それ相応のものとは
それ相応のものとは
プシューッ
「マスターさーん」
「ん?カーマちゃん?」
マイルームでくつろいでいると、カーマちゃんが部屋にやってきた。
「どうしたの?」
足を踏み入れてすぐ、部屋の中を見回して何かを確認しているカーマちゃん。
「ふふ、インドラはいないみたいですね」
あ、なるほどね…。
「今日はね。それよりどうしたの?」
「あ、そうそう。赤い弓兵さんが、おやつにパフェを作ったみたいなんですよ。よかったら一緒に食べに行きませんか?」
「パフェかぁ…今日は何だろ?」
「抹茶アイスと桜の餡子に生クリームが乗ってて…白玉団子がトッピングされたやつでした」
「美味しそう!行く行く!」
「(勝った…!)うふふ、なら行きましょう」
小腹が空いてきたところだったし、ちょうどいい。
にこにこと笑顔を浮かべるカーマちゃんと一緒にマイルームを出る。
「カーマちゃん、また特大頼んじゃうの?」
「も、ものによりますよぉ…食べきれなかったらマスターさんにも手伝ってもらいますからね?」
「しょうがないなぁ」
などと言いながら、カーマちゃんはいつも特大サイズのパフェをペロリと平らげている。
私もわかった上で、からかって言っているだけではある。
そんな雑談をしながら食堂を目指していると…。
「あら、マスターさん…に、カーマ…」
「あ、こんにちはパールさん」
正面からパールさんが歩いてきた。
ちょっと気になって隣のカーマちゃんを見ると…。
「チッ…」
あぁ…ご機嫌が…。
「何です?私たち今急いでるんですけど?」
パールさんを忌々しそうに睨むカーマちゃん。
「わ、私は別にお邪魔する気はありませんよ!ただ貴女がマスターさんに変なことをするのなら…話は別ですが」
カーマちゃんに睨まれて一瞬困惑するも、毅然とした態度でカーマちゃんを見つめるパールさん。
「大丈夫ですよパールさん。今から一緒におやつを食べに行くだけなので」
「あ、そうでしたか。でしたら大丈夫ですね」
「マスターさんの言葉はすぐ信用するくせに、私のことはすーぐ疑うんですねぇ」
「貴女は前科がいくつもあるからです!」
「あの…二人とも…」
せっかく治まりかけたのに、また空気がギスギスしてきてしまった。
何とか宥めようとしていた、その時…。
「魔だ…魔の匂いが、する!!」
「わぁっ!?」
ドンッ
「「!?」」
突然『何か』が私の後ろから猛スピードで突進してきた。
そしてその勢いで吹き飛ばされる私…。
ドサッ
少し離れたところまで吹き飛び、倒れる。
「うッ…」
「む?今…何かにぶつかったか?」
「「マスターさん!?」」
「!?…マスター?」
私のそばに慌てて駆け寄ってくるカーマちゃんとパールさん。
そして私にぶつかった…カーリーさん。
「大丈夫ですか!?マスターさん!?」
「お怪我はありませんか!?」
カーマちゃんとパールさんに抱き起こされた私だったが、触られた左腕に激痛が走る…。
「うッ…痛…ッ」
「た、大変!医務室!医務室に運ばなくては!」
〜医務室〜
「骨にひびが入っている」
「まじかぁ…」
ピオ先生がレントゲン写真を見せながら説明する。
そして私の後ろで付き添っている三柱の女神たちをジトッとした目で睨む。
「よりによって女神の諍いに巻き込まれたのか。不運な事故だったな、マスター」
「申し訳ありません…」
「この女神たちと一緒にされるのは癪ですが…流石にマスターさんを巻き込んで怪我をさせてしまったのは事実です」
「…すまぬ、マスター」
ピオ先生に睨まれて、しょんぼりと俯いている女神たち…。
「大丈夫ですよ!悪気があったわけじゃないんですから!」
「悪気がなくとも、お前の日常生活に支障をきたしたのは事実ではある。僕がいいと言うまで、レイシフトは厳禁だとダヴィンチに伝えておくからな」
「先生…いくら事実だからって、あんまり落ち込ませるようなこと言わないで…」
せっかくフォローしようとしたのに…。
痛み止めを打ってもらった腕が、またじわじわと痛み出してきた…。
〜マイルーム〜
プシューッ
「遅かったな」
「あ…インドラ…様…」
医務室から部屋に戻ると、インドラ様が私のベッドに腰を下ろしていた。
何だかいつもより機嫌が悪そう…。
「事の顛末は聞いた」
「あ…もう、ご存じだったんですね…」
「腕を負傷したそうだな」
「…はい」
「不運な事故…と言う他あるまい」
「…はい」
インドラ様はため息をついて続ける。
「だが、命があっただけまだ幸運だ」
「まあ…そうですね」
カーリーさんがぶつかってきたなんて、下手したらぶつかった衝撃で死…もしくは吹き飛ばされた場所が悪ければ死…だもんな。
死しか選択肢がないところを負傷で済んだ…確かに幸運ではある。
「…それで?不自由はないか?」
「片腕なのでまだ何とか…なるとは思います。ただ実際にいつもの生活を送ってみないと、何とも言えないのですが」
「はぁ…まあよい。様子を見てヴァジュラたちに補佐をさせる」
「えっ?」
「何を驚く?今回お前を負傷させたのは神の身内ともいえる女神どもだ。ならば、神々の王としてそれ相応の支援は欠かすわけがなかろう」
「あ…ありがとうございます…」
この神様…神々の王っていう肩書があるから当たり前ではあるかもしれないんだけど、上に立つ者としての責任はしっかり果たそうとするんだよな…。
プシューッ
「大旦那様ー!」
「ん?」
自動ドアが開いたと思うと、おにぎりのお皿を抱えた大黒天たちが入ってきた。
「昼食のおにぎりをお持ち致しましたー!」
「大旦那様は腕を負傷されたとお聞きしました。おにぎりならば片手でも食べられますので、たくさんご用意させていただきました」
「ありがとう…」
「それから…こちらをどうぞ」
大黒天が差し出したもの…それは…
「お茶?しかも玉露…」
玉露の茶葉だった。
しかもめちゃくちゃ大量に。
「これ…どうしたの?」
「私どもも詳しくはよくわからないのですが、私どもの旦那様…大黒天様から、こちらを大旦那様に差し上げるように、とお告げがありまして」
「おにぎりにもよく合う緑茶です。ご一緒に淹れさせていただきますね」
「あ、ありがとう…大黒天様から、か…」
そう言うと、大黒天たちがお茶を淹れ始めた。
ん?あれ…ちょっと待て。
大黒天って…確かインド神話における…。
チラッとインドラ様の様子を窺う私。
「…受け取っておけ」
インドラ様はそれだけ言うと、自分のスキットルの酒を飲み出した。
「どうぞ大旦那様!」
「あ、ありがとう…」
大黒天が淹れたてのお茶を、テーブルに置く。
「では、私どもはこれで失礼致します」
一礼して、マイルームを出ていった。
「…奴なりの礼儀だ。それは気にせず受け取っておけばよい」
「…そうします」
ならまあ…有難くいただいておこう。
私はおにぎりをひとつ、手に取って食べる。
そういえば…随分落ち込んでたけど、カーリーさんたちは大丈夫だろうか…。
「ああ、あの三柱の女神どもだが…」
「!」
「軽く仕置きをしておいた」
「…ッ…えっ!?」
思わずおにぎりを喉に詰まらせかける。
仕置き?仕置きって言った!?
一体あの女神様たちに何したんですか!?
「事故とはいえ、今回の案件は人間を見守る女神の責務を放棄したともとれる。だが内二柱はシヴァの嫁…流石の神も迂闊な手は下せん。よって…軽い仕置き程度に済ませた」
「?」
「気になるのなら、廊下を見ればよい。今日明日は猛省の最中である女神の姿を拝めるぞ」
「…ちょっと気になるので、確認してきます」
おにぎりをひとつ食べ終わった私は、一旦席を外しマイルームを出た。
…
…
プシューッ
「インドラ様!?」
「ん?見てきたか」
「いや、あの…いいんですかアレ!?」
「たった2日だ。お前に怪我をさせた罰としては軽いものであろう」
「女神様ですけど…本当にいいんですか?」
「雷を落とすより遥かにマシであろう」
いや、確かに雷落とされることを考えたらかなりマシかもしれないけど…。
人…いや神様によってはかなりの辱めに値するんじゃない!?
「シヴァ神…お怒りになりません?」
「あれで怒るのならば、お前にそのようなものを贈りつけるものか」
テーブルに置かれたお茶に目をやるインドラ様。
「お前の方からあの二柱を咎めなければ、奴も怒ることはせんであろう。だがあの仕置きは神がつけさせたけじめ…と言えばわかるか?」
「けじめ?」
「神の女に怪我をさせた…ならばたとえ女神であろうとそれ相応のけじめはつけさせる」
「…ッ!!」
何の躊躇いもなくさらりと言ってのけるインドラ様に、顔から上半身にかけて一気に熱が集まっていく私なのであった…。
〜おまけ〜
「ん?」
廊下を歩いていたアシュヴァッターマンは、衝撃の光景を目にした…。
「はぁ!?な、な、何をなさっていらっしゃるのですか!?パールヴァティ様にドゥルガー様!?」
「見ての通りです…」
「『これ』に書いてある通りです」
「私もいるんですけど…」
パールヴァティ、ドゥルガー、カーマの三柱の女神たちが、首から看板をぶら下げて、一列に立ち尽くしている…。
その看板には『私は人間に怪我をさせた女神です』と文字が書かれている。
「一体何があったのです!?あとこんな仕打ちさせた奴は一体…」
「インドラです」
「あ…まあパールヴァティ様たちにここまでできるのは確かにひとり…いや一柱しかいねえか」
「当女神たちはこの看板の通り…マスターに怪我をさせた罰として、ここに立っているようインドラより命令を受けました」
「今日と明日で済ませてくれたあたり、まだ十分手心はありますが…完全に私たちの過失なんです」
なるほど…。
マスターが怪我をしたってことは、ついさっき情報が回ってきて聞いてはいた。
多分マスターがパールヴァティ様たちの諍いに巻き込まれて怪我をした…そしてそれに怒ったインドラ神が仕置きをした…と。
だがそれにしてもこの状況…あのお方が知ったら大層お怒りになるのでは?
「いくらインドラ神の怒りを買ったとて、神妃様たちにこの仕打ち…大丈夫なんでしょうか?」
「罰は罰…甘んじて受けるつもりです」
「伝達者であるマスターを、命の危険に晒してしまったことは事実。インドラの怒りは極めて正当なものです」
「この女神たちと並べられるのは屈辱ではありますけどね」
仮にインドラに抗議したとて、さらに怒りを買ってしまうのは明白。
それに今回の件…確かに女神たちの過失ではある。
これ以上は何も言えないと判断したアシュヴァッターマン。
「そういうことでしたら…。どうか…ご辛抱を」
「はい、ありがとうございます」
女神たちに一礼して、アシュヴァッターマンは去っていった。
「はぁ…ところで何でドゥルガーなんです?怪我をさせたのはカーリーでしょう?」
「インドラからの命です。『命令が下っていないにも関わらず、衝動を抑えられずにカーリーを顕現させたお前の責任でもある』と」
「カーマは『マスターさんが怪我をする状況を招いた』こと、私は『抑止力になれなかった』ことで責任はありますから」
「私はマスターさんとおやつを食べに行こうとしていただけだったのに」
「個人的に、そこは申し訳ないと思います。しかし貴女の監視も私の役目ではありますので」
「はいはい、わかってますよ」
「パールヴァティにカーマ…あまり私語が過ぎるとさらにインドラの怒りを買うこととなります」
「いやいや、私語くらい…」
流石に大丈夫でしょう…と言おうとしたカーマだったが、ドゥルガーは上の空間をじっと見つめている。
つられて見上げると…。
「げ…」
「えっ!?い、いつの間に…」
そこには三柱の女神たちを見張るように宙に浮かんでいる、大きな『目』があった。
《罰の延長を望むのなら、叶えてやるが?》
どこからともなく響いてくる、インドラの声。
「ごめんなさい…」
「…おとなしくしてますよ」
「…」
まさか見張られているとは…。
あの雷霆神は想像以上にお冠らしい。
やらかしたのがカーリーでなければ、もしや雷直撃コースだったのでは…。
そう思ったパールヴァティとカーマは、ドゥルガーと同じく黙ったまま立ち尽くすのであった…。
END