季節の移り目 貴方の訪れ
季節の移り目 貴方の訪れ
「おい、あそこに小屋があるぞ!」
「よし、とりあえず避難だ!」
「マスター、走れますか?」
「うん、大丈夫!」
レイシフト中、私は同行した英霊たちと特異点を走り回っていた。
その理由は…
「いたたた!サーヴァントの体でも痛えもんだな雹ってもんは!にしても痛すぎんだろ!?これマスター大丈夫か!?」
「ちょっ…痛え!マ、マスターちゃんとりあえずこっち!僕のコートの中入って!」
「あ、ありがとうはじめちゃん!」
日本のとある特異点を探索中…突然空から大量の雹が降ってきたからだ。
粒は大きくないのだが、体に打ちつける雹がそれはまあ痛いこと痛いこと…。
はじめちゃんがコートの裾を広げて傘代わりにしてくれたため、私はその中に入って雹を凌ぎながら小屋を目指す。
「いたた…あ、鍵開いてますね!すみませーん!誰かいたりしますー?」
いち早く小屋に着いた沖田さんがドアを開け、中に入っていった。
私とはじめちゃん、それに永倉さんも小屋の前に辿り着く。
「誰もいないみたいです。ひとまずここで休ませてもらいましょうか」
中の様子を確認していた沖田さんが、部屋の奥から顔を出してきた。
「いてて…そうだな、もし家主が来たら事情を説明すりゃいい」
「あいたた…んじゃ、お邪魔しますよっと」
「ふぅ…ありがとうはじめちゃん」
「いやいや、お安い御用よ」
私たちも小屋の中に足を踏み入れ、ドアを閉める。
小屋と言っても、小さめのログハウスほどの広さがある。
少し埃っぽいが雹を凌ぐには十分だ。
痛いし寒いしひどい目に遭った…。
「ん?暖炉があるな。使わせてもらうか」
「いいですね!薪もたくさんありますしマッチも見つけましたよ!」
「おいおい他所様の小屋の暖炉を勝手に…いやでもマスターちゃんもいるしな。大丈夫?寒くない?」
「少し寒いかも…」
「なら遠慮はいりませんって!ささ、火が着きましたのでどうぞマスター!」
「ありがとう…沖田さんも隣どうぞ」
「えっ、私もですか?」
「そうだねぇ…沖田ちゃん、冷えたら咳出やすくなるでしょ?」
「お前も当たっとけ。俺らは少しこの部屋の中散策するからよ」
「それならまあ…お言葉に甘えて」
そう言うと沖田さんは私のそばに来て、暖炉の前に座る。
「はぁ…暖かい」
「ですねぇ…それにしても変な天気ですね」
「そうだね。冬から春に…」
『冬から春に移り変わる季節だからかな?』
私がそう言おうとした瞬間…。
ゴロゴロゴロ…
「ん?」
「おや?雷ですかね?」
少し遠くから聞こえてくる、小屋全体にまで響くような轟音。
暖炉を離れてそっと窓の外を窺う。
雹は先程より弱まってきた様子。
どんよりとした空を見上げた、その時…。
ピカッ
「…ッ!」
鈍色の空を裂くように青白い稲妻が走る。
そして…
ドゴオオォォン!!
「…ッ!!」
「うわ…でっかいのが落ちましたね」
「何だ何だ?雷か?」
「こりゃ随分近くで落ちたな」
私たちのいる小屋からさほど離れていない場所に落ちたらしい。
地が割れるような…物凄い音が響き渡る。
あまりの音の大きさに、奥にいた永倉さんとはじめちゃんがこちらに戻って来た。
沖田さんも私のそばに来て窓から空を見上げる。
雹は止んだようだが、空には時折青白い稲光が走っている。
また大きなものが来るか?
なら木でできているこの小屋に落ちたらたまったものじゃない…。
そう思いながら四人で空を見上げていると、ふと永倉さんが呟く。
「そういや特異点ってのは、基本的に季節はカルデアと同じだったよな?」
「うん、そうだよ」
「ああ…なら春雷ってやつかね」
「春雷?」
「その名の通り春の雷だよ。立春から立夏…ちょうど今の季節に起きる雷で、さっきみたいに雹が降ることもあるんだよ」
「それって春一番みたいに春の訪れを知らせるものだったりする?」
「まあ似たようなもんだ。ちなみに、この雷に驚いた虫が冬眠から目覚めて地上へ出てくるもんだから別名『虫出しの雷』とも呼ばれてるぜ」
「うわー虫嫌いの人にはたまったもんじゃない名前ですね」
「春が来るってのはそういうことだろ」
春雷かぁ…。
私はとある雷霆神のことを思い出す。
そういえばあの神様も、干魃の邪竜を討ち倒して雨をもたらすことから、それを乾季から雨季への移り変わりを表している…って聞いたことがあるな。
どの国でも、雷は季節の移り変わりの象徴なのか…。
そして特異点探索が無事に終わり、私たちはカルデアへと帰還した。
「おかえりなさい先輩、お疲れ様でした」
「ただいま、マシュ」
「ご苦労さま。無事に解決したようね」
「あ、所長。ただいま戻りました」
マシュとオルガマリー所長が出迎えてくれた。
「そういえば、妙に長い時間通信が途絶えていたみたいだけど、現地で何があったの?どうも魔力によって阻害されていたみたいだけど」
「えっ?通信が?」
所長からの質問に、私はしばし考え込む。
特異点に着いてすぐの時点では管制室からの通信は確かに繋がっていた。
その後の通信は確か…聖杯の場所が探知できたって通信だった。
あ…そういえばあの時間…。
「雹と落雷に遭って、しばらく近くにあった小屋に避難していたんですが…」
「雹と落雷…特異点による異常気象かしら?それかその小屋に何かあったか…」
「いや、何もなかったと思うぜ?金髪のキャスターの嬢ちゃんから、魔力探知のチャーム?を預かったもんだからそいつを使って調べてみたが、何の反応もなかったからよ」
「同じく…特に魔術に関するような物も見つかりませんでしたよ」
避難中に小屋を探索していた永倉さんとはじめちゃんが答える。
事前にアルキャスに相談しに行ってくれてたのか…。
「うーん…まあ、いいわ。貴女はとりあえずいつものようにレポートを出すこと。期限が近いものもあるからそれらもなるべく早めに出すこと。期限過ぎたら許さないわよ?いいわね?」
「了解です…」
溜めているのは事実なので、言い訳ができない。
私が心苦しそうに絞り出した返事に、沖田さんたちは苦笑いをし、所長はこめかみを押さえながらため息をついた。
「ふぅ…」
部屋に戻った私は真っ先にシャワーを浴び、部屋着に着替えてベッドに横になる。
今日はもう、寝ようかな…。
プシューッ
「ん?寝ているのか」
まどろむ意識の中、自動ドアが開く音と聞き慣れた声が聴こえてきた。
目を開けると、インドラ様とヴァジュラたちがすでにベッドの目の前にいた。
それを確認した私は、思わず飛び起きた。
「インドラ様!?」
「何だ、起きていたのか」
「いえ…声が聞こえたもので」
「対応としては正しいものかと」
「わかってんじゃんかマスター。キシシッ」
起きてみて初めて気づいたが、ヴァジュラたちが何かを持っている。
「何持ってるの?」
「これ?マスターの分のおやつだってさ」
「赤い弓兵から預かりました」
お皿に盛られた桜餅だった。
そうか、今日のレイシフトはお昼から夜までかかった上に夕食はレーションで済ませたから…。
「わざわざ持って来てくださって…ありがとうございます」
「もののついでだ。神が多少摘むために多めに作らせたからな」
「気に入っていただけましたか?桜餅」
「まあ…悪くはない」
気に入ったんだな。
この前頑張って勧めてみてよかった。
なら…お茶でも淹れようかな。
「インドラ様…お茶は要ります?」
「神は酒でよい」
「わかりました」
酒と桜餅が合うのか謎ではあるけど、私は自分とヴァジュラたちの分のお茶を淹れた。
「ぼくたちの分ですか?」
「私の分から食べていいよ」
「お前たちも好きに食うがよい」
「やったー!」
目を輝かせたヴァジュラたちが桜餅をひとつずつ手に取る。
長命寺と道明寺…さすがはエミヤ、両方作ってある。
どっちが好き?なんて争いの火種になりそうなことは絶対言わないけど。
それにしても…もう春が来たんだな。
「春…」
「ん?どうした?」
「あ、実は今日…」
春の訪れとして思い出したので、私はレイシフト中に春雷に遭ったことをインドラ様に話した。
「…春の雷か」
「春から夏の初めにかけて鳴る雷は『春雷』と呼ぶみたいですね。今日は雹にも降られましたが」
「そうぼやくな。ちょうどよいところに避難場所があったではないか」
「はい、本当に……えっ?」
「ん?どうした?」
「あの、インドラ様…私、確かに春雷に遭ったとは言いましたけど、小屋を見つけて避難したことは言ってませんよ?何故知ってるんです?」
「決まっておろう。あれは神だ」
「…はい?」
『あれは神だ』???
ごめんなさい、ちょっと何言ってるかわからないんですけど。
「お前たちが特異点で見たあの雷は、神だ」
「…インドラ様、あの特異点に来ていたんですか?」
「『今ここにいる神』が特異点に赴いたわけではないがな」
「えっ?じゃあ特異点に『別の』インドラ様がいたってこと…ですか?」
「何を不思議がる?『あの空』を受け取ったお前ならばわかるはずであろう?」
桜餅を摘みながら、私の目を見つめて言葉を続けるインドラ様。
「空にはこの神がいることが必然であり摂理でもある。いつどこであろうともな」
「…」
スケールがでかすぎて、考えがまとまらない。
でも、これでわかった…。
「…雹を降らせたのもインドラ様ですか?」
「当然だ」
「つまり…通信が途中で途切れたのは、インドラ様が降らせた雹が原因…ってことですか?」
「ん?ああ…恐らくな。あれだけの魔力を帯びた雹が降れば多少の障害も起きるであろう」
「え、ならアルキャスの魔力探知のチャームが反応しなかったのは何故です?」
「…魔力を浴びすぎて壊れたのではないか?」
「いや、何してんですか!?」
やっぱり通信障害の原因この神かよ…。
そもそも、何で雹なんか降らせたんですか!?
「何故そのようなことをしたか、と聞きたいのであろう?先に言っておくが利敵行為ではない。神という自然が、季節の移り変わりに訪れた…ただそれだけのことだ」
「まあマスターが混乱するのも無理はないかと…もぐもぐ」
「もむもむ…インドラさまは天空と雷霆の支配者だけど、言い換えれば自然そのものでもあるからねー」
「ごくん…自然神とはそういうものです」
桜餅を頬張りながら、ヴァジュラたちが言う。
こ、この神様…。
悪気が一切ないだけに責めにくい…。
レポートになんて書こう…。
『特異点に訪れた春雷(インドラ様)により通信障害が発生した』?
所長ぶっ倒れちゃうよ…。
〜おまけ〜
「お、いたいた」
「よお、キャスターの嬢ちゃん」
「もぐもぐ…あれ?永倉さんに斎藤さん?」
食堂にて。
アルトリア・キャスターがおやつの桜餅を頬張っていると、永倉と斎藤が声をかけてきた。
「すげえ量の桜餅…」
「こんな山盛りの菓子食うの、島田の奴以来だな」
「あはは…これとても美味しいので。それでお二人とも、どうしたんですか?」
皿に盛られたとんでもない量の桜餅を見てドン引きする二人だったが、はっとした様子でポケットからあるものを取り出した。
「この前貸してもらったやつ、魔力探知のチャームだっけ?返そうと思ってね」
「ありがとな。俺や斎藤や沖田だけじゃ誰も魔術に詳しくねえからよ。助かったぜ」
以前の特異点探索の際、二人に貸した魔力探知のチャーム。
アドバイスを求めて自分のもとへ来た二人に対して『元凶を探知さえできれば、ちょっとの魔力込めて殴れば大丈夫ですよ!』と、魔術を教えた師匠が青筋立てる案件のアドバイスと共に渡したもの。
普段叩き斬る戦法をとる二人ですら、その脳筋ぶりに引いていたが…。
「いえいえ、お役に立てたなら…あ、あれ?」
「ん?」
「どうかした?」
二人からチャームを受け取ったアルトリアは、あることに気づく。
「これ…ふたつとも壊れてますね」
「「えっ?」」
見ただけではまったくわからないが、壊れて機能しなくなってしまっている。
「す、すまねえ嬢ちゃん!雑に扱ったつもりはなかったんだが…」
「ごめん、僕も気をつけて使ってたんだけど…何かまずいことしちゃったかな?」
慌てて謝罪する二人だが、アルトリアは壊れた原因にすぐ気づいた。
「どうやら…大量の魔力を浴びたせいで壊れたみたいですね」
「大量の魔力?」
「…お二人とも、特異点探索の時に何かを大量に浴びませんでしたか?」
「『何か』?」
アルトリアに言われて、特異点を思い出そうとする二人。
大量に浴びた…雹か?
そういや…雹が降ってはきたけど…まさかな…。
「それです!!」
「うわっ!?」
「えっ、何!?」
妖精眼で二人の思考を見たアルトリアは、思わず大きな声を上げる。
「その降ってきた雹…恐らくそれが魔力を帯びていたんです!そしてその強い魔力の影響で壊れてしまったんだと思います!」
「な、なるほど…」
だからあの雹、妙に痛かったのか…。
魔力を帯びていたのなら、納得がいく。
「…おい、そうすると特異点の元凶とは別に、他の奴の介入があったってことにならねえか?」
自分たちと元凶以外…つまり第三勢力がいるのではと思いつく斎藤。
「あり得ます!あの特異点…誰かいたのかも」
「おい、ならこのこと…マスターに報告したほうがいいよな!?」
「当たり前だろ!行くぞ馬鹿八!」
「誰が馬鹿だ!あ、マスターには俺らから説明しとくからな!ありがとよ嬢ちゃん!」
「はい!お願いします!」
突如浮上した疑惑に血相を変えて食堂を飛び出して行く永倉と斎藤。
この後マスターに疑惑を話すも、普通じゃ考えたくない…訂正、考えられない事象が起こっていたことを説明されて二人が脱力する未来を、三人はまだ知らない。
END