願うのは幸せか 究極の愛か
願うのは幸せか 究極の愛か
「うーん…ないなぁ」
「なかなか見つからないものですね」
シミュレーターにて。
春の陽気に包まれる野原で、私はお子様サーヴァントたちと一緒にピクニックをしていた。
メンバーはジャック、ナーサリー、バニヤン、ジャンヌリリィ…そして私の他に付き添いがもうひとり。
「本当にお願いしてよかったの?」
「何度も言わせないで。私が好きで申し出ただけなのだから、貴女が気にすることではなくてよ」
マリー・アントワネット…それもアヴェンジャークラスのオルタのマリーだ。
いつもの第一再臨と違い、今日は第三再臨の大人の姿をしている。
彼女…子ども好きだからな…。
大人の姿の彼女は、特に母性が溢れている状態で子どもたちにとても優しい。
だからこうしてピクニックの付き添いに申し出てくれたのはちょっと驚きもしたけど、納得もいく。
「おかあさんおかあさん!」
「「どうしたの?…あ」」
ジャックに呼ばれた私は咄嗟に返事をするが、無意識だったのだろう…マリーオルタも同時に返事をしてしまった。
「あ、えっと…どっちのおかあさんも!」
「…気を遣わなくても大丈夫よ」
「ううん、いいの!二人とも行こう!今わたしたち探し物をしてるんだ」
「探し物?」
「何かなくしてしまったの?」
ジャックに手を引かれてナーサリー、バニヤン、ジャンヌリリィのいる花畑へと向かう私とマリーオルタ。
「ううん!なくしたんじゃないよ!」
「あ、マスターに王妃さま!よかったら一緒に探してもらえないかしら?」
「四つ葉のクローバー!探してるんです!」
「さっきから探してるんだけどね。全然見つからないんだ…」
ああ…なるほど、四つ葉のクローバーか。
それを聞いたマリーオルタは一瞬寂しそうな表情になるが、すぐに元の柔らかい表情に戻る。
「ええ、もちろん。私が探して見つかるといいのだけれど…」
「大丈夫よ!みんなで探せばきっと見つかるわ」
「うん。私も頑張って探すよ」
「よーし、探すぞー!」
私とマリーオルタを加え、四つ葉のクローバー探しを再開するお子様サーヴァントたち。
「うーん…」
「やっぱりそう簡単に見つからないわね」
「掘り返したほうが見つけやすいかなぁ?」
「絶対ダメですからねバニヤン!?」
「おかあさんたちのほうはどう?見つかった?」
「ううん、まだ」
「まだ見つからないわ」
シロツメクサがあるからといって、必ず四つ葉があるわけじゃないからね。
ふとしたときに一瞬で見つけたりするのに、いざ探すとなかなか見つからない。
「あっ」
と、声を上げたのはナーサリー。
「あったわ!四つ葉よ!それにふたつも!」
「えっ!?ふたつも!?」
驚いてナーサリーのほうを向くと、ナーサリーの手にはふたつの四つ葉のクローバー。
「凄いわ、おめでとう」
優しく微笑むマリーオルタ。
「ふたつもなんて豪運すぎますぅ…」
ちょっと悔しそうなジャンヌリリィ。
「でも凄いね。幸せふたつも見つけたね」
ニコニコと笑うバニヤン。
「ナーサリーいいなぁ…わたしたちも四つ葉、見つかるかなぁ?」
負けじとシロツメクサとにらめっこするジャック。
「凄いよナーサリー、いいことあるといいね」
「ありがとう。でもこれはね…はい、マスターに王妃さま!お二人にプレゼントよ!」
「え?」
「私たちに?」
ナーサリーが私とマリーオルタの手に、ひとつずつクローバーを握らせる。
「でもこれは、貴女が見つけたものよ?」
「そうだよナーサリー。ナーサリーのために持っておくべきじゃない?」
困惑する私とマリーオルタに、ナーサリーはニコニコと微笑みながら言った。
「いいの。ピクニックに来てくれたマスターと王妃さまへの、ささやかなお礼だから」
「「…」」
思わず顔を見合わせる私とマリーオルタ。
でもそこまで言われたら…。
「ナーサリーの気持ち…無駄にはできないね」
「…ええ、そうね。本来の私にはふさわしくないものだけど、せっかくの貴女からのご厚意…有り難くいただいておくわ」
「ええ!ぜひそうしてちょうだい!」
「うん、ありがとう」
お言葉に甘えて、四つ葉のクローバーを受け取ることにした。
マリーオルタも、いつもの彼女ならやんわりと断って受け取らないところを、今日はナーサリーを傷つけないためなのか…優しい笑顔で受け取った。
ポスッ
「わっ…」
「!」
と、私の頭に何かが乗っかる感触があった。
手に取ってみるとそれは…。
「…花の冠」
シロツメクサの花の冠だった。
ふと自分の頭上を見上げてみると…。
「どう?うまくできただろー?」
「一声かけてから乗せるべきかと」
「え…ヴァジュラ!?」
いつの間に来ていたのか…
ヴァジュラたちがすぐそばに浮かんでいた。
「…」
マリーオルタが若干顔を顰めながらヴァジュラたちを見上げている。
警戒しているのかな?
「…これヴァジュラが作ったの?」
「そー!インドラさまの雷なんだからこれくらいできなきゃね!」
「インドラさまの手足となるのが、ぼくたちの仕事ですからね」
雷ってこんなに器用なんだな…。
いや、そんなわけあるか。
「ほらほら、せっかくぼくが作ったんだからちゃんと被って!」
「あ…はい」
ヴァジュラに言われ、花の冠をもう一度被る。
頭の形にぴったりだな…偶然?
「あら、雷神様の召使いさんたち。あなたたちもピクニックに来たのかしら?」
「いえ、マスターを捜しに来ました」
「あ、そうそう今度は忘れないようにしないと。インドラさまが呼んでるから戻るぞー?」
「おっと…呼ばれたか」
あんまり後回しにすると機嫌悪くするから、残念ながら私のピクニックはここまでだな…。
「おかあさん!またピクニックしようね!」
「四つ葉のクローバー、大事にしてちょうだい」
「トナカイさん、ありがとうございました」
「バイバイ、マスター」
「うん、またねみんな」
お子様サーヴァントたちに挨拶し、今度はマリーオルタにも声をかける。
「申し訳ないけど…あとはお願いします」
「…わかってるわ。いってらっしゃい」
何か文句を言われるかと思ったけど、思いの外あっさり返すマリーオルタ。
それを確認した私は、ヴァジュラたちと一緒にシミュレーター室を出た。
プシューッ
「ただいま戻りました」
「戻りました、インドラさま」
「ただいまー!インドラさま!」
ヴァジュラたちと共に、開いた自動ドアに滑り込むようにして部屋に入る。
定位置でくつろいでいたインドラ様はゆっくりとこちらを向いたが、私の姿を見て口元を緩ませた。
「どうしたその姿は…随分とめかし込んでいるではないか」
「あ!これは…」
花冠を頭に被ったままだったことを思い出し、気恥ずかしさで冠に手をかけると…
「外すなよー?」
「えぇ…」
少女体のヴァジュラから軽く圧をかけられた。
「えっと…これはさっきヴァジュラが作ってくれたんですけど…」
「マスターが子どものサーヴァントたちと一緒に野原にいたから、花を摘んで作ってみたんだ!よくできてるでしょ?インドラさま!」
「おかげでマスターに声をかけるまで、15分もかかりましたが」
「うるさいなーもー」
「え、そんなにいたの!?」
全然気づかなかった…。
ヴァジュラたち気配なさすぎでは?
「…まあ多少遊ぶのは構わんが、本来の役目を忘れてくれるなよ?」
「もちろん!」
「当然忘れていたわけではありません」
「で、お前はいつまでそこに突っ立っている」
「あ、はい」
インドラ様から声がかかり、そばへ行こうとした私だったが、手に四つ葉のクローバーを持ったままだったことを思い出した。
「その前にちょっと失礼します」
戸棚からガラスのコップを取り出して水を入れる。
そして四つ葉のクローバーを浮かべ、テーブルに置いた。
「ん?何だそれは?」
「クローバーです。四つの葉をつけたクローバーは幸せを運ぶと言われていて…さっき子どもたちからもらったものです」
どうやらクローバーは所見らしいインドラ様。
水に浮かんだクローバーを見つめている。
「幸運を運ぶ植物か」
「この花の冠も、クローバーの花です。正式名称はシロツメクサと言いますが」
「幸運の花で作られた冠なんだから、尚更有り難く思えよー?キシシッ」
「うん、ありがとうヴァジュラ」
「ぼくじゃなくてインドラさまにね」
「え?」
「ぼくはインドラさまの雷。だから、ぼくが作るものは全部インドラさまの意思で作られたものってこと!」
「まあ…そうとも言うな。神々の王自らが花を摘み冠を作ることなどあるはずもない。そういった雑事はすべてこいつらの仕事だ」
「至極当然です」
「ぼくたちはインドラさまのためになることを考えて行動するのが基本だからねー」
じゃあ、ヴァジュラが私のために花の冠を作ったのって…
インドラ様が『こうしたいと思ってるはず』ってことを考えた結果ってことになるけど…。
インドラ様…私に花の冠を贈りたい…だなんて思ってたのかな?
だとしたら…
嬉しい反面…インドラ様可愛いな…なんて…。
「おい、今何を想像した」
「えっ!?い、いえ…何でも…」
「…さっさとそばへ寄れ」
「あ…はい…」
クローバーを水に浮かべて満足していた私は、慌ててインドラ様のそばに座る。
そしてインドラ様の腕が私を包む。
「………」
「…どうされました?」
何だろ…。
インドラ様にじっと見つめられてるんだけど…。
「まあ…悪くはない。質素な花ではあるが、なかなか似合っている」
「!!」
一応褒めては…もらえてるな、うん。
ただ、さ…
「…ヴァジュラ。これ外しちゃダメ?」
「ダメー!インドラさまからの有り難ーい贈り物なんだから、外すなんて不敬すぎるだろー?」
「せめて寝る時まではつけているべきかと」
「そんな…」
「おい、顔をこちらへ向けろ。これでは後ろ姿しか見えんではないか」
この至近距離で花の冠被った姿褒められて平気でいられるほど私は強くないんですよ!!
「インドラさまから褒められてるんだぞー?有り難く思えよー?キシシッ」
「思ってる!これ以上ないほど思ってる!思ってるからこそ向けない!」
「向けと言っているであろう」
「無理です!!」
慣れない…。
至近距離で見つめられて褒められるのにいつまで経っても慣れないよ…。
〜おまけ〜
「あら、雷神様」
「…お前は、復讐者となった方の王妃だったか」
「ええ、その通りよ」
廊下を歩いていたマリーオルタは、インドラと出くわした。
ちょうどいい…。
あのときのこと、聞いてみようかしら…。
「何だ。神に何か用か?」
「うふふ…いいえ。ただ貴方…私の想像以上に独占欲の強い神様だったのね」
「何の話だ」
「花の冠」
「!」
「そちらの召使いさん、マスターにシロツメクサの花冠をあげていたようだから」
「ぼく?確かにマスターにあげたけど、それがどうかしたー?」
「あら…」
マリーオルタはパチパチと瞬きをして、目の前の雷霆神を見上げる。
「まさか…ご存じないの?」
「何がだ」
「まあ…古代から存在する神様ともあろうお方が『何も知らずに』マスターに対してあんな贈り物をしていたなんて、びっくりだわ…あはははッ!」
「…」
愉快そうに笑うマリーオルタと、若干の警戒を滲ませながら冷ややかな目で彼女を見つめるインドラ。
と、マリーオルタの顔から笑みが消える。
「…まあ…調べれば自ずとわかることではあるけれども、だからこそお伝えしておくわ。よりによってシロツメクサの花冠を贈ってしまったことの意味を」
「ほう?その意味とは何だ?」
「…花には花言葉があるのはご存じよね?」
「ああ。詳しくは知らんがな」
「シロツメクサはクローバー…幸せを運ぶ四つ葉のクローバーがあることから『幸運』の花言葉を持つ花よ。そして花の冠は輪の形をしているから『永遠の愛』の象徴でもあるの」
「…」
「そして『シロツメクサの花冠を贈る』という行為自体には『幸せを約束します』それから『私のものになって』という意味があるわ」
「…ほう。だが今の説明では、何が問題なのか一切わからんが?」
「ええ、そうね。でも、このお話には続きがありましてよ。シロツメクサは『幸運』以外にも花言葉があるの」
「それは?」
インドラの問いを受け、ひとつ呼吸を置いてマリーオルタは口を開く。
「『復讐』」
「…」
「『復讐』という花言葉があるせいか、シロツメクサの花冠を贈ることには、さらにこういった意味が込められているの」
「『貴方に幸せを約束します。だから私のものになってください。もし断るのなら復讐します』」
「…」
「うふふ…強引な神様らしいわ。自分のものにできないとわかった途端に愛が憎しみへ反転し、復讐を遂げるまで一生付き纏う!幸せを約束しておきながら究極の愛で相手を追い詰める!まさに最っ高の愛憎劇だわ!あははははッ!」
「…」
「……はぁ。連れないお方だこと。まあ…意味を知らずにただの善意で渡しただけでしょう?」
「ああ…確かに、意味は今初めて知ったな」
「なら軽率に贈り物はすべきではないことは忠告しておくわ。マスターを怖がらせたくは…」
「初めて知ったが…なかなか良い意味ではないか」
「…はい?」
インドラから返ってきたまさかの返答に、思わず目を見開くマリーオルタ。
「『神のものになれ、断れば復讐する』…なるほど。偶然にしては随分と熱烈な求愛になったものだな…ははははッ!」
「…ッ!!」
自分が先程教えた愛憎入り混じる話を、さもおかしそうに笑い飛ばす雷霆神を、キッと睨みつけるマリーオルタ。
「…おわかりでして?雷神様」
「ん?」
「マスターが傷ついたと知れば、貴方はあらゆる英霊たちから一斉に刃を向けられる…」
「であろうな」
「私も、生前は王族に生まれただけのただの人間に過ぎないわ。それでも…私の血で濡れた刃を貴方の首に向けて落とすことくらいはできるのよ?」
そう言うとマリーオルタは、殺気の込もった眼差しをインドラに向ける。
「敵意があるのなら、容赦はしません」
「相手が誰だかわかってるのか?」
マリーオルタの殺気に反応し、ヴァジュラたちが即座に警戒モードに入る。
が、肝心のインドラはどこ吹く風。
「…何だかんだと、お前もあいつの幸福を願う者のひとりのようだな」
「…買い被りすぎよ、雷神様」
「買い被りなものか。現に…お前のその刃に込めた殺意は本物だからな」
「あら…やっぱりそこは神様…私ごときの霊基、瞬殺してしまえるほどの自信がおありなのね?」
「可能だが、神はわざわざそのような無粋な真似はせん。お前も元は運命に翻弄された人間のようだからな。それに…やたら英霊どもを撃ち抜けば、あいつからの小言が増える」
「…へえ。世界の破壊を望む復讐者の私に、そんなに甘い対応でいいのかしら?」
「甘いのはお前のほうであろう?世界の破壊を望むだと?そのわりには、四つ葉のクローバーといったか…童どもからもらった『それ』を捨てることすらできておらんではないか」
「…ッ!?」
あのときナーサリーからもらった、四つ葉のクローバー。
結局捨てられず、押し花にして懐に入れ持ち歩いていることを神の目で見抜かれ、動揺する。
「女性の懐を覗くなんて随分と無作法な神様ね」
「知ったことか。だが…お前の忠告には神は耳を貸してやったからな。それだけでも光栄に思え」
「…はぁ…ほんっとこれだから…」
「神様って…嫌いよ」
そう吐き捨てると、マリーオルタはインドラの横を通り過ぎていく。
その場に残されたインドラ…。
「ここの奴らは神があいつを傷つける前提で話を進める者が多すぎないか?」
「インドラさまは神でマスターは人間…価値観の違いはあるとお考えなのでは?」
「価値観の違いだと?そのようなもの、神同士でも人間同士でも存在するものであろう?何故神とあいつの関係にばかりケチをつける?」
「今のところインドラさまはマスターのこと傷つけてはないよねー?何でだろ?」
忠告してくる英霊たちの真意を本当の意味では理解していなかった様子…。
「…贈り物の意味には気をつけろ、というのはよくわかった。お前たちも頭には叩き込んでおけ」
「はーい」
「『お前たちも』というと、インドラさま自らお調べになるおつもりでしょうか?」
「神としては気が進まんことこの上ないが、仮に今後何も考えず物を贈ったとして、あいつが贈り物の意味を知っていたとする…。それで下手に怯えさせるよりはまだマシであろう」
「その姿勢…心より敬服致します」
「こんなにマスターのこと考えてるのに、何でみんなインドラさまのこと警戒するんだろうねー?」
根本が理解できずとも、受けた忠告は何やかんやで超真面目に取り入れようとするインドラなのであった…。
END