そこに灯るは守護の光
そこに灯るは守護の光
「これでどうだろうか、マスター」
「えっ!?」
部屋を訪れたカルナさんから渡されたもの。
私はそれを見て、思わず声を上げてしまう。
「マスターがピアスの穴を開けていないことに気づかなかったオレの落ち度だ。だがこれなら、イヤリングとして装着できるだろう。ダヴィンチの手は借りたがな」
「いやいや…むしろありがとう」
そう。
渡されたのは、バレンタインのお返しでカルナさんから贈られた『落陽のピアス』。
でも私はピアスの穴を開けていないため、贈られた際に思わず『どうしよう…ピアスデビューするべきかな』と考えてしまい、それを目の前のカルナさんに読み解かれてショックを受けさせてしまったのだ。
あれは本当に申し訳なかった…。
しょんぼりしながらピアスを持って帰っていったカルナさんの背中は忘れることができない…。
そしてしばらく経った今、そのピアスは『落陽のイヤリング』として生まれ変わって私の手元に戻って来た…というわけだ。
「ありがとう。でも、ひとつ聞きたいんだけど」
「何だ?」
「また鎧…剥いだわけじゃないよね?」
「いや、今回はダヴィンチの元にある材料で事足りたようでな。オレの鎧は使っていない」
「ならよかった…」
「オレは必要ならいくらでも鎧を分解すると進言したのだが、何故かダヴィンチにその必要はないと必死に止められてな」
「ダヴィンチちゃんナイスです…」
宝具打つ度に血みどろにしてしまってるから申し訳ない気持ちは消えないんだけど、当のカルナさんがまったく気にしてないのがな。
そういうとこだぞカルナさん…。
「チョコのお返しのリベンジは果たせた。オレはこれで失礼する」
「うん…改めてありがとう、カルナさん」
私のお礼に少し笑みを浮かべ、カルナさんは部屋から出ていった。
「…豪華だよな」
イヤリングを指でつつき、ゆらゆらと揺らしながら呟く。
そもそも鎧が金色だし、デザインも少々ゴツい気もするが、品格がある人ならよく似合うんだろうな。
これが似合う人間に、自分がなれるのだろうか?
プシューッ
「邪魔するぞ」
「あ、インドラ様」
自動ドアが開き、インドラ様が部屋に入ってきた。
「先程ヴァイカルタナとすれ違ったが、珍しくお前の部屋に来ていたのか?」
「はい。バレンタインのお返しを貰ったんです」
「返礼か。奴は一体何をお前に贈った?」
「…これなんですけど」
インドラ様に見せて大丈夫かな…とは思ったが…。
テーブルに置いていたイヤリングを、インドラ様に見せる。
「ほう、耳飾りか……いや…おい、ちょっと待て…」
イヤリングを見たインドラ様の様子が…。
「…素材が何なのか気づかれました?」
「、…」
どうやら気づいたらしい。
目の前のイヤリングが、カルナさんの鎧を分解した素材でできていることに。
その証拠に驚いたような困惑したような…何ともいえない表情でイヤリングを見つめている。
「……はぁ…何を考えているのだ、奴は」
「それはカルナさんに直接お願いします」
カルナさんの鎧の件はインドラ様も思いっきり関わってることなので、これ以上は言わない。
「だが、奴が返礼の品を用意するのにここまで時間をかけるとはな」
「あ、実は…」
私はインドラ様に事情を説明する。
「なるほど。言われてみれば、お前は耳に何もつけておらんな」
「単に開ける機会がなかっただけなんですけど、私はイヤリングみたいに簡単に取り外せるもののほうが好きなので」
「ならば何故普段から何もつけん?」
「耳に何かついている感覚に慣れなくて」
「まったく…少しは洒落っ気を出せと言っておろう」
「休みの日は化粧するようにはしてますよ?」
「それは必要最低限の嗜みだ。お前にはそれ以上の装飾を望む権利があるのだぞ」
「…お気に入りのアクセサリーをつけて失くしてしまったり壊れてしまったらショックですし」
「形あるものは、いずれは壊れる。まあ…そこまで恐れるのならば、そう容易く壊れんものをくれてやることはできるが」
「…すでにとんでもない代物を受け取ってはいますけどね」
まずバレンタインのお返しとして、本物の空を受け取ったし…。
「…ならば、仕方ない」
少し何かを考えていたインドラ様が、私に向かって手を伸ばす。
そして私の右耳に触れる…。
「え…」
「動くな」
パチッ
「…ッ!?」
右耳のすぐ近くで、何かが軽く爆ぜるような音と一瞬の小さな光。
思わずビクッと体が震える。
「…悪くはないな。見てみろ」
「え?」
どこか満足そうに手を離すインドラ様と、私の目の前には鏡を持って浮かぶヴァジュラ。
触られた右耳を見ると…。
「あ…」
耳にぶら下がる、花。
下向きに咲き、花の色はオレンジとピンクのグラデーションがとても綺麗なもの。
葉っぱの飾りもとてもお洒落だ。
可愛い…。
「これ…イヤリングですか?」
「取り外せるものが良いと言っておったからな」
「ありがとうございます。でも…」
「何だ?何か文句でもあるのか?」
「いえいえ!このイヤリング何で右耳だけなんですか?それにこれ何の花がモチーフですか?」
そう、このイヤリング地味過ぎず派手過ぎないちょうどいいデザインなんだけど、右耳しかない。
それにこの花、多分私は初見だ。
何か意味があるのだろうか?
そう思い質問するがインドラ様からの答えは…。
「…花の女神にでも聞け」
「インドラ様が作ったのに!?」
まさかのフローラへの丸投げ…。
フローラなら見ただけでわかりそうだけど。
「ちなみに神の『魔性殺しの加護』がついている。あの邪竜はもちろん、いかなる魔性も近づけん」
「『魔除け』に特化し過ぎてません?」
「魔性殺しの英雄神である、この神が与える加護だぞ?魔なぞ寄せ付けんに決まっておろう」
「ご、ごもっとも…」
じゃあ花についてはフローラに聞くか。
〜翌日〜
「フローラ」
「あ、こんにちはマスター!」
シミュレーターで土いじりをしていたフローラ。
私に気づくと、土がついて汚れてしまった顔を上げて笑顔で挨拶してきた。
「もう…また土ついてる」
私はポケットからハンカチを取り出し、フローラの顔の土を拭う。
「えへへ…面目ないです」
照れくさそうに言うフローラだが、私の右耳のイヤリングに気づいたのか、急に目を輝かせる。
「あら、マスター!とっても可愛らしいイヤリングですね!しかも見たところ、神様から作ってもらったんですね!」
「あ、うん。実は…」
私はフローラに、インドラ様からこのイヤリングを贈られたことと、花の種類を知りたくて聞きに来たことを話した。
「なるほどなるほど!インドラ様…なかなか素敵なお花を選びましたね!あ、お花たちはみんなそれぞれの魅力があって素敵なんですけどね?」
「もちろんわかってるよ。ちなみにこれって何て花なの?」
「はい、エンゼルランプです」
「エンゼルランプ?」
「下を向いて咲く姿がランプみたいで可愛らしいでしょう?」
「確かに可愛い花だよね。インドラ様、何でこの花を選んだんだろう?」
「うふふ…花言葉ですよ」
まあ…そうだろうなとは思った。
でも私に向けてどんな花言葉を選んだんだろ?
それにインドラ様…わざわざ調べたのかな?
「エンゼルランプの花言葉は『あなたを守りたい』なんです」
「『あなたを守りたい』…」
「魔除けの加護までついてますし。きっとインドラ様は、マスターのことを何があっても守りたいんでしょうね」
フローラはまさしく、花のような笑みを浮かべて私に言った。
「他にも『幸福を告げる』『小さな思い出』といった花言葉がありますね。マスターの幸福を願う気持ちや、このカルデアにいる時間を神様として過ごす中での小さな思い出として…ってあれ?マスター?」
フローラが続けて何かを解説してくれてるような気がするが、ぼんやりとしか聴こえない。
だってさ…普段あんなに尊大で傲慢で自由で自信家でそのくせ不器用で物理的にも精神的にもなんか重い神様が私に贈った花言葉が…
『あなたを守りたい』?
…
…
ああああ何なんだよもう!!
そういうときはさ、もっとこう強気で強引な花言葉の花を選びそうな神様がさ、何でそんなにも健気な花言葉を贈ってくるわけ!?
普段とのギャップあり過ぎんでしょうが!!
インドラ様からの贈り物の意味を知り、顔から火を吹いて混乱している私を見て、フローラは初めこそ呆気にとられていたが、くすりと笑って呟く。
「エンゼルランプを選んだのは、マスターが暗闇に囚われないように、そばで光を灯し続けたいからなんですかね?」
〜おまけ〜
「おや、カルナ」
「先日は世話になった、ダヴィンチ」
「おやおや、わざわざ菓子折りを持って来てくれたのかい?」
ダヴィンチのもとを訪れたカルナ。
先日、マスターへ贈るつもりだったピアスをイヤリングに加工する際彼女の手を借りたため、謝礼としてお茶菓子の詰め合わせを持って来たのだ。
「常日頃から、お前がいてくれて何かと助かっているからな」
「随分褒めてくれるじゃないか」
「それから…もののついでに聞きたいのだが」
「ん?何だい?」
先程見かけた光景…この天才からなら何か答えが得られるだろうかと思い、質問するカルナ。
「耳飾りをつける位置…あれは何か意味があるのだろうか」
「位置?」
「先程マスターを見かけたのだが、右耳にしか耳飾りをしていなかった。ふと思い立ったが、日頃からインドラも左耳にしかつけていないようなのでな。何か意味があるのかと思ったまでだ」
カルナの言葉に思わずにっこりとした笑顔になるダヴィンチ。
おやおや…随分と大切にされているね。
「男性が左耳にピアスやイヤリングをつけることには『守る人』『勇敢』といった意味があるんだ。まあ古い話ではあるし、今はただのファッションとして使われているだけの場合もあるけどね」
「『守る人』に『勇敢』か。英雄神であるインドラらしさはある」
「そうだね、ぴったりだ」
「マスターはどうなる?見たところあの花のイヤリングは、インドラが贈ったもののようだったが」
「おやおや、それはまあ…随分と見せつけてくれるじゃないか、インドラ神」
「というと?」
「女性が右耳にピアスやイヤリングをつけることには『守られる人』『女性らしさ』という意味があるんだよ」
「なるほど。『守る神』に『守られる人』か」
「あ、花のイヤリングって言ったよね?それってどんな花だったか覚えているかい?」
「む?確かこんな形で…色はオレンジっぽいものだったな」
カルナが目の前の紙に、記憶を頼りにイヤリングのモチーフを描いていく。
それを見たダヴィンチは…
「くぅ〜!人の恋バナはやっぱり格別だ!疲れが一気に吹き飛ぶよ!」
超満面の笑顔である。
「…何の花かわかったのか?」
ダヴィンチの急上昇したテンションに、少しだけ引き気味のカルナ。
「おっと…失礼。これはエンゼルランプだね」
「ふむ、確かにランプの形には見えるな」
「その通り!そしてその花言葉は…」
「『守る』といった意味か?」
「ああっ!言われてしまった…。その通りだよ。エンゼルランプの花言葉は『あなたを守りたい』だ」
「『あなたを守りたい』か。飾り気のないまっすぐな花言葉だな」
「うん、確かにあの神が贈った花言葉にしてはちょっと意外かも。彼あんまり素直じゃないから」
「素直じゃないからこそ、かもしれんな」
「あはは。やっぱり人間臭い神だな」
『あなたを守りたい』という花言葉の花。
それを『守られる女性』という意味の右耳につけさせる…。
なるほど。
恐らくあの神は、マスターには花の種類や花言葉は伝えなかったであろうな。
面と向かって言えるのなら、贈り物にここまで意味を込めるという凝ったことはしないだろう。
いや、本来のインドラならばそれができてもおかしくない神ではあるはずだが…。
マスターと出会い、何か変化が訪れたのだろう。
不変の存在である神を変える。
オレのマスターも随分と神を絆したものだ…。
END