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責務を果たさんとする者

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

責務を果たさんとする者

「あ!見つけた!」

「こんなところにいましたか」

「あ、ヴァジュラ」

ふわりと私の目の前に赤い服の少年と、緑の服の少女が降り立つ。

インドラ様の神具、ヴァジュラたちだ。

「あら、雷神様の召使いさんたちね」

「貴方たちもレモネードはいかが?」

ジャックにナーサリー、ジャンヌ・リリィやバニヤンたちが、自分たちが売っているレモネードを差し出す。

「マスターに用があって来ただけです」

「ぼくたち暇じゃないからねー」

「それは残念です…」

「私に…用事?」

ナーサリーたちの言葉を軽く流すヴァジュラたち。

そして揃って私に向き直る。

「インドラさまが貴女の部屋でお待ちです」

「さっさと部屋に戻れー」

「…ごめん、ちょうど用事の最中で」

「はー?インドラさまよりも用事を優先するなんて不敬すぎ!処されたいのかー?」

「その用事とは何ですか?」

「…あれ」

少し離れたところを指さす。

ヴァジュラたちがそちらへ目をやる。

そこには…

「今回に限っては絶対に…ぜーったいに許しませんからねカーマ!!」

「チッ…しつこいですねこの女神は…ッ!!」

廊下のど真ん中でバトルを繰り広げているパールヴァティ女神とカーマ神の姿があった。

「うわー何だあれ」

「一体何を争っているのですか?」

「…カーマちゃんがパールさんの逆鱗に触れた」

一応経緯としては…。

カーマちゃんがお子様サーヴァントたちに紛れて売っていた特製レモネードが、実はカロリーが超絶高い代物だった。

それをパールさんが飲んでしまい、優美の女神として譲れないところに見事にクリティカルヒットしてしまい…

ブチギレたパールさんがカーマちゃんに八つ当t…いや、正当な怒りをぶつけている。←今ココ

というわけだ。

「しかし、それとインドラさまを待たせることは関係ない気がしますが」

「そーそー!ほっとけば済む話でしょ?」

「それが…パールさんの用事に付き合った矢先にこうなってさ…まだ終わってないのに、流石に放棄して行けないよ」

多分このバトルが終われば、パールさんの用事も終わるはずではあるけど。

「確かに、パールヴァティ女神を無下にするのはいろいろと不都合かもしれません」

「じゃあインドラさまはこれが終わるまで待たされっぱなしってことー?」

「重ねて申し訳ないんだけどヴァジュラ…パールさんとの用事が終わったら、すぐ部屋に戻りますってインドラ様に伝えてもらえないかな?私ここを動けないから…」

「仕方ありませんね」

「ぼくたちに命令できるのはホントはインドラさまだけなんだからなー?勘違いするなよー?」

「インドラさまのご機嫌によっては神罰が下るかもしれないことは、お忘れなく」

「覚悟はしておけよー?キシシッ」

「…肝に銘じます」

私の返事を聞き終えると、ヴァジュラたちは飛び去って行った。

「………はぁ…」

「おかあさん…雷神様に切り刻まれちゃうの?」

「いや、切り刻まれはしないと思うけど…雷のひとつは落とされちゃうかも」

「それは大丈夫よマスター。あの雷神様は働き者のマスターにひどいことはしないと思うわ」

「ナーサリー…」

「そうですよトナカイさん!トナカイさんはサボってここにいるわけじゃないんですから!」

「ジャンヌ・リリィ…」

「さっきの召使いさんたちも、きっとちゃんと説明してくれるはず。元気出して、マスター」

「バニヤンも…うん、ありがとうみんな」

お子様サーヴァントたちが揃って励ましてくれる。

胸がじんわりと熱くなる…。

ところで…早く終わってくれないかなあのバトル。

何なら早くインドラ様のところへ行きたいくらいなんだけどな…。

「ふんだ!シヴァに幻滅されればいいんですよ!」

「な…何ですってぇ!?」

…冗談抜きに。

〜2時間後〜

「今日は私に付き合ってくださり、本当にありがとうございました」

パールさんの用事も無事すべて終わり、パールさんが私にご丁寧にお辞儀をしてきた。

「いえいえ、お安い御用です。ではパールさん、私はこれで失礼します」

「はい、また」

私もお辞儀を返し、踵を返して自分の部屋へ急ぐ。

まさかあの後女神たちの喧嘩が2時間も続くなんて思わなかった…。

カーマちゃん、ここぞとばかりにパールさんを煽りまくって怒らせるんだから…。

でも、流石にインドラ様を待たせすぎた…。

怒ってるだろうな…。

とにかく…まずは謝罪しなければ。

そしてマイルームの自動ドアを開く…。

プシューッ

「インドラ様、お待たせして申し訳ありません!」

ドアが開くと同時に声を張り上げる。

当のインドラ様は…

「………随分と遅かったな」

いつもの場所…私のベッドに寝そべっていた。

ゆっくりとこちらを向き、明らかにいつもより低い声で答える。

やっぱり怒ってる…。

そりゃ怒るよな…2時間も待たせたんだもん。

「…遅くなって申し訳ありません」

自動ドアを閉め、その場で頭を下げる。

「面を上げよ」

「…」

インドラ様の言葉に、ゆっくりと顔を上げる。

「…何か、申し開きはあるか?」

「……インドラ様をお待たせしてしまったのは事実ですから、特に…ありません」

「………そうか」

遅くなった事情はちゃんとあるのだが、この際言い訳はできない。

一体どんな怒りの言葉が来るのか…。

「事情は聞いている」

「…」

「女神たちの…いや、正確には片方は女神ではないが…諍いに巻き込まれたそうだな」

「……はい」

「下手に止めに入らなかったのは賢明な判断だ…とでも言っておくか。女神同士の諍いなぞ、巻き添えを食らえば碌なことはない。お前のようなただの人間ならば尚更だ」

「この状況でインドラさまから褒め言葉をもらえるとは、光栄なことです」

「感謝しろよー?キシシッ」

「…」

ヴァジュラたちの声もどこか遠く聞こえる。

事情はわかってもらえたとしても…待たせてしまった事実に変わりはない。

表情を緩めることはできなかった。

「それで?」

「、…」

「いつまでそこに突っ立っている」

「…?」

「そばに寄れ」

「…え?」

「聞こえなかったか?神のそばに寄れ」

「!…はい…」

緊張で頭も舌も上手く回らないが、何とか返事を返してインドラ様のもとへ近づく。

そして靴を脱ぎベッドに腰掛けると、急に腕を掴まれ引っ張られた。

「…ッ」

ドサッ

ベッドに倒れ込む私の体。

自然と横向きに寝転ぶ姿勢になり、目の前には同じく横向きに寝転んでいるインドラ様。

「何を固くなっている」

「…」

「…もしや、神から神罰を落とされないかと怯えているのか?」

「……そうなっても仕方ないですから」

「…はぁ」

インドラ様がため息をつく。

「おいヴァジュラ」

「はい」

「なにー?」

インドラ様の呼び掛けに、控えていたヴァジュラたちが姿を見せた。

「お前たち…こいつを脅したな?」

「だってインドラさまを待たせるなんて不敬の極みでしょー?」

「インドラさまのご機嫌によっては神罰が下るかもしれない…と言っただけです」

「確かにこの神を待たせるなど不敬の極みだ。だがそれは己の責務を放棄し、挙句神からの呼び出しにも応じぬ不遜な者への警告にすぎん。たとえ神以外の神の依頼であろうと、責務を果たさんとする者を脅すものではない。以後肝に銘じておけ」

「、…」

「はぁーい」

「先走りしたようです。申し訳ありません」

「理解したのならいい、下がれ」

「「了解」」

揃って返事をした後、ヴァジュラたちは消えた。

『あの雷神様は働き者のマスターにひどいことはしないと思うわ』

ナーサリーの言葉が頭をよぎる。

体に入っていた力が少し抜けた気がした。

「…これでわかったか?この程度では神の雷で焼かれはせん、と」

「……はい…ありがとう…ございます」

安堵で声が震えて、途切れ途切れの言葉が出る。

その様子を見たインドラ様はまたひとつため息をつき、私の体を抱き寄せる。

「…え?」

いつもは自分の胸の中に包み込むように抱き寄せるのだが、今はその逆…私の胸に顔を埋めるように、私の体を抱きすくめる。

「あの…インドラ様?」

「何を呆けている?………撫でろ」

「!」

ついこの前、流れでこの神の頭を撫でてしまったことを思い出して思わず顔が熱くなる。

だが、早くしないとこの神から催促が来る。

手を伸ばして髪に指を通し、撫でる。

「それにしても…あいつらは暇なのか?数時間もの間何を争っていた?」

「あ、それは…」

私はインドラ様にすべての事情を話した。

「…何だそのくだらん理由は」

「私には何とも…」

「ま、お前は今回災難に巻き込まれただけだ…致し方なかろう……おい、手が止まっているぞ」

「あ、すみません」

「まったく…お前も暇を持て余しているのなら神を訪ねればよいものを。自ら使いを申し出る姿勢は感心するが、誰彼構わず依頼を引き受けるのは……だから手を止めるな」

「あっ…失礼しました」

「神がお前を呼びつけたら、すぐにそばで応じられる程度の心積もりで過ごすことだ。緊急事態ならばまだしも、ただ他の英霊どもと怠惰に過ごすようでは……おい、手」

「あ、はい…」

さっきからこの神様、頭を撫でる手がうっかり止まるたびに指摘してくるんですけど…。

かわi…ん“ん“ッ…

あざといなぁ…。

〜おまけ〜

「…げ、インドラ…」

「げ、とは何だ」

カーマがばったり出会ったのは、自身が体を失うきっかけを作った神…インドラだった。

早速今日は厄日確定ですか…。

「私が貴方にいい感情を持つわけがないじゃないですか」

「神は悪くないと何度言わせる。恨むのならシヴァとパールヴァティにしろ」

「とっくに恨んでますよ。それに…」

「聞きましたよ?ついにマスターさんにまで手を出したそうじゃないですか、このスケコマシ」

最大級の殺気を込めて、目の前の神を睨む。

「不敬千万ー!」

「口には気をつけるべきです」

「…確かに事実だが、何か文句でもあるのか?」

威嚇するヴァジュラたちとは裏腹に、余裕の態度で返答するインドラ。

その余裕がさらにカーマを苛つかせる。

「あるに決まってるでしょう?あの人間を堕とすのは私の役目。来たばかりのくせに掻っ攫って…」

「あの人間がお前ではなく神を選んだ…ただそれだけのことであろう?」

「ッ!!……あぁ…でも……ふふっ、マスターさんも結局は人間ですからねぇ…。たとえ貴方との約束だとしても、うっかり違えてしまう間違いくらい犯してしまうでしょうねぇ…」

「何が言いたい」

カーマは口元を歪め、笑いながら続ける。

「この前…マスターさんてば忙しさのあまり、貴方を随分と放置してたみたいですね」

「…お前とパールヴァティがくだらん理由で諍いを起こしていた、アレか?」

「あぁ、覚えてました?悪かったですねぇパールヴァティがうるさくて。でも貴方にはそんな都合は関係ないでしょう?」

「あぁ、神には関係のない話だ」

「そうでしょう?貴方のような神を待たせるなんて言語道断。さぞかし貴方のプライドにも傷がついたことですし、そろそろそばに置く人間を取り替えるのも…」

「あの人間が神のそばに戻る限り、神にとっては些事にすぎんからな」

「そうでしょう……って……はい?」

この神…何て言いました?

些事にすぎん…?

「ん?聞こえなかったか?」

「いや、聞こえましたよ…はい?え?貴方…マスターさんのこと怒ってないんです?長時間自分のことをほったらかしにしたのに?」

「だから言ったであろう?神には関係ない」

はいぃ!?

何ですかそれ…!?

あんなに他の神への信仰に嫉妬して目くじら立ててた神が…?

かつて自分の祭典をクリシュナに台無しにされてブチギレて大雨降らせた神が…!?

自分を数時間も待たせた人間のことを許したっていうんですか!?

そんな…。

あのとき、ヴァジュラたちに呼ばれたマスターさんを見て

『もしや…インドラをた〜っぷり待たせて機嫌を損ねたら、好感度ダダ下がりになって次の女に乗り換えるのでは?』

って思ってパールヴァティへの悪口のギアを上げて引き止めてたのに…。

そんな…じゃあ…

気が短いインドラに見限られて惨めにポイされた憐れなマスターさんに近づいて優し〜く慰めてじ〜わじわ堕としていく私の作戦は!?

完全に出鼻挫かれたってことですかぁ!?

「なるほど…つまり…」

「あえてパールヴァティを必要以上に煽り立て…あの人間の足止めの時間を稼いでいた…ということか?」

「!?」

鋭い眼光がカーマを射抜く。

ヤバいと思い逃げようとしたカーマだが…。

「案ずるな…逃がしはせん」

ズシャァッ

「きゃああぁぁ……ッ!?」

前触れすら感知させない神の雷が、逃げようとするカーマを直撃する。

消し炭にならないあたり、手加減はしているようだが、痛いことには変わりない。

バタッと床に倒れるカーマ。

「あ…貴方そんなに……心広くないでしょう…」

「何を言う。神は誰よりも寛大で慈悲深い神だ」

ふっと口元を緩めてその場を去るインドラ。

「…そういえばこの神…自分の信者には寛大なんでしたっけ……のわりには…何か丸くなりすぎ……がくっ」

END