔で見下ろすインドラ様…。

「せ…説明します」

…

「なあんだ。その空の中にいたのかぁー」

「道理でいないわけです」

「お騒がせしました」

納得するヴァジュラたち。

そしてインドラ様はというと…。

「…書き置きくらい残してから行け」

「向こうのインドラ様からも、同じことを言われました」

やっぱり同一人物…いや、神様。

見事にまったく同じことを言われた。

カルデアのインドラ様たちが、私がどこにもいなくて慌ててるのに気づいて教えてくれたんだな…。

大変お騒がせしました…。

「なるほど。お前が厨房で何かしていたのを見たと言った者がいたようだが…まさか空にいる神へチョコを捧げに行っていたとはな」

「別存在と言われたもので、お渡ししたほうがいいと思いまして」

「あちらの神も、流石に予想はしていなかったであろうな。ま、神への敬意に変わりはないからな…許す。だが次回からは神に知らせてから行け」

「はい…気をつけます」

インドラ様に向かって、再度頭を下げる。

「そういえば…さっき捜し回ってたとき厨房で見たって言ってたやつもいたけど、シミュレーターで見たって言ってたやつもいたなー。何してたのさ?」

「ああ…チョコと一緒にお酒も贈ったから、それを買いに行ってたときかな?」

「なるほど。お酒とチョコをセットで贈り物にしたのですね」

「…酒を、だと?」

インドラ様が何かに反応する。

「インドラ様?」

「神へのチョコには、酒がなかったが?」

「えっ?」

「あちらの神には酒を贈ったというのに、この神への酒はないと言うのか?」

「えっ!?」

あ、何かインドラ様から不穏な気配が…。

「あ、あちらのインドラ様へお酒を贈ったのは、この前インドラ様と晩酌したときの分です!実際にお酒を飲まれたわけではないので念のために!」

「その酒…まさか神が晩酌で飲んだものと違う酒ではあるまいな?」

「………いえ、違うものを用意しました…」

「…念のために聞いておく。あちらの神に贈ったチョコは神に贈ったものと同じものか?」

「………ッ」

「その反応を見るに…わざわざ違うものを作って贈ったようだな?」

「…はい」

インドラ様からの尋問に、下を向いたまま力なく答える私…。

あ、ヤバいこれ…雷落ちるかも…。

インドラ様の様子をこっそり窺う。

「……落ち着け、落ち着けインドラ…。供物を捧げた相手は神だ…他の神ならば即実力行使だがあくまでも『インドラ』だ…神を飽きさせん配慮をした結果だ…決して不敬な真似は…」

な、何かめっちゃ眉間に皺寄せながら目を閉じて呪文みたいに独り言呟いてる!!

しかも文言から読み解くにめっちゃ頭冷やして怒りを抑えようとしてくれてる!!

それに怒りそうになってる理由…

あちらの神がこちらの神がって言ってるせいで、基本召喚されない神霊のはずなのにめっちゃサーヴァントあるあるみたいなこと言ってる!!

「あーあ…ややこしいやつだこれ」

「自分ではない自分とは、複雑なものですね」

ヴァジュラたちが同情の眼差しで眺めている。

空の中のインドラ様へ気遣いをしたはずが、こちらのインドラ様を嫉妬させる事態になろうとは…。

これは…行動で示すしかないか。

「あの、インドラ様」

「!」

私の呼びかけに瞑っていた目を開けて、こちらを見下ろすインドラ様。

「私…今からシミュレーター動かしてお酒買ってきます!で、その後あちらのインドラ様に作ったのと同じチョコ作ってきます!」

それだけ言うと、私は部屋を飛び出してシミュレーター室へと向かう。

「……いや、おい待て人間…!」

しばらくフリーズしていたインドラは、我に返るとマスターを追うために部屋を飛び出す。

そして部屋に残されたヴァジュラたち…。

「どーする?」

「呼び出しを受けたらでいいと思います」

「キシシッ…だよねー。多分仲良く買い物してチョコ作って終わるだけだろうしね」

「まったくです。インドラさまも素直にマスターに言えばよかったのに」

「マスターも『ここにいるインドラさま』を一番に考えときゃよかったのにねー」

そう言うと、サイドテーブルに置いてあるスカイドームに目をやるヴァジュラたち。

「あれ、しばらく使用禁止になるかもね」

「ご自分に嫉妬するとは、インドラさまも随分ヤキが回っておられるご様子」

「何だかんだそのほうがインドラさまらしくて好きだけどねーぼくは。キシシッ」

〜おまけ〜

『とある空』にて。

「ん!柔らかーい!」

「ふわとろの食感で美味しいです」

先程訪れたマスターが持って来たチョコを、インドラの許可をもらってから食べるヴァジュラたち。

カルデアの自分たちが食べたものとは違う、柔らかいチョコだが、なかなか悪くない。

まあ…カルデアの自分たちが食べた『記憶』はあるのだが、この自分たちが食べたわけじゃないから、実質初めて食べるチョコになる。

ヴァジュラたちとしては、同じチョコでも違うチョコでも美味しければどちらでもよいのだが…。

「…」

酒器に入った酒を眺めながら、何かを考えているインドラ。

ちなみにチョコの味は、まあ…悪くはなかった。

甘露に合う、この酒もなかなかよい…。

「インドラさま?どーしたの?」

「何か思うところでも?」

「…なに、大したことではない。が…」

酒器の酒を一口飲み、含みのある笑みを溢す。

「あちらの神が何とも不憫なことになってしまったと思ったまでだ」

「不憫とは?」

「神は『カルデアにいる神』の記憶を持ち、なおかつ観測を可能とするが、あちらの神は英霊の規格故にそれができん。あちらで起こったことはすべて神に筒抜けだと言うのに、この神のもとで起こる事象は一切把握できん。英霊として召喚されることがこれほど不自由なものとはな」

「確かに。ここにマスターが訪ねて来たときも、向こうにいるインドラさまは全然気づいてなかったもんねー」

「同じインドラさまだというのに。こうも差が出てしまうのですね」

「ま、だからこそあの人間は『向こうの神が飲んだことのない酒』をわざわざ用意したのであろうな」

それを向こうの神が知ったとしたら…。

恐らく嫉妬心に苛まれるであろうな。

現に今、そうなっている。

カルデアにいるインドラは今、『空に存在するインドラ』へ酒の献上があったのに自分にはなかったこと、そして自分と違うチョコをわざわざ作っていたことに嫉妬しているようだ。

だが『インドラ』を軽視したわけでなく、むしろどちらも尊重したからこそ起こったすれ違いであることには気づいているらしい。

何とか嫉妬を抑えようとしている…。

「フッ…これはどうやら、何か悪いことをしてしまったようだな…カルデアの神よ」

「嫉妬心に苛まれる自分ではない自分を見て楽しむのはいささか趣味を疑いますが」

「レベルの高い楽しみ方だねー。キシシッ」

「うるさいぞヴァジュラ」

ヴァジュラたちの小言をあしらい、カルデアにいる自分に向けて心の中で呟く。

おい…そちらのインドラよ。

間違っても『この空』をしまい込むようなことはしてくれるなよ?

神への捧げ物がなくなる上に、あの人間との逢瀬を楽しめんからな…。

END