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奇跡の絆を深める

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

奇跡の絆を深める

「あれ?これもしかして…」

レイシフト先の海の近く、浜辺を歩いていた私は波打ち際に何かを見つけた。

日の光に照らされて、きらりと光ったそれを拾い上げてみると…。

「やっぱり…シーグラスだ!」

シーグラス…またはビーチグラスと呼ばれる漂流物だった。

シーグラスとは、もともとは人間が海に捨てたガラスのゴミなのだが、それが波に揉まれたり小石にぶつかって削られたりして丸くなり、曇りガラスのような色合いになったもの。

『海の宝石』または『人魚の涙』なんて呼ばれることもある。

長い年月をかけて角が削られ丸くなるから『悲しみを癒す』という意味もある。

あと同じような削られ方をしたものがない、つまり同じ形がふたつとないことから『奇跡』や『運命の出会い』それに『絆を深める』なんて意味もあるらしい。

そんな意味を持つことから、インテリアやアクセサリーの素材として使われることが多い。

でも実際に拾ったのは今日が初めてだった。

私が拾ったのは、薄い水色のシーグラス。

実際に見ると柔らかい色合いで綺麗だな…。

「どうかしたか?」

「あ、カルナさん」

近づいてきたのは、今日のレイシフトメンバーのカルナさんだった。

浜辺を歩く私に付き添ってくれたからなのか、季節はまだ春だが夏霊衣に着替えている。

「それは?」

「あ、今拾ったんだ」

「…何かの石か?」

「シーグラスって言ってね…」

カルナさんにシーグラスについて説明する。

もともとはガラスのゴミだったから、いい顔をしないかもしれないけど…。

と、思ったのだが…。

「なるほど。人工物ではあるが、海のエネルギーを宿した宝石というわけか」

意外にも、カルナさんの評価は高めだった。

「…カルナさんもこれを宝石だと思う?」

「宝石自体、もとはただの鉱物だ。それを人間が美しいものであると判断し、装飾に使うようになっただけの話。このシーグラスも変わらないだろう」

「あ、確かに…」

「それに『奇跡の出会い』『絆を深める』とは…オレはなかなか好ましい意味を持つと思うぞ」

「そっか…」

きっと、わし様やアシュヴァッターマンのことを思い浮かべているんだろうな…。

なら、せっかくだ。

「カルナさんも探してみない?」

「オレもか?」

「要は同じものはふたつとない、この海で見つけた奇跡だからさ。別の形の奇跡が見つかるかもよ?」

「この海で見つけた奇跡…」

「気が乗らないならいいんだけど…」

「いや…ならばオレも探してみるとしよう」

「!うん、探そう!」

どうやらシーグラスに対して好意的な印象を持ったらしいカルナさん。

そうして私たちは、先程シーグラスを見つけた場所の周辺を重点的に探していった…。

カルデアに帰還後、何故かシーグラスの洗浄方法を知っていたエミヤが、私とカルナさんが拾ったものをすべて洗浄してくれた。

「終わったぞ二人とも。あとは水気をよく拭き取って乾かせばいい」

「ありがとうエミヤ」

「感謝する」

エミヤって…何なら知らないんだ?

そんなことを思いながら、綺麗になったシーグラスを受け取り部屋に戻る私。

プシューッ

「ようやく戻ったか」

「あ、インドラ様」

部屋に入ると、私のベッドでインドラ様がくつろいでいた。

「レイシフトに行っていたと聞いたが」

「はい、ただいま戻りました」

私は持っていたシーグラスを置くために一度デスクへと向かう。

「ん?何だその石のようなものは」

「レイシフト先で見つけたものです」

チェストの中から空いた小瓶を取り出し、集めたシーグラスたちを丁寧に中に入れていく。

小瓶をデスクに置くと、シャラシャラッと小気味よい音を立てる。

「石にしては随分軽やかな音がするな」

「はい、これは…」

インドラ様にシーグラスについて説明する。

「長い年月の間、海を漂った成れの果て…か」

「もとは人間が海に捨てたガラスのゴミではあるんですけどね」

「一度不要と手放したものが時を経て姿を変え、再び価値を見いだされる…人間の営みにおいてはよくあることであろう」

「そうですね…見た目が綺麗だから注目されたのもありますけど、海を長い間漂って削られて丸くなった過程から、悲しみを癒す海のエネルギーが秘められていると言われているくらいですからね」

「神は特に否定はせん。年月というものはそう馬鹿にはできんものだからな。その小さな欠片に海の持つエネルギーが宿ったとしても、何ら不思議なことではない」

「…」

「何だその意外そうな顔は」

「…正直に言いますと、くだらないと切り捨てると思っていました」

「切り捨てはせん。自然の生成物か人の手により作られたものかの違いはあれど、お前たちが砂浜に落ちている貝の殻を拾い、それを飾りに使うことと何の違いがあるという?」

「あ、確かに…」

言われてみたらそうだ。

何なら貝殻も、宝石と同じように宝石言葉がついているくらいだし。

貝殻には『美しい契り』という宝石言葉がある。

たとえ自然のものでも人工物でも変わりないかもしれない。

「『悲しみを癒す』か…」

「え?」

瓶の中のシーグラスを見つめるインドラ様。

「鋭く尖った透明な破片が波や岩により削られ丸みを帯び、曇った色となる…年月を経て悲しみが癒えることを言いたいのであろうが、まるで苦行を経て澄み切った心が曇っていく様のようでもある」

「…なるほど」

インドラ様、なかなか想像力が豊かだな。

もちろんいい意味で。

「曇るのは空だけで十分であろう」

「…苦行をしなくても、人間が生きていく上で苦しみは付きものですから」

「わかっている。だからこそこの小さな欠片に癒しを求めるのであろう」

あまり興味ないかと思ったけど、インドラ様にも思うところがあるんだな。

もとは人間が作ったものなのに。

まあインドラ様…人間味がある神様だから、完全には理解できなくても人間の機微を何となく感じ取ってはいるんだろうな。

でもこのシーグラスに込められた意味は、そんな悲しいものだけじゃないんですよ。

「シーグラスは…同じ形はふたつとないって言われているんです。海を漂う中で、まったく同じ削られ方をしたものはひとつもないですから」

「それは当然であろう」

「人間も同じではないでしょうか?」

「…人間?」

「神様から見た人間は皆同じに見えるかもしれませんけど、生きる上でまったく同じ傷がついて、まったく同じ人となりになった人はいません。同じ人間なんてひとりもいないですから」

「…」

「それに…シーグラスは癒しの意味だけではありませんよ」

「…というと?」

「『奇跡』『運命の出会い』『絆を深める』」

「!」

「同じ形がふたつとないものに出会える…当たり前のように思えますが、それは奇跡ですから。だからポジティブな気持ちにさせてくれる意味合いもありますよ」

「…」

とは言ったものの…。

人間が傷つくことをよしとしない神様は、人間がひとりひとり違うものになっていくことを肯定的に捉えているのか怪しいところでもあるな…。

さて…どう来る?

「奇跡…絆…」

ん?何か呟いてる…。

「なるほどな。つまり今のお前は『奇跡の出会いの中で絆を深める』その最中というわけか」

「え…まあ確かにそうですね」

「言い得て妙だ。何故なら、神々の王であるこの神がこの星見台に現界していること自体が『奇跡』そのものだからな」

「そう…ですね」

英霊召喚自体が奇跡なのに、本来英霊ですらない本物の神様が現界してるんだからな。

『奇跡』どころの話じゃない。

「そしてお前はその中でも特に『奇跡の出会い』を経験した人間だ。この神々の王と『絆を深める』ことが許されたのだからな」

「!」

そばに座る私の頬に手が添えられる。

そして…

「ん…ッ」

インドラ様により、唇が塞がれた。

そしてすぐに唇を離し、また唇が触れてしまいそうな距離でインドラ様が囁く。

「常に澄み切った欠片であれ…とは今更言えた話ではない。だが…」

「人の波に揉まれ、傷つき打ち上げられたお前を拾い上げるのは神だけで十分だ」

〜おまけ〜

「ん?何だこのくすんだ色の欠片は」

「石…じゃねえな。何だこれ?」

先日のレイシフトにて、マスターと共に浜辺で探し回ったシーグラスを、ドゥリーヨダナとアシュヴァッターマンに見せているカルナ。

だが二人からの反応は芳しくない。

「シーグラスと言ってな…もとはガラスの破片が海の波や岩によって削られ、丸みを帯びたものだ」

「何だやはりガラスの破片ではないか!何故このようなガラクタを大量に集めて来たのだカルナよ!」

「まあ丸っこいしいろんな色があるから、首飾りとかには使えそうではあるけどよ。何でわざわざ集めて来たんだ?」

忌々しそうにシーグラスを見つめるドゥリーヨダナと、不思議そうに見つめるアシュヴァッターマン。

そんな二人に、カルナはマスターから教えてもらった意味を伝える。

「シーグラスは同じ形はふたつとない。それ故に『奇跡』『運命の出会い』『絆を深める』といった意味を持つ」

「「!」」

二人の表情が変わり、何かを考えるようにシーグラスを見つめ出した。

カルナは続ける。

「オレはそれを聞いて、真っ先にお前たちのことが思い浮かんだ。たとえどんな結果に終わり命を散らした生前であろうとも、お前たちに出会えたのは『奇跡』であり、まさに『運命の出会い』だった」

「カルナ…」

「お前…」

「ちなみにこれは、長い年月の間海を漂ったことから『海の宝石』または『人魚の涙』とも呼ばれている。オレにとっては、ガラスの破片の成れの果てであろうと、それだけの意味さえあれば宝石にも等しいと思うのだが」

「…」

「…」

「人魚が涙を流すほどの感動はないがな」

自分が価値を感じたからと言って、この二人も同じ思いとは限らない。

しかしカルナからすれば、今語ったのはまぎれもない本音。

不要ならば、ひとつの思い出として自分の部屋にでも置いておくとしよう…そう考えたカルナ。

「カルナよ!まーったくお前という奴は!お前という奴は…ッ!!」

「この野郎…何泣かs…いや、今更になって何水臭いこと言ってんだよ!」

「水臭い?しっかり洗って乾かしたはずだが…」

「そういう意味じゃねえよ!!」

「グスッ…そうかそうか!やはりお前さんはいつまでもわし様の心強い味方だ!」

人魚はさておき…カルナの想いを聞き、うっかり涙を流しそうになるアシュヴァッターマンと、すでに嬉し涙に塗れているドゥリーヨダナではある。

「そうか…オレのために涙を流してくれるのか」

「ばっ…!だから泣いてねえよ!」

「お前さんがそうもわし様たちを想ってくれるのならば、たとえ小さなガラスであろうとそれは『宝石』に違いない!わし様が身につけるには地味ではあるがな!」

「いや、それ言っちまうのかよ旦那!?」

「ちなみにマスター曰く、アクセサリーの素材として使われることが多いらしい。加工すればいいものはできそうだが」

「そうなのか!?ならば善は急げだ!加工を依頼するとなるとダヴィンチあたりか?すぐにでも我ら三人の絆を作ってもらおうではないか!」

「よっしゃ来た!おらお前も行くぞカルナ!」

予想外の二人の喜びように、しばし呆然とするカルナだったが、アシュヴァッターマンに背中をバシッと叩かれ引き摺られていくその表情には…

「ダヴィンチも多忙だ。無理強いはするな」

まさにシーグラスの色合いような、柔らかな笑みが浮かんでいるのだった。

END