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天界の主と蒼天の味を

Fate Grand Order インドラ&女夢主 — www.pixiv.net · All chapters

天界の主と蒼天の味を

ピコンッ

「ん?」

朝…身支度をしていると、私の端末に通知が入った音が聞こえてきた。

差出人はエミヤだった。

『注文の品が入った。冷蔵庫にとってある。』

私はそのメッセージに返信する。

『ありがとう。助かりました。』

送信…と。

「朝から何だ?」

昨日から私の部屋に居座り、ベッドでくつろいでいたインドラ様が話しかけてきた。

「緊急の連絡じゃありませんよ?」

「尚更だ。誰からの連絡だ?」

何かこの神様、ヤキモチ妬きの彼女みたいなこと言ってくる…。

「エミヤです。お菓子の材料が入ったと教えてくれました」

「…この前のか?」

「はい」

この前…と言っても数日前、私が以前作った青空を模したゼリーを再度作ろうとしたのだが、生クリームの在庫が切れていて作ることができなかった。

ちなみにその時は、別の材料を使って『星空』のゼリーを作って事なきを得た。

そしてたった今、切らしていた生クリームが入ったと連絡が来た…というわけだ。

「ほう…ならばようやく『青空』が作れると」

「はい」

ピコンッ

また端末の通知音が鳴る。

「今度は何だ」

「エミヤですね。お礼のメッセージを送ったのでその返信で………」

『お礼』…自分で発した言葉で、あることを思い出した私。

「ん?どうした?」

「…確認なんですが、インドラ様」

「何だ」

「この前アルジュナからもらったお菓子…何かお返しはされたんですか?」

アルジュナはホワイトデーで、手作りのお菓子をインドラ様に贈っていた。

いろいろあった…いや、あり過ぎたがインドラ様に喜んでもらうことには成功した。

ところでインドラ様は…アルジュナに何かお返しをしたのだろうか?

ふとそんなことを思ったのだ。

「………」

「インドラ様?」

この反応…さては考えてなかったな?

それか考えてはいたけど…。

「勘違いするな。神々の王が、実の息子への返礼を忘れるはずがなかろう。ふさわしい品を選ぶのに多少の時間を要しているだけだ」

いいものが思いつかなくて悩んでいるか…。

なるほど、後者だったか。

「目星をつけているものはあるんですか?」

「…我が息子に、半端な物は贈れん」

目星もついてない…か。

この神様…私から言い出さなかったら、近い内に巻き込んで一緒に考えさせようとしてたのでは?

アルジュナの贈り物は手作りのお菓子。

私なら同じく手作りのお返しを用意するけど…。

手作り…インドラ様からしたら無縁だ…。

でも…あれならもしかしたら…。

「あの、インドラ様」

「何だ?何か思い浮かんだか?」

端末を操作して、あるものを見せる私。

「いっそのこと…これはどうでしょう?」

「で?着いたはいいが、ここは何だ?」

「インドラ様、カルデアの厨房に入ったときに狭そうにしていらっしゃったので、場所を変えてみようと思いまして」

「…まあ確かに頭につく心配はないが」

「ならよかったです」

私とインドラ様がいる場所。

それはシミュレーター室ではあるのだが、インドラ様があまり窮屈な思いをしなくて済むように、少し天井に余裕があるキッチンを用意した。

ただシミュレーターの中には、それらしきものが登録されていなかったので、BBちゃんにお願いして弄ってもらった。

よりによってこんなとこを選ぶなんて、BBちゃんも何というかなぁ…。

「今回の予定の確認ですが」

「あの青空のゼリーをインドラ様と作るってことでいいんだよね?」

このシミュレーターのキッチンに来た理由…それはここで、アルジュナへのお返しを作るため。

私やヴァジュラももちろん手伝うが、インドラ様ご自身が作る…それが私からの提案だった。

「…まさか神自らが菓子を作るとはな」

もちろんインドラ様は初め『何故この神がそのようなことをせねばならん』って言ってたけど『インドラ様が支配する空をインドラ様自らの手で、しかも息子のアルジュナへ宛てて作ることには、れっきとした意味が生まれるのでは?』って言ったら、ちょっと考えてすぐに了承してくれた。

「そろそろかな…」

「まだ何かあるのか?」

プシューッ

「お待たせs…え?インドラ神?」

「!?…アルジュナ?」

「いらっしゃいアルジュナ」

シミュレーター室に入ってきたのはアルジュナ。

そう…このお菓子作りは事前にアルジュナに声をかけていたのだ。

『青空をモチーフにしたお菓子を作るんだけど一緒に作らない?』と誘ったところ、見事に興味を持ってくれたアルジュナは二つ返事でOKしてくれた。

「おい…どういうことだ…」

まさかお菓子を贈る相手のアルジュナが来るとは思わなかったようで、動揺した様子で私を見るインドラ様。

アルジュナも、まさかインドラ様がいるとは思わなかったらしく、開いた口が塞がらない様子。

「黙っていてごめんなさい…二人とも」

私はまず二人に謝罪をする。

そして今回独断で考えた意図を説明する。

「贈り物のお返しに、青空をモチーフにしたお菓子を作ってみては?とインドラ様に提案はしましたが…インドラ様とアルジュナが一緒に作るのはどうだろうか?と考えたんです」

「、…」

「私とインドラ神が…一緒に?」

「うん。アルジュナをお菓子作りに誘ったときに言ってたよね?『空のお菓子を作っていれば、インドラ神をもっと喜ばせることができたかもしれない』って」

「!?」

「マ…マスター!?」

「それもいいけど、そうしたら一方的に贈るだけになっちゃうし、インドラ様もアルジュナへの贈り物に悩んでた様子だった…。ならただ作るだけじゃなくて、一緒に作業をすることで、ひとつの思い出ができるんじゃないかって思ったんだよ」

「「…」」

「もちろん…気が進まなければ、今退席していただいても構いません。その場合はお約束通り、責任を持って私がひとりで作ります」

もともとこの青空のゼリーは、インドラ様に作って献上するつもりではあったから。

もし二人が一緒に作ることを躊躇うなら…。

「…やらせてください、マスター」

「!」

「青空を模したお菓子を…インドラ神と共に作ってみたいです」

「…ッ!?」

少しの沈黙の後、アルジュナがはっきりとした声で私に言った。

「差し支えなければ…インドラ神にも助力をお願いしたいのですが…いかが、でしょうか?」

ちょっと緊張しているのか…固い声でインドラ様にも問いかけるアルジュナ。

対するインドラ様の返答は…。

「…そこまで言うなら、仕方ない」

「…ッ!!」

インドラ様も少し声が固い気がするが、どことなく表情が綻んでいるようにも見える。

「ただし…この菓子の作り方を知っているのはお前だけだ。サポートは欠かすでないぞ?人間」

「もちろんです」

「よかったねーアルジュナ」

「いつまでそこに立っているおつもりですか」

「!…ええ、それではマスター…サポートの程をどうかよろしくお願いします」

「うん!」

入り口で突っ立ったままだったアルジュナが、こちらへ合流してきた。

そして親子による、青空作りが始まった…。

〜数時間後〜

最後の仕上げとしてゼリーを冷やし固める。

これが固まれば、完成だ。

「そういえば、マスター」

「ん?」

「シミュレーターのキッチンのようですが、随分と動き慣れていらっしゃいますね」

「…過去に訪れた民家の厨房か?」

「ああ…これ実は…」

「私の家なんだ」

「は?」

「えっ!?」

「「えーっ!?」」

そう、このキッチン…。

BBちゃんに作ってもらったのだが、一体どんな嫌がらせ…いや悪戯なのか…。

あろうことか、私の家のキッチンの間取りをそのまま再現したものをお出ししてきたのだ。

〜回想〜

『まったく…BBちゃんはそんな都合のいい便利屋じゃないんですー!』

『万能無敵なBBちゃんじゃなかったの?』

『それはそれ!これはこれです!まあ、センパイの言う事はちゃんと聞いてあげるBBちゃんではありますよ?で・す・が!』

『ですが?何?』

『デザインはBBちゃんにぜーんぶお任せしてくれるとお約束してくださるなら!そのお望み、叶えてあげてもいいですよ?』

『え?うんまあ…脱出困難なギミック仕掛けたらBBちゃんの方に雷が落ちるから、そういうのなしならいいと思うよ?』

『んもー!雷とかいう馬鹿みたいな出力の電気…まさにAIの天敵じゃないですかぁ!はぁ…仕方ないですからギミックはなしにしてあげますよぉ…』

『つける気満々だったのかよ…』

『で・す・が♡デザインはちゃーんとBBちゃんプレゼンツにして差し上げますから…楽しみにしててくださいね?センパイ?』

『なーんかいちいち不穏だな…』

〜回想終わり〜

「どうやって私の家の記憶なんて覗いたのか…いやまあBBちゃんだし…ってあれ?アルジュナ?」

「ここが…マスターの…家…」

「ん?どうした?」

ガタッ

「うわっ!?何!?」

「おい、どうした!?」

「これは…これは今すぐマスターのご家族に挨拶をしなくては!」

「は!?いや何言ってるの!?」

「落ち着け我が息子よ…これは部屋の再現だ。人は一切おらんぞ」

「ごめんください!どなたかご家族の方はいらっしゃいますでしょうか!?」

「ちょっとアルジュナ!?だからこれシミュレーターだってば!」

「アルジュナ…話を聞かんか…」

「軽く雷を落としましょうか?」

「じゃあやろう!せーの…」

「やめろお前たち!!」

キッチン回りと一緒に再現された席に着いて休憩しながら、まあわちゃわちゃすることになった…。

そしてしばらくして…。

「そろそろ固まったはずだけど…」

冷蔵庫からゼリーの型を取り出し、中身を見る。

「どうでしょうか?」

「うん、大丈夫そう」

「お皿はここにあります」

「ありがとう」

さて…上手く型から外れてくれるか…。

型から抜けやすいように、温めたタオルで型を包んで軽く押さえる。

型の上にお皿を被せて、一気にひっくり返す。

そしてお皿を置いて型をそっと浮かせていく…。

お願い…どうかこの親子にいい思い出を…。

ゆっくりと型を上げると…。

「あ…」

「!」

「これは…」

そこにあったのは…鮮やかな青空。

生クリームで作った雲が浮かび、まるで本物の青空がホールケーキの形にくり抜かれたようだった。

青の着色も上手くいったようで、白い雲に色がつくことなく『空』を演出している。

「よかった…上手くいった…」

「本当に…小さな空がここにあるようですね」

初めて空のゼリーを見たアルジュナは、感嘆の声を漏らしていた。

先程まで神であり父でもあるインドラ様とぎこちなく、それでもどこか楽しそうに作っていた、完成品を見たことがないお菓子…。

それが今こうして…誰が見ても空とわかるものに形を成している。

大きな仕事を終えた達成感だが、これから皆で切り分けて食べることになっている。

「インドラ様」

「何だ」

「食べるなら…この場にもうひとり呼んでもいいでしょうか?」

「!…ああ、呼んで来い」

「では、一旦失礼します」

インドラ様からの了承を得て『もうひとり』を呼びに行く私。

「じゃー切り分けちゃおう!」

「6等分ですね」

ヴァジュラたちが綺麗な包丁捌きで6ピースに切り分けていく中、アルジュナはインドラに尋ねる。

「もうひとり…とは?」

「ここには神の息子は二人いるからな」

「!オルタの…私…」

「そうだ。たとえ異聞の存在であろうが、神の息子であることに変わりはない」

「…はい、そうですね」

プシューッ

「お待たせしました」

「…お邪魔…致します」

「全員分用意できました」

「お茶も淹れたよー」

「ならば…席に着くとするか」

「はい…失礼致します」

私がアルジュナ・オルタを連れてシミュレーター室に入ると、インドラ様の一声で全員が席に着く。

ヴァジュラたちはともかく、完全に親子水入らずの場に、部外者の私がいていいのだろうか…。

「何を余計なことを考えている。神と息子たちとの茶会を外す気か?」

「今回の功労者はマスターです。どうか私からもご同席をお願いしたい」

「…私も、いてくださるとありがたいです」

「……はい、それでは有難く」

インドラ様とアルジュナたちに言われ、有難く同席させてもらうことにした。

「美味しい!」

「ゼリーはさっぱりしていますね」

「生クリームの雲の甘さが、ちょうどよいアクセントになっていますね」

「…優しい味がします」

ゼリーを食べて、各々に感想を上げていくアルジュナたちとヴァジュラたち。

「お前は食わんのか」

皆の様子を見ていたせいで、ひとり手をつけていなかった私にインドラ様が声をかける。

「…いただきます」

私も一口…ゼリーを口に運ぶ。

くどすぎない、さっぱりとしたゼリー。

そこにふんわりと甘さが広がる。

「…美味しい」

ほんのひとときの親子の思い出が詰まった、優しい味だ。

「…ん」

夜…部屋で寝ていると、何やら息苦しい感覚で目が覚めた。

「ん?起きていたか」

「…今起きました」

インドラ様が布団に潜り込んで来たようだ。

後ろから抱きついて、私を抱き枕にしている。

起きていたわけではなく『今起こされました』と嫌味を込めて返してやる。

が、当のインドラ様は気づかないらしい。

「…昼間は世話になった」

「…え、どうしたんですか?」

「…神とて礼くらいは言う」

貴方みたいな神様が急にお礼言い出したら、普通びっくりするでしょうが…。

昼間…まあ言いたいことはわかる。

「…喜んでいただけたのなら、何よりです」

「菓子作りなぞを提案してきた暁には、一体何を考えているのか疑ったものであるが…」

「…」

「…悪くは、なかった」

部屋も真っ暗だし、ましてや後ろから抱きつかれてるせいでインドラ様の表情は窺えないけど…。

きっと…笑ってるんだろうな…。

「料理をする神様はいるかもしれませんが、親子でお菓子作りをした神様はいないかもしれませんね」

「フッ…まったくだ。だが、前例がないからこそ神の功績のひとつとして輝くというもの。我が息子たちにも神の空の偉大さを示す、いい機ではあった」

今日は随分とご機嫌だな…。

まあ…そりゃそうか。

「それから…」

「はい」

「お前の家の厨房は…質素な作りであったな」

「え…急に悪口ですか?」

この神は急に何を言い出すんだ?

今までのほんわかした雰囲気返してください。

「私が庶民だって忘れてませんか?」

「忘れるものか。あれでは神のアイラーヴァタは入れそうにないな」

「アイラーヴァタが入れるのは、もはや豪邸と呼ぶんですよ」

「わかっておる。だからこそだ」

「何がですか?」

「お前の家を訪ねるのは随分苦労しそうだと思ったまでだ」

「…え?」

私の家を…訪ねる?

「何だその不思議そうな返事は。お前は神と、決して切れん縁を結んでいる。ならばお前の家に押しかけたとて異論はあるまい?」

「え…」

「まさか…元の生活に戻れば神とは二度と会えんとでも思っているのではあるまいな?」

「えっと…インドラ様?」

「…ま、しばし楽しみとして待つことにするか。神々の王であるこの神を拝謁する機会が与えられる幸福な人間ども…即ち、お前の家族との面会をな」

「か、家族…!?」

こ…この神…。

私の家族に会う気満々じゃないですか…。

全部終わっても、当たり前のように着いてくる気でいるインドラ様に、すっかり目が覚めてしまった私なのであった…。

END